ドウタヌキ?


僕等の壊した世界・緑


−世界は誰かの了解の元に形成されている


「デザートに杏仁豆腐・・・と言った時点でだろうな、とは思っていたんっすけど、やっぱラーメン屋ですか」
「え!?ラーメン嫌だった!?」
「いやじゃないですよ〜」
都内某ラーメン屋にて英蔵と恒人が向かい合っていた。
「よかったぁ。考えてみたらなに食べたいとか聞かずに連れて来ちゃったからさ」
「って英蔵さんはいつもラーメン屋じゃないっすか。俺らラーメン屋とドンキばっか行ってますよ・・・」
高校生のヤンキーカップルか、君らは。
「あれ!?なんかまた失礼なこと言われた気がする・・・」
「ひでぞーさんだいじょーぶ!?」
「俺は大丈夫だっての!そういやツネ、奢るんだから猫語やめてよ」
「言われなくても公共の場でやるわけないじゃないですか、俺がバカだと思われちゃうし!でもアイスは奢って下さいよ、ドルチェ全種類お願いします」
「そんなに食べたらお腹壊すよ〜!!」
「アイスは別腹です。しかし英蔵兄貴、俺はともかく意中の女子ができた時はラーメン屋にばかり連れてきてはダメですよ」
「え!?なんで!?」
「ダメだこいつ早くなんとかしないとっ!・・・・・・って台詞は乱用されすぎていてもはや元ネタは『DEATH NOTE』で夜神月が第二のキラに対して言った言葉だってことが忘れられがちですよね〜」
「ん?うん、だよね」
思いっきり馬鹿にされたというのにその後の台詞に誤魔化されて頷いてしまう英蔵は心底人が良い。
「あ、店員さん!オレらこの二人と知り合いだから相席良いっすか!!会計は別でお願いします!」
すぐ隣で聞き慣れた声がしたので顔を上げると、マオとゆうやが立っていた。
「ちーっす」
眠いのか怠そうに言うマオに恒人と英蔵も頭を下げる。
「てか悪いね、確認もとらずに相席にしちゃって、ウチの連中は我が儘だから」
淡々と言うマオにゆうやが「マオ君にだけは我が儘とか言われたくない」と不満をこぼす。
「いえいえ、4人席に二人で座っているというのも心苦しいものでしたからかまいませんよ」
はきはきと言う恒人にマオは猫っぽい顔を緩めた。
「んん〜!いいな〜しゃっきりしっかりすっきり後輩!」
「しかしすごい偶然だねぇ」
英蔵は感心した様子。まあ英蔵とゆうや、ラーメン大好きという共通点があるので確率的にゼロではなかろうが。
家系が好きとかよく分からないんで解説はすっとばさしてもらうけれど。
やや狭いラーメン屋の4人席にマオとゆうやも腰掛ける。ゆうやが無駄にでかいので隣に座ることになった恒人は少し窮屈そうだった。
「あ、てか恒人君携帯番号教えて、赤外線できる?」
「はい、できますよ〜」
「英蔵さんも携帯番号教えて下さい」
「口頭でいい?俺、赤外線とか分からなくて」
「じゃあ聞いてからワン切りするんで、登録して下さい」
「うん、それならできる」
などとなんとも現代人っぽいやりとりの後、無事番号交換が終わった。
そしてラーメンフリーク二名によるトッピングはどうだサイドメニューはどうだというやりとりも終わり、注文も済んだところでようやく一息。
「で、今日はいよいよ六日目なんだけどさ、なんか対策とかある?」
マオの言葉に恒人は首を傾げる。
「対策と言われても・・・今日がどんな状況になるのかは分からないし、問題は七日目ですよね」
「昨日氷漬けになりかけたのは地味にやばかったけどね」
半笑いで言うゆうやに同じく英蔵も半笑いで頷く。
「しかしあの拷問部屋は虚仮威しだったのか、用心深く探せばちゃんと井戸から上がれる道具があったのかが微妙なところです」
「あ、そっか。椅子系の物積み上げるとか」
ゆうやがぱんっと手を叩くと英蔵も連鎖するように手を叩いた。
「それたぶん・・・あれだよ、天井にかぎ爪付のロープがぶら下がってたからあれ使ったらよかったんじゃないかな!?」
「なんで今、言うんですか?」
恒人に冷ややかに刺され、「だって気づかなかったんだよぉ」ともそもそ言いながら英蔵は俯いてしまった。
「まあしょうがないっすよ!拷問具なんてまじまじと見るもんじゃありませんからっ!俺なんか怖くてずーっと下向いてたし!」
ゆうやが明るく励ます。周囲に押されがちだが、彼もかなりできた人間である。
「となると、やっぱり昨日恒人君が提案した手法は正規ではなかったってことか」
マオはきゅっと猫口になって恒人を見る。
「裏技、チートみたいなものでしょうかね、それも『誰でもできる』というものでもないみたいですし」
そこでセットのライスが出てきたので備え付けの漬物なんぞを回しつつ会話中断。
ラーメン屋というのは話し込むのに向いていない。
「ああそういえば、ユッケさんから連絡があってね。ミヤさんが調べたとこ『リジーの部屋』の怪談は日本国内でしか噂されてないみたいよ」
マオの報告に英蔵が首を傾げた。
「元ネタがアメリカなのに?」
「えっと、あの自虐亭さんの言うところ『悪意の集合体』なんですよね、でも国内限定」
唇を撫でて考え込む恒人の隣で、でかい身体を縮めたゆうやが笑う。
「ねえ、案外さあ・・・ネット上にある『リジーの部屋』の噂が無くなったら『リジーの部屋』自体が消滅しちゃったりして」
沈黙が訪れたテーブルにタイミング良くラーメンが運ばれてくる。
「まっさかねぇ!?」
「そーだよ、ゆうや!そんな簡単な話なわけないだろ」
割り箸でゆうやを叩くフリをするマオに英蔵が引きつった顔で言う。
「いやいや、それって難易度高くない?だって流布してる噂を消滅させるなんてマネ・・・方法がまずないよ」
恒人も困惑した様子だった。
「それに、だとしたらですよ。俺達とんでもないミスをしてます」
「ミスってなん?」
ラーメンを食べ始めているマオが視線だけ上げて問う。
「『リジーの部屋』について、マオさんはピグで聞いて、ミヤさんは掲示板にスレッド立てて、ユッケさんはブログに書いているんですよ・・・噂はさらに強化されて広まっているはずです」
「「「あ!!!」」」


