ドウタヌキ?


僕等の愛色(いとしき)世界


―この愛すべきくだらない世界で



ごくありふれた墓地。山の斜面に造られているが周囲を見ればさほど田舎でもない。少し離れたところに高速道路もあって、長閑とは言い難く、かといって喧騒と呼べるレベルのものではない。
夕暮れ時で人影はなかった。
只一人、墓地の真ん中あたり、墓石の前に腰掛けて煙草をふかしている人物がいた。
長身痩躯黒ずくめの服に青いサングラス、お面を被っているかのような徹底的な無表情。
ハンドルネームは自虐亭敗北、本名は蓮咲蓮、ハンドルネームは某バンド某曲の「自虐的敗北者」を打ち間違えたことに由来する。
生霊専門店、生霊の『解消』を生業とする、男。
華やかな本名より、ハンドルネームのほうが彼の性質を的確に表していると言っていいようなタイプの人間だ。
「君に都市伝説の作り方を教えたのは僕だったと記憶している、というより僕しかいまい」
自虐亭は背後の墓石に語りかける。
「都市伝説は多くの人間が認識すればある程度完成される、そして最後に・・・その話を作った人間が死ねば、その都市伝説は紛れもない《本物》になると。まさか君がそれを実行してしまうなんてねぇ」
紫煙を吐きだし、自虐亭は淡々と続ける。
「満足だったかい?一代目リジー。他人の身体に入って生きて、自分を捨てられて、君は自由になれたかい?しかし残念ながら5代目、最後のリジーである綾瀬君が無事、自分の体に戻ったところで全ての歪みはなくなった・・・そうなれば一代目である君はもうこの世にはいないんだよね、戻る身体は既にないんだから。生憎僕は死んだ人間が見えないから君がどうなったかなんて知りようもないんだけれど」
そこまで言って自虐亭は立ちあがる。蝋燭立に吸いかけの煙草を刺し、墓石を見る。
「安らかに眠れ、僕の友人。君は永遠の勝者だ、もう戦うことすらできない・・・僕はこの世界で負け続け死ぬまで抗ってやる、ではさようなら」
そして背を向けて歩き出した、振り返ることはなかった。
墓地を歩きながら口ずさむ。
「わたしの〜おはかの〜ま〜えで〜なかないでください〜」
それはすぐに止め、歌を変えた。
「昨日友達が死にました〜愛されるということも分からぬまま〜」
そして少し顔の筋肉を引きつらせ、笑ったようだった。



