ドウタヌキ?


第三回放送まで(後半)


林の中、足元を懐中電灯で照らしながら進む、体格の良い人影があった。Dのドラマー、大城(ヒロキ)だった。
手に手帳サイズの機械を持ち、それを見ながら歩いている。液晶画面がぼんやりと光って大城の顔を照らしていた。
浅葱と同じく出発時にはカラーコンタクトを着用していたが、目が疲れたので今は外している。
有効な武器を引き当てることはできなかったが、原作BRを知る参加者全員が(あるのかな?あれば便利だろうなぁ)と思っていたものを引き当てた彼はある意味で強運の持ち主かもしれない。
大城が持っていたのは《簡易レーダー》だった。半径500メートル以内に参加者が居れば表示されるものだ。
ものすごくどうでもいいことだが原作BRで《簡易レーダー》を引き当てたキャラと名前が被っている。どっちも《ヒロキ》だ。
《簡易》というだけあって只単に参加者の存在を確認できるものだけだったがそれでもあれば便利には違いない。
営林所の近くまで来た時、レーダーが反応を示した。営林所の前に参加者がいる。
大城は歩みを止めてしばらくレーダーを見つめた。営林所の中ならともかく前で動かないということは既にゲームオーバーになっている参加者の可能性が高いなと大城は思った。
このレーダーは《死亡カード》にも反応するようにできている。
「・・・またか」と大城は若干うんざりしたような声を漏らした。ほんの数十分前に《死亡カード》を二枚も発見していたからだ。
林の中の少し開いた空間に転がっていた《死亡カード》には《れいた・蜂の巣》と自虐なのかセンスが欠落しているのか微妙なラインのことが書かれており、そしてもう一つ、レーダーがなければ見落としてしまいそうな場所、木々の間にあった《死亡カード》には《ルキ・銃こん二発》と書かれていた。『痕』が出てこなかったらしい。幾つか書き損じがあったからけっこう悩んだのだろう。
「れいたさんのほうは《マシンガン》の被害者なんだよな、この二人は名前が並んでるから一緒に行動していると考えるのが妥当、というか自然だとして、《マシンガン》に襲撃されて、れいたさんが食い止めている間にルキさんが逃げて・・・いや・・・」
れいたの《死亡カード》の周りにクナイが散らばっていたところから見てれいたの武器はクナイだったのだろう、食い止めるには少々無理がある気もする。
戦車とアリってほどでもないが、スペックの差は大きい。
「ん・・・辻褄が合わなくないか?」
ルキの《死亡カード》の傍に置いてあったディバックの中からはワルサーPPK−自動拳銃の説明書が出てきた。ルキの支給武器が銃だったのなら食い止める役目はルキが負うはずだ。
「と、なるとれいたさんが先に攻撃されたからルキさんは逃げた・・・かな?その逃げる途中で別の誰かに会って撃たれた・・・か。いやもう考えるだけ不毛な気がしてきた、浅葱君はこういうの得意そうだけど」
大城は改めて簡易レーダーを見る、営林所の前の参加者を示す赤い丸に動きはない、やはりゲームオーバーになった者か《死亡カード》だろう。大城は営林所に向けて歩き出した。情報は多い方がいい。
「それにしても英ちゃんが待っててくれなかったっていうのがな、で、あげくにゲームオーバーってバカかあいつは。浅葱君は無意味に大丈夫そうだから心配ないとして・・・るいちゃんはなんか危なっかしいしな、ツネはしっかりしてるけど・・・」
そんなことを呟いているうちに視界が開けた、営林所だ。そして予想通り営林所の前に転がっていたのは《死亡カード》だった。大城はそのまま歩いていって《死亡カード》を手に取り、息を飲んだ。
「・・・・・・ああそうか、その可能性もあったんだ」
《死亡カード》に記されていたのは英蔵の名前だった、けっこうな鬱展開である。
「いやいや!なんだこの《全身複雑骨折》って!分かり難いにもほどがあるだろう!」
本人も気にしていたがよりにもよってメンバーから突っ込みを受けてしまった。
「ま、鈍器なんだろうな・・・やれやれ」
気が抜けてしまった、念のためディバックの中を確認するがめぼしいものは見あたらない。ということは英蔵はそれなりに有効な武器を持っていて、説明書ごと持ち去られたのだろうと思うとさらに気が抜けた。
大城の《簡易レーダー》と合わせれば、上手くやれたかもしれないのに。
所詮レーダーはレーダーだ、大城が体力に自信があるとはいえ《支給武器以外での攻撃禁止》ルールがある以上、現在のところ逃げるか話し合う以外の選択肢はない。
探索能力はあっても攻撃力ゼロ、ゲームのキャラクターだったら絶対に一人では行動してはいけない設定だ。ウィザードリィならシーフだ、隊列の一番後ろ。
大城、キャラ的には戦士なのだけれど。
「ってことは浅葱君がフェルプールの魔法使いで、るいちゃんがフェアリーの僧侶でツネはエルフの・・・難しいな、アルケミストかバードってところか。で英蔵が村人Aといきたいところだけど可哀想だから侍を振り分けてあげよう・・・ってなんの話をしているんだ、俺は」
ウィザードリィとか言うからついメンバーに役を割り振ってしまった。話を戻そう。
このレーダーを駆使して他の参加者を見つけたら徹底的に隠れて、メンバーとの合流に集中する、それ以外手はない。
優勝を狙うかどうか決めるのはそれからだ。レーダーに視線を戻すとすぐ傍まで来ている参加者の存在を知らせていた。大城は舌打ちする、こんなひらけた空間にいたら逃げ場がない。
「誰だっ!!!」
一か八か、ハッタリでもなんでもかますつもりで大城は大声を上げてふり返った。ちなみに彼、べらぼうに美声、響きのある低音ボイスである。
「うわぁ!?」
その声に驚いたのか人影がひっくり返るように茂みに突っ込んだ。
「す、すんません!攻撃する気なんかないんです!声をかけようと思っただけなんや!優勝も狙ってないしバトルする気もないんや!」
返ってきたのは関西弁だった。涙沙の使う関西弁と似たニュアンス。あまりのヘタレリアクションに大城は返す言葉が浮かばない。
「ほんまですて〜、敵意の欠片もないんですっ!」
「いや、そんなこと言われても・・・」
《ごっこ遊び》でこの反応はあんまりじゃなかろうか、むしろ罠を疑ってしまう。っていうか罠だろう普通に考えて。
「ほんまやて、ほんま!な!?あ、武器、武器渡すから、信じて!」
茂みから放物線を描いて何かが飛んでくる。危険物だったらすぐに投げ返せる心構えで大城はそれを受け取った。
銃身の短いリボルバーだった。
うわぁ・・・っていうか、うわぁ・・・だ。
「あ、うん。信じた、信じました」
信じたというかなんというか、大城が引きつった笑みを浮かべながら頷くと、茂みの向こうに見えている頭がため息をついたように揺れた。
「俺はDの大城ですけど、そちらは?」
茂みから人影が立ち上がる、わりと細身、暗いので顔までは分からない、人影は気まずそうに頭を掻きながら言った。
「赤松です。ソフィアのドラム、赤松芳朋(よしとも)」
先輩というか大先輩だった。参加者の中でならキャリアは上から数えた方が早い、大城より5つほど年上。
微妙すぎる出会いだった。

「噂は色々聞いてるで、Dな」
「それはどうも・・・」
営林所の中で大城は赤松と向き合って座っていた。少し迷ったが銃(コルト・パイソン)は赤松に返した。
「メンバーをな、探そうと思ったんやけど、なんか普通に盾代わりに使われるかもなぁとか思ったらちょっと怖くなってな、かといって他に親しい人もいないしと思ったらちょっとパニクってまって」というのが赤松の語ったこれまでの経緯だった。一部激しく突っ込みたい言葉があったが後輩という立場を守って大城は聞き流すことにした。
「それで大城君、あの・・・一緒に行動してくれへん?」
大城は困惑顔で赤松を見た。それはどうなのだろう、百パーセント信用できたわけではないし、味方にするにしても失礼ながら役に立ちそうにない。相手が誰かも分からないのに唯一の武器を、しかも銃を渡してしまうような無計画っぷりといい、たかだか《ごっこ遊び》に本気でビビってしまっていることといい、一緒に行動してもメリットがほとんどない気がする。
第一これはバンド対抗戦なのだ、先程の物言いからしておそらく赤松はメンバーからの押しに弱いのだろう。もしも一緒に行動していて他のソフィアのメンバーに会った時、そのメンバーが既に《優勝狙い》で行動していたら・・・その場で交戦となる、そうなったら不利なのは大城だ。
「いや無理にとは言わんで!?いきなりよく知らない相手となんか行動できんよな・・・」
しかしなんというか赤松、顔立ちは彫りの深い男前なのにこのヘタレっぷり、突っ込んでくださいってばかりのダメダメっぷり・・・英蔵と被る。
「あの・・・聞いてる?」
「あ、すいません。ちょっとメンバーのことが心配で・・・」
赤松は何を納得したのか頷いてルールブックの名簿ページを開いた。
「此処に写真あるけど、みんな今日もメイクしてんの?この写真通り?」
「多少髪型を控え目にしましたけど、そうです」
「・・・俺、この子見たかもしれへん、女の子の制服着てたんやけど」
そう言って赤松が指さしたのは恒人(ツネヒト)だった。確かに恒人は女子ブレザーを着ている、着替えたのはバンドごとの個室だったので涙沙と恒人が「ちょっと今更だ」とぶつくさいいながら着ていたのを大城はしっかり覚えていた。
「本当ですか!?」
「うん、間違いないわ。こんな特徴的な美人さん見間違わへんで」
そう言って赤松は地図を取り出して広げた。
「此処や、この海の近くの集落。此処に入ってくの見た」
「・・・・・・俺、今からそこに向かいます」
荷物をまとめて立ち上がる大城の服の裾を赤松が慌てて掴んだ。
「ちょお危ないて!もう夜やし、《マーダー》だってうろついてるし!だいたい此処からこの集落、島のほぼ反対やで!?」
「赤松さんは・・・これは只の《ごっこ遊び》ですけど、メンバーのこと心配になりませんか?」
誰も死なないし怪我もしない、特殊ではあるけれど平和な日常とは地続きだ。それでも何故か大城は単純にメンバーのことが気にかかっていた。
「いや、なんつーかウチのメンバー殺されても死にそうにないつーか逞しいつーか・・・でも気になるのはなんか分かるけど」
気まずそうに笑う赤松に大城も笑う。
「ツネとはね、ずいぶん歳が離れてるんですよ。まぁぶっちゃけ可愛いです、メンバーとしてね」
そこまで言って大城少し考えるように首を傾げた。自分が何が言いたいのか分からなくなってきたのだ、視線を上げると赤松が意外にも真剣な表情で聞いてくれている。
「まさか《ごっこ遊び》で怖がってることはないだろうけど、一緒にいられるのならいてやりたい気があります。これは只の《ごっこ遊び》で、ゲームオーバーになれば廃校に戻って《おまえバカだなぁ》って言い合えるんだけど、それでもやっぱりメンバーとはゲームオーバー前に会いたいんですよ」
案外、恒人は英蔵のゲームオーバーに本気で憤慨しているかもしれない、「英蔵さんのバカ!」とか言いながらふくれている姿が容易に想像できる。会えたらその辺りのフォローもしてやろう。
「だからやっぱり行きますよ」
「・・・ほな俺も行く」
「は?」
「だって自分、武器持ってへんやん。ボディガード代わりに連れてってや」
いや、だからアンタ、その点で役に立ちそうにないだろ!とは言えない。
大城がどう断ろうかと思案していると、赤松が本気で困った顔をして言った。
「・・・一人でいるのが怖いから一緒に行かせてくれへん?」
本物のヘタレだった。
「分かりました。よろしくお願いします」
無精無精ながら大城は頷いた。

大城(ヒロキ)
【武器】簡易レーダー
【所属】D
【状態】青
【行動方針】集落Cに恒人を探しに行く
【特性】?
(赤松に対して若干の不安)