「悪くない、と思う。そしてとても悪い」
マオからの連絡を受け、ミヤはそんな哲学的な言い回しで眼を擦った。あまり寝ていないのか鬼目半減。
「そーいう可能性もあるってこと?」
不安そうに言うユッケにミヤが頷いて、ノートパソコンを広げる。
「『悪意の集合体』なんだろ?悪意の巣窟がネット上で、噂があの空間を形成したのなら、ありえない話じゃないと思うぞ」
「・・・どうすんの!?」
「どうしようもない、今日は六日目だ。あと一日半でネットに流布してる噂の鎮火なんて無理だろう、クラッキングの技術でもあれば話は別だが」
起動したノートパソコンに視線をやったままミヤが力強く言う。
「ユッケ、自虐亭のアドレスよこせ。今度は俺が話す」

自虐亭からメールでまた別のアドレスが送られてきてチャットルームへと入った、細かな事情を説明したため今回、パスワードはなかった。

自虐亭>正直驚いているよ、専門家でもない人間がそこまで行きつくなんて、ありえない発想力だね。

M>アンタは専門家なんだろう?何故『リジーの部屋』を放置しているんだ?

自虐亭>専門家ではある、生霊、広義でこういった現象も確かに専門だ。しかし噂の火消しなんてできないんだよ、僕はクラッカーでもハッカーでもない。一応はやってはみた、以前はもっと『リジーの部屋』の『中身』が噂されていたんだ。それは実際の『リジーの部屋』に反映されていった、一時期は最初のトラップすら到底突破できないような状況に陥ったんだ。だから僕は『リジーの部屋の噂をすること自体が非常に危険』という噂を流した。

M>そしてそれは達成された。

自虐亭>その通りだよ、さすがだね。だから今は最低限のルールを残せばかなり安全な空間になってはいるんだ、カオスにはなったようけどね、例えるならばバグだらけのゲームのようなものだ。