リジーの部屋から無事脱出した数日後の話。
約束の時間1分すぎに押されたインターフォンに逹瑯は立ちあがり、自宅の玄関を開けた。
「本日はお招きありがとうございます、これ手土産です!」
ぺこりとお辞儀して菓子折りを差しだす恒人の後ろで英蔵も頭を下げた。一瞬、自分はナニモノなんだろうと固まった逹瑯だったが、なるほどこれが一般常識というものかと思いなおし礼を言って手土産を受け取る。
どうやらマカロンらしい。これはミヤが喜びそうだなと思いつつ、二人を迎え入れた。
「しっかしまあ・・・菓子折りなんて貰ったのこっち来てからは初めてだよ」
「そうっすか?」
恒人が首を傾げる後ろで英蔵は微妙な顔をしていた。
「まあ、ツネが何か持っていくのが礼儀でしょうって言ったんで・・・折半して買いました、迷惑だった?」
「いや〜食いもんはいっぱいあったほうがいいし、ありがとね」
改めて礼を言うと恒人が照れたように笑った。
それを聞いて「ひどいな」とぼやいたのは既に到着していたマオ。
「俺だってちゃんとお菓子持ってきたじゃないですか・・・」
「いや、お前は外面が良いだけってことがあの七日で身にしみて分かったからさぁ」
「なおのことひどいな〜。マオにゃん傷つきますよ?」
「しかもお前の菓子折りじゃねぇし、駄菓子の詰め合わせじゃねぇか」
「手土産ってものは相手のレベルに合わせるものだしね〜」
「どつくぞ、マジで!」
マオはソファーでくつろいでいて、ムックの他三人はベランダで煙草を吸っていた。
逹瑯の自室はかなりセンスが良かった、ちょっとしたデザイナーズハウスのようなその空間に元々そういうものが好きな恒人は目を輝かせている。
「すっごく素敵なお家ですね!逹瑯さんってセンス良いんですね〜!」
「おお!ツンデレ君は分かってくれるの!?」
「あのシャンデリアめちゃくちゃ可愛いっす!」
「あれねっ!俺が自分で作ったの、すごいでしょ!?」
「すごいっす!!」
逹瑯の周囲でこう素直に感激して褒めちぎってくれるキャラクターは稀有だったので心底嬉しそうに部屋を紹介しだした。
英蔵は少し迷ったが、勝手に座るのも気が引けて恒人の後をついて行く、普段ならばこんなことをすれば即座に突っ込みがはいるのに、恒人はよほど逹瑯の自宅に感動しているのか振り返りすらしない。
ちょっとばかり寂しい。
「あ、そうだ!逹瑯さん、忘れるところでした、これどうぞ!」
そう言って恒人が差しだしたのは大きな紙袋、えらく重そうなものを下げていると気になっていた逹瑯はすぐに中を見る。
入っていたのは大きめのサイズの、高価なものではないがそれなりにセンスの良いガラスの花瓶だった。
「んん???どうしたの、これ?」
「いえ、すぐに入り用になると思うんで、取っておいてください」
悪戯っぽい笑みで見上げられ、困惑しながらも逹瑯は頷く。
「あ、そういえばシドのみなさん、他の人は?」
英蔵がマオに聞くとマオはひらひらと手を振って言う。
「ゆうやならキッチンでコーヒー入れてる、明希はどうせ遅刻するやろからしんぢが拉致してくる予定」
「じゃあ俺も手伝ってきますね」
後半部分には突っ込まず、恒人もキッチンの方へ駆けて行った。
「ああ・・・気がきく後輩ってやっぱいいなぁ・・・」
にやけている逹瑯に英蔵が笑って言う。
「出来の良い弟を持った兄の気分が思う存分味わえますよ」
そこでまたチャイムが鳴る、英蔵の「たぶん浅葱さん達です、大城さんの車で来る予定なんで」という言葉に頷いて玄関に向かい、扉を開ける。
「本日はお招きありがとうございます」
「・・・・・・」
薔薇の花束を持った美丈夫の姿に逹瑯はまた、はて?俺はナニモノだったのだろうと思い、ああこれが一般常識というやつか・・・と思えなかった。
「出たな!この全身ツッコミ待ち男!」
思わずそう言い放つと浅葱は艶やかな声で笑う。
「なんか可愛いあだ名をつけられちゃった」
「褒めてねぇけど!?」
そして恒人がさっき渡してくれた花瓶の意味に気づく。
なんていう用意周到さだと、ちょっぴり感動。
同時にそこまで分かってるなら止めろよと思わなくもなかったが。
後ろから顔を出した大城は笑顔で大量の酒瓶を押しつけてきた。
「これ、俺とるいちゃんからです、どうぞ」
「下戸やったらすまんけど、これだけ集まれば飲める人けっこうおるかと思って」
「うん、いるね。飲ましちゃいけない破壊神も約一名いるね!」
そう言いつつ酒瓶の入った袋と薔薇の花束を受け取り、3人を迎え入れてリビングに戻ると、煙草を吸い終わってベランダから出ていたミヤに微笑を浮かべられてしまった。
「・・・っ!分かってるよ!俺に薔薇の花束なんて似合わねぇこどぐらい!」
「俺、なんも言ってねぇけど?」
今度は勝ち誇ったように笑われた。
「あ、やっときますね〜」
とキッチンから駆けてきた恒人が慣れた動作で花束を逹瑯から取って用意してあった花瓶に生ける。
突っ込むと妙なことになりそうなので突っ込むのはやめておいた。
「な〜食べ物だけどさ、ピザ取るんでいい?さすがにこの人数で手料理もないっしょ、鍋やるにしても辛いし」
「ホストは逹瑯さんですから、任せます」
優雅に微笑んむ浅葱に他のDメンバーも頷く。
「俺もそれでよかよ」
そろそろ被っている猫を本格的に脱ぎ捨てつつあるマオも同意した。



まだ到着していない明希としんぢに関してはマオが「ほっとけばそのうち来る」と言い切ったので、先にピザを注文しておいた。
みんなでメニュー表をのぞきこみながらアレコレ、さすがにこれだけの人数がいると好みもバラバラなためサイドメニューも含めてけっこうな量になった。
がっつり肉系から子供向けまで色々。
デザートに関して逹瑯とミヤの間で一悶着と言うにも下らないような言い合いがあったが。
「デザートって、ミヤ君ケーキ買ってきてたよね?」
「ん?あれは俺が自分で食べる用だぞ」
「いや、ホールケーキだったよね!?7号の!!」
ちなみに7号で直径21cm。8〜10人前である。
「そうそう、涙沙君と恒人君も甘いもの好きなんだよな、一緒にホール食いするか?」
「おかしくね!?普通みんなで分けるっしょ!?」
「自分用に買ってきたのだから」
「・・・頑固者、偏屈、変人、天然」
「・・・コロス」
低レベルというか異次元な会話を交わすムックコンビの横では浅葱が
「何故、ピザ屋さんなのにパスタも販売しているのかな?ピザとパスタ、両方一緒に食べる人はいるんだろうか・・・」
と気難しげな表情で真剣に考えていた。
シドの二人も限りなく底辺の言い合いだった。
「俺のは全部カレーソースにしてよ、カレーソース」
「ピザの時ぐらいカレーから離れろよな〜しかもそのピザ子供用だしさ・・・」
「いいだろべつに!文句あんの?」
とてもじゃないが20代後半から30代前半の(一応)社会人が集まって交わす会話ではなかった。
それから15分後ぐらいにしんぢと明希が到着、集合時間の30分過ぎでもちろん手土産なんぞ持っていなかったが、逹瑯にしてみればそちらのほうが気楽だ。
13人揃ったところでリジーの部屋脱出祝いのスタートだった。