赤松芳朋
【武器】コルト・パイソン
【所属】ソフィア
【状態】青
【行動方針】大城についていく
【特性】ヘタレ全開



ガガガガガガガガッ!という大きな銃声が響く中を疾走している二人の影があった。ガゼットのギタリスト、麗(うるは)とドラマーの戒(カイ)だ。よくよく見るとシルエットが不自然で、二人ともマントのようなものを付けているがマントではない、二人が走るのに会わせて揺れてはいるがたなびいてはいない。
「うっさん!大丈夫か!?」
「大丈夫、これでなんとか防ぎ切れてるみたいだし、このまま逃げ切ればっ!」
それ以上喋るとスピードが減速してしまうと思い麗は口を閉じた。
両者とも、何処からか持ってきたか剥がしてきたトタンに穴を開けて紐を通し首からかけている。
これを幸運と呼んで良いのかどうかは分からないがあいうえお順に並ばされた結果、ほとんどのバンドがばらばらになってしまった中でガゼットは偶然、二組が並んでいた。
最終出発だったルキとれいた。そして序盤に出発した麗と戒。とはいえ英蔵が大城と合流し損ねた理由としてあげた「あいうえお順なんかで並んだことなんてないんだから分かるわけがない」という主張は正しい。6番目に出発した麗も、廃校を出た段階では自分の次の出発が戒だとは知らなかった、ただ「名前としては近いんだから待っていられるレベルの差だろう」ということは考えていたので廃校を出てすぐ、名簿を確認したのだ。
戒にふられた番号は7番、麗の次だった。インターバルは2分だったので待った時間は3分ほどだろうか、無事、戒と合流する事ができた。
1番目に出発した葵の姿はなかったがリーダーである戒と合流できただけでも良しとして、そのまま廃校を離れ、今後のことなどを話し合った。
その中で見つけたルールの微細な穴。《銃器は引き金を引くと銃口から電気信号を発し、当たり判定を引き起こす》という記述、ならば《本物の銃弾なら貫通してしまうような薄い物でも電気信号さえ遮断できれば銃器の攻撃は防げる》という推測を立てた。
というわけで島を散策、道路脇にあったバスの停留所の横壁からトタンを引きはがし、あり合わせの工具で工作、簡易の盾の完成だった。
両者とも銃器は引き当てられなかったので試すわけにはいかなかったが、先程から撃ちまくられていても当たり判定がでないところをみると、この推測は大当たりだったのだろう。
が、この状況はあんまりだ、というか・・・あんな武器反則だ。そしてよりにもよってあんなのに出会ってしまうなんて、本当についてない、最悪だ。
「おいおいおいおい!待てよ〜!逃げんなってば〜!」
ガガガガガガガガッ!とまた銃声。
二人の後ろでガトリング砲を構え嬉しそうに、そりゃあもうこれ以上ないぐらいのハイテンションで追いかけて来ているのは逹瑯だった。
引き金が重いのと狙いが定めにくいため、撃つ時はいちいち止まって撃たなければいけないようだったが、麗と戒にしても自分の身長とほぼ同じぐらいのトタンを背負っているので全力では走れないせいで、なかなか振り切ることができない。
反撃はできなかった、できるものならとっくにしている。
戒の引き当てた武器は《レイピア》だった《中当たり判定武器》である。1メートルと少しぐらいの長さの細い西洋剣、銃相手にどうこうできるものではない。
麗の武器は《水倉りすかのカッターナイフ》という名前の、赤い細身のカッターナイフ。「もしや良い武器?」と期待したが説明書には《魔力増幅器だが魔力を持たないものには只のカッターナイフで小当たり判定武器》と書かれていた。
あるわけねぇだろ、魔力なんて。つーかあるやついるんかい!?参加者の中に魔法使いが!?どんなバランスブレカーだ。ファン限定でマリンカリンなら使える人もいるかもしれないが。
「なんで逃げるんだよ〜遊ぼうぜ!」
ガトリング砲を麗達に向けたまま逹瑯は追いかけてくる。逹瑯から逃げる事に精一杯で二人は気づいていなかった。何故逹瑯が盾代わりに持っているトタンというハンディがあるため走るのが遅くなっている二人にさっさと追いついて他の手段をとらないのか、そして逹瑯に発見され逃げ出してからずっと遊歩道を走る二人の横の藪が不自然に揺れていることに。
何かに足を取られて戒の走りが一瞬止まった、数歩先を行ったところで麗がそれに気づき、足を止めてふり返る。
「戒君!?」
先に行けと言いかけた時、人影が横の藪から飛び出してきた。背がかなり低い、暗がりでも一目で銃と分かるものを麗に向けている。
「うっさん!!」
戒は一足飛びに麗の元へ向かい、押し倒すようにして転がった。
銃声が響き、戒の胸のランプが《当たり判定》をはじき出す。《オレンジ》で《大怪我判定》視界の端で捉えたレーザーポインターの光から察するに《足を撃たれた》ようだ。
そして飛び出した拍子に首に掛けていたトタンが外れて、虚しく地面に転がっている。
戒と麗は寄り添うように座り込んで、麗が首に掛けていたトタンを前に掲げ襲撃者を見た。
「あ〜あ、失敗か・・・」
そうつまらなそうに呟いていたのはミヤだった。ショットガンを二人に向けている。
逹瑯とミヤが一緒に行動していたのは意外といえば意外だがこの《ごっこ遊び》がバンド対抗戦である以上それは許容範囲だ。が、ミヤが逹瑯の悪ノリを止めなかったのは意外というより不思議だ。そして今はそれよりも・・・
「ミヤさん、まさかずっと併走してきてたんですか?この暗闇の、藪の中を!?」
狼狽する戒にミヤは鼻で笑ってみせる。
「茨城の田舎育ちなめんなよ」
「そーだよ地図で石岡見てみ?山しかねぇべ!」
「山以外もあるべ!水戸だってたいして都会じゃねだろ!?」
「水戸は県庁所在地だべ!?」
地元ネタでボケる漫才コンビのようなやりとりをしながらも銃口はしっかりと二人を捉えている。
「ヴェ・・・」
引きつった顔で何かを言いかけた麗にムックの二人は首を傾げる。
「ヴェロキラプトルですか、あなた方は!?」
「ん〜ミヤ君、オレらなに言われてんの〜?」
「群れで狩りする肉食恐竜か?って言われてんだよ」
「あはは、上手い事いうね〜確かに俺が誘い込む役でミヤ君が不意打ち役だよ。でも考えたのはミヤ君だからね!」
嬉しそうに笑って逹瑯が言う。
「ま、チェックメイトだね、お二人さん。それともそのちゃちな剣で反撃してみる?」
もとよりそのつもりだと立ち上がりかけた戒の腕を麗が掴む、そして視線だけで戒に合図を送ると麗は立ち上がった。
「いや、そんなことをしたら後悔するのはそちらだと思いますけど」
「へぇ、どういう意味?」
不遜な態度を崩さない逹瑯に麗はカッターナイフを取り出して見せる。
「これは《水倉りすかのカッターナイフ》っていう《超大当たり判定武器》なんですよ」
もちろんハッタリだった、それでも《超大当たり判定武器》が謎の存在である以上、効果的なはずだ、逹瑯の顔から笑みが引っ込む。
「《超大当たり判定武器》ね・・・ただのカッターナイフにしか見えないけど、《元ネタ》があるらしきネーミングだって点なら逹瑯の武器だって同じだしな」
ミヤはあくまで冷静に返した。それに逹瑯が不満そうに口を尖らせる。
「ちょっとミヤ君、《サイボーグクロちゃん》は有名な漫画だよ?」
「そうなのか?」
マイペースというか調子の狂う二人だった、もっと有効なハッタリが必要だと思った麗は続ける。
「実はですね、診療所を爆破したのは俺達なんですよ、これはそれだけの力がある武器なんです」
「・・・・っ」
逹瑯が警戒した表情で一歩後ろに下がる。これはいけるかもしれないと思ったところでまたも冷静なミヤの声。
「爆破したってことは、誰かを負傷させたかゲームオーバーにできたってことだよな?相手は誰だ?」
「シドのゆうやですよ、彼を、ゲームオーバーにしました」
とっさに浮かんだ名前を適当に言った、一瞬考えてしまったが問題ではない、はずなのに・・・真剣な表情だったミヤが笑っていた、へにゃっとした笑顔をみせて一言。
「ダウト」
「・・・なっ!」
なんで分かったんだと驚きの表情を見せる麗にミヤは元の真顔に戻って言った。
「やっぱり嘘だったな」
「《ダウト》って言ったのが引っかけだったんですか!?」
「《ダウト》の時点で8割確信してたけどな、あれはダメ押しだ。おまえ、名前を言う前も一瞬考えたし、その後《ゲームオーバーにしました》って言葉の前も一瞬考えただろ?」
「まぁあれだよね、最初の質問でわざと選択分岐を二つ作ってたし、そもそも《爆破したなら誰かを倒したはず》って言葉自体誘導だったからね」
ニヤニヤ笑いに戻った逹瑯が楽しそうに言う。
「ミヤ君は嘘見抜くの上手いよ?」
「身近に嘘つきがいるからな」
「うえ〜なにそれ!?嫌味?」
「自覚があるならなによりだ」
仲が悪いのかネタなのか分からないやりとりに、戒と麗は口を挟めない、はったりも失敗したので、投了といったところか。
「うっさん、いいか?」
「オッケー、戒君・・・」
盾が代わりのトタンを投げ捨てて二人は立ち上がって楽しそうに言う。
「派手に散ってやろうじゃん!?」
「一矢ぐらいは報わせていだだきますよ!」
そんな麗と戒の行動に、ムックの二人も笑みを浮かべる。
「戒名ぐらい考えてやるよ」
「言い残すことがあったら今のうちにね」
つーかミヤ、戒名云々は決め台詞のつもりなのか?いつから坊主になったんだ。逹瑯、突っ込めよ。まさか戒と戒名かけているわけではないだろうが。
そうして既に勝敗の決した、三文芝居全開のバトルが始まろうとしたその瞬間、その場に朗々とした声が響いた、天から降り注ぐように美しく、地の底から這い上がるように恐ろしい声。
「うるさいぞ、おまえたち」
4人は一斉に周囲を見渡し、そして気づいた、すぐ傍にある1.5メートルほどの崖の上に人影がある。
青白い月の光に照らされて、そこはさながらステージの如く、そしてその場所がよく似合う、そのためだけに生まれてきたかのような艶と透明さを兼ね備えた声と圧倒的な存在感を持って、ディルアングレイのボーカリスト、究極の表現者、京がそこに立っていた。
「うるさいぞ」
もう一度言って、さながら下界を睥睨する神のような視線で四人を見下ろしている。
全員、声もなかった。
こんなもの反則だ、存在が、この存在感が反則だ。
ただの《ごっこ遊び》で指先すら動かないほどの迫力を出すなんて、そんなもの・・・
誰も動けない、ただ京を見上げるだけだ。
「きこえなかったのか、うるさいぞ、たちされ」
そのあまりの気迫と全ての空気を殲滅する力に気圧されて、まず逹瑯が動いた。
「すいませんでした!」
と頭を下げるとミヤの手を掴んで走って逃げた。ヘタレなのか危険を察知する能力が高いのか、とにかく逹瑯は真っ先にその場を去った。手を掴まれたミヤも必然的にその場から逃亡する結果となった。
走っていくムックのメンバーに声を掛けることなく、視線すらおくることなく京は残ったガゼットの二人を見下ろす。
「「し、失礼しました」」
戒と麗は同時にそう叫んで、ミヤ達とは反対方向に逃げ出した。



崖の上、寝転がった京を抱える形で薫が引きつった顔をしていた。
「あっぶなぁぁぁ!なにすんのこの子!?あぶなっ!」
京は目を閉じて、規則正しい寝息を立てている。
・・・つまりさっきの行動は寝ぼけてやったかもしくは寝たままやったのだ。
後者だったら立派な夢遊病じゃねぇか。
「さ、最近落ち着いてきたと思ったのに、眠ってる時にこんな兵器に変貌するとは・・・最終兵器やん!最終兵器彼女やん!・・・どうでもええ、とにかく」
薫は京を肩に荷物のように担ぐと歩き出した。
「さっきのお堂に戻ろ、で今度は目ぇ離さんようにせんとな・・・しっかし怒るよなぁあの4人。京君寝ぼけてました〜言うたら・・・つーか京君、筋肉つけすぎっ!重い!」


そして崖の下、ムックとガゼットの4人がいたところからは影になっている位置にメリーのテツが隠れるようにして立っていた。
「まさかこんなに早く見つかるなんて、ご都合主義だな・・・まぁ懸念通り薫さんも一緒だけれど」
しかし、お堂とか言っていたか、これからあの二人は休息を取る(京にいたっては寝ている)ようなので不意打ちは可能かもしれない。
そのお堂とやらにそれほどの広さがないのなら、一気に畳みかけてしまえばあるいは。
「いや、それは俺の主義じゃないな。どうせやるなら正々堂々、真っ向から勝負だ」
テツの顔に薄い笑みが浮かぶ。
「少しだけ、楽しいかもしれんな・・・」


ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】この場から逃げる、優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】策士リーダー

逹瑯
【武器】サイボーグクロちゃんのガトリング砲、バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】この場から逃げる、優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】俺様サドモード
(基本的に友人相手に遊びとしてバトルを持ちかけるつもりです・ルナシー全員が《ジョーカー》である可能性を疑っています・イノランが《マシンガンのマーダー》である確証を得ています)


麗(うるは)
【武器】水倉りすかのカッターナイフ
【所属】ガゼット
【状態】青
【行動方針】この場から逃げる、葵と合流し方針を決める
【特性】?


【武器】レイピア
【所属】ガゼット
【状態】オレンジ(大怪我判定)
【行動方針】この場から逃げる、葵と合流し方針を決める
【特性】?
(トタンの盾を装備しています、銃器の攻撃を無効化できます)


【武器】S&W M500、ワルサーPPK
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探す、ルナシーメンバーとハイドを警戒(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(睡眠中)
【行動方針】薫に任せる、《ゲーム》の《攻略法》を探す、ルナシーメンバーを警戒(?)
【特性】神に臨む表現者

テツ
【武器】ビリー・カーンの三節棍
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】京に勝負を申し込む
【特性】侍魂


《桂男》の伝承を思いだした。
絶世の美男子の姿をした月に住む妖怪。桂男に招かれると命が縮まるという、そんな話を思いだした。
「まだ早いと思わない?」
桂男を思いださせる彼はトンネルの(ちょうど橋のようになっている)上に腰掛けたまま、そう言って微笑んだ。昔から美形なことは分かっていたがこうして見ると本当に綺麗だ。
「早い、といいますと?」
GLAYのギタリスト、ヒサシは声に感情が入らないよう気をつけながら答える。
「俺の武器はマシンガン、君の武器もマシンガン。今は一日目の夜。《ゲーム》として此処で対決しちゃうのは早すぎる、そう思わない?」
押しつける感じはなくどこまでも柔らかな口調で微笑み混じりの声が降ってくる。ヒサシは自分の武器を見た。イングラムM10、サブマシンガン。彼の持っているウージーに比べてそっけない形をしているがスペック的には大差ない。
「まぁ・・・相打ちですよね、撃ち合えば」
ヒサシが一応、イングラムの引き金に指をかけているのに対し彼はウージーを膝に乗せたままだ。
「ねぇ、ヒサシ君」
「・・・なんでしょうか、イノランさん」
彼、イノランは面白そうに首を傾げた。最近会う事が少なかったので忘れていたがそういえばイノランは首を傾げるのが癖だった。
・・・漫画版の桐山と被っている。どうでもいい偶然だがその妙な符合に一瞬背筋が冷えた。
「言うまでもなく、俺は《マーダー》だ、言うまでもなく・・・大事なことなので二度言いました」
「でしょうね、マシンガンがそう幾つも配布されてるとは思えない、せいぜい原作にならって二丁ってとこだと思っていたんで」
イノランのボケらしき発言は流してヒサシはそう答えた。
「でもさっき、マシンガンよりもっと凄そうな音が遠くでしましたけどね」
必要はなかったが一応付け加えておいた、イノランは目を細めて頷く。
マシンガンよりもっと凄そうな音の正体は逹瑯の(元はケンの)ガトリング砲である。
「ヒサシ君はとっても困ったはずだ、そうだね、そのイングラムを引き当てた時はラッキーだと思ったかもしれないけれど、マオにゃんが拡声器で呼びかけて俺に撃たれた結果、よりにもよって《マシンガンを持ったマーダーがいる》という情報を参加者全員が得てしまった、君はとても困った。君がいくら後輩に顔が広くてもマシンガンなんて持っていたら100パーセント警戒されてしまう、上手くやれば話ぐらいできるかもしれないけどね、実際俺もできたし・・・相手が誰かはフェアじゃないから言わないけど。ならマシンガンを隠して声をかける、という手もあるけれどこれも微妙だよね、やっぱり《情報交換ぐらいはできる》レベルだ、それにそんなことをして何かの拍子にマシンガンを持っていることがバレたら、取り返しがつかない、警戒どころか疑われる。此処で相手が逃げたとしよう、そうすると君にとって不利な情報が流れることになる、君がマシンガンのマーダーだという情報が流れてしまう。顔見知りの後輩と一緒に行動するという選択肢は立ち消えた、だから君はせっかくの交友関係の広さを利用することができなかった、ひたすらメンバーを探すことしかできなかった。54人中の3人を探す、確率はどんなものか面倒だから計算しないけど、低いよねぇ」
マオを《マオにゃん》呼びしたことに突っ込む余裕はなかった、完全に思考を読まれていることに動揺したからだ。
「あの・・・イノランさんはなんで《マーダー》をやっているんですか?」
話を逸らす目的でそう聞くとイノランはにっこりと笑って言った。
「熟慮に熟慮を重ねた結果、気分で決めました」
「・・・・・・」
−この人、ただ者じゃねぇ!ルナシー時代は周りのキャラが濃すぎて分からなかったけどただ者じゃねぇ!つーかこんなすげぇキャラが霞むってルナシー半端じゃねぇ!
のど元まで出かかったそんな叫びを飲み込んでヒサシはイノランを見上げる。
「ねぇヒサシ君、君だってせっかくマシンガン引き当てたんだから使えばいいじゃん?どうせメンバー以外は仲間になってくれないんだし、メンバーと合流できてから優勝狙うかどうか決めるにしても《主催者反撃ルート》狙うにしても、その時参加者の数が減ってたほうが便利でしょ」
「いや、しかし・・・」
「《ごっこ遊び》なんだからさ。ヒデさんだって派手なバトル望んでると思うよ?」
「まぁ、確かに・・・」
「やってみると楽しいよ〜、《マーダー》って」
「・・・・・・」
「ねっ?」
ダメ押しにめっちゃ可愛く微笑まれた。
「そうですね・・・《ごっこ遊び》ですもんね・・・」
「それにヒサシ君ってあれじゃん?ダークヒーロー好きじゃん」
イノラン相手にそんなサブカルな会話した覚えはないが、図星だった。
「じゃ、次に会う時はお互い《マーダー》ってことで、Good luck!」
決定された、頷いてないのに決定された。でもそれで心は決まった、ダークヒーロー、良いじゃないか。ヒサシはイノランに一礼するとその場を離れた。