M>その例えには賛成だ。で、そのルールとやらを教えてほしいんだが。

自虐亭>今日を、六日目を無事クリアしたらお伝えしようじゃないか、心構えの問題もあるだろうから。

M>分かった、では明日連絡する。

自虐亭>GOOD LUCK

ノートパソコンを閉じたミヤにユッケが「どうするの?」と心配そうに声をかけた。
ミヤはへにゃりと笑って言う。
「今夜もいつもどおりに、と連絡を回しておいてくれ」



六日目、夢の中。
「喪服だよっ!ちょー久しぶりっ!」
いきなりハイテンションの明希がヒラヒラの上着を振って、ホットパンツから見える太腿をばしばし叩いた。
「・・・いつかは来るかと思ってたけど」
「最終日じゃないだけマシか?」
逆にしんぢとゆうやはテンションが低い。若干の照れがあるらしい。
そしてDは『Schwarzschild』だ。
「露出度すごーーーーっ!かっけーーーー!」
ユッケが感嘆の声を上げる。ボンテージっぽい作りの衣装は全員かなり露出度が高い、いっそ脱げば?ってぐらいだ。
「てか恒人君、それだと胸あるみたいに見えるね」
マオに言われて恒人が苦笑する。
「よく言われるんですよね。でも残念ながら男子なのでありません、なんなら触って確かめてみますか?」
「え、いいの?じゃあ遠慮なく」
前に出かけたしんぢの腹にマオと明希から肘鉄が飛ぶ。
「オマエが言うとシャレにならんわっ!」
「変態っぽいからやめろっ!」
そしてムックは『リブラ』だった。
「逹瑯さんってやっぱそういうカッコするとすげぇカッコイイです!」
「それ褒めてるつもりか、この脳みそ花畑牧場!」
「うあ!生キャラメルは作ってませんよ〜」
逹瑯が明希の後頭部を殴りながら口を尖らせる。通称『黒たた』と呼ばれる夢烏の間でも人気の衣装は確かに文句なしに格好良かった。
「あ、そうだ。逹瑯さん!」
恒人がとととっと逹瑯に寄ってきて言う。
「『東京特許許可局長今日急遽休暇許可拒否』・・・言えるようになりましたよっ!」
会心の笑みで胸を張る恒人をしばしぽかんと眺めてから逹瑯はユッケに縋りついた。
「萌えてなんかないっ!断じて萌えてないっ!どーでもいいとこに真面目さ発揮して、案外負けず嫌い!?的な一面見せて、それを嬉しそうに言ってくるツンデレ後輩に萌えてなんかないんだっっっ!!」
「たつぅ・・・落ちついて・・・」
「いや、今のは可愛かったですよ」
あくまで爽やかに浅葱が言ったので、場の温度が少し下がる。
「しかし涙沙君と恒人君、すごい衣装だな。仮にウチの方向性が違っていたとしても似合うヤツがいないから無理だろうなぁ・・・」
ミヤは感心した様子でDの女形二名を見る。
「どうせなら良い衣装着たいしな〜やっぱ俺似合うし〜」
「別段自分を可愛いとは思っていませんけど、やはり似合うって意識がないとできない恰好ではありますね。この前なっちゃた通りその昔はロリータでしたし、俺は」
「だよねぇ〜」
久々の女形衣装に身を包んだ明希もテンション高く言ってそれからマオを見た。
「まあマオ君はキモイって言われてもロリータ着てたけどさ〜」
「明希しこ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
マオが羅刹の如き形相で明希の首を絞めるのをゆうやが慌てて引きはがした。
「なんかやっぱりどうやってもコントになっちゃうよねぇ」
ユッケが傍観気味に呟くと大城が明るく言った。
「もういっそ上から金ダライが降ってこないのが不思議なぐらいだな」
「俺、『8時だョ!全員集合』見たことないですねぇ・・・」
最年少である恒人の言葉にオーバー30が皆一時停止。
「俺もないけどDVDで見た!」
「俺は見たことない・・・」
ゆうやと明希も続いて言う。恒人に至っては生まれたのと番組終了がほぼ同じだからそうだろう。
「・・・金ダライ、か。降ってこないかな」
とミヤが顔を上げた瞬間、派手な金属音と殴打音を響かせて本当に金ダライが降ってきた、逹瑯の頭に。
「ぎゃ〜〜〜〜〜っ!!!痛いっ!!!思ったより痛いっっっ!!!」
シルクハットを吹っ飛ばして見事に逹瑯の脳天を殴打した金ダライはそのまま床へと落下する。
「あ、悪い。降ってくるところをイメージしてみたら本当に降ってきちまった」
「あんま悪いと思ってなくね!?てかそんな適当な理由で俺はこんな目に合ってんのっ!?」
「しかしこれで明確にイメージすればこの空間では多少自由が利くことが分かりましたね」
浅葱は真顔で頷いている。
「あのスイマセン!ある意味俺、身体を張ってボケたと思うんで、なにか一言!」
「そうだな、しかしイメージしたらし続けないと形は保たれないらしい」
「なんか言えっての!!」
喚く逹瑯を無視してミヤが床を指さす。金ダライは消えていた。
「ミヤ先輩!俺にも金ダライ落として下さいよ!すげぇ気持ちよさそう!」
明希に詰め寄られてミヤ、ちょっとひいた顔。
「明希しこ黙れ!口の上下に穴あけてピアスで固定してやろうか!」
「やってくれるの!?」
マオの脅しにむしろ喜ぶ明希の肩をゆうやが掴んだ。
「やらないで!変態バンドだと思われるっ!」
「つーかアレだなやっぱピアスたくさん空けてるヤツはマゾだべ」
金ダライで強打した頭をさすりながら言うと恒人が首を振った。
「いえ、そんなことはないと思いますけど・・・」
逹瑯はにまっと笑ってピアスをじゃらじゃら下げた恒人の耳を見る。
「え〜恒人君マゾじゃないの〜!」
「ユッケさんと同じ事聞かないでくださいよ、違います。だいたいその理屈で言ったら菩薩様はみんなマゾですよ」
「ツネ、そのボケは斬新すぎて誰にも通じないわ・・・」
だめだめとばかりに首を振る涙沙の横で浅葱が笑って言った。
「そうだよ、あれは耳朶環状だから最初から穴があいてるんだもの」
「そのフォローはマニアックすぎてますます通じんわっ!」
涙沙、力一杯浅葱にツッコミを入れた。
「『聖☆おにいさん』に出てくるネタを全部理解した上で笑える人間にしか分からないぞ、それ」
ミヤも淡々と言った。その台詞もマニアックな部類に入るだろうが・・・
意味分かりませんという人は『三十二相八十種好』でグーグルさんに聞いてみてください。かなり笑えます、笑うのは不敬なの承知で。
「ねーねーねー!恒人君さぁ、金ダライで打った頭が痛いんだけど、コブできてないか見てよ、ウチのメンバー誰も心配してくれねぇんだもん」
衣装が格好良くても中身は逹瑯だった。へばりついてくる逹瑯を見て恒人は悪戯っぽく笑う。
「手遅れです、金ダライで打つ前に言って下さい」
「手遅れ医者かっ!!」
「ああ、失礼しました。生まれる前に来て下さい、手遅れです」
「なにが手遅れなんだよ?」
「頭の中身がですね〜!」
「このやろ〜!・・・ああいいなぁ!ちゃんとツッコミのことまで考えてボケてくれる子っ!」
謎の友情が成立していた。
「ちょ、恒人君!ダメだよこんな阿呆と仲良くなったら!ってゆーかウザかったら殴ってもいいからね!」
何故かそこに慌てて割ってはいるユッケ。
「いや、別にウザくもなんともないですけど・・・」
「たつぅをウザく思わないなんてどれだけ人間できてんの!?ってゆーかなにすれば怒るの恒人君は!」
「俺あんまり腹立たないんですよね、素麺食べてるときにサナダムシの話されても怒りませんよ」
「いや、それは心が広いのか神経が図太いのか微妙なラインじゃねぇ?」
「両方ですよ。う〜ん・・・そうですね、例えば『シックスセンス』のDVDを貸してくれつつ『ブールス・ウィリス、実は死んでて幽霊なんだぜ』と言われたら若干イラっとしますけど」
「ってオマエが今ネタバレしてるだろーが!」
逹瑯がノリノリで突っ込んだ。水を得た魚のようだ。
「うわー俺、それやられたら確実に相手殴るよ!!」
「あっきー、空気読もうか・・・コント中だよ・・・」
「もう一回ぐらい金ダライ落としてやればいいのに」
マオが物騒な声音で言った。
「そういえばミヤさん」
そんな目の前で展開されているコントを無視して浅葱がミヤに問いかけた。
「あの懐中時計ってまだ持っていますか?」
「ああ、これ?持ってるけど・・・」
ミヤがポケットから金の懐中時計を取り出す。
「今は午前4時少し前だな」
「制限時間とかないんですかね、こちらの世界ではこちらの時間が流れているわけですから」
浅葱の言葉に一同オールフリーズ。
そして一斉に騒ぎ出した。
「ええ!?そんなルールあり!?」
「あるとしたら夜明けまでとかだよな!」
「コントしてる場合じゃなかった!」
「・・・余裕ありすぎるんだよ、みんな」
ぎゃあぎゃあ喚きながら目の前の扉を開けると再び館の中へと駆け込んだ。