「まあ終わってみれば本当に夢みたい、というか夢だけど、変な感じ」
喫煙者の多さに逹瑯が折れたため、リビングでも喫煙可となったところでマオも煙草を吸い出した。
「あの綾瀬さんも無事戻れたらしいしな、まあ自虐亭はことが済んだんだからこれ以上の質問はするなって言ってたけどよ」
最終的に自虐亭への連絡をしたミヤの横で逹瑯がへらへらと笑っている。
「まあ終わりよければすべてよし?けっこう楽しかったしいいべ。なあツンデレ君さぁ」
急に逹瑯にのぞき込まれ、恒人は困ったように首を傾げる。
「なんかもう、ツンデレ君というあだ名は定着ですか・・・」
「事実ツンデレじゃんね〜」
明希にものほほんとした口調で言われ、恒人は苦笑してメンバーを見た。
「いえ、ツネはとっても素直な子ですよ」
助け舟というよりはごく自然な流れとして浅葱が言う。
「ネットで現代用語スラングであるところの『ツンデレ』に関して書かれた論文を読んだんですけど、ツネは当てはまっていませんでしたし」
予想斜め上をいくその発言にDのメンバーですらぽかんと浅葱を見た。
何語で喋った?というぐらいの勢いだ。
「アンタ脳内薔薇園っていうよりは、脳内養老天命反転地だな・・・」
少し間をおいて逹瑯が脱力気味に突っ込んだ。
「ものすごいローカルネタですね、通じませんよ」
そしてしんぢにダメ出しされた。
「俺は好きだな・・・天命反転地」
恒人の手土産であるマカロンをもりもり食べつつミヤが言う。
「えっと、ミヤ君。会話になってないけど気づいてる?」
ユッケの忠告も耳に入らないのか淡々と続けるミヤ。
「テーマはちゃんとあるのに、いざ行ってみると結局製作者がなにをしたいのかイマイチよく分からんところが良い。そして歩きまわると転落の危険、酷くて骨折という公園にあるまじきところがなお良い、ぞくぞくする」
「後者の理由がマゾかっこいい!」
マオが感心したように言った。
「ええ?俺の脳内ってそんななんですか?」
浅葱が困惑した様子だがフォローの仕様がない、なんだかんだで仕切り上手な恒人が話を戻す。
「しかし逹瑯さん、俺がツンデレならばこの話のラストは流血修羅場エンドになりますよ?」
「なんでヤンデレ化すること前提のツンデレ設定なんだよ!?」
我が意を得たりとばかりにノリノリで突っ込む逹瑯。
「そしてNiceboatと掲示板で言われるのです!」
「ネタ的にマニアックになってきたが大丈夫か!?しかしそれならば俺はクライマックスでめった刺しにされるまでハーレムを味わえるってことだな!」
「・・・ナチュラルに自分を主人公にしてますよ、この人」
「いつものこったよ〜」
半眼で言うマオにサトチが爽やかに答える。
「ハーレムならば好きにふるまってやろうじゃないか、恒人君!俺を『お兄ちゃん』と呼びなさい!」
「リアルで兄がいる身としてはあまり楽しくないんですけどね・・・お兄ちゃんっ!」
「違うな、もっとこう・・・そうだ!『逹瑯さんのこと、逹瑯お兄ちゃんって呼んでもいいですか?』と恥じらいながら言ってくれ」
「・・・また元ネタがマニアックだ〜」
明希が嬉しそうにしつつ期待に満ちた目で恒人を見た。
恒人は軽く息を吐いてから、逹瑯を見上げ、ちゃんと恥ずかしそうな表情で言う。
「あ、あの・・・逹瑯さんのこと・・・逹瑯お兄ちゃん、って呼んでも・・・いい、です・・・か?」
「完璧っ!超萌え・・・」
どん、がす、ばき、どご!と逹瑯の頭に四方向から平手打ちが飛んできた。
「おどれ、誰の許可取ってやってんねん!」
「俺の相棒になにさせてんの!」
「・・・ごめん、なんかすっごい・・・イラっとした」
涙沙、大城、英蔵がそう言ってから、そして残りの面子も「最後の一撃は誰だ?」とばかりに顔を見合わせる。
「すいません、つい・・・」
とあやまったのは浅葱だった。
「いえ、なんかこんなに心から人様のことをウザイと思ったのは初めてで、手が出てしまいました、申し訳ないです。逹瑯さんが場を盛り上げる冗談としてやっていたことは分かっているのにすいません・・・」
「いやいやいや!フォローになってねぇよ!?後半の言葉がスイカに塩の原理で前半の罵りが強化されてますよ!!むしろなに!?俺のウザさは浅葱君の博愛精神にヒビ入れるレベルなわけ!?」
「なにをいまさら自明のことを言っているんだ・・・」
マカロン5個目に突入したミヤがぼそりと呟く。
「そういや最終的に修羅場エンドを勝ち残るのは俺〜?よくヤンデレって言われるし」
のほほんと言う明希の横でマオが半眼のまま言う。
「誰か一人でもいいから『空気を読んで喋ろう』って人はいないん?」
「まあそれですと逹瑯さん、ニコニコ動画のコメントは『逹瑯死ね』で埋め尽くされるわけですけどいいんですか?」
にこやかに言うしんぢの脇腹にマオの肘鉄が炸裂した。
「メンバーは殴ってもいい俺ルール」
「じゃあ明希ちゃんも止めてよ」
痛みにうずくまっているしんぢの背中を撫でながらゆうやが言うとマオは冷めた視線をよこしてきた。
「だって明希しこ、いじめたら喜ぶんだもん」
「ねぇ明希君のマゾってシャレじゃすまないレベルになってない!?」
ユッケが本気で慌ててしまった。
「ってゆーか逹瑯君、ハーレム前提なら俺も入れてや」
にんまり笑って近寄ってくる涙沙に逹瑯は後ずさる。