トンネルを抜けていったヒサシの足音が聞こえなくなるのを確認して、イノランは立ち上がった。
「う〜ん、勢いでやっちゃったよ《扇動マーダー》、まぁ良いか。ヒサシ君じゃあタクヤやリュウは倒せないもんな。どうやったってあのお人好しなJが微妙なラインになるのはこのさい面倒だから捨てるけど、ってゆーか俺ってあんなに長く喋れたんだ、自分でびっくりだ。ついでだから言い訳というか解説というかつじつま合わせをしておこうか、《地の文》さん」
どうやらイノランさんもメタちっくスキルを持っているようです、浅葱さんだけで充分なんだが。
「だから今回限りのまぁ補修作業、なんで俺はムックの二人、逹瑯君とミヤ君にマシンガンを持っているところを見られたのに見逃したのか?いくら警戒されてたからといってショットガンとマシンガンならこっちが有利なのに。確かに涙沙君みたいに露骨にバレちゃったわけじゃないからっていうのもあるよ。でもミヤ君を上手く誤魔化せたって思えるほど俺の頭はおめでたくないんだよね、つーかみんな勘違いしてるけど俺はけっこう疑り深いんだ。親しい付き合いではないけどあの面子、ムックメンバーの手綱を握っているリーダーってだけでミヤ君はかなりのレベルの統率力を持ってるのは分かるからね、統率力にはもれなく洞察力と洞察に基づく的確な判断力がついてくる。ってことは8割ぐらい俺を《マシンガンのマーダー》だと思ってるでしょう。だけど、ただ単純にあの二人には残っていてもらったほうが面白そうだった、それだけなんだよね・・・俺の目的は別に優勝じゃなくてゲームを引っかき回す《マーダー》なんだからさ。所詮俺って脇役キャラだから、優勝できるだなんて一欠片も思ってないよ。以上メタちっくタイム終了」
ふわりとトンネルの上から飛び降りるとイノランはヒサシが行ったのとは反対方向へ歩き出した。やはりどこか桂男を連想させる秀麗な横顔にはなんの表情も浮かんでいなかった。

イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マーダー続行、闇に乗じて他の参加者を襲う。涙沙を優先的に倒す、タクヤを捕まえて事情を聞く
【特性】危険乱数

ヒサシ
【武器】イングラムM10
【所属】GLAY
【状態】青
【行動方針】無差別マーダーになる、メンバーと合流
【特性】?


「もう大丈夫っしょ・・・」
「だね・・・」
京の元から鬼ダッシュで逃亡してきた麗と戒はそう言い合って足を止めた。というよりもう走れなかった。
「盾、一個になっちゃったねぇ・・・」
「また作ればいいよ」
唯一回収できたトタンの盾を片手に戒は周囲を見渡す、山の中なので目に付くところに盾が代わりになりそうなものはない。
「まぁ、京さんに助けられた結果になったわけだよね。ルキが聞いたら羨ましがるかも」
「ルキがあの場にいたらとんでもなくこじれてたと思うけど、そりゃもう収拾着かないぐらいに」
「確かに」
走ったせいで荒いままの息を整えながら麗は苦笑を浮かべてその場にしゃがみ込む。
とりあえずどこか休めるところを探そうと戒に提案しようと思い口を開きかけたその時、すぐ後ろ、耳元で声がした。
「フリーズ、プリーズ、ホールドアップ」
真後ろの藪から響く声。
聞き覚えがある、いや、つい先程まで聞いていた、軽薄さを含んでいるくせに痺れるような低音。
「戒君、逃げろっ!!」
そう叫んで麗はカッターナイフを振りかざし、右足を軸にしゃがんだまま勢いよく回転して後ろを向く。思った以上に近くに、胸のすぐ前にメタリックな筒状の物体がある。そこに蓮根のように開いた穴がやけに深い闇を持っているように見えた。カッターナイフの刃はガトリング砲に弾かれて地面に転がってしまう。
ガガガガガガガガッと至近距離での爆音。麗はバランスを崩して尻餅をついた。胸のランプが《当たり判定》をはじき出しすぐに《赤》が点灯する。
一方、戒は何が起こったのかまったく分からなかった。麗が逃げろと言った意味も理解できなかった。ガトリング砲の銃声を聞いて初めて、ムックの二人が再び襲撃してきたことに気づいた。
「うっさん!?」
「・・・甘い、とは言わねぇけどな」
いつの間にかミヤが戒のそばまで来ていた。ガトリング砲を構えた逹瑯も藪の中から姿を現す。
「茨城の田舎育ち舐めるなともう一度言わせてもらおう、この程度の闇、この程度の山、たいして障害にも制限にもならない・・・それから俺達をヴェロギラプトルに喩えたのはそっちじゃないか」
ミヤは少しだけ口角を上げて戒にショットガンを向ける。
「ヴェロギラプトルはしつこいんだよ」
その言葉にけらけらと逹瑯が笑ったところを見ると、どうやらミヤは冗談を言ったらしかった。
冗談を言う時は自分の目つきの悪さと表情とに気をつけて欲しい、《ごっこ遊び》で心臓が止まるくらいの恐怖を感じてしまった。
まぁ冗談というか逹瑯はナチュラルに入り込んでるミヤが普段の天然っぷりを知ってると面白すぎて笑ったのだが。
戒はトタンの盾とレイピアを構える、さながら中世の騎士の如く、でも騎士だってレイピアでショットガンに立ち向かったりはしないだろう。そんな戒の迷いを読みとったかのようにミヤは言う。
「逃げれば?」
「・・・え!?」
「一緒にいたメンバーはゲームオーバー。守るべきモノは自分だけ。ガゼットはこれで三人減って残りは二人、最善の選択は逃亡だべ?」
戒は警戒するように後ずさる、当然の反応だろう。
「追わないと約束しよう、さぁ逃げろ」
そう言ってミヤはショットガンを下ろす。顔は真剣そのものだ、目つきが悪いのは元からなので観察しても意味がない。
戒はしばらく逡巡してから結局、トタンを背負う形でその場を走り去った。
「うっさんスマン!この詫びは必ずするから!」と言い残して。

「ねーねーねーねー!ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤくr・・・
「うっせえ!そしてうぜぇ!」
喧しく寄ってきた逹瑯の額をミヤは軽く叩いて黙らせる。
「なんで逃がしちゃったんだよ、なんか考えがあるんだろうって黙ってたけど、どんな考えかは勿論教えてくれるんだよね《策士》さん!?」
「俺ってさぁ・・・マゾだろ?」
「そうだね、マゾだね、自己マゾだね、自己マゾマニア免許皆伝だね」
だんっ!とミヤが逹瑯の足を踏みつけるが、逹瑯は軽く眉を寄せただけで、顔から笑みを消さない。ミヤは呆れ顔で足を引っ込めて続けた。
「だからさ、この《ごっこ遊び》の難易度を上げようかと思ってな」
「どーゆうことだよ、マゾリーダー?」
「トタンなんかで銃器の攻撃が防げるってのに気づいたのは正直にすげぇと思うよ、原作に拘るほど見失っちまう盲点だ、気づいた参加者はそんなにいないと思う、でもそれを戒が動き回ることで他の多くの参加者にも知れ渡れば?ある程度だけど均衡が崩れる、《マシンガンのマーダー》イノランさんもやりづらくなると思う、他の銃器を持ってる奴も同様だ。刃物や鈍器の生存率が上がる」
楽しそうに言うミヤに逹瑯が首を傾げる。
「それをやってオレらにどーいうメリットがあるの」
「いや、デメリットしかねぇ」
「うわっほー!ミヤ君、最高っ!一生ついてっちゃう!!」
「《ごっこ遊び》全体が引っかき回される、おもしーだろ?」
「もうホント、ミヤ君のマゾさってカッコイイ」
ショットガンをくるくる回転させてミヤが笑う。
「ついで、といってはなんだが《主催者反撃ルート》の方法も分かったぞ」
「えぇ!?マジっすか!?」
「ちょーマジ。ちょっと耳貸せ」
「ちゃんと返してね〜」
「小学生か、ばか」
ミヤは逹瑯の肩に手を掛け背伸びをすると逹瑯に耳打ちをした。盗聴器に拾われないように小さな声で。聞き終わった逹瑯は気が抜けたような声を出した。
「ああ、ああ!?って感じだね、発想の転換というか単純思考の問題だったのか・・・」
「まぁやる気はねぇけどな。ヒデさんに勝てるとは思えないし、まだ優勝のほうが現実的だ」
「だよねぇ・・・」
逹瑯はそのままミヤの肩に頭を乗せる。身長差の関係で真上を向く形になった。
「すげぇ星空・・・石岡思いだすな・・・覚えてる?一緒に星見たの」
「ああ、4人でな、ムックでそこそこいけてた頃だろ、急にみんなしてホームシックかかって」
「そうそう、なんか寂しくなっちゃって・・・なんか寂しくてね」
ミヤも逹瑯の背に頭を預けて空を見上げる。
「あの時すげぇテンションおかしかったもんなぁ、オマエ」
「だってあの頃のミヤ君、俺に超厳しかったべ?だからどーしても言ってもらいたいことがあってさぁ、けっきょく言ってもらえなかったけど」
「今なら分かるぞ、何を言えばよかったか」
「え〜?なになに?」
「《ボーカリストとしてじゃなくてもオマエが好きだ》だろ?」
耳まで赤くなってしまったことが暗くて分からなかったことは幸いか、逹瑯は誤魔化すように声を上げて笑った。
「そこまでストレートな言葉望んでねぇよ!?ホント、アナタは天然で恥ずかしい事をさらっと言うよねぇ」
「ははっ。でも悪かったな、あの時言えなくてさ」
「もういいよ、言われなくても分かってるから・・・つーか久々じゃない?こうやって二人だけでこーゆー話するの」
「そうだなぁ・・・」
ふふっと笑い合う二人の空気に耐えられなくなった麗が静かに声を出した。
「あの、すいません、俺もいるんですけど・・・」
逹瑯とミヤはものすごい勢いで素早く離れ、麗を見る。
「忘れて!今の忘れてっ!」
「つーか忘れろ!電光石火で忘れろ!!」
二人の剣幕に麗はこくこくと頷いた。
「はい、忘れます・・・」
「忘れなかったら記憶飛ぶまで殴るからな」
「ミヤ君が言うとシャレにならないからやめてね・・・」
焦ったのは一瞬で二人はすぐに平常心を取り戻したらしくそんな冗談を言い合った、ミヤは真顔で冗談を言うので麗はたまったもんじゃなかったが。
「ね〜ミヤ君、次は明希がいいなぁ。あいつ簡単に騙せそうだし、呼んだらころころ〜って来るよ、可愛いよ」
「半分賛成だな、確かに明希は可愛いし、からかうと楽しいし、すぐこっちを信用してくれそうだ、お前だけならともかく俺が一緒にいるからな」
明希、逃げろ。あんたの先輩サドばっかだ!あんたサドホイホイだ!
「あっれぇ?どういう意味!?」
「オマエの普段の悪ふざけ悪ノリという小学生並みの悪行を知ってるヤツはまずオマエを信用しないだろうが」
「俺ってそこまでなの・・・」
「そこまでなんだよ。でも俺が一緒にいるなら話は別になると思う、俺はどうもストッパーだと勘違いされてるからな」
「・・・ミヤ君って分かってるんだかなんなんだかなぁ、確かに《ミヤ君はストッパー》ではないよ」
絶妙な緊張感をかもし出しながら物騒な言葉で今後の計画を話し合う逹瑯とミヤの横で麗は膝をかかえながら「早く行ってくれないかなぁ」と思っていた。

ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦、水倉りすかのカッターナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】策士リーダー

逹瑯
【武器】サイボーグクロちゃんのガトリング砲、バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】俺様サドモード
(基本的に友人相手に遊びとしてバトルを持ちかけるつもりです・ルナシー全員が《ジョーカー》である可能性を疑っています・イノランが《マシンガンのマーダー》である確証を得ています、明希で遊びたいなぁとか思っているようです)


【武器】レイピア
【所属】ガゼット
【状態】オレンジ(大怪我判定)
【行動方針】この場から逃げる、葵と合流し方針を決める
【特性】?
(トタンの盾を装備しています、銃器の攻撃を無効化できます)

【麗 ガセット ゲームオーバー】

【残り39人】


その頃、ガゼットのギタリスト葵は藪を掻き分けながら闇の中を進んでいた。木々に遮られ月明かりがほとんど届かないのでしかたなく懐中電灯をつけている。
クールな容貌がメイクで際立っていたが、無理な山道行軍を続けたせいで、髪のセットはぐしゃぐしゃになっていた。もうこうなっては外見に気を配っている場合ではないのでそれは気にしていない。隠しカメラの存在が頭を過ぎったが、それも第二回の放送を聞いて無視することに決めた。ルキとれいたのゲームオーバー。ルキがなにかバカをしでかしたなと葵は予想した。
麗と戒、そしてルキとれいたが名簿で並んでいるのを見た時は正直「ラッキー」と思ったが考えを改めた。
「参加者ほぼみんなが《メンバーとの合流》を目指してるんやろうけど、合流してしまったらリスクも固まるってことやからな・・・」
葵はそう呟いた。着眼点としては悪くない、メンバー同士固まってしまえば強力な武器を持った《マーダー》に襲撃された時、最悪《全滅》もありえるのだ。
「ってことは、優勝を目指すならむしろ最初は分散してたほうがいいってことやな、《支給武器》はランダム配布やから、下手をしたらメンバー全員集まっても銃器が一つもないなんて事態も起こりえるわけやし。全員が《ハズレ》ってことはさすがにないとは思うけど」
55個中、銃器が幾つで《ハズレ》が幾つなのかは分からないが、参加者同士をバトルさせたいなら《ハズレ》はそこまで多くないはずだ。
葵は《優勝狙い》で動いていた、他の参加者と会ったら戦う心づもりである。もちろん相手と状況を見るが。しかしゲームスタートから今まで誰とも会わなかったのだ。
マオが呼びかけを行った時に、展望台の方に走っていく明希を見かけたが、先にネロが声をかけてしまったので諦めた、ネロはなんだか強そうな武器を持っていたし、二対一では分が悪い。
明希一人ならそれこそ楽勝とは言い過ぎかもしれないが勝率は高かったはずなのだが。
葵の武器はダガーナイフだった。戦う相手は慎重に選ばなくてはいけない、もっと強力な武器を持っている参加者を不意打ち、あるいは騙し討ちで倒せれば一番いい、そう思ったのである場所にあえて裏側からまわって向かっているところなのだ。
「お、営林所発見!」
営林所の裏側、ここまでくると藪もひらけている。少し段になったところから営林所を覗くが人の気配はない。
この時点で大城と赤松は既に出発していたので、中には誰もいない。
「・・・裏口もないのか」
もっとよく見ようと足を踏み出したその時、何かが足に引っかかった。それが何かを確認する間もなく、目の前に何かが降ってくる。懐中電灯の明かりでしっかりと照らしたそれと、葵はまともにご対面することになった。
口から漏れたのが自分の悲鳴だと自覚しないまま、葵は悲鳴を上げた。
《ごっこ遊び》では本来上がるわけもない、本気の悲鳴。
明かりの中に浮かんでいたのは、長い髪を紐で縛って吊された生首だった。