ドアを開けると短い廊下、そこを抜けると広い部屋に出た、完全に造りが狂っており、二階へ上がる螺旋階段が見える。
床には赤い絨毯が敷かれていて、西洋甲冑が5体並べてあった。
「どりゃああああああ!!!!」
サトチがいきなり奇声を上げ、西洋甲冑を蹴り飛ばす。ドミノ倒しでがらがらと崩れていく甲冑を唖然と他の面々が見ていると、サトチは輝かしい笑顔でミヤに近寄っていった。
「ぐっちゃ!あれ動くといけないから先に壊しておいたべっっ!!」
「そうだなヤス、ありがと」
ミヤに褒められ、誇らしげに胸を張るサトチに明希がのほほんと言う。
「サトチさんって何かににてるなぁって思ったらあれだね、ほら、旅犬のラブラドールレトリバー!」
「明希、それはみんな分かってて黙ってることだから」
しんぢが胡散臭いスマイルで明希の肩を叩いた。
「確かに今までのパターンからいくと動く可能性が高いですからね、素晴らしい判断能力です」
真顔で褒める浅葱をチラ見して、逹瑯は並んでいた涙沙と恒人に後ろからのしかかるようにして言う。
「ね〜、あの方、天然だよね。判断に困らない?」
「なにがやねん」
涙沙に言われ逹瑯は口を尖らせた。
「だからさ、天然で言ったのか、冗談で言ったのかどっちだろ?ってさぁ」
「ああ、それならご心配には及びませんし、逹瑯さんでもすぐに判断ができることですよ」
恒人が苦笑気味に言った。
「浅葱さん、冗談を言われた後は必ず照れ笑いをしますから。そこが判断基準です」
「あ、そやな、確かに・・・」
「はい、そこっ!無駄話しとんじゃなかっ!あ、してないでくださいよ!」
マオのよく通る声で言われ、3人は視線をそちらに向ける。
がっしゃがっしゃと派手な音を立てて、ミヤと大城が崩れた甲冑をあさっていた。
どうやら甲冑が持っていた武器を回収しているらしい。
「剣道有段者挙手!」
ミヤの号令に「うぁう!?はいっ!」と英蔵が妙な動きで手を挙げて、Dのメンバーが吹き出した。
「は〜い」と大城も手を挙げる。
「西洋剣だから勝手は違うかもしれないが、こういうのは使えるやつが持っていたほうがいいからな」
「あれ?マオ君も剣道やっ・・・ごふっ!」
声を上げたゆうやはマオの肘鉄で沈められた。
ロングソードを装備したのは、剣道有段者の大城と英蔵。ミヤが火かき棒でいいと辞退し、サトチが素手でいいと辞退したので残り三本。
「この場合さぁ、弱い子も持ったほうがいいんじゃない?」とマオが(いけしゃあしゃあと)言って一本取り、ミヤに言われて逹瑯も持った。
残り一本。
「あっきー持てば?」
「え〜、俺はゆうやが守ってくれるじゃん」
「・・・可愛い女の子に言われたかったな、それ。じゃあ恒人君持ったら?」
と、見るからに一番華奢な恒人にゆうやが勧めた。
恒人は大城からロングソードを受け取り一言。
「お、重いっす・・・」
「普段、ベースをあれだけ華麗に扱ってるくせになにを・・・」
「使う筋肉が違うんですよ!」
英蔵に呆れられ、恒人が少し拗ねたように言った。
「気合いで動いてるタイプなんだねぇ・・・」
しんぢが遠い目で言った。「気合いで動ける!」はV系の(ある意味)基本理念だ。
結局、涙沙がロングソードを持ち、そこしか行くところがないので螺旋階段へ向かう。
黙っていると不安になるのか、誰も聞いていないのに逹瑯がしゃべり出した。
「あんねー、俺がいかにリーダーから虐げられてるかを聞いて欲しいのね」
みんなが適当に相づちを打ったのと、ミヤが特に怒っていないのを確認してから逹瑯は続ける。
「俺ね〜、プリクラ撮ったの。で、せっかくだからユッケの充電器とヤスの携帯電話に貼っておいてあげたの」
「剥がしたら罰金1万円とか言ってねぇ・・・」
「すっげぇ迷惑だった!」
ムックリズム隊が顔をしかめたがこれにはかまわず逹瑯は続ける。
「でさ、ちょっとかわゆい悪戯心でね、ミヤ君の携帯電話にも貼ったの、裏っかわね」
「どうなったんですか?」
「どうなったんです?」
生真面目な恒人と、興味が沸いたらしい明希の合いの手に満足して逹瑯はテンションを上げて話す。
「ノーリアクション!なんも言ってくれないの!でも貼りっぱなしにしてるからさ、3日後ぐらいに気になって言ったの!『ミヤ君、携帯の裏に俺のプリクラ貼ったんだけど』って!・・・そしたらミヤ君は『ああ、気づかなかった』といって表情を変えずにプリクラを剥がしてゴミ箱に捨てました・・・ひどくね!?」
「ご愁傷様やな・・・」
涙沙が憐憫の眼差しを逹瑯に向け、明希は笑い転げ、恒人は声を殺して笑っていた。
よく見ると、浅葱も肩を震わせて笑っている。
誰もミヤがひどい、とは言わなかったけれど。
「そういえば・・・俺も同じこと英蔵さんにやりました」
「ええええ!?どこに貼ったの!?」
恒人の言葉に英蔵が素っ頓狂な声を上げる。
「車の後ろのとこに。気づいてませんでしたか?」
「気づかないよ、そんなとこ!!」
「俺は気づいとったで〜」
「俺も。っていうかツネちゃんが貼った時、俺も一緒にいた」
「俺も知ってたよ」
メンバーから次々に言われ焦る英蔵に恒人は無邪気な笑顔で言った。
「剥がしたいならどうぞ!」
「・・・・・・」
この流れで剥がせるわけがない。
「いいな〜!俺もあんだけ優しくされたいです、リーダー!」
逹瑯が訴えたが前を歩くミヤはそもそも一連の会話を聞いていなかったらしくノーリアクション。むくれる逹瑯の肩をしんぢとマオが叩いた。
「本当に羨ましいと思うんですか?」
「逹瑯さんに甘いミヤさんなんてミヤさんじゃないですよ・・・」
「言われてみれば確か・・・」
逹瑯が言葉を切る、ミヤが怒っただとかいうわけではなく、後方から派手な金属音が響いたからだ。
全員が一瞬顔を見合わせ、そして振り返る。
バラバラになった西洋甲冑がうごめいて元に戻り、こちらに歩いてくるところだった。
「うきゃーーー!やっぱし!?」
明希が奇声を上げた。
「いや、なんでちょっと嬉しそうなの?」
しんぢが笑顔のまま突っ込みを入れた。
最後尾にいた大城が苦笑と失笑の間の顔で一歩前にでる。
階段を上がっている途中である、それもせいぜい二列になるのが精一杯の狭い階段。
重なるようにしてよたよたと上がってくる西洋甲冑の先頭の一体を大城は持っていたロングソードの先で突いた。
その一撃で重い西洋甲冑は後ろの四体も巻き込んで派手な音を立てて転げ落ちて、またバラバラになった。
「さ、行こうか」
「だな」
大城の声に先頭のミヤが早足で階段を駆け上がり、他の面子もそれに続いた。
本来ならばもっと早く動き出すはずだったのだろう、サトチが蹴り飛ばしたあげくに武器まで奪ってしまった上、狭い階段で襲いかかってくるはめになったトラップ。
無機物相手だが同情したくなるぐらい、怖くもなんともなかった。
階段を上がりきって扉を抜け、二階へと出る。
薄暗い廊下が長く続いていた。