「いや、涙沙君ってキャラ的に選択した時点で修羅場フラグ立ちそうでなんかイヤ・・・」
「浅葱君!この人めっちゃ失礼!!」
微妙に会話についていけていない浅葱は飛びこんできた涙沙を受け止めて首を傾げる。
「なんかDさんってリアルハーレムっぽいよね、キャラ揃ってる感じだし。いっそ浅葱ハーレムと名乗ってみたらどうですか?」
うにゅ顔の明希に言われ浅葱はまた首を傾げる。
「ええっと、ハーレムというとイスラム教における隔離された女性用住居の意味でしたよね??すいません恥ずかしながら先程から会話を見失ってしまっていて」
「・・・・・・しんぢ!この人なんか怖い!!」
「うん、ハーレムを元の意味でしか知らない人は初めて見たよ」
本気で驚愕した様子の明希にしんぢが胡散臭いスマイル全開で言った。
浅葱はしばし熟考するように顔をしかめ、腕にくっついている涙沙に聞く。
「ああ、もしかして生物学でいうところのオスが複数のメスを独占している状態をさすハーレムの話かな?」
「うん、そうそう、そやな、さすが浅葱君」
「転じて・・・漫画なんかで主人公の男子一人に対してたくさんの女性キャラがいる場合や攻略キャラが多いギャルゲーのことを言う」
誰も正解を教える気がなさそうなので・・・というわけでもなく単に自分が気になったのだろう、ミヤがそう言った。ちなみにマカロン10個目である。
「ようやく話に追いつきました、確かに素敵な子ばかりで・・・ギャルゲーはよく知らないんですがみんな個性的なので、こう慕われているとなんだか漫画のようですね」
とっかかりがあれば理解が早いのはさすがだが、最早どう返していいのかすら分からないことを言い放たれた。
「いえいえ、浅葱ハーレムとはいきませんよ」
と切り出したのは恒人、もういっそ総合司会を頼みたいような仕切りっぷりだった。
最年少しかそのスキルを有していないことが、会話が崩壊している原因の一つだけれど。
「ギャルゲーにしてもハーレム系漫画にしても主人公はヘタレでないと読者の共感を得られませんからね、ハーレムにするならばメインは浅葱さんでなく英蔵さんです」
「・・・それってもう俺をヘタレだって断定してんじゃん!!」
言葉のわりに嬉しそうに恒人の腕を引く英蔵に大城が快活な笑い声を上げて言う。
「しかも攻略キャラからいぢり倒されるという究極のマゾゲーだな!」
「じゃ、ウチからはユケツだなっ!」
サトチもまた快活な笑いでユッケを指差す。
「違うね!俺は主人公に攻略キャラの情報を教えるアドバイザーの位置だね!主人公はたつぅでしょ!」
「ああ!?誰がヘタレだよぱっつんキノコ!もぎとるぞ!!」
「あははは!逹瑯さんってアレですよね、常時攻略キャラの名前の横に爆弾マークがついてますよね〜」
明希に言われてちょっと逹瑯はちょっと凹んだ顔をする。
「なんだよ・・・明希様も俺のことウザキャラだと思ってんの」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「当たり前なのかよ!?首締めるぞてめぇ!」
「ありがとうございます!!」
「喜ばれたっ!?」
「・・・逹瑯うっさい」
じろりとミヤに睨まれて逹瑯は周囲を見渡す。
味方になってくれそうな人は誰もいなかった、残り11人いて1人もいなかった。
悲しすぎる事態だ。
「あ、恒人君、マカロン美味かった、ありがとう」
とこちらはへにゃ顔で言うミヤ。
マカロン14個一人で完食だった。
「ミヤ君・・・分けようよそういうのは」
さすがにユッケが苦笑して言うと、ミヤは口を尖らせた。
「だって美味かったんだもん、やっぱラデュレのマカロンは神だ」
悪びれないというよりなにがいけないのか分かっていないらしい。
「なんかごめんね〜恒人君」
代わりにユッケがあやまると恒人は笑顔で言う。
「いえ、全種類買うことに気持ちがいってしまい13人集まるのに14個入りを買ってしまったという点でこちらに落ち度がありますから」
「・・・その人間としての完成度、2ミリでいいからウチのメンバーに分けて欲しいな」
半ば本気で放たれたユッケの言葉を冗談と受け止めたらしく笑い、恒人はカバンからもう一つ箱を取り出す。
「ミヤさんがラデュレのマカロンが好物という情報は得ていたのでこういうこともあろうかと思い、もう一箱買っておきました。こちらは13個入りで味は統一してローズペタルです」
「なんかもうお前、手回しがいいのか、先が読めてるのか、全てギャグでやってんのか、実はものすごい馬鹿なのか分かんねぇよ!!」
「只の邪気眼使いです」
「ああ!でもそーいうギャグセンスは大好きっ!」
逹瑯、壊れ始めている。
「逹瑯お兄ちゃん、ちょっと頸動脈冷やしましょうか・・・」
「ああ、悪い悪い、テンション上げすぎ・・・って何故に頸動脈!?」
「俺の鉈が逹瑯お兄ちゃんの頸動脈狙ってますんで!」
「Niceboat!スクイズネタ引っ張るなぁ・・・もうどうあがいても俺、死ぬじゃん」
「もう誰もついていけてないんでやめましょうよ、そのネタは〜」
よりにもよって明希に言われ、さすがに恒人も逹瑯も口を閉じた。
「ねぇるいちゃん、『Niceboat』ってなあに?」
「・・・検索したらダメな言葉や」
浅葱の問いに涙沙がこれ以上ないほど爽やかな笑顔で誤魔化した。



