ドウタヌキ?


花あかりの人


花あかりの人



俺がさ、小学校の時の話なんだけど。小学校の低学年・・・いや中学年ごろかな?この《中学年》って言い方って全国区?え?うん、そうだね、そこはどうでもいいんだ。
そう、そうだよ、だから3年生か4年生の頃だったと思うんだけど。いや、この歳になると小学校時代の記憶なんてほとんどないけど、小学校に通ってる頃なんてあんまりにも長いから永遠に小学校に通ってるんじゃないかと思ってたよ。そ、そっか俺だけか。
だから俺がえっと・・・あ、そうだね!8歳か9歳の頃だよ。
じゃあツネはまだ2歳とか3歳?可愛かっただろうね、今度写真とか見せてよ。
・・・え?金取るの!?
そっか冗談か〜!当たり前ですってそんな冷めた目でみないでよ、見せたくないならいいよ、言ってみただけ。いや、見たいけどね。
うん、それでその頃にさ・・・親戚の家に遊びに行ったんだ、初夏だったけど夏休みではなかったから7月の頭かな?
夜に行ったんだ。泊まりでもないのに子供が夜に遊びに連れて行ってもらえるなんて初めてでさ、すごいテンション上がったんだけど、大人達はずっと喋ってていつまでたっても帰らないの。そもそもなんで行ったのかもわからないし、眠くなってきたし、「帰ろう」って言っても「もうすぐ良いものが見れるから」って言ってさ・・・
それで何時頃だったかは分からないけど、子供にしちゃあ遅い時間だよ。親に連れられて裏庭に出たんだ。
窓を開けたら、ふんわり甘い香りが庭中に広がっててね。親戚の伯父さんが部屋の電気を消して、暗くなった庭に白く輝いているものがあってさ・・・不思議に思って近づいていったら大きな白い花なんだ。このくらい大きかった。そうだね、俺の顔ぐらい。
花弁がいっぱいあってそれが幾重にも重なっててさ、甘い匂いがして・・・闇の中で静かに光を放っているみたいに浮かび上がってるんだ。
白い花がぼんぼりみたいに淡く輝いて、甘い香りが満ちて、本当に綺麗だったんだよ。


野外撮影の休憩中。長引いたためすでに日は落ちている、衣装だと寒い。
そんな中、突然そんな話を始めた英蔵を恒人は怪訝そうに見返した。
「ええ、それでどうしたんですか?」
「ん?話終わりだけど」
オチはないらしいがいつものことだ。要領を得ない、要点がまとまっていないのもいつものこと。
「あ、でもさ・・・その花の名前は思い出せなくて・・・」
「月下美人じゃないっすかね。夜に咲く、白い大きな花って言ったら・・・たぶん」
「そっか、月下美人かぁ〜」
一人満足したように頷く英蔵に恒人は首を傾げる。花の名前が知りたかったのなら浅葱に聞く方が得策だし、それだけならばあんな長い前フリはいらない。
「で、なんで突然そんな話を始めたんですか?」
「ん〜、さっきさ・・・ツネ・・・向こうの暗がりに立って一人で空見てたじゃん」
確かにやっていた、ちらっと星を見ただけのことだ。そしてそれがどうしたと言うのだ。月下美人の話となんの関係もない。
呆れ顔の恒人に英蔵は微笑して言う。
「そのツネを見てたら思いだしたんだ、今のこと」
「・・・・・・・・・今のこと?」
恐らく英蔵の言葉が足りなかったか自らの理解力が正常に働いていなかったのだろうと思い、恒人は言葉を反復する形で聞き返す。
「だからさ、子供の頃に見た月下美人のこと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?なんでっすか!?」
理解力は正常に働いていてくれたらしいが、この場合に限っては働いていなかったため意味を取り違えたのだということのほうがよかった。
眉間にシワを寄せて大声を出した恒人に英蔵は頭を掻く。
「いや、ツネって色が白いし・・・闇の中に浮かんで光ってるみたいにキレイだったからさ・・・思いだしたの、うん」
「・・・・・・おつかれさまで〜〜す」
冷めた目で英蔵を一瞥してから恒人は背を向けて離れていく。
「え〜!?別に変な意味じゃなくて、只単に思いだしただけだよ〜?」
その後をおたおたと英蔵が追いかける。
「なんか変なのがついてくる〜!」
「変なのとか言うなよ〜!」

その様子を見ていた他三名は笑い出すのを必死で耐えているような顔で視線を交わし合った。
「でも、英蔵君が見たのは《花あかり》だね。夜桜が有名だけど、月下美人でもあるのか・・・」
ある意味、持ち直しの早い浅葱の言葉に大城が飲んでいたコーヒーを吹き出しかけ、すんでのところで飲み込んで咽せた。
「浅葱君、ズレツッコミなんて高等なことをやるなぁ・・・」
「るいちゃんなら分かってる通り天然だよ、浅葱君のは」
大城、全力で苦笑。
「でもそうか、ツネってイメージ的に月下美人かもしれないな、月下美人の花粉ってコウモリが食べるんだよ、ということは俺が・・・」
「浅葱君、撮影長くて疲れてるのは分かるけど急に変なスイッチ入れないで・・・」
コウモリをイメージした衣装をひらひらさせて笑う浅葱の肩を大城が叩いて止める。
「ツネが月下美人なら俺のイメージは〜!?」
「るいちゃんは向日葵かなぁ」
「・・・・・・おつかれさまです」
大城がお手上げとばかりに肩を竦めて二人から離れていった。



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