「しっかしまああれだべ、いいかげん馬鹿馬鹿しくなってきちゃったんだけどさぁ。なにかこうちゃちゃ〜と裏技めいたものまた思いつかない?」
本気で飽きてきたらしい逹瑯が恒人に言う。話題を振ったというよりは「かまってくれ」アピールだった。
「いやあ、俺は十割ヤマカンで生きているような人間なので、期待されても困ります」
「十割!?全部ヤマカンじゃねぇかよ。つーか全部ヤマカンであそこまで出来たらもうヤマカンじゃねぇよ、超能力だべ!」
「いえいえ、ただのアンプサイですよ〜」
「超能力でも動物の!?つーか恒人君は本当に小狐ちゃんだったんか!!」
「正体を知られたら山に帰らなくてはいけません、残念です・・・」
「自分で言っておいてなにを!?」
漫才を始めた逹瑯と恒人に浅葱が真顔で言った。
「ええ!?そうだったの?本当に動物報恩譚が実際に!?駄目だよ帰らないでよ・・・」
「浅葱君・・・それもちろん冗談で言ってるやろ?」
涙沙が内容のわりに楽しげに言う。
「9割は冗談だと思ったよ」
「1割でも本当と思わないで・・・」
こちらは大城が半笑いで言った。
「だよね、俺さすがに小狐は助けたことないもの」
「そこじゃないよ!?」
大城、思わず浅葱にちょっぷを入れて突っ込んだ。
「相変わらず緊張感にも緊迫感にもかけますねぇ」
しんぢが爽やかスマイルを浮かべて皮肉っぽく言うと逹瑯はにんまり笑う。
「いやあ、俺は静かに暮らしたいんだけどね」
「なにを吉良吉影みたいなこと言ってんっすか?」
恒人の突っ込みが期待していたものだったらしく逹瑯は手を叩いて喜んだ。
「ちょー嬉しい!ツンデレ小狐ちゃんもっとこっちおいでよ!」
「勝手に萌えキャラっぽい愛称を定着させないで下さいよ〜!」
恒人も嬉しそうだった、その後ろで英蔵がなんとも微妙な顔をしている。
「アレ?・・・なんでかな、なんでか寂しいぞ、俺・・・」
「ツネにかまってもらえないからとちゃうの?」
「いぢられて生きるキャラだからねぇ、英ちゃんは」
涙沙と大城に言われて英蔵は納得したように頷いた、いや、納得してどうする。
「ひ、英蔵さん!俺達仲間だねっ!同じ属性だね!」
ユッケにきらっきらな笑顔で握手を求められ、英蔵も笑ってその手を取った。
ここでも妙な友情成立。
「もう逹瑯さんと恒人君で漫才コンビ組んでM1目指したらよかよ。しかしなんも出てこないね、出てこんでええんだけどさぁ」
「出てきてもなんとかなっちゃってるじゃんか〜」
気が抜けてきたらしいマオの言葉に明希も気の抜けてた声で言う。
「いや、なんでダレてんの二人とも!?」
ゆうやががなるが二人はやはり真剣さに欠けた顔で見返してため息をつく。
「でてこなきゃでてこないで飽きるんだよね、実際なんとかなってるし毎回」
なんだかんだ言って、毎回ビビっている逹瑯の言葉に恒人が頷いて笑う。
「『消去法でいけることもあるらしい』とどこかの偉い人が言ってましたしねぇ、誰だったかは忘れましたけど」
「それ・・「それは稲葉浩志さんが言ったんだよ!」
英蔵が突っ込みかけたがそれより早く逹瑯が突っ込む、早さというよりは声の大きさで打ち消された形だったが。
「偉い人で間違いはないじゃないですか〜」
「ははは!確かにね!」
「・・・・・・ひ、大城さん!」
「はい、よしよし!寂しいねぇ!」
「ツネ〜!英蔵君かまってあげて!寂しがってるで〜!」
英蔵、大城と涙沙になぐさめられていた。
恒人がくるりと振り返って満面の笑みを浮かべる。
「だいじょーぶですよ、ひでぞーさん!俺の中で英蔵さんは永遠のマイブームですから!」
「え?そう!?え、永遠なんだ・・・」
嬉しそうな英蔵を明希がうにゅ顔で見た。
「趣味扱いされたのに喜ぶってマゾなんですか?白血球さんは・・・」
「あっきー、無礼講ツッコミすぎるだろ!あと名前一文字ぐらい正確に言えよ!」
ゆうやが叫んでいると浅葱が身を乗り出してきた。
「あれ?今、白血球の話してた!?」
「なんでそこで喰いついてくる・・・」
マオが驚いてそう言いかけた時、
どんぐあぁらぐぁあらがっしょーん!と金ダライが12個それぞれの頭上に落下してきた。
ぎゃーぎゃー悲鳴を上げて悶える12名を見下ろし、腕組みをして立つミヤが低い声で言う。
「なあオマエら、1分でもいいから黙れないか?」
誰もが(ずっと年上の浅葱ですら)あやまる中、逹瑯だけが憮然とした顔で言う。
「ちょっとー!ヤスは喋ってねぇだろ、不公平だよリーダー!」
ミヤは鬼目モードで逹瑯を見て一言「そうか」と頷き、
どぐぁん!
と自分の頭上にも金ダライを落とした。
「いってえ・・・これで公平だろ?」
「・・・そうですね、リーダー。ねぇあの懐中時計貸してよ」
ミヤは怪訝そうな顔をしながらも逹瑯に懐中時計を渡した。そして黙々と歩くことしばらく、ずっと時計を見ていた逹瑯が楽しげに言う。