そんなコントもピザが届いたところで一旦中断、料理をテーブルの上に並べて酒やらジュースやらで乾杯。
音頭を取ったのはミヤだったが、たかだか四文字を思いっきり噛み、「献杯!」になってしまったが。
「しかし終わってみれば有意義な体験でした。苦難というものは乗り越えれば良い思い出になりますよね」
とにこやかに言う浅葱の言葉を受けて、半ば強制的に逹瑯の隣に座らされていた恒人が悪戯っぽく笑う。
「こうして普段お話しする機会のないみなさんとも仲良くなれましたしね」
「ツンデレ君、マジでコンビ組もうぜ〜」
「遠慮しときます。しかしこうなるとさしずめ次の話は逹瑯さんが実は坂本竜馬の生まれ変わりであることに気づいて維新志士の仲間を探してV系バンドをめぐり、並行世界から来た謎の敵から地球を救うというストーリーになりそうです」
「やめろ、なんだその流行りモノとりあえず混ぜましたみたいな話!!もう始まる前から全力でこけてんだろ!」
「幕末モノで転生モノでセカイ系ですよ、ツボは抑えてるじゃないですか、ちなみに武器は日本刀型ライトセイバーで最終的には自身が巨大な機械生命体へと変貌します」
「最終回は俺の内面世界描写で終わるんだねっ!絶対ウケねぇよ、何番煎じだよ、良いトコ取りのつもりが悪いもんのごった煮じゃねぇか!維新志士の生まれ変わりって設定がまず痛いんだよ!!」
「大丈夫です、とりあえず俺は一人知っていますから」
「いやいや、いねぇだろ、そんな痛いこと言うヤツ!」
「この前、英蔵さんが酔っ払った時に『俺は土方歳三の生まれ変わりだ』とか叫んでました」
にっと笑ってのぞきこんでくる恒人に英蔵が脱力した声で言う。
「やめて、俺の黒歴史をほじくり返さないで〜〜!!あと土方歳三は維新志士じゃないよ〜!!」
「んん?あれ嘘だったんですか?」
「返しに困ること言うのやめろよ〜〜!!なんか俺が騙したみたいになってんじゃんか!!」
「信じてたのに・・・ひどいっすねぇ」
「いや、絶対信じてなかっただろ?」
「俺は英蔵さんの言うことならなんでも信じますよ、英蔵さんは俺に嘘をつくような人では・・・いえ、そもそも英蔵さんは人に嘘をつくような人間ではありませんから、英蔵さんの言うことならばどんなに荒唐無稽なことでも俺は信じて、英蔵さんから聞きましたと吹聴して歩きます」
「最後の部分に悪意が含まれてんだろうが・・・」
「と、まあ一人メンバーがそろったところでどうですか、逹瑯さん」
「・・・無視された!?」
素っ頓狂な声を上げる英蔵は本当にスルーして恒人は逹瑯を見る。
「う〜ん、俺ってあんま坂本竜馬ってキャラじゃない気もするけどなぁ・・・」
「そのギャップが良いんじゃないですか、さっそくアリスソフトに企画書を持ちこみましょう」
「それはエロゲー作ってる会社だっ!」
綺麗に逹瑯の突っ込みがきまったところで二人の漫才は終了したらしく楽しげに笑い合った、とばっちりを食った英蔵にしてみればいい迷惑だったが。
「・・・なんか明希みたいな存在がエロエロな子ならともかく、恒人君みたいなちょっと清楚というか禁欲的なタイプの子からスクイズとかアリスソフトとかエロゲーの話がするとなんだかぞくぞくするね」
というしんぢのやばすぎる発言はマオの肘鉄に沈められた。
「ね〜!なんで俺はこんなあつかいなのかなぁ〜!!」と不満そうな声を上げたのは明希。
逹瑯とマオによって重量のありそうな電気スタンドにぐるぐると縛り付けられた状態だったので、むしろ言うのが遅かったぐらいだ。
「おめぇ酒飲むなって言ってんのに無断で飲むからだろ!」
「いいじゃないっすか一口ぐらい〜!!」
「自宅に破壊神降臨させる勇気ねぇんだよ!!」
憮然とする逹瑯に明希はうにゅ顔になって言う。
「逹瑯先輩のケチ〜!これじゃあご飯も食べられないじゃないですかぁ〜!」
「なに明希しこ、食べたいの?ほれ」
マオがピザを一切れ丸めて取り、明希の前に差し出す。
「はい、あ〜ん!」
「あ〜ん!」
「おいしい?」
「うま〜〜!!」
ゆうやがフラリと立ちあがり、裏表のない彼にしては珍しい不穏な笑みで言う。
「逹瑯さん、明希をほどいていいですか?」
「むしろ積極的にお願いするわっ!!見てるほうが拷問だ!!」
「・・・俺は織田信長がいいんだが戦国時代じゃダメか?」
唐突にそんなことを言うミヤに逹瑯は机に額を叩きつける。
「リーダー、もうその話終わってます・・・」
「ミヤ君、マイペースだなぁ」
ユッケ、苦笑だった。
「まあそれくらいじゃないと、ジャイアンな逹瑯さんのカバーができないのかもしれんね」
拘束から解放された明希が叩いてくるのをかわしつつマオがにまりと笑って言う。
「だれがジャイアンだよ、リサイタル開くぞ!土管のある公園探してこい!!」
「・・・逹瑯、ソロ活動するなら俺にも言ってからにしてくれ」
真顔でミヤに言われ、一瞬きょとんとするがさすがメンバーというべきか、すぐに返す。
「確かにコンサートに対してリサイタルは独奏会のことを指すけど誰もソロ活動するなんえて言ってねぇだろ!つーか天然で言ってんのかよ、リーダー!」
「なんだ、やらないのか・・・」
「え!?なに!?俺邪魔!?一人でやれってこと!?」
「いや、そういうテイストの違う逹瑯の歌を聴けるなら悪くねぇなと思っただけ」
逹瑯、顔を真っ赤にして黙るしかなかった。
率先して叫んでいた人物の沈黙に何を思ったのか明希が手を上げて立ちあがる。
「じゃあ俺、脱ぎます!」
「なんでだよ!?」
即座にゆうやが掴んで座らせるが、明希は不満顔。
「脱ぎたいから脱ぎます」
「・・・露出狂めっ!」
「だから何?露出狂だよ!」
「開き直ってんじゃねぇよ!!」
ゆうやが本気で服に手をかける明希の手を掴んで、左手だけスタンドに括りつけておいた。
「なにすんだよ!!」
さりげなく酒類を明希の届かない位置に移動させて、ゆうやは席に戻る。
「ゆうやに緊縛プレイされた!!」
「うっせ!!たのむから恥ずかしいことすんなよ!!」
その様子を微笑ましそうに見ていた浅葱が言う。
「そろそろまとめ、というか本題に入りましょうか、かなり文字数もいってしまったことですし」
「・・・だから文字数ってなんだよ」
「あはは」
「はにかんで笑ってんじゃねぇよ!!」
「V系界のハニカミ王子と呼んであげてな!」
脱力する逹瑯に涙沙がきゃらきゃら笑って言う。
「王子つーかー。魔王?」
サトチが首を傾げた。
「・・・ハニカミ魔王」
大城がツボに入ったらしく俯いて笑い出した。
「浅葱さん、浅葱さん、俺の扱い酷いと思いません?ウチのメンバーみんなドSなんですよぅ!!」
左手をスタンドに括られた状況を浅葱なら止めてくれると判断したのか、明希が会話に割って入る。
「うん、そうかもね・・・いいじゃない酔っ払うぐらい」
「浅葱さんは明希しこの破壊神っぷりを知らないから」
「酷いな〜マオ君!俺、浅葱さんと仲良くなっちゃう、半月板割って話しちゃう!」
「それを言うなら膝を交えて話すだよ、明希君」
どこまでもにこやかな浅葱に、逹瑯が叫ぶ。
「なに当たり前のように流してんだよ!そもそも明希が『膝を割って話す』って言ってねぇだろ!半月板割って話すってどんな状況だよ!ドクターストップ入るわっ!!」
「明希君も逹瑯さんもユーモアのセンスがありますねぇ」
やんわりと笑う浅葱に、ゆうやが頭を下げた。
「すいません!明希は天然です!!」
13人でピザを食べつつ、はしゃぎ騒ぐ。ゆうやと恒人の年下二人が率先して取り分けやらお酌やらにまわっているのは、さすが体育会系気質が染みついていると言ったところか。
車を運転してきた英蔵と大城、飲むのを禁止された明希以外はそこそこお酒を飲んでいて、騒ぎはますます大きくなっていった。
そして、食事を終えたところで、ミヤのノートパソコンから自虐亭の最後のメールを見た。


