ナイショ!
ナイショ!
D編
「困ったね・・・」
「困りましたね」
そんなことを言い合う浅葱と恒人、が不思議なことに「困ったね」と言ったのが恒人で「困りましたね」と言ったのが浅葱だ。
「いやあ、まさかぶつかった拍子に中身が入れ替わるだなんてことが現実に起こるとは驚きです」
そう言って感慨深げに唇を撫でる浅葱・・・中身恒人。
「だよね、なんだかこう・・・目の前に自分がいるというのも不思議な心持ちになるよ」
と恒人・・・中身浅葱。
「厚底履いてるみたい、と思ったら身長の問題でしたか〜。しかし困りましたね、このままだとベースが弾けないし歌えませんよ」
「だよね、身体の感覚では覚えてるかもしれないけど、技術とか歌唱法は記憶の問題もあるし・・・いや、それ以前の問題かな?う〜ん、みんなに相談してみようか」
「そうっすね」
ちなみに浅葱の自宅である。
いきなり電話では信じてもらえないだろうと浅葱の携帯からメールでとりあえず来てくれるように連絡して待つ。
「浅葱さんの視界から俺を見るとこんな感じなんですねぇ・・・」
「ああ、ツネの視界から俺を見るとこんな感じなんだよね・・・なんか照れくさいなぁ」
「はは、そうですね〜」
そしてやってきた他三名。
「入れ替わった・・・ねぇ・・・」
「そうなんっすよ、大城さん!びっくりでしょう!」
と、浅葱(中は恒人)に詰め寄られて大城は引きつった顔。
「てか大城さんと高さが同じだ〜!すげぇ!」
「すごいね、色んな意味で・・・」
「というわけなんだよ、涙ちゃん」
と、恒人(中は浅葱)に言われて涙沙はこめかみを押さえる。
「なんや微妙な気分やけど、えらいことになったなぁ」
「信じてくれるんだ?」
「だってツネはともかく、浅葱君にツネの口まねなんて器用なことできんやろ」
「ああ、確かにね」
と穏やかに微笑む恒人(中は浅葱)に涙沙は少し引いた様子。
「早く元に戻さないといけませんよねっ!」
英蔵が力んで言った。
「戻すったってどうやればいいんですか?」
浅葱(中は恒人)に小首を傾げてのぞき込まれて英蔵、フリーズ。
「キスすりゃ戻るんじゃねぇの」
さらりと言った大城に両側から何かの力が飛んでくる、正確には涙沙と英蔵から何かの力が来る。
「・・・・・・」
後ろに下がってみた。やっぱり何かの力が来ている。
「ちょ、涙ちゃんも英ちゃんも・・・冗談で言ったんじゃんか、やめてよ」
「は?俺なんも言ってないで」
「俺もなにも言ってませんけど」
やっぱり飛んでくる何かの力。
「・・・・・・ま、それは冗談として!!ぶつかったら入れ替わったんだっけ?」
追いかけてくる何かの力から逃げるように部屋を歩き回りつつ、大城は仕切りなおす。
「そうなんっすよ〜。漫画みたいですよね〜!」
はしゃぐ浅葱(中は恒人)を隣にいた英蔵が困った顔で見上げる。
「・・・あさ、じゃなくて、えっと、ツネ?」
「どうしたんですか、英蔵さん。ってか英蔵さんの位置が俺より低い〜!」
けらけら笑いながら頭を撫でられ、完全に固まっている英蔵を見て、涙沙が大城に耳打ちする。
「さっさと戻さんと英蔵君がどうかなるで?」
「ものすごい勢いでMP削られてるよな、あれ・・・」
「俺もなんちゅーの、違和感が酷くて酔いそうなんやけど」
「ああ、口調云々より表情がまったく別物だもんな、違和感が凄い。ねぇ浅葱君」
「ん、大城君なに?」
と見上げてくるのは恒人(中は浅葱)で、一瞬対応に困る。
表情如何で印象はかなり変わる、妙に大人っぽく見える恒人(中は浅葱)に、どう喋っていいか分からない。
「いやあ・・・ぶつかっただけで中身って入れ替わるものかな?」
「だって事実、俺は浅葱だからね。可能性としては脳に受けたショックでお互いに『入れ替わった』と思いこんでるっていうのもあると思うんだけど・・・一応、お互いの口調や癖は知ってるんだから、無意識にマネている、だとかね。でも俺は、この場合は浅葱としての記憶がちゃんとあるから。う〜ん、魂があるってことを前提に言えば魂が入れ替わったと言えばいいのかな」
「あ、浅葱君・・・ツネの姿でそういうこと喋られるとなんか不思議な気持ちになるんやけど」