「はい!もう一分立ったから喋っていいよね!?」
「すごいポジティブだ・・・」
「こりないだけだよ」
「というかバカなんだ!」
少し感動したように言うマオにムックリズム隊が顔を見合わせて笑った。
「ねー恒人君って本名?」
普通に肩に手を回し絡んでくる逹瑯に、恒人はミヤの様子をうかがいつつ答える。
「本名ですよ〜」
「フルネームはなんて言うの?」
「なんかナンパされてるみたいですね・・・俺のフルネームが知りたかったら死神に寿命を半分渡してください」
「なに!?俺はデスノートなんて持ってねぇぞ、何者だお前!?」
「ドヌーヴもコイルも俺のことです」
「だったらお前のフルネームはエル・ローライトじゃねえか!!」
「おや、バレましたか・・・」
あまりに軽妙な漫才を始めたものだから他の面子は感心したように見ていた、『デスノート』を読んでいないと全く分からない内容ではあったが。
そして浅葱はツボに入ったのか爆笑していた。
「浅葱さんってかなり笑いの沸点低い人?」
しんぢの問いかけに涙沙が頷く。
「低いで、わりとなんでも笑うもん。よほど不謹慎なネタでもない限り。可愛いやろ」
「あれですね、橋が落ちても笑う年頃ってやつですねぇ」
突っ込むべき一言が最後にくっついていたのを無視して、明希が頷きながら言った。
恒人の肩に手を回したまま逹瑯が振り返って叫ぶ。
「橋が落ちるの見て笑ってたらそいつ人格に問題ありすぎるわ、馬鹿野郎!それを言うなら箸が転んでもおかしい年頃だっつーの!しかも思春期の女子に使う言葉だっ!」
「ああ、酔っぱらってると箸転がしても笑えますよねぇ・・・」
「会話しようぜ、明希様・・・」
「まあ浅葱君はある意味思春期の女子みたいなもんやしなぁ」
脱力する逹瑯に涙沙がさらに脱力することを言う。
「ね〜ツンデレ小狐ちゃん、面白いね君のとこは」
「あははは!」
そんな様子を見ていたムックリズム隊は顔を見合わせる。
「なんかすっかり仲良しだなぁ、ツンデレ君と」
「さとー、恒人君ね、名前間違って覚えたらダメだよ」
「あ、そっか」
逹瑯がやはり恒人の肩に腕を回したまま、にまにまして言った。
「なんだよオマエら、俺様にかまってもらえなくて寂しいのか?」
「寂しくねぇからもう戻ってくんな、ばーか!」
それにサトチがあかんべーをして答える。
「迷路で分断されてからだよね、吊り橋効果で仲良くなったのかな・・・」
しんぢが首を傾げると明希がぺちっと手を叩いた。
「吊り橋って・・・ああ!あの四十八手の?」
明希の頭に他のシドメンバーの平手打ちが飛んだ。
「ちょ、痛いよ!なんでみんな怒ってるの!?」
「マオ君!やっぱあっきーの口ピアスで閉じちゃって!!」
「業務用ホチキスで留めてやるっ!」
「いっそチャック付けようか、斬新なビジュアルになるよ」
「うあ!ちょっといいかも!!」
じゃれ合うシド面子を見ながら浅葱が首を傾げる。
「『吊り橋効果』って恋愛の時にしか使わないよね、ってことは、え!?」
「浅葱君、そのまま行ったらめっちゃミラクルな勘違いをすることになってまうから!!」
「それこそコントだよ!」
涙沙と大城が慌てて阻止した。そうしてまたもぎゃあぎゃあと賑やかになっていると、ミヤが足を止める。全員反射的に頭を庇ったが、金ダライは落ちてこない。
ミヤはゆっくりと振り返ってにやりとした。
「どうやら和やかタイムは終了みたいだぞ」
ミヤが指差した先、無数の顔が浮き上がった壁がこちらへ迫ってきていた
「いつのまにぃ!?」
叫ぶ逹瑯にミヤが冷やかに言う。
「けっこう前からだ、気づいてなかったのか?」
「気づいてたらあんなくっちゃべってねぇよ!つーか知ってたなら教えろよ!」
「口挿む隙がねぇ勢いで喋ってたのはどこのどいつだよ」
言葉に詰まる逹瑯の隣で恒人が頭を下げた。
「オランダですがあやまります、ごめんなさい」
「・・・この状況でもギャグを言うなんて、逞しくなったなぁ」
涙沙が少し感心したように言って浅葱と顔を見合わせて笑った。
「余裕があるのは結構ですけどね、どうするんですアレ?」
しんぢが肩を竦めて迫ってくる壁を指差す。
「ブブゲルって何に弱いんだっけ?」
首を傾げる明希にゆうやがこめかみを押さえながら言った。
「あっきー・・・そのゲーム、マイナーすぎて誰にも通じねぇよ!」
「まひ骨か欲情骨を投げつけて止まってるとこをひたすらボコるって方法が一番有効だな」
と大城が真面目に答えたのでマオもこめかみを押さえた。
「このネタ、読んでる人の中で一人でも笑えたらむしろ感動するわ・・・」
「ぬりかべだったら一服すれば消えるんですけどね」
「ああ、道を塞ぐ系の妖怪ってそうだよねっ!」
ようやく恒人のフリに答えられた英蔵はどこか嬉しそうだ。
などとやっているうちに壁に浮かんだ顔が口々に喋り出した。