『まず無事《リジーの部屋》を破壊したことに称賛と礼を。7日目朝のメールでMさんが言ったように、あの空間ではイメージが具現化できる、だからあの空間が《壊れる》ところをイメージすれば確かに壊れる』

ただなにもなく『壊れる』ところをイメージするのは難しかったので、適当なものを具現化させて殴っただけのことだった。
それだけのことができる人間がどれほどいるのかは知れないが。

『しかし、一人を置き去りにすれば全員助かるという状況で全員助からないかもしれない方法を選択したことに関して、僕はなんとも言えないが。
実のところ一つだけ嘘をついていて、あの空間で死んだ場合、自動的にその人が次のリジーに決定するんだ。でも嘘であって嘘ではないと思う、まったく別の人間に入り、記憶も継承して別人になることを、僕は《生きている》とは言いたくない。
都市伝説のほとんどは悪意によって作られる、ざっとネットで調べてみて欲しい、様々な都市伝説があると思うが、そのほとんどがハッピーとは言い難い内容だと思う。
そして語られるうちに悪意は加速する、そんなに強い悪意じゃなく、一ミリグラムほどのものでいい。《こうすればもっと怖くなる》《もっと悲惨なオチのほうがいい》、コピー・ペーストと増幅で昔より遥かに早く広まって行く。
しかし昔と決定的に違うのは増幅する時の意志が明確であることだ、口伝えであった時代、話の改編はほぼ無意識だった。伝言ゲームと同じ、伝わって行くうちに変化していくのは自然だった、確かにどこかで怖くしてやろうという意図はあったにしても、それはひどく曖昧なものだった。
しかし今は違う、文字情報としてあるものに書き加えるのだから意識的だ。
そして一ミリグラムの悪意はやがて大きな塊となって、《本物》になる。
悪意は悪意を呼び、吸収し、どんどん大きくなる。
《リジーの部屋》もそうしてできた。
皆が適当に話を付け加え、どんどん歪んでいった』

