ドウタヌキ?


番外『吸血鬼の話』


毎度毎度、英蔵君に語り部をやらせているのも悪い気がするし、僕等はなにも四六時中一緒にいるわけではない。
僕と涙ちゃんはそれなりに単独行動が多いのだ。彼が知らない話もある。
今回はその話を少しばかりしてみようかと思っている。
上手く語れるかどうかは分からないし、涙ちゃんに言わせると僕の視界には手の施しようがないほど華美なフィルターがかかっているらしいからおかしくなってしまうかもしれない。
でも、考えて見ればフィルターのない人なんていないだろう。
感情がある以上、視界に入り、脳へ到達した瞬間に情報は歪んでいる。
僕が見る青が、君の見る青と同じではないように、景色も経験も歪む。
だからこれはあくまで僕の物語だ。




   吸血鬼の話




僕はヴァンパイアとしては変わり者、そこに異論はない。一族の爪弾きであったからこそ家出なんて子供のようなことをしているのだ。
吸血行為を一切しないと、そう決めて。
飢えはある、渇きはある、紅茶や果物で誤魔化してもヴァンパイアの食事は人間の血液だ。
なにも一滴残らず吸い尽くす必要はないのだけれど、僕等の牙は人間には毒性がある、だからやめた。
飢えはあって、渇きはあっても、死にはしないのだから。
確かに能力値は最大の頃から比べれは10分の1ほどになってはいるけれど、それだって生きていくのに不具合が生じるほどではない。
しかし、吸血行為自体の否定ではなく、これはむしろ一族への反抗なのだ。
ハンストみたいなものである。
ハンガーストライキ、一族は笑うだけだろうけれど。
ヴァンパイアはその不死性故に、あまりに長時間生きるが故に、退屈に狂い享楽に溺れる者が多い。
不要な殺戮に走る者や拷問狂と化す者が不思議と多い。
人間で言うところの美食家である。
嫌な言葉になるかもしれないが調理法によって血の味が変わる、苦痛をおびた血液は美味らしい。
そんな一族を見ていてハンストを思いついた。
我ながら子供である。
丁度その頃、僕がハンストを宣言しようかと思っていた・・・500年ほど前になるのか、ウィンゲート・コルレニオスこと京さんが、僕等の一族が住むアンチアーレス家を訪ねてきた。
訪ねてきた、というのは正確ではないか。そもそもこの両家は犬猿の仲なのである。だというのに京さんは当たり前のようにやってきて、客間に居座っていた。
京さんに勝負を挑もうとか、追い出そうとか、そんな命知らずはいなかった。
ヴァンパイアだって過度の危険は避ける。
触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず。
しかもこうして居座るのは一度や二度じゃない。
そんな中で俺はわりと幼いころから京さんとは言葉を交わすほうだった。
爪弾き者同士なにか思うところがあったのか、それとも話しかける僕が珍しかったのかは知らないが、幾度か話した。
京さんは恐ろしく気まぐれで5秒で気分が変わってしまうような人なので長時間会話を交わすことは不可能だった。
しかし僕の話を聞いてくれてはいたようだ、「話が長くてつまらない」と言われたこともあるが、以前話したことをもう一度話すと「それはもう聞いた」と言われる。
聞いてはくれているし、覚えていてはくれているらしかった。
だから相談、というわけではないけれど、ハンストしようかと思っていることを伝えた。
京さんは金色の瞳で俺を見て、金色の髪をぐしゃぐしゃと掻きまわした。
ヴァンパイアは重厚な衣装を好むけれど、京さんはいつもシャツを羽織るだけのラフな服装だった。
挙句に刺青である。
人間の町で入れてもらってきたらしい。
ヴァンパイアは自動回復力があるので意識していないと消えてしまうのに、わざわざ彫ってもらった、正直そこは理解不能だ。
変わり者の京さんは、僕を珍獣でも見るような顔で見て言った。
「血がないと、お腹がすくで?」
好き嫌いをする子供に言うような口ぶりだった。
「でも、嫌なんですよ・・・もう。僕は我慢できますし」
「ふぅん、まあええんちゃう。俺が止める理由もないし」
まったくその通りだった。
相談するなら相手を間違えている。
京さんは黄金の瞳を細めて言った。
「蚊ってさ」
「はい?」
「蚊や、虫の・・・たまにおるやろ」
「ええ、血を吸う蚊ですよね?」
「そうそう、あいつらも人間の血を吸うやん。で、吸われた個所が痒くなるらしいやん。もちろん俺らは経験ないけど。吸われた個所が痒くならんかったら人間ってああも蚊を嫌うことはなかったと思わへん」
京さんはそう言って狂暴で無邪気な笑みを浮かべる。
「まあ、嫌悪感とか病気の媒介とかおけば、見つかった瞬間叩き殺されなかった気がするんやけどね」
「・・・そうかもしれませんね」
「ヴァンパイアも一緒やろ」
蚊とヴァンパイアを同列に言った。プライドの高い連中なら怒り狂う、というか普通に蔑称で言われていることを、当然のように肯定した。
「ヴァンパイアは血を吸います、しかし少し頂くだけです、他の被害は与えませんって生き物やったら、すごく平和的やない?」
「確かに、そうですけど・・・」
「将来的に、人間の血を別の容器に入れてもらってそれを俺らが食事にして、その代わり他の危険から人間守ったるって形ができたら・・・お前の言う理想的な共存かもしれんなぁ・・・サクスブルー」
京さんは僕のファーストネームを呼び捨てて、狂暴に無邪気に笑う。
「退屈は根性も折るで?」
そこまで言って、気分が変わってしまったのか京さんは眠ってしまった。
京さんの一言がきっかけでもないけれど、ハンストなどでお茶を濁すより、僕は僕の理想を目指して、具体的に行動を起こすべきだと思い、アンチアーレス家を出奔した。