『帰れ』『帰るんだ』『帰るがいい』『此処は通さない』『此処は通れない』『この先は主の部屋だ』『リジーのいる場所だ』『帰れ』『選択できないのなら』『戻れ』『此処からは出られない』『もう目覚められない』『永久にこの館を彷徨うがいい』『此処は通せない』

「うるせぇまとめて喋るな、何言ってんのか分かんねぇつーの」
ミヤが苛ついたように言って火かき棒を顔の一つに叩きつけると『ぎゃ!』と悲鳴を上げて顔が引っ込んだ。
「ああ、なに?倒せばいい系?行こっか、英ちゃん」
「はいっ!」
ロングソードを持っている大城と英蔵が前に出る、浅葱が心配そうに「気をつけてね」と声をかけた。
「「「ゆうや行ってらっしゃ〜い」」」
他のメンバーに手を振られてゆうやは複雑な顔で前に出かけ、振り返った。
「いや、ちょっと待って!?マオ君も武器持ってんじゃんか!!!」
「武器持ってる人間がみんな離れたらあかんやろ」
と涙沙が言ってマオも魔王スマイルで頷く。
「そーいうこと!」
此処も奇妙な友情成立していたらしい。ドSタッグだ。
というわけで、ミヤと大城と英蔵とゆうや、そしてサトチは何故か素手で参戦し・・・
一言で言うとフルボッコで壁を叩き壊した。
「音だけ聞いてるとなんかこっちが悪者っぽかったなぁ」
とは涙沙のもらした感想だ。
「サトチさん、素手で殴ったりして大丈夫でしたか?」
恒人が心配そうにのぞきこむとサトチは爽やかに笑う。ちなみに恒人には逹瑯がへばりついていたがこちらからは労いの言葉すらなかった。
そして逹瑯も武器を所持しているくせして壁殴りに参加しなかったことについてサトチは気にしていないようだった。
「うん!だいじ!俺は頑丈だからなっ!ツンデレ君ありがとなっ!」
「いや、俺の名前は恒人ですが・・・」
「うん!?」
「ツンデレ君って・・・そんな呼び方してたらツインテールにしますよ!?」
「うん!?」
「・・・恒人君、さとーにツッコミなんてそんな高等スキル期待しないであげて」
ユッケが笑って首を振っていると、浅葱が言った。
「あれ?ツネって昔ツインテールだったよね」
「浅葱君、そういう意味やなくてな・・・って説明するのはなんかイヤやなぁ」
涙沙も笑って首を振った。
「ちなみにツネちゃんみたいなタイプは某所では『小悪魔型ツンデレ』と言うらしいよ、良かったね英ちゃん」
「はい!ってえええ!?なにがですか!?」
「・・・俺の言葉に適当に返事してんじゃねぇよ〜!」
じゃれだした大城と英蔵を横目に明希がうにゅ顔で言った。
「あれ?ブブゲル倒したのにイデアセフィロスが出て来ないよ〜」
「うるせぃんだよ、ばぁろー」
逹瑯が恒人にしがみついたまま、何故か江戸弁っぽく叫ぶ。
「オマエねー!いつまでそんなマイナーゲームネタ引っ張るんだよ!誰にも通じないつーのっ!ちなみにイデアセフィロスっていうのはブブゲルっていう壁に擬態した敵が出てくる3Dアクションゲームで、敵を倒すと出てくる白い球体ですっ!ってなんで突っ込みに解説入れなきゃいけないんだよ、めんどくせーよっ!!」
「逹瑯さん、ダメですよそんなに怒ったら、短気は呑気ですよ〜」
「短気で呑気なのはてめぇだろうがっ!」
逹瑯が明希の頭をどついた。
「なにすんでぃ!」
「・・・江戸弁ブーム到来か?」
むくれる明希に涙沙がぽつりと言った。
そのまま歩いて行くと、廊下の終着点についた。
一際豪奢で大きな扉の前でアラームが鳴り始める。
「なんか今回はコントしかやった記憶がないな」
一番活躍していたはずの大城が笑う。
「楽しかったねぇ」
明希は嬉しそうにメンバーを見た。
「恒人君、恒人君、また明日ねっ!」
まだ恒人にへばりついていた逹瑯が言う、よほど気にいったらしい。
「いや〜喋りすぎたんで自粛したいです」
「面白かったよ?」
浅葱に微笑まれ、恒人は照れ笑い。
「コントで時間を取りすぎたのは事実だけどね、まあええか。じゃあまた明日な」
マオが手を振る。互いに手を振ったりハイタッチをしたりするなか、ゆっくり景色が歪んでいって、そして眩い光に包まれた。