ゲームじみたトラップ、知識の浅い手掛かり、ちぐはぐな筋道。
まるで素人だらけのリレー小説のようだったのは当たり前。
無数の人間が作り上げた空間だったのだから。
張った伏線を回収なんてしようがない。

『これを書くべきがどうか迷ったのだけれど、貴方はまぎれもない当事者であり、この結果を知る権利があることと、僕自身誰かに伝えておきたいので書いておこうと思う。
そもそも《リジーの部屋》はある少女が意図的に広めたものだ、その少女は僕の友人で、本名を書くのははばかられるから、二葉というあだ名で呼ばせてもらおう。
二葉ちゃんは《リジーの部屋》を完成させ、一代目リジーになった。
そして二人目が来た時に、その子に成り代わり、別人として生きていた。
二葉ちゃんが広めた《リジーの部屋》はどんどん広がっていって、前にも言ったけれど難易度も上がっていた。
四代目以降は、最後の部屋まで辿りつけないことがほとんどだったよ。
だから僕は噂を変形させた、ということは前にも言ったから省略しよう。
まあ、過去のデータを消し去るのは他の人に任せたけれどね、僕にクラックはできない。
しかし、実際に《リジーの部屋》に入った人間がその恐ろしさや、自分の身近な人間の中に他人が入れ替わっているということの気持ち悪さに口を閉じたことと、過去のデータが消えたことで、皆が《リジーの部屋》は本当にヤバイ話だと信じてくれた。
そうして貴方達が行く頃には、めちゃくちゃな残滓になっていた。
最終ルールだけが消えずに残っていた。
その残滓も貴方達が壊し、綾瀬君が自分の身体に戻り、押し出されて他の全員が元に戻ったところで、一代目である二葉ちゃんは死んだ。
彼女の身体は荼毘にふされた後だったから当然のように。
このことで貴方達が責任を感じる必要は一欠片もない、彼女はそもそも死んでいたのだから』

だからこの打ち上げは「献杯」で正しいのだ。

『改めて礼を言う、ありがとう。名も知らない13名の人達。
そしてもう二度と、僕に連絡をとるような必要がないことを心から祈ろう。
  自虐亭敗北 拝』

メールを読み終わって、改めて息をつく。
本当に「献杯」だ。
「でもさ、そんなに広がってた噂でもやっぱり日本国内限定だったんだね、それがちょっと不思議」
英蔵の言葉に、縛られたままの明希が空いている右手を上げて言う。
「俺も錦糸卵さんと同意見です!」
「・・・明希君もしかして俺の名前覚える気ない?」
「錦糸卵があると冷やし中華がハッピーです!」
「もしかして褒めてくれてるの?」
ちょっと期待した顔の英蔵に恒人がにんまり笑って顔言う。
「英蔵さんはどっちかっていうと酢豚のパイナップルでしょう」
「なんか一気に嫌われ者ポジションになってんですけど!?」
「肉を柔らかくしてくれて身体に優しいんです」
「・・・・・・」
「急なデレに英蔵さんフリーズしています」
にこやかに言うしんぢに本日何度目になるか分からないマオの肘鉄が入った。
「変な解説入れんな!」
「たぶんだけれど・・・」
そんなやりとりに笑いつつ浅葱が言う。
「このオカルトっぽさは日本特有のものだからじゃないかな、アメリカとかの都市伝説ってまた別物ですし」
「そうなんだ?」
冷蔵庫からケーキを持ってきたミヤが言う、一緒に持ってきた三本のフォークの内二本を恒人と涙沙に渡す。
どうやら本気で分けるつもりはないらしい。
「首なしライダーっているでしょう?あれってアメリカにもある話だけれど、日本のものとは別物らしいですよ」
「ああ、知ってるってゆーか聞いたことあります」
とケーキのでかさに少し驚いた顔をしながらマオが言う。
「日本の首なしライダーは幽霊だけど、アメリカで流布してるタイプは、首のないライダーが乗ったバイクが走って行くのを見た後に、鉄板が付きだしたトラックが来てその鉄板の上に生首が乗ってる話なんですよね」
「ああ、幽霊やなくて事故直後だったってことなん?」
「慣性の法則で走っているバイクだったってことですか〜」
フォークを受け取ったはいいが、本当に自分達だけ食べていいのかと視線をやる涙沙と恒人に残りの面子は苦笑しつつ頷く。
「アメリカの都市伝説ってオカルト系より犯罪系が多いからな、『ボーイフレンドになにがあった』とか。そこの違いもあるか」
ホールケーキをざくざく食べながらミヤが言う。
「ケーキ食いながらそんな話してんじゃねぇよ」
最早突っ込めるのはそこだけとばかりに逹瑯が半笑いで言った。
「ねぇちょっとイヤな話していい?」
大城が少し渋い顔で言ったので他の面子は一斉に視線を向ける。
「いや・・・なんつーかさ。こういうことって一回巻き込まれるとまた巻き込まれそうな気がするのって俺だけかな?」
「マジでイヤなこというねっ!」
ユッケがビクリとしてサトチの肩を掴むとサトチが笑顔で言った。
「なら怖い話しよう!」
「なんで!?」
「怖い話すると怖いことおきないってどっかで聞いた!!」
満面の笑みで頷くサトチにミヤがちょいと唇を尖らせる。
「厄落としの方法としては間違いじゃないな、怖い話で怖い話を打ち消そうってのも悪くない」
「いや、ミヤ君は単なる自己マゾじゃん」
「なんだ逹瑯、怖いのか?」
「怖くねぇよ!!ツンデレ君なんか怖い話して!!」
「え、俺っすか!?」
ケーキを食べていた恒人は目を見開いてそれから声を落とす。
「えっとですね、高校時代、クラスメイトに不登校気味な子が一人いまして・・・」
興味を持ったのか身を乗り出して頷く他の面子。
「いじめられてたとかそういうんじゃなくて、単純に喋らないっていうかそんな感じの子だったんですけど。卒業する時にその子が全員の携帯番号とアドレスを聞いて回ってたんですよね、こっちも別に嫌ってたわけじゃないから普通に交換して」
「・・・なんかもう既に嫌な予感しかしないのにオチが分かんない!」
声を上げたゆうやはマオにどつかれて黙った。
「そうしたら成人式の前日にその子からメールが来ましてね・・・ロングメールで文字制限いっぱい『ムラサキカガミ』って書いてありました」
「・・・・・・・・・・・・じわじわくるな、その話」
「いろんな方向にイヤな話やなぁ。切ないやら怖いやら」
逹瑯と涙沙が顔を引きつらせた。
「それでツネはそのメールに返信したの?」
浅葱の問いに周囲は「おいおい」という顔をするが予想を裏切り頷く恒人。
「俺、早生まれだからもっと後でメールしてねって返しておきました」
「い、いやがらせなのか善意なのか天然なのか・・・」
しんぢですら顔を引きつらせる中、浅葱が声を低くして言う。
「では・・・次は俺のとっておきの怖い話を・・・」
「やめろ、しゃれにならねぇ!」
「雪国の冬は・・・一味違いますよ」
「逹瑯、電気消せ、雰囲気だそう!」
「リーダーがノリノリだ!」
「きゃー、俺怖いのちょー苦手〜!」
「あっきー・・・言ってるわりに楽しそう」