なんでここにこんなものが、なんでこんなものが、あるわけがない、あってはいけない、だってこれは遊びで、ゲームで、日常で、自分の人生の中で、こんなものを見ることがあるわけがない、だってこれは遊びなんだ、これが本物だったら遊びじゃなくなってしまう、これが遊びじゃなかったら、地獄じゃないか、悪夢じゃないか、だからこれは悪い冗談で、だからこんなものあるわけがない、偽物に決まっている、ニセモノだ、そうでなきゃいけない、確かめなければ、確かめなければ、なんで俺は座ってるんだ、そうか腰が抜けたのか、そりゃそうだよな、でも情けない、だってこれはニセモノなんだから、お化け屋敷と同じだ、急に出てきたからビックリしたのだ、ちょっと雰囲気に呑まれていただけだ、だから立って確認しないと、ニセモノなんだと確認しないと、立て!俺の足!懐中電灯の光が照らしていて、生々しくて、リアルで、リアルなだけのニセモノのはずだ、だって見覚えのある顔じゃないし、これが《ごっこ遊び》じゃなかったらなんだっていうんだ、誰も死んでないし誰も怪我してないじゃあないか、現場を見たわけじゃないけれど、そんなことは当たり前じゃないか、現場は見てないけれど、みんな遊びでやってるんだ、実際このダガーナイフだってニセモノだったじゃないか、展望台でマオさんがメンバーを呼んで、マシンガンの音がして、その後声はしなくて、でもあれだって遊びだ、誰か先輩格の人がマシンガンを引き当てて、冗談でマオさんを撃って、マオさんもそれにのったからあの後声が聞こえなかったんだろう、診療所の爆破だって派手な支給武器を当てた誰かが巫山戯てやったんだ、確かにすごい爆発音はしたけれど、何も見えなかった、死角にいたのは確かだけれど、何を考えているんだ、自分がこれを《ごっこ遊び》だと思っているだけで、本当はホンモノのバトルロワイアルかもしれないだなんてそんな怖いこと、なんで考えてるんだよ!!
だってこれがホンモノだったら、そんな・・・自分は一番最初の出発だったから、教室を出る時にメンバーはみんな笑ってて、ルキだけなにか決意したような顔で天井を見ていて、だからホンモノなわけがないんだ、現に

ヒデさんが楽しそうに笑って俺を見送っていて

「・・・あ」
ヒデの笑顔それを思い出した時、パニックに陥っていた葵の思考は収束した。
主催者たるヒデが、あのみんなの兄貴分であるヒデがあんな笑顔をみせているのだから確かにこれは《ごっこ遊び》で楽しい《ゲーム》に違いないのだと。
葵はようやく立ち上がって生首を確認した、精巧にできてはいるがやはり偽物だ。
顔は生々しいが切断面などはかなりぞんざいな作りになっている、グロ系のPVで使えそうな・・・たぶんホラーやスプラッタ系の映画で使用されるのであろうニセモノ。
「なんやもう、悪趣味やわ」
そう言った自分の声が酷く掠れていることが分かった。
そこではたと気がつく。
いったい自分はどれだけの間正体を失っていて、どれだけ悲鳴を上げ続けたのかと。
「やばっ!」
自分の悲鳴を聞いた参加者がやってくるかもしれない、本気の切羽詰まった悲鳴である、近くにいればその人物がどういうスタンスであれ様子を見に来るだろうし、もし悲鳴を聞いたのが《マーダー》だったら?こんな冷静さを欠いている状況で他の参加者と出くわしたら?葵は慌ててその場を立ち去ろうとしたが持っていたダガーナイフを紛失しているのに気づいた。腰を抜かした時に落とした!?
懐中電灯で地面を照らし、しゃがみ込んで探すが見あたらない。
「やばいて、あれしか武器ないの・・・・」
どんっと右肩に衝撃が走った。
衝撃は軽いものだったが不自然な体勢でいたためバランスが崩れ、転んだ。
「すまん」と謝る声がしてもう一撃、胸の下辺りへの攻撃、《当たり判定》を示す音が鳴り響く。こうなってしまうと動けない。
身体をねじって相手を見る。
「・・・ガラさん、でしたか」
第二回放送前に《マーダー》であることを島中に放送されてしまったガラのことはもちろん注意していた、鉈とダガーナイフでは鉈のほうが強いだろうし、単純に運動神経で負けている気がするので見かけたら避けようと思っていたのだが、このタイミングで襲撃かと葵は心の中で嘆いた。
「悪いけど、念のためもう一撃いかせてもらうね」
「・・・へ?」
目の前で鉈を振り上げる男の図というのはいくら遊びと分かっていても怖いものがあった。
今度は心臓を狙って一撃。
言うまでもなく《当たり判定》は《赤》をはじき出した。
葵、ゲームオーバー。
「いや、死にそうな悲鳴が聞こえたから一応、心配して来たんだけど・・・しかしこれはすごいな」
ガラは感心したようにニセモノの生首を観察している。
「死にそうな悲鳴なんてあげてましたか、俺」
「ドードー鳥が絞め殺されているような声だった」
「聞いたことあるんですか!?絞め殺されるドードー鳥の声を!?」
とっくの昔に絶滅したはずだが。この男は時間を超越する存在なのだろうか?
「冗談だ。暗闇でいきなりこれを見たら誰でも悲鳴上げるよ、いや、俺だったら失神するかも」
「フォローどうも、足元の紐に引っかかると降ってくる仕掛けになってました」
「・・・間違いなく失神するな、それは」
「あ〜ダメですよ、俺《死亡判定》喰らってるんでした、しゃべれません」
「そうだったな、すまん」
ガラは紐を解いて生首(偽)を手にとって調べている、さすがV系、生首を持っても絵になる。
生首を持つ姿があつらえたようによく似合っている、いや似合ってどうするって感じだが。
「答えなくて良いから、これ見て」
何故か可笑しそうに言ってガラは生首(偽)を反転させて葵に見せる。
後頭部には紙が貼られていて『特殊アイテム・名無しさんの生首』と書かれていた。
「・・・うわぁ、腹立つぅ!」
「しかし、トラップじゃなくて悪ふざけにしか思えない仕掛け方なところが気にはなるな」
そう言ってガラはボール遊びでもするように生首(偽)を空中に投げてはキャッチするを繰り返しだした。グロいのを通り越し、シュールさも通り越してもはや笑える光景だった。
「一応持っていくか。じゃあ俺はこれで、悪かったな、恨まないでくれ・・・いや別に恨んでくれてもかまわないけど」
そう言いながらガラは去っていった。後には静寂だけが残る。
葵はやけくそ気味にディバックから赤白帽を取り出してかぶると煙草に火を点けた。
「・・・あぁもう、俺だっせえ!」
これでガゼットは戒一人になってしまったことを葵はまだ知らない。
知ったところでどうしようもないことではあるが。

生首(偽)をお手玉でもするようにぽんぽんと弄びながらガラは営林所に降りた。
ニセモノの生首ぐらい別に悪質だとも悪趣味だとも思わないが、疑問は残る。これはトラップとしてあまりに意味がなさすぎる。
葵の悲鳴を聞いて(その場に行くまで葵だとは分からなかったが)近くにいたガラはすぐに駆けつけた。《奉仕型マーダー》としてではなく尋常じゃない悲鳴に本気で心配になったのは葵に語った通りだが、吊り下げられたニセモノの生首と座り込んでいる葵を見てすぐに《トラップ》を疑いその場でしばらく様子を見ていた。
誰かが隠れていて、生首に気を取られた参加者を襲撃するためのトラップだとそう思った。
しかしいつまでたっても襲撃者は現れず、そのうちに葵が正気を取り戻したのでさきほどの行動に出たのだが。
「じゃあどういう意図でこれを仕掛けたんだ?・・・本当に只の悪ふざけ、か・・・」
あまりに意味がない。
営林所の中をのぞいて人影がないことを確認すると、玄関の方へまわった、《死亡カード》が落ちてる。
「英蔵・・・さん・・・Dか。で、《全身複雑骨折》ってなに?なんなんだ、意味が分からない」
ガラは《死亡カード》を置くと再び歩き出した。
月明かりの下、生首と鉈を持って歩く男。
とてつもなく恐ろしい光景だがやはりどこか絵になっていた。



ガラ
【武器】鉈
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】京を優勝させるためディルメンバー以外の参加者を倒す(奉仕型マーダー)
【特性】?
(特殊アイテム『名無しさんの首』を手に入れました)

【葵 ガゼット ゲームオーバー】
(ダガーナイフ紛失・葵のいる周辺に落ちています)

【残り38人】


ある意味で異色の取り合わせとなったGLAYのテルとDの涙沙は集落Aから少し離れた大きめの民家に腰を落ち着けていた。禁止エリアから近いので穴場かもしれないと意見を出したのは涙沙だ。この場所は最初に同じくDの浅葱がいた場所である。ニアミスと言うには時間が空きすぎているが偶然にしては面白い。涙沙と浅葱、普通に「バカップルか!」とファンから突っ込みをもらうぐらいの仲良しさんである。
涙沙は女子ブレザーながら男らしくあぐらをかいている。まあ単純にこの座り方が下着が見えないという理由だったのだけれど。一番安全ないのはいわゆる女の子座りだが、男子なので骨盤の関係上無理なのだ。やろうと思えばできるかもしれないが、別にやろうとも思わない。
そういえば恒人は自分よりスカート短かったから座る時苦労するだろうなと、この状況ではどうでもいい部類に入ることが頭を過ぎったが、一緒にいたのがテルだったので口には出さなかった、というより先輩すぎて喋りにくかった。
ちなみに敬語になっているため文章では伝わりにくいが涙沙の言葉は関西弁で再生していただけるとありがたい。
「そういえば、営林所の中に変なもんがあったんですよ」
懐中電灯を付けて室内を照らしているテルを止めようかどうしようか散々迷ったが、結局できなかった。
「変なモノって?」
「生首です。あ、もちろんニセモノですよ。触ってみたら感触がゴムっぽかったんで・・・あ、触る前に見た目でニセモノだと確信したから触ったんですよ!」
「ニセモノの生首なんてどうするんだろうね?何に使うのかな・・・」
「例えば投げつけて、相手を驚かせて隙を突くのとかに使えると思いますけどね。そのすぐ後にイノランさんが来てなんやらで、そのまんま置いてきちゃいましたけど」
「あ〜、いきなり生首飛んできたら驚くよねぇ」
「・・・はい」
なんというか会話が噛み合わない感覚を涙沙はずっと抱いていた、関西ノリは難しいとよく指摘されるが、そこが問題なのだろうか、Dはメンバーの出身地がほぼバラバラなのでその辺りのズレは克服したものと思っていたけれど。
「あの、ですからね。その生首を今はイノランさんが持ってる可能性もあるかと思って」
「ニセモノとはいえ生首なんか持ち歩くかな?」
「・・・トラップとかに使おうと思えばできますから」
会話が一周してないか?と思ったがそれに突っ込めるほど涙沙は神経が太くできていない。
突っ込めるならば此処に到着するまでに10回以上は突っ込んでいる、道を歩いている時も懐中電灯であちこち照らす、物音がしたら大声でメンバーの名前を呼ぶ等々の行動を止めるに止められずにいたのだ。
−っていうかこの人とおったら俺、生存率下がるんちゃうか?だからって今更はいさようならってわけにもいかんし、なんやかんやいっても先輩格やから後輩は攻撃してこない気もするけど。
相手がイノランだったらどうしようもないが、ガラだったらもしかすると向こうから避けてくれるかもしれない。
「そういえば、納得いかないでもないようなことがもう一つあるんや・・・ですけど」
考えるのに没頭していたせいで危うくタメ語になりかけたがテルは気にした様子もなく涙沙を見る。
「英蔵君って剣道二段なんですよ・・・武器が日本刀で負けるって相手かなり強いんちゃうか、と思いまして」
「二段ってそんなにすごいの?」
「文字通り二段ですからめちゃめちゃすごくはないでしょうけど、それなりですよ。まぁ、面と小手が使えませんけどね」
頭部や手などの露出した部分への攻撃は禁止。
「それに相手の武器が・・・推定でバットだったとしてやっぱり実戦と試合じゃ違うのかもしれませんし、ホントにちょっとした疑問ってだけです」
「ねぇ、剣道って上から数えるんだっけ?下から数えるんだっけ?」
「はいっ!?」
涙沙、しばし固まる。
「あ、ああ、初段、二段、三段って上がっていって、八段まであったような・・・」
「初段が一番弱くて八段が一番強いの?」
「・・・はい」
「じゃあ剣道二段って英検二級ぐらいのすごさ?」
「話聞いてましたか!?っていうか剣道と英検じゃ比べられませんよ!」
とうとう突っ込んでしまった、かろうじて敬語は保ったが。
テルはやはり気にした様子もなく「そっかそっか」と頷いている。
無理矢理変換するなら剣道二段はたぶん英検の4級だ。
天然は浅葱で慣れているつもりだったがやはり人によって天然の種類が違う。
テルの懐中電灯の明かりが縁側を照らした、さすがに言ったほうがいいだろう、生存率が下がるのは困る、涙沙はふり返ってテルを見た。
「テルさん、あんまり不用心に明かりは点けないほうが・・・《マーダー》に見つかったら危ないですよ」
「ん、そっか、そうだよね。ごめんごめん」
その時、照らされた縁側に涙沙は妙なものを見つけた。いや、妙というほどではない、砂のようなものだったが涙沙はそれが気になった。
涙沙もテルも土足で上がり込んでいるし、この場所に他の誰かがいたのならそこに砂があってもおかしくはないけれど、これは直感だ。
あれは何か自分にとって貴重な情報だ。
涙沙は四つん這いで縁側に出ると、それを指で取ってみた。砂ではない、もっと細かくて柔らかいもの、そしてこの匂いは・・・
「なにか見つけたの?」
「・・・マタタビが落ちてます」
「マタタビって、猫が好きなアレ?」
「にゃんこ・・・猫が好きなアレです」
着替えに使った教室でのことを涙沙は思いだした。

『いたっ!』
『すいません英蔵さん、手が当たっちゃいました』
『いや、そうか・・・ところでヒロ・・・いて!』
『すいません英蔵さん、足踏んじゃいました』
『・・・ツネ、わざとやってないか?』
『なにがです?』
『いや〜、あはは!』
間違えた。回想する場所を間違えた、面白すぎるのでつい思いだしてしまったけれどこのシーンじゃない、今は英蔵のヘタレっぷりも恒人のツンデレすぎるキャラもどうでもいい。横でそれを見て爆笑していた自分も今は脇に置いて、もう少し前、そう、浅葱が着替え終わった時だ、涙沙は近くの椅子に腰かけてそれを見ていた。いや、別に着替えるところをまじまじと見ていたわけではなく浅葱と他愛もない話で盛り上がっていたのだ。
浅葱が鞄から小さい銀色の袋を取り出して制服のポケットに幾つか入れているのを見て、それはなんだと質問した。
『マタタビだよ、徳用パックでいっぱい売ってたから買ったんだけど、よく考えたら湿気ると匂い落ちるんだよね、これ』
『いや、だからってなんで持ち歩いてんねん、そんなん』
『にゃんこがいたらあげようと思ってね、今日は野外撮影もありそうでしょ?なんだかこの島、猫の気配するし』
『どんな気配!?』
『どんなって猫の気配だよ、人がいないとこのにゃんこってすれてなくて可愛いんだよ』
『へぇ・・・』