しかしまあ、基本的には関わりたくない人である。彼が起きたと聞いてそのことを頻繁に思いだすようにはなっていたけれど、会いたいとは思えない。
そういえば、ヴァンパイアの主食は人間の血だが急場しのぎに牛や羊の血を飲むことがある。
僕もあったけれど、不味かった上に体調を崩した。
悪食だ。
その悪食に京さんは一時期凝っていた、ある国に滞在していた時、80年ほどひたすら家畜の血を飲みまくっていたらしい。
80年やったら飽きてやめた、とか。
そしてその国では『家畜を襲うヴァンパイア』の伝説が登場した、なにやらややこしい名前と奇怪なイラストと一緒に。
旅の途中で僕もそのイラストを見たけれど、得体のしれない化け物にされていた。
存在しない《夜人》がその国では「いるもの」として定着してしまったのだ、つくづく格が違うと思い知らさせる。
マネをしようとは思えないけれど。
各地で分布している《夜人》や神の正体が辿って行くと実は京さんのことだったなんてもう珍しくもない。
・・・格が違うんだ、あの人は。


さて、そろそろ過去から現在に移そう。
今いる国は治安が悪い、貧富の差が激しい国だ。
なんとか必要なものは購入できたけれど、長居したい場所ではなく、危険な《夜人》の気配もないので早々に立ち去るつもりだったのだが、出国手続きで手間取ってしまった。
役所が1日2時間しか開いていないのは盲点だった。
しかたなく一泊することにして、夜、僕は街へと繰り出していた。
「もう人混み平気です」と恒人がついて来ようとしたけれど、危ないからと押しとどめた。
あの子狐は最近子供扱いされることが不満らしいけれど、この街の夜、恒人を連れて歩くわけにはいかない。
涙ちゃんは珍しく行かないといったので僕一人だけ。
ローブは目立つので黒いコートに着替えた。
石造りの歪な街は所々ガス灯の明かりに照らされていて、寒々しい。
冬が近いこともあるせいか、足元から凍りつきそうな感覚だ。
細い路地には孤児や職を失った者、働けない者が身体を丸めるようにして眠っていた。
遠くに見える屋敷には暖かな光があるのに、ここはとても寒い。
そしてガス灯の下には粗末なドレスを着た女性がぽつぽつと立っている。
うん、恒人連れて来なくてよかった。彼女達がなにをしているのか聞かれたら答えられない。
いやいや、いつかは教えるつもりではいるけれど、入り口として適切ではないだろう。
前を通ると僕の身なりがよく見えるのか声をかけられるが、全部丁重にお断りした。
しばらく進んでガス灯の下、僕は思わず足を止めた。
立っていたのが年端もいかない少女だったからだ、どう見ても14、5である。
少女は他の女性達と同じように僕を誘ってきた。
・・・こういう街は好きではない。
片方で享楽に溺れる人間がいて、もう片方で泥水を啜って生きている人間がいるような国は嫌いだ。
かといって何ができるわけでもない。
僕はしばらく考えて、人差指に嵌めていた指輪を少女に渡した。人間の世界ならそれなりの値段になるだろう。