「自分でも妙な具合なんだよ、声も違うし・・・あと妙に身体が軽くて・・・これって歳の問題かな、体重の問題かな・・・」
涙沙に言われて物憂げな顔をする恒人(中は浅葱)。
「元に戻す方法か〜『転校生』だと石段転げ落ちたんだっけ?」
「それ俺が生まれた頃の映画ですよね〜」
と浅葱(中は恒人)に言われ、大城は一拍置いてから頷いて笑った。
「あ、そっちがツネちゃんだった、生まれた頃だよねぇ・・・」
「入れ替わりモノっていうと『ないしょのココナッツ』とかが浮かびますよ〜。あれはくしゃみすると入れ替わる話でした」
「あ、えっ・・・と、ツネ!?」
きょどる英蔵にわざと拗ねた顔でぐいっとのぞき込む浅葱(中は恒人)。
「だ・か・ら。俺が恒人でいいんですってば!」
「だ、だ、だって姿は浅葱さんじゃん・・・か・・・」
赤面して逃げようとする英蔵の腕を掴んで、悪戯っぽい笑みを浮かべる浅葱(中は恒人)に英蔵はますます赤面する。
「普通にしてくださいよ、ほら、人間中身が大事って言うじゃないですか〜」
「それはこの場合には適応されません・・・ってば〜!」
これはこれである意味楽しそうにも見えるが。
「てか英ちゃん、何か言いかけたんじゃないの?」
「あ、そうだった。で・・・ツ、ツネ!その漫画ではどうやって元に戻ったの?」
唇を撫でてむ〜っと考え込む浅葱(中は恒人)、違和感が半端ではない。
しかしなまじ綺麗なのでこれはこれで様になるというか妙に可愛らしかった。
「あ!キスしたら元に戻りました、その漫画だと!」
「やっぱりメジャーな方法ではあるんだよね、一応試してみる?」
さらりと言った恒人(中は浅葱)を涙沙が止める。
「ちょお待った!ぶつかって入れ替わったんやからもう一回ぶつかったほうが確実やろ?」
「だって恒人の身体に傷をつけたくないじゃない」
「俺も浅葱さんに痛い思いはさせられません」
「キスはええんか、キスはっ!」
「自分とのキスなんてカウントに入らないよ」
「ですよね、頭衝突させるよりはましですよ〜」
涙沙は軽くため息をついて大城に目配せ、大城は頷いて浅葱(中は恒人)の腕を掴む。
「え?どうしたの?るいちゃん」
涙沙は恒人(中は浅葱)をがっちりホールドする。
「う〜ん、見た目も感触もツネとはいえ浅葱君を押さえ込めるなんてなんか新鮮や」
「ちょ、大城さん!なんですか!なんか歩幅やななにやら違って動きにくいんであんまりひっぱらないで下さいよ〜」
「ツネちゃん、いつも見ているアニメの主人公とヒロインの声優が入れ替わって放送されてたらどう思う?」
大城に引きずられながら浅葱(中は恒人は)怪訝そうに言う。
「めっちゃ違和感を覚えると思いますけど・・・」
「俺らが今!まさに!その気分なのよ!と、いうわけで・・・」
「悪いけどもう一回ぶつかってなっ!」
がつん。
「大城さ〜ん!ひどいですよ〜!」
そう言ったのは涙沙に押さえ込まれた恒人で、しばし間を置いて「あ!戻ってる!」と叫んだ。
「本当だ・・・戻ってる・・・」
ぶつけた頭をさすりつつ浅葱も言う。
「はい、戻った戻った、解決!」
「あ〜!人間は違和感で酔えるちゅーことが分かったわ」
すっきりした顔の大城と涙沙はハイタッチ。
「しかし・・・」
恒人は自分の体を確認するように軽く叩いてから浅葱を見る。
「前から一度、浅葱さんの視点で世界を見てみたいと思ってたんですけど、あれは視界であって視点ではないんですよね〜」
「うん?」
緩く笑む浅葱に恒人も微笑む。
「どんな風に見えるのかな、って。でもまあ、貴重な経験でした」
「そうだね・・・あれ?英蔵君どうしたの?」
まだ固まったままの英蔵に浅葱が声をかける。
「い、いや、もうどうしていいやら・・・やっぱ二人はそのまんまが好きです」
「ツネ、俺達英蔵君に告白されてるよ〜」
「ははは!ありがとうございます」
「告白って・・・まあいいですけど、事実だし・・・」
今度は全員揃って笑った。
ムック編
「いってぇ・・・」
事務所の廊下。遅刻しそうになり早足で進んでいた逹瑯は角を曲がった瞬間、誰かと思いっきり衝突してしまい、蹲ってそう唸った。
「ってぇ・・・ああ、悪い」
ぶつかった相手を確認しようと顔を上げて、上げた状態で固まる。
何故、自分が目の前にいるのだ?