回想終了。先輩相手に猫を「にゃんこ」と言ってしまったのは間違いなく浅葱のせいだ、責任とれ!そしてなんで匂いでマタタビが判別できるんだ自分、え?もしかして俺って猫?
と心の中で軽いノリツッコミをしているとテルがいつの間にか隣に来ていた。
「マタタビってこんなところに落ちてるものなんだね」
ずべしゃ!と涙沙はその場でずっこけた。新喜劇もびっくりの見事な転び芸だった。
「どうしたの?」
不思議そうな顔でのぞき込んでくるテルに涙沙は引きつった笑みを返した。
「落ちてたりしませんよ、たぶん誰かが使ったのがこぼれたんだと思います」
「そうなの?花粉が飛んできたのかと思った」
ごん!と上げた頭を床に叩きつけて涙沙は再びずっこけた。
「テルさん、マタタビは木ですよ!?」
「その木に咲く花の花粉じゃないの?だって粉じゃない」
そうか、浅葱は行動が突飛なタイプの天然だから頭は良いけど、テルは・・・その先の言葉は後輩という立場上浮かべるのを自重した。
「確かにマタタビは花も咲くし実もなりますけど、こういうペット用の粉末の物は実や葉をすりつぶしたものだと思いますよ。たぶんですけど・・・」
涙沙だって別に博学というわけではないので知識方面のボケは対応に困る。読書量と雑学はまた別なのだ。
「そうなんだ〜」
「そうなんですよぉ。ってちっっがぁぁぁぁう!!!」
涙沙、爆発。
「違うの?」
「うっかり口が滑ってしまったのに怒られもしないうえ突っ込みももらえへんなんて・・・えっとですね、普通マタタビの粉はこんな所に落ちてませんよね、市販されてるものなんですから」
また会話が一週している気がするが、もうどうでもいい。
「ああ、たまに売ってるあれね。支給武器かな」
今までなんだと思ってたんだ、そして支給武器だとしたらハズレだ大ハズレだ、ゲームの間ずっと猫と和んでろとでも言うのか。
「俺ね、一人知ってるんですよ、マタタビを持ってた人」
「私物は持ち込み禁止じゃなかったっけ?」
「制服のポケットに入れてた人がいます、そしてそんなのは55人参加者がいたって、その中にどれだけの猫好きがいたって俺が知ってるその人しかいないはずです」
「と、いうと誰なの?」
「浅葱君です、ウチのボーカルのっ!!」
犯人はお前だ!ぐらいの勢いで言う涙沙にテルは一瞬呆気にとられ、それから笑った。
「君のところのボーカル君、マタタビ持ち歩いてるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふりゃ!?」
気の抜けた声を上げて涙沙は自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。
30過ぎてマタタビ持ち歩いてる男って、たしかに言葉にすると・・・恥ずかしい。
すっげえ恥ずかしい、そして何故か我がことのように恥ずかしい。
「違うんです、浅葱君は猫好きなだけで、変な人では、いや変ではあるかもしれないけど、とっても頼りになってカッコイイ人なんです!」
「いいねぇ、メンバーが大好きなのはいいことだよ」
「はい!大好きですっ!・・・なんかもう全てがどうでもよくなってきました」
涙沙が脱力して縁側にへばりつくのをテルは不思議そうに見ていた。
「ねぇ、パンツ見えてるよ」
「見られてもいいの履いてますからいいです、つーか長時間スカートはめんどくさいんですよ、気を使うし、もういいです」
「襲うよ?っていう冗談を言っちゃうよ〜」
「面白い冗談ですね〜って・・・話戻していいですか?」
危うくテルのほのぼのとした空気に流されかけたが涙沙はなんとか持ち直す。
「終わってなかったの?」
「ませんよ。此処にマタタビが落ちてるってことは、浅葱君は此処にいたってことです、でももういなかった・・・何か目的を見つけたんですよ、きっと」
「優勝したいとか?」
「性格上それはないと思います。バトルを申し込まれても断るやろうし、ならこの場所にとどまっていれば良かったのに出発したってことは何かに気づいたか、何かを見つけたんやと思います・・・目的を・・・」
だらけきっていた身体を起こして涙沙は膝を抱えて座った。隣にテルも同じように座る。
「その目的ってさ、涙沙君達を探すことじゃないの?」
「え?」
「マオちゃんのことで《マーダー》の存在を知った時かもしくは英蔵君のゲームオーバーを聞いた時か、とにかくさ、《ごっこ遊び》でも君達のことが心配になったんじゃない?だって浅葱君は涙沙君にとって《とても頼りになるカッコイイ人》なんでしょ?」
反復されると恥ずかしい台詞を言ったなぁと涙沙は頬を押さえた。
「・・・そうだとええな。そうだったら嬉しいです」

テル
【武器】悪魔くんの召喚セット(ハズレ)
【所属】GLAY
【状態】青
【行動方針】涙沙と行動、DとGLAYのメンバーを探す、イノランとバットを持った人物を警戒
【特性】?

涙沙
【武器】日本刀、スリッパ
【所属】D
【状態】青
【行動方針】テルと行動、DとGLAYのメンバーを探す、イノランとバットを持った人物を警戒
【特性】?
(イノランが《マシンガンのマーダー》だということを知っています)


幕間−敗者控え室−

「逹瑯とミヤ、なかなかカッコイイな、ボニー&クライドみたいで」
盗聴スピーカーの前で呟くスギゾウにユッケが苦笑する。
「ほめられてるんでしょうか、それ」
「ミッキーとマロリーって言ったほうがよかったか?」
「ま、スイッチ入ったあの二人の手の着けられなさは否定しませんけどね」
「でもだんだん楽しい感じになってきたんじゃないですか?」
いつの間にかスピーカー切り替え役が定着してしまったマオが笑うと「そうかぁ」とスギゾウは眉を寄せた。
「俺はけっこう嬉しかったりしますよ、《ごっこ遊び》とはいえメンバーがみーんな俺の仇を討つつもりで動いてくれるなんてね」
「その敵討ちから俺は見事に省かれたけどな・・・」
ちょっぴり不満そうなしんぢの肩をマオが拳で突く。
「まぁ愛され度で俺の勝ちだね!」
「いや、ネロさんが一緒にいるからとかそういう理由ではぶかれただけだから、愛され度とか関係ないから」
「しんでぃ負け惜しみぃ!!」
じゃれ合うシド年上チームの会話にユッケも参戦する。
「でもよかったね、ネロ君が明希を回収してくれてさ。明希ってほら、交友範囲広い分誰でも信用しちゃいそうだから」
「明希しこはちょっとその辺り抜けてるからね、まぁネロさんで良かったって感じかなぁ。なんだかんだでゆうやも合流できたし、恒人君は大丈夫そうだし?」
逹瑯とルキはダメだと明希自身が言っていたが、いざ本人を目の前にして「俺はのってないよ」と言われたら即座に信じて警戒を解いてしまいそうなところが明希にはある。
たぶんこの面子の中ではサトチの次に騙し討ちが容易だ。
「で、スギゾウさん。ユウナさんってどうなんですか?」
しんぢの問いにスギゾウは薄く笑みを浮かべる。
「分からないな。あいつは経歴の関係上、表面を取り繕うのが妙に上手い。俺を攻撃してきた時に言った理由だって本心かどうか、純粋なヤツであることも事実だけどさ、いつも、いつだってユウナは変なところで読めない、いや、読まさせてくれないのかな・・・ただアイツの甘いところはその《読ませない》ところを他人に悟られるとこだよ」
ユッケとマオは首を傾げたがしんぢだけは何かを理解したように目を細めた。
そしてマオ達に聞こえないほど小さな声で言う。
「・・・ネロさん、ちょっと人を集めすぎているかもな」

「ルキ・・・おまえいいかげんウザイ」
「だぁってさぁ・・・俺、確実に嫌われたよ、もしくは怒ってるよ」
窓際の机の上で小柄な身体を丸めて膝を抱えているルキの隣でれいたは面倒くさそうにこめかみを押さえた。
「そんなもん京さん本人に聞いてみなきゃ分からないだろうが、コレが終わったら聞いてみろよ」
「・・・誰が聞くんだよ?」
「オマエ以外に誰がいると?」
「むりぃぃぃぃぃぃ!!」
「じゃ、ずっとそうしてろ。それよりウチからは戒君だけになっちまったな、この調子じゃ全滅一番乗りじゃないか、俺にはそっちのほうが問題だ・・・まぁラルクさんもサクラさんを除くならハイドさんだけか」
ため息混じりに言うれいたにようやくルキも顔を上げる。
「ああ、もうウチが優勝する可能性低いよなぁ・・・」
「最初っから低かったけどな、強豪すぎるだろ他が。ってゆーかムックのお二人とかイノランさんとか、どんだけだよ!?」
「どんだけだよなぁ・・・戒君、いっそのことネロさん達のパーティと合流できればいいかもな、ゆうやがいるし、明希も・・・いや、明希はまあアレだけどさ」
何気に失礼なことを言うルキだった。というか明希もルキには言われたくないだろうに。
「いや、優勝したいならパーティ入ってちゃダメだろ。最終的に裏切らなきゃいけなくなるわけだし」
「あ、そっか・・・そういえば、あのぉ」
ぐるんと身体を回転させて視線を合わせてきたルキに近くに座っていた英蔵が顔を上げる。
「ん、俺?」
英蔵は持っていた《死亡プレート》を掲げた。
『敏弥さん/錘による撲殺/最後の言葉"ちょ、タイ・・・"』
「なんかあれだよね、《殺》っ漢字が入ると急に生々しくなるよねぇ」
まだなにも質問していないのに英蔵は勝手にうんうん頷く。的はずれなことを言われたわけでもなかったのでルキも《死亡プレート》を掲げた。
『京さんと薫さん/銃殺(二発)/最後の言葉"おわっ!"』
「確かに、でも銃殺より撲殺のほうが生々しいのは何故だろう・・・」
「う〜ん、銃殺って言葉に現実味がないからじゃない?あ、ところでなんで俺に声かけたの?」
「へ?あれ!?・・・忘れちゃいました!」
頭を掻くルキの隣でれいたが小さく「バカ・・・」と呟いた。

「京さんと薫さんチームとメリーのテツさんが接触するみたいですよ!」
マオの声に、部屋中に散っていた面々がスピーカーの前に集合した。



テツはよく晴れた星空を見上げた、日が暮れてからかなりの時間がたち、すっかり暗闇にも目が慣れた。東京ではこんな空は見ることができない、空気が澄んでいるのと、他に光源がないせいでまさに降り注ぐような星空。
「いや、たかだか《ごっこ遊び》で別にアンニュイな気分になる必要はないか、でもこれから俺がやろうとしていることは・・・まさに真の馬鹿って感じだけれど」
そんなことを呟きながらテツはお堂の前に立った、月明かりの加減で中を窺うことはできないが、此処にあの二人がいることは分かっている。
テツは大声になりすぎないように注意しながら声をかけた。
「薫さん、京さん、メリーのテツです」
中で小さな物音がしてキラリと何かが光った、おそらく銃だ。
「なんのようや?ガラならおらんで」
返ってきたのは薫の声だった、やや警戒を帯びている。
「話があるんです、出てきていただけませんか?銃器のたぐいは持っていませんのでご安心を」
「話って・・・あ、ちょ!京君!?」
薫の慌てた声と共にお堂の扉が開いて京が姿を現した。寝起きのためか不機嫌そうな顔で《愚神礼賛》をずりずり引きずっている。
釘バット、黒い、すべて同じ材質で作られたらしいそれは普通のバットより細くて長い、戦闘に特化したものだ。
テツは自分の三節棍とそれを見比べて笑う。イーブンだと思った。
無論、テツはその釘バットが《超大当たり判定武器》だということを知らないからこそそう思ってしまったのだが。
そのままテツの目の前までやってきた京は前を見たまま複雑そうな顔で何かを考え込んでいた。そして小さくため息をつくと五歩ほど後ろに下がって改めてテツと目を合わせた。
テツ、身長187センチ。京、身長158センチ、その差29センチ。
あまり間近に立つと視線を合わせるのに苦労するのだ。これが逹瑯だったら「俺は同性見下ろすの慣れちゃってますから」などと減らず口を叩くのだろうが、今のテツにそんな命がけのジョークを言う余裕はない。
京は《愚神礼賛》を肩に担ぐとにぃっと八重歯を見せて笑った。
「ん、目が覚めたわ」
・・・え?今まで寝ぼけてたんですか?とは突っ込めないテツ。
「ちょお京君!?」
慌てて出てきた薫が京の隣に並ぶ。
「薫君、遅いなぁ。歳か?」
「たいして年齢差ないのになんでそういうことを言うかな、普段は年上扱いあんませんくせに!」
「なら年上らしいことしてくれや、この《たこ焼きパーティおじさん》がっ!」
「変なあだ名つけんなっ!!アレはええやん、みんな楽しんでくれたんやから」
「俺のように落ちつきを持てや、おっさん」
「いや、京君そこまで落ち着いてへんから、テンションの狂いっぷりが多方向に分散しまくってわけわからん人になってるから」
「・・・俺は永遠にガラスの十代やからな」
「前言撤回しやがった!!」
「それが俺の持ち味やもん」
ナチュラルに漫才が始まってしまった。さすが関西人!と言うのは偏見だろうか。
「ああ、スマン、テツ、なんの話やったん?」
薫の胸に軽く裏拳を入れて言う京にテツは姿勢を正し・・・そして少し考えて見下ろして言うのは失礼だろうという謎の結論を出し、片膝をつくという意味の分からない行動に出た。
求婚でもする気かとあっけにとられる薫と京にテツは言った。
「京さん、俺と勝負をしていただけませんか?」
京は猫目を細めて首を傾げる。驚く時は驚くがすぐに冷静になる男だ。
「《勝負》ってゆーとこの場合、どちらかがゲームオーバーになるまでバトルをしようと、そういうことか?」
「はい」
「ええよ」
「ちょお待て阿呆っ!」
あっさり頷く京の頭を薫が力一杯どついた。
「う゛にゃ!薫君に暴力ふるわれた!どめすてぃっくばいおれんすや!」
「英詩も唄うボーカルとして平仮名発音はやめんかっ!あとそれを言ったら京君の存在がDVや!」
「存在がAV?うわエロっ!」
「京君、耳がイカれたんか?これが終わったら病院行こうな!って少しは真面目に話を聞け!」
「domestic violence!」
「綺麗な発音でありがとう・・・で、なんの話してたんやっけ?」
「フィンランド経済についてや」
「うむ、経済大国やからなぁ・・・ってちゃうやん、京君、テツとバトルするって本気か?腕の長さの違い分かっとる?」
「それ関係ないやん!薫君、俺がタイマンで負けるとでも思ってんの?」
「めっちゃかっこよく言うたけど、京君、別に喧嘩強ないやろ。どっから湧いてくるんやその自信は」
「胸の奥から沸々と、それはもう火砕流のように!」
「火砕流は湧きません!橋から川に投げ捨てられたことあるくせに!」
「やかましいっ!!」
薫の腹に肘鉄をきめながら京はテツを見る。
「オマエも俺と勝負したいなら薫君説得せんかいっ!」
「今の会話のどこに口を挟めというのでしょうか・・・」
むしろ軽く感動してしまって何も言えなかったのだが。台本でもあるのかってぐらいだ。
っていうか橋から川に投げ捨てられたって?ガラなら知ってるだろうから後で聞いてみようとテツは一人で頷いていた。
この場に欠けているのはきっと『天然じゃない人』である。
天然ボケハザード、ここにきて全開。
「そんなにテツとバトルしたいんか?」
「ん〜だってせっかくの釘バットやし?テツのその棒・・・」
「《ビリー・カーンの三節棍》というものらしいです」
「ん、その三節棍となら良いバトルできそうやと思わへん?」
薫は渋い顔で京を見下ろしている。
「な、ええやろ?」
じっと薫の顔をのぞきこんで言う京に薫はやれやれとばかりに頭を掻いた。
「ま、確かに京君が負けるわけないか・・・好きにしてええよ」
「やった!絶対に手出し禁止やで!!」
「はいはい・・・」
摩擦熱が起きそうな勢いで綺麗に右向け右をして京はテツを見た。
「一つだけ条件。フィールド・・・つまり戦う場所は俺に選ばせてくれへん?あ、これ拒否権なしな!」
いきなり殿モードになったが、テツも異論はないので頷く。
「ほな、行こか」
チェシャ猫のような笑みを浮かべる京の瞳がキラリと光った気がして今更ながら無謀な勝負を挑んでしまったのではないかと少しだけ思った。