ミヤは目を覚ました。時間は昼前ぐらいか。もそもそとベッドの中で姿勢を変えながらミヤは天井を見た。
いつだったか「世界が壊れればいい」と願ったことがある。
こんな無慈悲で理不尽で不条理で悪意だらけで偽善だらけで汚れきった世界なんて壊れてしまえと願ったことがあった。
しかし世界にはその全てを呑み込んだ上で尚も美しいと知ってから、そんな願いは消えた。
今はこんな世界を愛していると心から言える。
だからこそ。
「俺はあの世界を壊す、絶対に」
そう誓うのだった。


浅葱は目を覚まし、胸元に乗っていた愛猫を撫でながら天井を見た。
時折「世界が壊れればいい」と思うことがある。
戦争だとか紛争だとか人が絶滅させた動物だとか消えていく森林だとか汚れていく海だとか残虐な犯罪だとか、そういったものを知るたびに、世界、というより人間というのは滅びるべき種なのではないかと思う。
それでも愛があるから憂うのだと知っているから本気では願わない。
大切に思えばこそ怒りもあるのだ、悲しいかな両手を精一杯伸ばしたって救えるのものは世界のほんの一滴にすらならないけれど、それでも自分は一生涯このスタンスを守り続けるのだろうと、そう思っている。
だからこそ。
「・・・あの世界を壊すんだ」
そう誓うのだった。

マオは目を覚まし、気怠げな息を吐いて天井を見た。
かつて「世界が壊れればいい」と思ったことがある。
それはいわば厭世的な、一時の激情によるものではあった、上手くいかないことだとか、様々なものが混ざり合って、そんな感情を呼んだ。
悲観主義といえば悲観主義で、今でもどうしょうもなく手詰まりな状況になったりすると「ああ隕石でも降ってこないかなぁ」なんて呟いてみたりもする。
しかし実際に壊れられては困るのだ、好きなものがたくさんあって、やりたいこともたくさんある、明日世界が終ると言われたら、全力で止めに走るであろう、ネガティブ気質はたしかにあるが、それ以上にアクティヴなのだ。
だからこそ。
「あんな世界はぶっ壊す」
そう誓うのだった。

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