そっくりさん?
目の前にいる《逹瑯》は目を細めてこちらをしばし見つめてから、頷いた。
「オマエ逹瑯か?」
「逹瑯かって俺は逹瑯だよ!そっちは・・・」
「誰だよ?」と言いかけて気づく、その口調はやけに耳馴染んだもので、逹瑯は慌てて自分の体を見る。やはり見覚えのある、小さいがしっかりした体躯が見えた。
「ま、まさか・・・ミヤ君!?」
「そうだ、どうやら入れ替わったらしいな、俺達」
「・・・・・・らしいなって」
「おい、さっさと行くぞ。遅刻する、この問題は後回しだ」
と、冷めた目で睨め付けてくる中身がミヤの自分に、ミヤの姿の逹瑯はため息をついて言った。
「この問題が遅刻より下位なのかよ!!入れ替わったらしいなってなんでこんな状況一瞬で受け容れられんの!?あと反則承知で言わせてもらえば上の五人っ!入れ替わったことに対するリアクション薄すぎんだろ!!むしろなんでちょっと甘酸っぱい空気になってんの!?今からでもいいから上のターンに乱入したいつーの!!10箇所ぐらいツッコミどころあったべっ!!・・・ってかミヤ君の姿だと上手く喋れない!舌が回らないし、声も通らないっ!」
「・・・行くぞ」
「じ、自分にスルーされるとショック倍増・・・」
いかに自分の体に入っていても中身はミヤ、それ以上の反論はできずにメンバーが待っているであろう小会議室へと急いだ。
「ミヤ君歩幅狭すぎ〜!」
「コロスぞ」
小会議室。既に到着していたリズム隊は扉の開く音に顔を上げた。
「あ、たつぅおはよ!」
「おはよう」
ユッケが明るく挨拶するが逹瑯は暗い声でそう言って視線も合わせず鞄を置く。
「なんだ、逹瑯機嫌悪いんか?」
「お、俺なんもしてないよ!?」
動揺するリズム隊のところに「おはよーございまーっす!」とテンション高く入って来たのはミヤ。
「おーーっす!ユケツ!オマエなんだ昨日のブログ!夜中に笑わせんじゃねぇべ!」
ミヤにげらげら笑いながら肩を叩かれ、ユッケは驚きを通り越してノーリアクションだった。
「ああ?なにおめぇ無視してんだよ?」
「え、いや、どうしたの・・・?」
「はぁ!?」
拗ねた顔で見つめてくるミヤにユッケはそれ以上言葉が出てこない。
逹瑯は椅子に座ったまま憮然とした表情。
これではまるで・・・
サトチが派手な音をたてて立ち上がり、まずミヤの匂いを嗅いだ。そして移動して逹瑯の匂いを嗅ぎ、叫ぶ。
「ユケツ!!!おかしい!!!逹瑯からぐっちゃの匂いがしてぐっちゃから逹瑯の匂いがするっ!!!」
「ああ、さっきぶつかった時に中身が入れ替わっちまったんだよ」
逹瑯(中はミヤ)に言われてサトチは笑顔で頷いた。
「なんだそっか!ならいいや!」
満面の笑みで席に戻って数秒、サトチは首を傾げる。
「あ、あれ!?よくないのかこれ!?」
とユッケに聞いた。ユッケは机に頭を叩きつけて唸る。
「つ、ツッコミどころが多すぎて、もうなんて言っていいか分からない」
「おい、ヤス!おめぇなんの匂いを嗅ぎわけたんだよ?」
ミヤ(中は逹瑯)に聞かれてサトチはさらに首を傾げる。
「ん〜。なんかよく分かんねぇけど、匂いが違った!」
「・・・ってゆーか本当に入れ替わっちゃったの、えっと、たつぅ?」
横に立っているミヤ(中は逹瑯)に問えばにんまり笑われた。
こういった意地の悪そうな笑みをミヤが浮かべることはないので鳥肌が立つ。
「入れ替わった!しかし隠しとくつもりだったのによ〜、まさか匂いでバレるとはなぁ」
「隠す気ゼロだったじゃねぇか!!!」