京がフィールドに指定したのは山の頂上にある廃材置き場だった。積み上げられた粗大ゴミの山。
「え、此処はいくらなんでも・・・足場が悪いし危なくないですか?」
《ごっこ遊び》で怪我をしたのではシャレにならないと戸惑うテツをよそに京は軽やかな動作で廃材の山を駆け上がる。
薫は妙に優しげな笑みを浮かべてそれを見ていた。
「大丈夫やて、さっき確認したもん。上がってきてみ?そしたら分かるて」
テツもしかたなく手前の古いテレビに足をかけて登り始めた。
−あれ?やけに安定してないか?
廃材の山だというのにまるでアスレチックのように足元が揺らぐことなく簡単に上がることができた、そして頂上に着いてみて、京の言った意味が分かった。
軽いおうとつはあるが、頂上・・・50メートル四方はあるだろうか、ほぼ平面に近い。
「な、此処って明らかに意図的に作られてるやろ?」
テツは周辺に足を乗せて確認してみるがどれもしっかりしている、偶に少しぐらついているものもあるが、そういうものは他よりも高くなっていて見れば分かるものばかり。
「《フィールド》と言うなら確かに《フィールド》以外の何物でもないですね、これは」
格闘ゲームなどの変わり種ステージを連想させる。
「元ネタは《ひぐらし》かもな、どっちかが鉈だったら確実か?」
「ああ、なるほど・・・といってもあまり知らないんですが」
「いや、俺も知らんけど。ちょいっと見たシーンでこんなのがあったような・・・まぁええわ。それだけやないで、此処を見て、なんか思わへん?」
そう言われて、テツは改めて周囲を見渡し、気づいた。
「ライヴ・・・ライヴのステージ上と条件が同じということですか?」
月と星だけの光源、ライヴの時・・・転換の時や照明を暗めにして演奏を行う時と同じぐらい。そして広さや機材の多さにもよるが、ステージ上は案外、シールドやらなにやらで足場が悪い。
京は「そ〜いうこと」と目を細めた。
「ふむ、わざわざ作られた戦闘用ステージですね・・・確かに申し合わせてバトルするなら此処を使わないのは失礼だ、と言っていいほどかもしれません」
「真面目やなぁ。まこからは変態の変人のサディストって聞いてたんやけど」
「・・・・・・その京さんの義弟のことですが、この《ごっこ遊び》が終了し次第、はり倒してよろしいでしょうか?」
青筋を立てて引きつった笑みを浮かべるテツに京は少し首を傾げて考える。
「ん〜〜〜〜〜〜。ん!別に俺に許可とらんでもええんやない?メンバー優先で」
「その基本中の基本である《メンバー優先》を今まさにやってくれてないのがガラなんですがっ!」
京はまたあのチェシャ猫笑いを浮かべた。
「テツでもまこが考えとること正確には分からんの?」
「正確にと言われると、分かってはないですね、それでもアイツが・・・」
「俺を優勝させる心づもりで《マーダー》をやっていると思ったから、俺を倒して目的を崩壊させるって?」
びゅん!と京は《愚神礼賛》で素振りを始めた、片手でのフルスイング。
突かれて意外なほどでもないが図星は図星だったのでテツは黙って頷いた。
「うん。でもそれが間違ってたら?まこは《メリーを優勝させる》と、そう思って《マーダー》になったんやとしたら?どーすんねん?」
「そうであるならば、《メリーの優勝》をメンバーの総意とします。そうなるとガラが絶対に手を出せない、攻撃することができない、絶対不可侵の相手が一人いますよね?」
京は素振りの手を止めてテツを見る。
「その死ぬほど小っ恥ずかしい台詞の後に言わせるのは嫌がらせかなにかなんか?まぁその相手っていうのは俺やろうね」
「ええ、だからどちらに転んでも・・・」
「此処で俺を倒して損はないってことか。うん、ええな。これで心おきなく戦えるわ」
京は《愚神礼賛》を構え、怒号を上げる。
「かかってこいや!!アナコンダ野郎!!」
周囲の空気が粉々に砕け散ったかのような錯覚を覚えテツは息を呑んだ。
月を背負って立つ京はもうさっきまで冷静ながらどこか柔らかさを感じる口調で話していた人間とは別人だった。
テツは一瞬怯んだがすぐに心を落ち着かせ、三節棍を構える。
「いかせてもらいますよ、京さん!」
先手必勝と一気に京の前まで距離を詰め、三節棍を振りかぶると京は一足飛びに後ろに下がった、まだ射程距離からは出ていないとかまわず三節棍を横薙ぎにしようとするが慌てて止める。
身長差が仇になった。この位置では京の頭に当たってしまう。
それはルール違反で、そしてうっかりでもそんなことをしてはいけない相手だ。
京は羽虫でも払うように《愚神礼賛》を振り回す、軌道は右下から斜め上に向けて。テツは三節棍を構えてそれを防ごうとするが、牽制だったらしい、すぐに《愚神礼賛》を引っ込め、バトンのように回転させると、京は地面を蹴り上げジャンプした。
ライヴなどで何度か目撃しているが間近でみるととんでもない跳躍力だ。
空中で《愚神礼賛》を振りかぶりテツの肩を狙って振り下ろしてくる、間一髪、三節棍でそれを受け止めたが衝撃で手が痺れた。
−冗談だろ?こんな軽い素材で作られているので、この衝撃!?
頭部への攻撃が禁止で良かったと心底思った、いくらニセモノでもこの勢いで振り下ろされたら昏倒してしまいそうだ。
バックステップで後ろに下がりながら、テツは着地しようとする京に三節棍を向ける。
この三節棍は普段は棒として使えるタイプのボタン式のものだ。
《説明書》なら熟読した、この距離ならいける!
ボタンを押すと連結が解除され、収納されていた鎖が出て、三つに分かれる。
瞬間的に伸びる。
しかし京はそれを空中で身体を捻って避けた。
「・・・え!?」
「ふふっ、ネタばらし自分でしたやん?《ビリー・カーンの三節棍》だって。俺かて《餓狼伝説》ぐらい知っとるで〜、どんだけ年寄りだと思ってん」
綺麗に着地を終えた京が挑発的に笑う、たしかにテツの失態だった、自ら武器の性能をバラしてしまったのだから。
テツは素早く三節棍を回収し、元に戻す作業に入る。それこそこれが本物の殺し合いであったのなら、バラバラの状態で振り回せば有効な武器かもしれないが、あくまで《ごっこ遊び》万が一にでも京に怪我をさせてしまったらそれこそガラになにを言われるかわからない。
京もそれを分かっているのかテツが三節棍を元に戻すまで手を休めて見ていた。
「なぁテツ。俺なぁ・・・正直まこが《マーダー》だって放送された時、どうしていいか分からなかったんや、最初はメリーで優勝狙ってんのかと思って、だとしたらまこと会ったら戦うのかなって。それは嫌やなぁって・・・」
既に三節棍は元の棒に戻っていたがテツは頷いて京に続きを促す。
「でも、次にもしかして俺を優勝させるために《マーダー》になったんかなって思ったら・・・ムカついた、なんやアイツなんも分かってないって、そう思った・・・でも結局はどんな親しくても他人の気持ちなんて直接聞くしかないからな」
「俺のやってることは間違ってますか?」
「間違ってへんと思うよ。あくまで俺はな。まこが《マーダー》だって全参加者が知ってしまったことで他のメリーの連中がかなり危ない位置になったはずやから、テツはそこが気にかかったんやろ」
また、京の雰囲気が変わった、纏う空気が変わった。
真冬の太陽を思わせる凍るような暖かさ。
「ええ、だからもしガラの目的が京さんの優勝であるのなら・・・」
「俺がゲームオーバーになってから、まこはマーダーでなくなったとみんなに伝える術を探す?」
「まぁ大博打になってしまいますけどね・・・」
「そしてまこの目的がメリーでの優勝であるなら、そのまま突っ走ると」
「はい」
京は《愚神礼賛》を担いで空を仰いだ。
「やっぱりオマエは間違ってないと思う。策としては穴だらけやけど、できる最善のことをやろうとしとる、俺、そーいうヤツ好きやで」
八重歯を見せて、やけに無邪気な顔で笑いかけてくる京にテツは少し戸惑った。
「でもなぁ。俺は俺で目的があるんや、だから負けてやる気はない・・・」
また徐々に雰囲気が変わっていく、空気が色をもって渦巻いているようだ。鳥肌が立った。
「運動神経はどうか知らんけど、リーチでは圧倒的にそっちが有利やねぇ・・・俺、実際喧嘩したことないしな、ヤンキー嫌いやから・・・なぁ、ならどうして俺も薫君も《負けるわけがない》って言ったと思う?」
「・・・え?」
「さぁ、改めて始めようか・・・《殺し合い》」
先程の無邪気さなどもう欠片も残っていなかった、獰猛な、凶悪な笑みを浮かべて京は《愚神礼賛》を構える。その迫力に気圧されながらもテツは三節棍を振りかざし、特攻をかける。
武器の扱いに慣れてきたせいか今度は冷静に観察しながら攻撃に入ることができた。
《喧嘩したことがない》というのは事実だろう、よく見れば京は別に余裕を持ってこちらの攻撃を避けているわけではないようだった。ならば・・・
テツは後ろに下がる。
リーチの長さを最大限に利用させてもらおうじゃないか、京の攻撃範囲に入れなければこの勝負勝てる。三節棍の長さは、《ビリー・カーンの》という元ネタのためか普通の物よりはるかに長く、150センチほどもある(ディバックには分解された状態でもぎちぎちで入っていた)対する京の《愚神礼賛》は90センチといったところか。
所詮は鈍器である上、身体のみへの攻撃に限定されているので一、二回当てたぐらいではゲームオーバーにはできないだろうが、それでも京の攻撃が届かない位置から攻撃し続ければ勝てる。
テツと京は同時に武器を振りかぶった。
武器同士をぶつけ合い、足元に気を配り、絶対に京に距離を詰められないようにしながら攻防を続ける。
そんな中でふと、廃材の山の下でその様子を見ている薫の姿が視界に入った。さすがにこの程度の光源では表情までは分からなかったが・・・
『なぁ、ならどうして俺も薫君も《負けるわけがない》って言ったと思う?』
京の言葉が頭を過ぎった、確かに何故だ?
あの過保護で有名な薫が《ごっこ遊び》とはいえ京にこんなことを許した理由は?
薫は銃を所持している、二人の様子を観察していたのでテツはそれを確認していた。
たしかリボルバーを持っていた。
京の攻撃を受け止めながらテツは頭を巡らせる。
「手出し禁止」だとか京が薫に言っていたが、それこそが罠だったら?
わざわざこんなひらけたフィールドに連れてきたのがそもそも計画の一つだったら?
リーチの差なんて一目瞭然なのでこういった攻防戦になることは分かっていたはずだから・・・
これだけ京と自分が距離を開けていたらあの位置からだって銃で撃つことぐらい容易いんじゃないのか?
思わず薫のほうを見てしまう、頭を横に向けて薫を見てしまう。
次に前を向いた時、京の姿は消えていた。
「・・・なっ!」
「まぁお約束ちゅーことで」
声は真下から聞こえてきた、下を見るとギリギリまで姿勢を低くした京が笑っていた。振りかぶった《愚神礼賛》は見事にテツの横っ腹をとらえ、衝撃が走る。
「《ボディが甘いぜ!》なんてな」
「・・・そ、れ、今更、す、ぎます」

廃材の上に寝転がるテツを京が見下ろしていた。
テツの胸のランプは赤が点灯している。ゲームオーバー。
《超大当たり判定武器》の《愚神礼賛》は一撃必殺の鈍器だった。
「思いっきりやってまった、大丈夫か?」
「ルールブックにも記載されてましたが男子ですから、この程度なんてことありませんよ」
「うん、やっぱオマエ良いやつや」
京にそんなことを言われるとものすごく得した気持ちになって、《死亡判定》を喰らったというのにテツは思わず笑ってしまった。
「実際、計画はあったんですか?正直どこから罠だったのかよく分からないんですが・・・」
「薫君とは特になにも。まぁ実際俺が負けかけたら発砲してくる可能性はあったわけやけど、俺も男子やからな、そういう勝ち方は嬉しくない」
「・・・じゃあ、俺が一人で疑心暗鬼に陥っただけ、ですか?」
額を抑えるテツに京はまたチェシャ猫の笑み。
「心理作戦ってほどでもないけど、まぁ《疑いたくなるような台詞》を言っただけや、人間って一回疑い出すとドツボにはまるからな」
笑顔の中で瞳だけが混沌を閉じこめたように揺れていた。
「どうしてガラが・・・京さんをあそこまで好きなのか少し分かった気がします」
敵うわけがない、この領域に辿り着くまでの道程は甘いものではない、今の自分ではまだまだだ。
目を閉じる前に見た京は不思議そうな顔をしていて、それが妙に幼くて、少しだけ可笑しかった。




【武器】S&W M500、ワルサーPPK
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探す、ルナシーメンバーとハイドを警戒(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】薫に任せる、《ゲーム》の《攻略法》を探す、ルナシーメンバーを警戒(?)
【特性】人間ノック(笑)

【テツ メリー ゲームオーバー】
(ビリー・カーンの三節棍、廃材置き場に放置)