僕は無言でその場を離れる、気分が悪かった。
それがなんになるというのだと、あの子だけではあるまい、そしてまとまったお金を手にしたところで、あの子がこの国でどうできるわけでもない。
自己満足だ。
こんなに晴れてなければ霧にでもなって移動すればよかった、そうでなくても蝙蝠なら問題はなかった。
なんで徒歩で来てしまったのかと今更後悔した。
大城君や涙ちゃんならば気のきいた言葉の一つでも言えるのだろうけれど、どうにも僕は不器用だ。
明日になったら早くこの国を立とう。
足を速めて大通りを抜け、貴族の屋敷が立ち並ぶ区域へ着いた。
この辺りだと思うのだけれど・・・
予想通り、馬の蹄の音が聞こえてきた。
唯一感じた強い《夜人》の気配がこちらへ近づいてくる。
「あっれぇ、ヴァンパイアがいるじゃん!」
蹄の音が止まり、そんな軽い声がする。
振り返ると馬に乗った騎士がいた。普通の騎士と違うのは首から上がなく、代わりにその頭を小脇に抱えているところだ。
ついでに馬も首なしだ。
「こんばんは、デュラハン」
「ああ、どうも、どうもー」
デュラハン、簡単に言えば死神である。
死を予告する《夜人》。
「俺っちになんか用かい、ヴァンパイアの旦那」
「いや、旅の途中なんだ・・・《夜人》を見かけたら声をかけることにしてる」
小脇の首が驚いた顔になった。
「もしかしてさぁ、サクスブルー・ダークローズ・アンチアーレス?灼熱と狂熱と焦熱のヴァンパイア」
「ええ、まあ・・・」
「へぇ、もっとごっついの想像してたわ、案外優男なんだねぇ。って俺っちなんも悪いことしてねぇぞ!?」
軽い人だなぁ・・・
「声をかけただけですよ」
「声かけ?声かけ地域運動!?うける!!」
小脇の首がゲラゲラと笑う。
「この国にはほとんど《夜人》がいないみたいですけど」
僕には突っ込み属性はないので無視して話をすすめる。
というかどう返していいか分からない。
「ああ、この国の連中は《夜人》の存在を忘れてるからねぇ・・・俺っちデュラハンは残った、無知も高慢も傲慢も恐れないが、死ぬのだけは怖いらしい、みっともない連中さ」
デュラハンは笑う。
「貧乏人は神様に縋れなくて、裕福なヤツは神を忘れる、人であらぬ者への畏怖も忘れて、楽しく暮らしてる・・・だから死が怖いんだ」
「・・・よく分かります」
「アンタもさぁ『悪い《夜人》』退治なんかしてないで、愚かな人間倒してればいいのにねぇ」
「パワーバランスの問題ですから」
本音とは言い難い、どちらかといえば誤魔化しの言葉をデュラハンは鼻で笑った。
「まあ、どうでもいいや。俺っちには関係ないし」
デュラハンはそう言って再び馬を走らせる。僕もこれで用事が済んだのでデュラハンが行ったのとは反対方向へ歩き出した。
すぐ近くで悲鳴が上がる。
屋敷の戸口で使用人らしき男性が血まみれでしゃがみこんでいた。
デュラハンの予言は的確に行われた、あの屋敷の主人は死ぬのだろう。
遠くでデュラハンの笑い声が響いた。