ユッケ、思わずキャラ放棄ツッコミ。
「あ、そっか。俺はミヤ君の喋り方しなきゃダメなんだ・・・おい、優介!パン買って来い!」
「い、いや、俺べつにミヤ君にパシられてないよ!?」
「俺はそんなんじゃねぇよ」
逹瑯(中はミヤ)が睨め付けてくるが、鬼目に比べれば迫力に欠ける。
しかし何故か逹瑯の姿でミヤの態度を取られると、言いしれぬオーラが出ていた。
というか異様に格好いい。やはり中身は大事である。
「てかミヤ君の身体だとすっげー視界が低い!ミヤ君、俺は背が高いから変なとこで頭ぶつけないように気をつけてよね〜!」
そしてこちらは『軽薄なミヤ』というとんでもないものが出来上がっていた。
「ユケツ〜!俺なんか怖い・・・」
「さとーが動物的本能で恐怖を感じてるよ・・・」
縮こまるリズム隊をよそにハイテンションのミヤ(中は逹瑯)はその背中を叩き、笑いながら言う。
「てか今俺がリーダーじゃん!リーダーだぞ!ミヤ君だべ!言うこと聞くよなぁオマエら!」
それをむっつりとした顔で見ていた逹瑯(中はミヤ)がゆらりと立ち上がり、ミヤ(中は逹瑯)の肩を掴んだ。
「逹瑯・・・」
「あ、ごめ・・・」
「歯を食いしばれ」
がつっっっっっん!!!!
と身長差のため、振り下ろす形で逹瑯(中はミヤ)が頭をミヤ(中は逹瑯)に衝突させた。
「いってぇぇぇぇぇぇ!!!」
と叫んでのたうちまわっているのは逹瑯でミヤは軽く頭をさすりながら「戻ったな」と一言呟くと席に戻った。
「なにすんだよ!ミヤ君の石頭!!」
喚く逹瑯にミヤは淡々と言う。
「石頭?柔軟かつ合理的に考えた結果だ。俺がオマエの姿でギターを弾くことはできない、手の作りやら感覚の問題があるからな。かといって歌うのも無理、俺だってそこそこは歌えるが、やはりムックの歌はオマエが歌わなければ意味がない。それはオマエ側からしても同じことだ、となればさっさと元に戻る必要がある、だったらもう一回頭をぶつける方法が一番的確だ・・・なにか問題があったか?」
「石頭ってそーいう意味で言ったんじゃねぇよ!!つーか言うほど合理的でもないよ、このド天然リーダーっ!!!」
「あと、オマエの声はやっぱり・・・こっちから聞いていたいからな。オマエの中に入ってると声が違って聞こえるから」
さらりと放たれたのは殺し文句としては充分で、逹瑯はリズム隊二人の肩を掴んで倒れ込んだ。
「も〜!ミヤ君にはかなわないよ・・・」
「たつぅ今更なに言ってんの?・・・というかマジな話、さとーはいったい何の匂いを嗅ぎ分けたの?」
ユッケに怪訝そうに問われて、サトチは百点満点の笑顔で言った。
「俺にも分かんねぇけど、匂いは違うべ!!」
「ある意味シックスセンスなんじゃねぇか、脳の足りない部分を補ってんだべ」
「おお!俺すごいな!」
「さとー・・・今、馬鹿にされたんだよ・・・」
今日もムックは平和です。
ディルアングレイ編
「ありえへん・・・」
呆然と呟く堕威に京が快活に笑って言う。
「まあなってまったもんはしゃあないて!歌やらギターやらない時期でよかったやん」
ここまでくれば説明不要だろう、堕威と京が入れ替わってしまったのだ。
「おっさん気楽に言わんといてくれる?」
堕威(中は京)は一瞬視線を上げ、それからはたと気づいて視線を下ろして京(中は堕威)を見た。
「しっかし京君ってやっぱ背は低いけど身体しっかり鍛えてあるから動きやすいわ〜」
京(中は堕威)はその場で軽くアクションをとりつつ笑った。
「ちょ、俺の身体で暴れんといて・・・」