【残り37人】


同時刻、テツと京によるバトルが繰り広げられていたまさにその時、灯台の最上階でキリトは月を見ながら偶然にも京のことを考えていた。
結生とのやりとりが呼び水となり、様々な思いが胸の奥から溢れてきた。
ディルとピエロ、厳密に言えば『同期』ではないが、当時の流れなどから自然と互いを意識していた気がする。交遊もゼロではない。
ボーカリストとして、あるいは表現者として京を《ライバル》として意識していたかと問われると返答に困る、《ライバル》という言葉が適切でない気がするのだ。
フィールドが同じだっただけで、表現したいこともスタイルも感性もなにもかも二人は別物だった。でも意識はしていた。
だから結生にはあんな言い方をしたのだ。
『俺の敵の味方の味方は俺の敵』
実際この状況で京と遭遇したらこの上なく居心地の悪い、微妙な空気になってしまうだろう。
普段の行いにおいても《狂犬》と呼ばれるキリトとは違い、唄っていない時の京は大人しい。
人慣れしない猫みたいなヤツだというのが初対面の時の印象だ。(その辺りを鑑みれば会ったとしても交戦になることはないかもしれない)
それでも少なくともあの当時、互いに意識はしていた。
「でも、今はどうだ?」
キリトは月に問いかけてみる。
ピエロはもうない、ディルは今でも生き続けている。
「眼中にない、かな?」
キリトは暴れまわった、外に向かって発信し続けた、異端であることを心がけた。
京は自らの内に潜っていった、世界を憎むと同時に自分も憎み、幸せを放棄した。
周囲に煽られてライバル視?そんな単純なものではなかったはずだ。
あの頃は本当に・・・
「過去形でしか語れないというのも腹が立つな・・・」
互いに尊敬していたボーカリストは同じだったけれど、京はあっさりとそれを捨ててしまった。それこそもう『眼中にない』のだろう。
「そしてそんなことを言いつつ、比較されるのも気に食わないんだが」
それはたぶん京も同じだろう、音域などデータ化できるものならともかく感性的な部分をさも理論的に評価している人間を見ると「オマエらヒマだな」と鼻で笑いたくなる。
「《僕の言ってることがわからない人には全員いなくなって欲しい》だっけか?あの台詞はそこまで言うかと同時に俺もそう思うかもって感じだったが・・・」
よく京とキリトは似ていると言う人がいるがそれは全力で否定できる。
全く違う、根っこから葉まで何一つ被る部分などない。
キリトは昇っていって、京は沈んでいった。
京がこの《ごっこ遊び》においてどういった行動をとるか分かるほどキリトは京の性格を知らない。
京のほうは廃校での発言もあるのでキリトが《主催者反撃ルート》を狙っていることを知っているかもしれないが・・・
「それも《眼中にない》のかもな」
自分の顔に愛想笑いの次に嫌いな《自嘲》が浮かんでいるのに気づいてキリトはそれ以上考えるのをやめた。
「・・・俺は《戦う》」


キリト
【武器】ハイスタンダード・デリンジャー(現在は見張りに立っているタケオに預けてあります)
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】主催者反撃ルート
【特性】超人の領域への階段



「なぁ、どうせなら最短距離突っ切っていったほうがよかったんとちゃう?」
「急がば回れ、というか・・・屋根のあるところには近寄らないほうが無難ですよ」
後ろから声をかけてくる赤松に大城はうんざり感が声に出ないように気をつけながら答えた。
「この暗闇ですからね、みんなどこかしらで休息しているでしょう、山の中だとけっこうそういう場所が多いんですよ、休息所やらお堂やら・・・そうなると逆に道に出た方が安全だと思うんです」
簡易レーダーで周囲に人がいないのを確認しながら大城は足を進める。本来、銃を持っている赤松が先に行くべきなのだろうが、どちらもそれを指摘することはなかった。
赤松は単純に怖かったからで、大城は赤松に先に立って安全確認をしてもらうという行為にリスクの高さを感じたからだ。
「そんなもんか。なぁ、大城君・・・さっきからなんか変な声せぇへん?」
「ああ、フクロウが鳴いてますね」
「なんや、フクロウか・・・」
どうやら赤松は沈黙に不安を感じるタイプらしい。出発してからずっと喋りっぱなしだ。
「あの、ちょ・・・歩くの速いって!競歩ぐらいのスピードになってんで」
競歩は大げさだろうが実際かなりの早足になっていたので大城は一旦足を止めた。
「・・・すいません、なんか気が急いてしまって」
「そんな急がんでも・・・あ、でも移動しちゃったら会えないか、その恒人君?」
今度は早足になりすぎないように大城はまた歩き出す。
「夜のうちは大丈夫でしょう、でももう夜明けも近いですし」
「そやな、あの禁止エリア迂回しなきゃあかんかったのでかなり時間ロスしたしなぁ」
「線引きでもしてあればよかったんですけど、余裕を持って避けないとダメでしたからね」
律儀に会話を続けながらも大城は視覚で簡易レーダーと周囲に、そして聴覚で拾える範囲の音に神経を尖らせていた。
マオがゲームオーバーになった時に聞こえたマシンガンの音、《マシンガンのマーダー》に動きはない。その代わりあのマシンガンよりもっと派手な銃声が聞こえた。
−マーダーが増えてるってことだよな・・・
遊びのつもりか優勝狙いかはともかく積極的に動き出した連中がいる、そしてそれはこれからもっと増えるだろう。
「赤松さん、一応お聞きしますが・・・ソフィアの他のメンバーの方はこういったことに乗るタイプですか?」
「まぁ松ちゃんと黒ちゃんは確実やろね」
ボーカルの松岡とベースの黒柳、その二人に遭遇しないことを願うしかない。
「ああ、でも松岡さんと都さんは一緒にいる可能性が高くありませんか?」
「たぶん、黒ちゃんは一人でも動くだろうけど、松ちゃんはみんなでやりたいタイプやから・・・ま、《ごっこ遊び》やからねぇ。これが本物だったらむしろ拡声器で呼びかけしそうかな、松ちゃんは。そっちはどうなん、本物やったら」
大城は簡易レーダーに視線を落とす。周囲に人はいない。小さなため息が漏れた。
「どうにもできないけど、どうにかしたいですね・・・でも赤松さん、コレが本物だとしたらって話になってしまうと、優勝なんて無意味ですよ。メンバーがたとえ一人でも欠けたら意味はないし・・・そして、そんな状況で生き残ったらもう音楽をやる資格ないですから。だからこれが本物ならば参加者が一人も欠けない状態で全員脱出。それ以外の道は全て無意味です」
後ろから返答はなかった。赤松が冗談半分で言ったことに少し真面目に答えすぎたかと大城はふり返る。
赤松がひどく真剣な面もちでこちらを見ていた。
「俺はよく知らんけどさ、君らってきっとすごく良いバンドなんやな」
それに大城は笑顔を浮かべて答える。
「もちろんですよ」
「なぁなぁ、その恒人君ってどんな感じの子?写真通り?」
すぐに普通のテンションに戻った赤松に苦笑しつつ大城は答える。
「百パーセント写真と同じとはさすがに言いませんけど、実際綺麗ですよ」
「あんな目デカイの!?」
「大きいですね、まぁ標準よりは」
「ほえ〜!性格は?」
「そうですね、明るくて、努力家で、しっかりしてて、でも年相応にお茶目・・・かな?」
今度はほめ言葉しか出てこない自分に苦笑いだった。
「年相応って、幾つなん?」
「25歳ですよ」
「マジで!?若いなぁ」
年上のメンバーとして何か一つぐらいダメ出ししたほうがいいか、メンバーバカだと思われそうだしと大城はしばらく考えて言った。
「あとツンデレです」
ファンからよく言われてるよな、ぐらいの感覚だったのだが赤松はえらく感動したようだった。
「そっか、ツンデレか、ええなぁ、ツンデレ・・・」
ああツンデレってほめ言葉だったのか、よく分からずに言ってしまったのだけど。
「で、スタイルもええと?」
「え?そうですね、スレンダーです・・・」
「若くて可愛くてしっかりものでお茶目でツンデレでスタイルええんや!?」
−いや、おかしくないか?この会話というか、この空気!?今、メンバーの話してるんですよね!?
困惑する大城に構わず赤松は「早く会ってみたいなぁ」などと呟いている。
「えっと・・・でも松岡さんだってかなりお綺麗な方じゃないですか?」
「松ちゃん?あかんてあの人、中身がジャイアンやから」
「・・・そうですか」
なにか気の利いたことでも言うべきかと思いつつ、簡易レーダーを確認した大城は息を呑む、大城自身と赤松の他にもう一つ表示があった。距離にして300メートルの地点に他の参加者がいる!
大城はその方向を見た、林の奥、姿は見えないし音も聞こえない、それでもレーダーは反応している。
「赤松さん、誰かいますっ!」
大城はそう囁いて、近くにあったバスの停留所の後ろに駆け込んだ、赤松も慌ててついてくる。
「ど、どうする!?」
大城は簡易レーダーを見たまま考える、相手は着実にこちらに近づいてきている、どうする?
話し合うか、戦うか。先程までの赤松との会話が相手に聞こえていたのか、相手がこちらの存在に気づいているのか微妙なラインだ。
マーダーは増えている。
もし相手の武器が高スペックなものだったなら・・・こちらの武器は赤松のコルト・パイソンだけ、勝率は低い。
話し合うならば相手が《マーダー》でないことが前提だ。かなり低い確率だが相手が大城のメンバーの浅葱か涙沙である可能性だって0ではない。同時にソフィアのメンバーである可能性もある、そうなるとやっかいだ、赤松自身が黒柳と松岡なら積極的に乗っていると言っている。どうする?どうすればいい?
「どうするん?いきなり撃ってきたら・・・こんな薄っぺらいのの後ろに隠れてたって意味ないんじゃ・・・」
両手で祈るようにコルト・パイソンを握り締めた赤松が狼狽した様子で言う。
その言葉で大城は気づいた、ガゼットの二人、麗と戒が気づいたことに大城も到達した。
「いえ、本物の銃弾ではなく、発せられるのは電気信号ですから、此処にいれば防げます」
「あ・・・ああ、そっか」
落ち葉を踏む足音が微かに聞こえてきた、すぐ近くまで来ている。
もう声を出すわけにはいかない、やりすごすしかない。
足音が止まる、こちらをうかがっているかのように静かになる。
なるほど、これは怖い。《ごっこ遊び》だと分かっているのに充分怖い。
痛いほどの静寂。
話し声が聞こえていたのではないか?よく確認せずに此処に隠れてしまったけれど、向こうから見たらバレるような場所ではないのか?次々と不安が押し寄せる。
口から心臓が飛び出そうだ。
それでも一つ分かったのは相手が浅葱でも涙沙でもないということ、あの二人なら絶対に声をかけて相手が誰か確認するだろう、恒人が集落にいるとするなら、メンバーではない。
何故、相手は黙っているのだ?
現時点で全滅してるバンドはないので最低限、相手がメンバーか否かを確認する必要があるはずだ。
ならば相手は個人で出ている人なのだろうか。
この沈黙がとてつもなく怖い。判断ができない。
そんな空気に耐えられなくなったのだろう、大城が止める間もなく赤松がそっと停留所の影から顔を出した。
「うわっ!」と悲鳴を上げて赤松が顔を引っ込めると同時に、ぱぱぱぱぱぱぱっという銃声が響いた。
《マシンガンのマーダー》だ。相手は歩き出した、もう確実にこちらの存在に気づいた、逃げなければ、このまま目の前の林を突っ切る?でもそんなもの後ろから撃たれたら終わりだ。
−ここまでなのか・・・ようやくツネと会えそうだったのに。
諦めかけた大城の手にコルト・パイソンがおしつけられた。顔を上げると赤松が微笑んでいる。
「早く恒人君のとこ行ってやり、俺がおとりになるわ」
赤松はそう言って大城の背中を叩くと、咆吼を上げて停留所から飛び出した、遠ざかっていく足音、銃声。
大城も走り出した、足音を殺して林の中へ。
「ヘタレとか思ってすみません・・・」
むしろ男前すぎるぐらいじゃないか。やはり英蔵と被る。


「あかん、か・・・」
《当たり判定》が出てランプが点滅している間は足を止めなければけないというルールがある以上、赤松ははなから逃げ切れるとは思っていなかった。
激しく点滅しているランプを見ながら赤松は笑う。たかだか《ごっこ遊び》で本気でメンバーのことを心配する大城が不思議であると同時に胸を突かれる思いだった。
動けない赤松に再びマシンガンの銃声が降り注ぐ。
実際ソフィアのメンバーはみなしぶとい性格だから心配しようがなかったのも事実で、また赤松はメンバー最年少だけれど、大城は年上という部分も大きかった。
歳も若くキャリアも浅い人間ならばこの状況で不安も感じていよう。心配にもなる。
逆にもしこれが本物だったなら、松岡や黒柳の無鉄砲さが心配で、赤松もそれを前提に行動しただろう。
「まぁ今はifの話なんかどうでもええわ、俺は満足や、けっこう格好良かったんやない?松ちゃんには形式上怒られそうやけど」
胸のランプは赤を灯した、ゲームオーバーだ。相手を見てやろうと赤松はふり返る。
そこに立っていたのはGLAYのヒサシだった。
イングラムを片手にさげて無表情で赤松を見ている。
「ヒサシさんが《マシンガンのマーダー》だったんですか・・・」
ヒサシは答えない、無言のまま踵を返すとそのまま歩いていった。赤松は心の中でガッツポーズをする。あの様子ならヒサシは大城の存在に気づいていないようだ。だったら・・・
「絶対、恒人君のとこまで辿り着けよ」