宴はすんで夜明け前、年下チームが片づけ、年上チームが酔いと疲れで撃沈している中、逹瑯がデジタルカメラを取り出して言った。
「最後にみんなで写真撮らねぇ、記念にさ」
「いいっすねぇ〜」
と即座に同意したのは恒人、ゴミ仕分け中。
「俺、顔死んでるけど大丈夫かな、公開しないでくださいよ」
だるそうなマオの言葉に明希が笑う。
「大丈夫だよ、マオ君いつも通りの怖い顔だよ、爬虫類系の〜!」
「・・・明希しこ、そんなに早死にしたいの?」
「しんぢ〜!マオ君が怖い〜!」
「はいはい、取るならこの辺りっすかね、場所空けて〜」
にまにましてちるしんぢを転がしながらゆうやが13人入れるだけの場所を片づけ始める。
「俺も顔ヤバイことになってるよ。ってゆーか浅葱さんの話怖すぎだったよ、今夜も悪夢になりそう」
疲れ果てた顔をさすりながら言うユッケに浅葱は首を傾げる。
「そんなに怖かったですか?」
「激怖かったよ、鬼怖かったよ!」
「え〜ユッケさん、『ほんとにあった怖い話』のミュージシャン特集で体験談載せてたやないですか」
涙沙に言われ、驚くユッケ。
「え!?あれ読んでくれたの!?なんか嬉しいんだか微妙なんだか・・・」
「そんなことあったっけかぁ?」
笑うサトチにユッケは頭を抱えた。
「でも身内には忘れられてる・・・」
「なんでもいいから撮るぞ〜」
「あ、そこにカメラ置くなら、どうしましょう?二列で前座る形で、じゃあ170以下の子は前に行って」
仕切る大城を170以下チームが微妙な顔で見る。
「言外に低いって言われた気がすんだけど・・・」
「あ、じゃあ俺は前だ・・・」
半分寝ているらしいミヤは素直に前に行った。
「いっそのこと最後の晩餐っぽく並びませんか?」
浅葱のとんでもない提案を「カメラにおさまりませんよ」と恒人が笑って受け流した。
恒人が流してくれなかったら、夜明けと酔いのテンションに任せ、記念写真でダヴィンチ・コードを作り出す算段に入るところだった。
そしてセルフタイマーを利用して全員の写真を撮った。
夜通し騒いだ後のちょっと崩れた、でも最高の笑顔を見せている写真が撮れた。


後日談の後日談として、撮った時はなんでもなかったのに、いざプリントアウトしてみたらその記念写真にはリジーの人形と同じドレスを着た黒髪の少女が、うっすらと背景を透かしながら、しかしとても満足そうな顔で微笑んでいる姿が映り込んでいるという綺麗なオチがついたところで・・・

このお話はこれでお終いだ。


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