先程とは違う細い道を行く。あのデュラハンは只のデュラハンだったのでもう用は済んだ。早く馬車に戻りたい。
恒人が紅茶入れて待っていてくれるらしいし・・・
涙ちゃんにどうして来なかったか一応聞きたいし・・・
なんでもいいから、こんな憂鬱な時は早くみんなの顔が見たい。
離れて1時間しかたっていないだろうにそんなことを思った。
これでは僕の方が子供じゃないか。
こちらの道にはガス灯はほとんどないし、人影もなくひっそりしている。
幾つ目かのガス灯の下に来た時、小さな影が飛び出して来た。
「こんばんは!!」
先程の少女よりもっと幼い、10にいくかいかないかといった女の子。
ボロを縫い合わせたワンピースは煤けていて、身体は痩せ細っている。
「こんばんは!!」
しかし少女はそんな痛々しい身なりを吹き飛ばすように明るい、蒲公英のような笑顔で言った。
「・・・こんばんは」
思わずそう返す。
「私、ユーキって言います!」
名乗られた。どうしよう。
というよりこの子は大丈夫なのだろうか、夜道でいきなり見知らぬ・・・こんな露骨に怪しい男に声をかけるなんて。
ユーキは満面の笑みで僕を見上げている。
そこには邪気の欠片もない。
「お兄さんはヴァンパイアですよね!!」
いきなり正体を当てられ、さすがに僕も警戒する。
まあ、僕のヴァンパイアとしての弱点なんて日光ぐらいなものだけれど、あとは銀の銃弾はちょっとまずいけれど、こんな小さな子が発砲できるような拳銃は今のところ開発されていない・・・はず。
「だって瞳がルビーみたいに真っ赤だし、黒い服を着ているもの!」
ユーキは得意そうに胸を張る。
なんだ、偶然当てられただけか。
「残念だけど俺はヴァンパイアじゃないよ・・・」
「嘘!だって貴方、影がないじゃない」
ガス灯の下、白い光の中でユーキの影は黒く伸びているけど僕の影はない。
僕に影はできない、鏡にも映らない、見抜かれているらしい。
目が赤いことはいくらでも言いわけができるけれど、影ができないことを誤魔化す言葉はない。
「そうだよ、俺はヴァンパイアだ」
久しくやっていないけれど、脅かしの言葉でもかければ幼い少女だ、勝手に逃げてくれるだろう。
しかしユーキの口から飛び出したのはとんでもないことだった。
「お願いがあります!私をヴァンパイアにしてください!!」
その眩しい笑顔に眩暈がした。
貧血ってきっとこんな感じだと馬鹿なことを思った。
気を取り直し、咳払いしてから言う。
「貴様はヴァンパイアになるということがなにを意味するのか分かっているのか?」
口調を変えてみた、引いてもらうためだ。こんなところ大城君や涙ちゃんに見られたら笑われてしまう!
「不老不死になれるんでしょう?」
「呪われた身体で永劫の時を生きるのがどれほどの苦痛か考えたことがあるのか」
「食べるものに困って雑草を煮込んで食べたりしなくていいじゃない」
「我らにも飢えの苦しみはある」
「でも強くなれる!」
「強さを手に入れてどうする?」
ユーキはやはり蒲公英みたいな笑顔のまま言う。
「私の友達にね、すごく足の早い子がいたの、男の子だったし私からみればすごく強い子だったわ。風みたいで誰にも捕まらないって思ってた。街で泥棒をやってたのよ。私にも時々食べ物を分けてくれた。でもねやっぱりダメだった、一ヶ月前に盗んだものを持って逃げる途中、大人に囲まれて棒でいっぱい殴られて死んじゃった」
笑顔のまま、無垢な笑顔のまま、話は続く。
「私それを見てたけど、怖くて助けに行けなかった。だから私ヴァンパイアになりたい。なってあいつらみーんなやっつけてやるんだ!」
子供じみた夢だと、僕が笑えるのだろうか。
彼女の言うことを切って捨てることはできなかった。
正しくはなくても、真っ直ぐだった。
「もうお父さんとお母さんはいないの。お姉ちゃんはね、私と5つしか違わないけど、男の人に身体を売ってる。私を食べさせるために。私がヴァンパイアになったらお姉ちゃんそこまでしなくてよくなる、私がいないほうが少しは楽になるはずよ」
「姉と別れることは辛くないのか?」
「辛いよ。でもお姉ちゃんが私に同じことさせたくないって我慢してるほうが辛いもん。お客さんに殴られて痣だらけで帰ってくることもあるのに、私がいるからやめられないんだ。あんな怖くて危ないこと・・・」
ユーキの表情に陰りはない。笑顔のままだ、まるでそれ以外の表情は知らないかのように、笑っていなければ消えてしまいそうに。
それでも僕は、彼女の願いを叶えることはできない。
「残念だけれど君の願いをきくことはできないし、その願いを諦めることをすすめるよ」
「どうして?」
「強くても、不老不死でも、どんな力を持っていても、生命である限り生きることは苦痛に満ちている・・・この世界に天国なんてない、全てが地獄だ。ならば復讐に走るより愛する人の傍にいてやることだよ・・・それだけが安らぎなのだから、君の姉がそうであるように」
僕は姿を変える、蝙蝠になって飛翔する。
月の方へと飛び立つ。
遠ざかるユーキに駆け寄る影があった、僕が指輪をあげたあの少女だ。
「君のことは救ってあげられない、でも君はヴァンパイアにならなくても君の愛する人を救う力があるはずだ」
僕の声にユーキとその姉が顔を上げる。
「・・・だから、生きるんだよ」
もう下は見ない、ただ月へと向かう。
彼女たちの幸せを願うことしかできない僕は、僕の場所へ帰る。