大城は林の中を疾走していた、此処を抜ければ目指す集落に辿り着く。襲撃者が追ってくる気配はない、心の底から赤松に感謝しながら大城は走った。
もう集落は目と鼻の先だ。
《マシンガンのマーダー》から逃げ切ったということ、そして目的地が近いということ、確かに油断していた。簡易レーダーを確認していなかった。
「そんなに急いで何処に行くの?」
その声のかけかたもあまりに普通の調子だったので大城は立ち止まってふり返った。
「すぐ近くでマシンガンの音がしたけど、君、逃げてきたんだ、健脚、健脚」
「あ・・・イノランさん」
「はい、イノランさんです」
木にもたれかかったままイノランは微笑んだ。
「此処からは離れたほうが・・・マシンガンを持ってる人が近くに・・・」
何故、この人はこんなに余裕なのだろうとまずそこが引っかかった。
スギゾウや真矢がゲームオーバーになっているのだから『先輩だから安全』などということはないのに。
「え〜と、Dの大城君であってるよね」
「・・・はい」
「涙沙君を知らない?探してるんだけど」
「るいちゃんがなにか・・・?」
何故、イノランが涙沙を探す必要があるのだ。大城はそっとコルト・パイソンの引き金に指をかけた。
「るいちゃんか、良いなぁその呼び方、可愛い。俺も勝手にそう呼ばせてもらおう。っていうかバカな質問したかなぁ、ゲームオーバーになってないかぎり君がるいちゃんの居所知ってるならそもそも一緒に行動してるよね、メンバーなんだから。偶々誰から情報仕入れてこれから向かう途中って言うなら話は別だけどさ」
もの凄く際どいところにボールを投げられた。危ない、暗がりでなかったら読まれてしまうくらいには顔が引きつってしまった。
「さすがにそんな都合の良いことはないですよ。で、るいちゃんがなにかしましたか?」
「大城君ってさぁ・・・ミステリは読む?」
「まぁ多少は読みますけど・・・」
「あれのクローズド・サークルとかでさ、イレギュラーな人間が殺されることってあるじゃない。犯人の復讐の対象じゃない人間が殺されること、その理由はなにかな?」
「ええ?クイズですか、これ。え〜それはたいてい、犯人にとって都合の悪いものを見たとか、真相に近づきすぎたと・・・」
冷や汗が吹き出た。コルト・パイソンをイノランに向ける。
「ありゃ、ヒント出し過ぎたかぁ・・・でも頭良いでしょ、君」
「ダメですよ・・・それはさせません、いくら《ごっこ遊び》でもそれを聞いて見過ごせませんよ!」
「君のとこは本当にメンバー思いだよね、羨ましいな」
もう間違いない、イノランは《マーダー》だ。その上、涙沙を狙っていて、この近くには恒人もいる。大城は迷うことなく引き金をひいた。
乾いた銃声が鳴る。イノランはくるりと木の裏に回り込んでそれをかわした。そして次に出てきた時、イノランはミニウージーを持っていた、木の後ろに隠していたらしい。
−マシンガン・・・!?
いや、二丁ぐらい配布されていたとしても驚くほどのことではないけれど、どうする?下手に集落と反対方向に逃げたらあやしまれてしまう。
赤松はゲームオーバー覚悟で自分を逃がしてくれた、大城が恒人と会えるようにと。
ならば今、優先すべきなのは・・・
ぱららららららっという銃声を聞きながら大城は後ろにひっくり返った、受け身をとる形で転がる、避けるためではない、目的は別にある。
地面に着く時を狙って大城は手頃な石に左手に持っていた簡易レーダーを叩きつけた。
液晶画面が割れる、光が消える。
イノランはそんな大城の行動に怪訝そうに首を傾げた。
胸のランプは点滅中だ、まだやれる。大城は再びコルト・パイソンの引き金をひいた。
残り5発、立て続けに撃つ。さすがに慌てたように木の後ろに隠れたイノランの胸のランプから当たり判定を示す電子音が聞こえる。
大城のランプは既に判定を弾きだしており《紫》が点灯していたが、大城が動く前に、イノランが腕だけ出してマシンガンの撃った。
レーザーポインターの明かりが眩しい。
今度は短い点滅の後、《赤》が点灯した。
「・・・ゲームオーバーです、イノランさん」
「うに、大城君にお腹撃たれた〜《重傷判定》だ〜」
先程までの妙に冷えた雰囲気はどこへやら気の抜けた声を出してイノランは木の陰から出てきた。
「まぁいいけど、《回復アイテム》腐るほど持ってるし・・・」
「あの、もしかしてですけど・・・診療所を爆破したのって?」
《回復アイテム》を大量所持しているということからそれが思い当たり聞いてみるとイノランは複雑そうな顔で大城を見た。
「まぁね・・・もう《死亡判定》喰らってるんだら誰にも言わないでよ。で、直前で壊したコレはなんだ?」
もううんともすんとも言わない簡易レーダーを手にイノランは大城のディバックを漁って説明書を取り出す。
「あ〜《簡易レーダー》ね。俺がるいちゃん探してるとか言ったから壊しちゃったのかぁ。ちょっと喋りすぎか?キャラ設定変更しようかな・・・」
《死亡判定》を喰らっているのをいいことに大城は答えなかった。
「・・・談合はしたものの、近いエリアに《マシンガンのマーダー》が固まってるのもなんだよねぇ、さっさと行くか、なんか君らと食べ合わせ悪いかもって感じだし」
イノランは簡易レーダーを放り出し、コルト・パイソンを手にとって歩き出した。恒人がいるはずの集落とは反対方向へ。その姿が完全に見えなくなってから大城は大きく息を吐いてうずくまった。
「と・・・とりあえずやった、かな?」
もし簡易レーダーがイノランの手に渡っていたら、集落に隠れている恒人を見つけるのは容易かっただろう、だからとっさに壊した。あやしまれはしないかと内心冷や冷やしていたのだが直前に涙沙の話をしていたことが幸運に働いた。いや、涙沙を狙っているイノランを倒せなかったのだから全部上手くいったわけではないが、当面の危機は去った。大城はゲームオーバーになってしまったけれど恒人は守れたのだ。
「これをツネが知ったら良いリアクションしてくれそうだ」
怒るか、照れるか、喜ぶか、拗ねるか、どうくるかなと考えたら少しだけ楽しかった。
「浅葱君、あとは頼んだよ・・・」



イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60、コルト・パイソン
【所属】なし
【状態】黄色(重傷判定)
【行動方針】マーダー、闇に乗じて他の参加者を襲う、涙沙を優先的に倒す、タクヤを捕まえて事情を聞く
【特性】危険乱数
(《回復アイテム》を大量所持しています)

ヒサシ
【武器】イングラムM10
【所属】GLAY
【状態】青
【行動方針】無差別マーダー、メンバーと合流
【特性】?

【赤松芳朋 ソフィア ゲームオーバー】
【大城 D ゲームオーバー】

【残り35人】



大城とイノランの戦いが集落Cの近くで行われたことは即ち、彼等の耳にも間近でマシンガンの音が聞こえたことになる。
恒人は今、シドの明希とゆうや、メリーのネロ、そしてユウナと《マーダーキラーチーム》を結成している。だからマシンガンの音を聞いてすぐに彼等は潜んでいた民家を出ていた。
ネコパンチバズを持ったネロを先頭に5人は林の中を注意深く進んでいく。
「そこにいるのは誰ですか?」というネロの問いに大城が答える前に恒人が「大城さん!?」と声を上げて駆け寄ってきた、シルエットで分かったのだろう。
「ツネちゃん・・・やっぱりそこにいたんだ・・・」
「え?・・・俺を探しに来たんで・・・あ・・・」
既にゲームオーバーになっている大城からは聞けないということに思い当たり、かといって他に言葉も出てこなかったので恒人はしゃがんで視線を合わせた。
なんだろう、この気まずさは。Dリズム隊が無言になってしまったため、他の4人も口を挟めずに黙っていた。
大城は手を伸ばして軽く恒人の頬に触れる。
「ごめん、ゲームオーバーになっちゃった」
「・・・はい」
これが英蔵相手だったら「見れば分かりますよ!」とか言うのだろうけれど、恒人は素直に頷いた。
「《死因》はたぶん言うまでもないよね?」
「・・・・・・・・・はい」
「怒ってるの?」
「怒る理由がありませんよ。大城さん・・・手、怪我してる・・・」
頬にそえられた手を取って恒人が呟くように言う。
「あ、そういえば痛いかも」
見ると人差し指の爪が割れて血が滲んでいた、簡易レーダーを破壊した時に爪まで一緒にたたき割ってしまったらしい。
「そういえばってなんですか、もう!」
少しだけ笑って恒人は私物用の鞄から絆創膏を取り出した。
「なんでそんなの持ってるの?俺のには入ってなかったけど・・・」
「いつも持ち歩いてるんでついでに入れておいてくれたみたいです。手、出して下さいよ」
「・・・自分でやるから大丈夫」
ギャラリーがいるなかでさすがにそれは恥ずかしいと大城は慌てて手を振った。
いや、別に普段もやってもらっているわけではないが。
「しかしまた・・・ずいぶんとファンシーな絆創膏だね・・・」
リラックスしすぎなクマさんの絆創膏を見て大城が苦笑すると、今度は恒人が慌てて手を振る。
「いや、浅葱さんから頂いたんです!それ!」
「ああ、納得」
恒人に懐中電灯を照らしてもらって絆創膏をまきながら、こちらから聞くのは構わないだろうと判断して大城は口を開く。
「また、大勢で行動してるみたいだけど?・・・あ!すいません挨拶が遅れまして、Dの大城です」
頭を下げる大城に他の4人も凍結魔法が解けたように動き出し、挨拶を返した。
「ユウナです」
「メリーのネロです」
「シドの明希です」
「シドのバチカン宮で・・・」
空気を読まずに放たれたゆうやのボケは明希の脛蹴りで封殺された。どちらかというとゆうやは空気が読めるタイプなのに珍しい、もしかするとこのなんともいえない恥ずかしさが漂う雰囲気に耐えられなかったのかもしれない。
「俺達はマシ・・「たまたま一緒になったんです!」
説明しようとしたネロを遮って恒人が言う。
「ん、そうか」
「ああ、もう行きますね、行きましょう皆さん」
恒人の気迫に押されてわけが分からないまま他の4人は歩き出す。
「ツネ、気をつけてね」
「・・・はい」

林を出るとバスの停留所があり、そこから200メートルばかりいったところで赤松も同様に《マシンガンのマーダー》によってゲームオーバーとなっていることを5人は確認した。
聞き出せる情報は《死因》のみであるため《マシンガンのマーダー》が二人に増えていることには気づけなかったが。赤松が恒人を見て妙に嬉しそうにしたと思ったら、大城のゲームオーバーを伝えるととたんに落ち込んでしまったので、一緒に行動していたのかな?という予想ぐらいはついた。
「ね〜恒人君」
「なんでしょうか?」
ぺた〜っと寄ってきた明希に恒人は少し首を傾げて見返す。
「なんで大城さんに言わなかったの?《マシンガンのマーダー》倒すために動いてるって」
「ああ、下手に心配かけるのもよくないかと思ったんで」
「ん〜、そんなもんかぁ、心配かぁ・・・」
「どちらにせよ俺にも《マシンガンのマーダー》を倒す理由ができましたからね」
「あ、そっか。そうだよね」
さりげなく女形好きのバンギャが見たら失神しそうな光景になっていた。
「う〜ん、にゃんにゃんですねっ!!」
何を納得したのか頷いているゆうやをネロが軽く小突く。
「ゆうや、うるさいっての・・・しかし、もう遠くに行っちまったみたいだな、《マシンガンのマーダー》は」
「夜明けだね・・・」
ユウナが呟いた。
民家を出てから初めて喋ったな、とネロが視線をやるとユウナは微笑んで空を見上げた。
「何人がゲームオーバーになったのかな・・・」
「早い時間になった人はついてないですよねぇ、一晩中動けないんですもん!」
明け方でも、いや明け方だからかゆうやは相変わらずハイテンションだった。
5人は徐々に明るくなる空をしばらくの間、見上げていた。


明希
【武器】匕首
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】?

ゆうや
【武器】コルト・ウッズマン、新体操のリボン
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】タミフル

ネロ
【武器】ネコパンチバズ
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】《マーダー》を倒す。
【特性】全身全霊
(現時点ではこのパーティのリーダーである)

ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ネロ達につき合って《マーダー》を倒す。
【特性】??
(スギゾウを攻撃したことは告げていない)

恒人
【武器】ジェリコ914
【所属】D
【状態】青
【行動方針】大城の仇を討つ、メンバーと合流するまでネロ達と行動
【特性】ツンデレちゃん



「松ちゃん、えらい慌てて行きましたねぇ」
「暗いうちは怖くて用足しにいけなかったなんて・・・俺か都君誘えば良かったのに」
「ええ!?この状況で連れションってキツくないっすか?」
「ふふ、確かに」
太陽は昇りきっていないが白んだ空はもう充分明るい。都とリュウイチは松岡が戻ってきたら行動を開始しようと話していた。
「できれば他のメンバーと会えると助かるんですけどねぇ、マシンガンのヤツには会いたくないし」
「そんなに都合良くいかないよ、漫画じゃないんだから。あ、都君、《防弾チョッキ》もう一回見せてくれる?」
「ああ、どうぞ、どうぞ」
いつもの人の良い笑顔で言うリュウイチに都はランプ裏に差し込まれたSDカードを取り出して渡す。
「3日徹夜はさすがにキツイから眠れてよかったよ、あと二日間ぐらいなら眠らなくても大丈夫だし、本当に君らと会えてよかった・・・」
リュウイチの物言いに引っかかりを覚えたが、どこがおかしいのかまでは分からずに、都はリュウイチを見る。
「正直こういうのって俺の役目じゃあない気がするんだけど、まあたまには乗ってみるのも悪くないかな、いや、むしろキャラ的には向いてるのかな?イノランちゃんに比べれば俺なんて単純な方だと思うけど、どうもウチのメンバーはみんな極端だったからなぁ。そんなことを言うとてめぇもだ!って怒られるんだけど・・・」
おかしい、おかしいけれどリュウイチはこういった分かり難い言い回しをすることが多いのでそれに誤魔化され、都はただ黙ってリュウイチを見ていた。
「ほら、やっぱりキャラじゃない・・・ん?向いているのかな・・・」
ふっとリュウイチは微笑んだ。《防弾チョッキ》性能のSDカードを持ったまま、顔を上げて都と視線を合わせる。
「心ない、思ってもいない、忠告を一つ。《他人を信じてはいけません》」
リュウイチはそう言いながら流れるような動作で腰のデザートイーグルを抜くと、都に向けて引き金をひいた。特大の銃声の後、驚いて目を見開く都の胸のランプが点滅し、すぐに《赤》をたたき出した。
「・・・え?なんで!?」
「さすが50口径、一発か。近距離だったっていうのもあるんだろうけど」
いつもの爽やかな口調でそんなことを言いながら、リュウイチはデザートイーグルを見つめる。
「しかし反動も手応えもないっていうのは味気ないね、まぁ余計なオプションだけどさ、使いにくくなるし・・・」
似たようなことを言う辺り、やはりイノランとは元メンバーだった。
「あのお・・・すんません、俺はなんで撃たれたんでしょうか?」
まだ唖然とした様子の都にリュウイチはさらりと言った。
「それは秘密」
「何があったんですか!?」
銃声を聞いて駆け戻ってきた松岡は、状況が飲み込めず、一時停止ボタンでも押されたかのように固まった。
ゲームオーバーになっている都とその前で微笑みを浮かべ、自分に銃を向けている先輩。
「《バイバイ、充》」
「・・・ああ、そうか。そうきましたか・・・あはははははははっ!」
それでもやはり都よりリュウイチと親密な付き合いをしているだけのことはあった、演技じみたリュウイチの言葉を受け、即座に踵を返すと全力で逃走した。

白んだ空に再び銃声が響いた。立て続けに三発。

「あ〜あ。やられてもうた」
完全に登り切った太陽に目を細めながら松岡はどこか楽しそうに言った。確かに優勝はしたかったけれど、とくに交流もない相手と戦って気まずくなるよりは、親しい先輩であるリュウイチにゲームオーバーにされたほうがずっと良い。
「ポジティヴやなぁ、俺・・・まぁ黒ちゃんに期待するか」
どうせもうすぐ第三回放送だ、あとは廃校に戻ってゆっくり《ごっこ遊び》の様子を見させてもらおう。
「しかしまぁ・・・何年付き合っても変な人やなぁ」
そう言って松岡は軽快な笑い声を上げた。

松岡充
【武器】神操機(ハズレ)
【所属】ソフィア
【状態】赤(ゲームオーバー)
【行動方針】次の放送がありしだい廃校に戻る
【特性】?

都啓一
【武器】なし
【所属】ソフィア
【状態】赤(ゲームオーバー)
【行動方針】次の放送がありしだい廃校に戻る
【特性】?

リュウイチ
【武器】デザートイーグル、防弾チョッキ
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ステルスマーダー?
【特性】?

【都啓一 ソフィア ゲームオーバー】
【松岡充 ソフィア ゲームオーバー】
(神繰機は松岡のディバッグの中にあります)

【残り33人】


午前6時、急に指向が変わり、ジムノペティの音楽に乗せて第三回放送は始まった。なんでいきなり映画なぞるんだよ!?とツッコミ属性のある人間は心の中で叫んだ。
『参加者のみなさん、暗い中お疲れさま!ヒデちゃんだよ〜!それではこれまでにゲームオーバーになった人を読み上げます。名簿順!ガゼットの葵君、ソフィアの赤松君、ガゼットの麗君、ラルクのケン君、メリーのテツ君、Dの大城君、ソフィアの松岡君、同じくソフィアの都君、メリーの結生君、ラルクのユキヒロ君、以上です。だんだんカオスになってきてるのが良く分かる一晩でした、まぁ俺、けっこう寝たけどね!!さぁ《ごっご遊び》も二日目です!全員怪我のないように、楽しくプレイして下さい!!それで〜ちょとばかりやりすぎたかな〜っていうか武器のバランス!?一部変なもん入れちゃったけど・・・まあ頑張って!!ヒデちゃんでした!!・・・あ!ごめん忘れるとこだった!禁止エリア発表しま〜す!ごめん、朝弱くてさぁ・・・』
無事、禁止エリアの発表を終えてツッコミどころ満載の放送は終了した。

- 6 -

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