「浅葱さんお帰りなさい!」
馬車の傍にいくと恒人がそう微笑みかけてきた。僕は元の姿に戻って言う。
「ただいま・・・」
英蔵君は僕が突然現れたのでまた驚いているようだった、いつになったら慣れてくれるのだろうかと思いつつ、リアクションが面白いので半ばわざとやっているんだけど。
「おかえり〜なんかあった?」
馬車の上に座った大城君も笑って手を振っている。
「特になにも、デュラハンに会っただけ」
「デュララ・・・」
「大城さんっ!次元を超えてボケるのはやめて下さいってば!」
突っ込みで正気に帰った英蔵君も笑う。
「お帰りなさい」
「ただいま、良い匂いするね」
「前の街で買ったローズティ入れてるんですよ」
小さな焚火の前に座る、寒暖はさほど気にならないけれどこういう火を寒い中で見ていると芯から温まるように思えた。
「あ〜浅葱君おかえり〜。ツネ、俺にも紅茶ちょーだい」
「はーい」
涙ちゃんが馬車から出てきた。
「涙ちゃん、今日はどうして来なかったの?」
「ああ、昼間うっかりずーっと本読んでたから眠くて。なんや浅葱君俺がおらんで寂しかったんか〜ごめんなぁ」
涙ちゃんはにんまり笑って俺の隣に座った。
「そうだね、寂しかった」
「ごめんごめん、もう一人で行かせないから」
よしよしとばかりに俺の背中を撫でる涙ちゃんに思わず笑ってしまった。
みんなで紅茶を飲みながらとりとめもない話をしているうちに、心は和らいでいく。
蒲公英みたいな笑顔の少女、あの子に夜の世界は似合わない。
僕もみんなも、あんな風には笑えないから。
だからどうか、太陽の下で笑っていて欲しい、地獄に等しい世界でも愛する人がいるのなら安らげるのだから。



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