「ええやん、別に傷つけるわけでもないし」
「そういう問題とちゃうわ、自分の服を他人に着られてるみたいで気持ち悪いねん」
「ほんま変なとこ神経質やなぁ京君は!」
「堕威君がシンプルすぎるんやろ」
堕威(中は京)は堕威が中に入った自分の体を見下ろして渋い顔。童顔の京がやれば可愛げがある表情も、今は堕威の中にいるため只の凶悪面であった。
快活に笑う京、というのも違和感があるものではあったけれど。
「ええかげんにせんとこの身体に刺青入れまくるからな・・・」
「ちょ、しゃれにならんこと言うなや!」
「つーか酒飲みすぎとちゃう、なんか身体が重いんやけど」
「はぁ!?それは身長差の問題やろ、人の身体に難癖つけんな!」
ぎっと睨み合うが、睨んでもその先にあるのは自分の顔、馬鹿らしくなって視線をそらしため息をついた。
「おはようさん」
背後から聞こえてきた薫の声に二人は同時にふり返った。薫はきょとんとした顔で長い前髪の奥から二人を見つめ、さらりと言った。
「なんで堕威の中に京君が入っとって京君の中に堕威が入ってんの?」
・・・沈黙。
「え、ちょお薫君なんで分かったん!?」
慌てる京(中は堕威)に薫は不思議そうな顔をする。
「はぁ?当たり前やろ、何年つき合ってると思ってるん」
「・・・薫君」
感動する堕威(中は京)の肩を薫は笑って叩いた。
「なんか変な感じやなぁ、仕事始まるまでに元に戻っとかなあかんで」
「うん、分かった」
素直に頷く堕威(中は京)。絶妙な光景だ。
そうして去っていく薫の背中を見送ってしばらく、我に返ったように京(中は堕威)が言う。
「ってなんか、すごい軽く流されたけど、おかしくないか?」
「薫君がおかしいのは元からやしなぁ。俺、のどかわいたからジュース買ってくるわ、堕威君は?」
「いや、おれはええちゅーか・・・ジュース飲んでる場合でもない気が・・・」
既に自動販売機の方へ歩き出した中身が京の自分を見て「どんだけマイペースやねん」と京(中は堕威)は地団駄を踏んだ。
「だいたい京君が気楽に言うなとか言っといてなんやねん、ほんま・・・」
しかし、興味があることが一つだけある。
一度でいいから京の姿で歌ってみたいと思っていたのだ。
「う〜んでもいざとなるとなぁ・・・ホイッスルボイスとかガテラルボイスとかどうやって出してんのか知らんし・・・下手なことやって喉にダメージ喰らわせたらことやからな・・・」
などと思っていると、またも後ろから声をかけられた。
「京さんおはようございますっ!」
そう勢いよく挨拶してきたのはメリーのボーカル、ガラ。京を尊敬してやまない骨っぽい後輩は目を輝かせて寄ってきて、ぴたりと足を止めた。
「あれ・・・?京さんじゃない・・・ですね」
「・・・京君!ちょお戻ってきて!オマエの義弟なんか怖いっっっっ!!!!」
「なんやねん、うっさいなぁ。おお!まこやん!元気か?」
「はいっ!元気です!京さんもお元気でしたか!」
そりゃあ中身は京だが姿は堕威なのに当たり前のように対応するガラに、京の姿の堕威は心底ビビって一歩下がった。
「見てのとーり、なんか知らないけど堕威君の中に入ってまってなぁ・・・」
「それはその・・・なんと言っていいのか・・・」
悲痛な面もちのガラに堕威(中は京)は微笑んで言う。
「まあなんとかなるやろ、多少変な気分やけどなぁ」
もはやツッコミすら入れられずに京(中は堕威)はぼんやりその光景を見ていた。
その後、定番通り頭をぶつけて元に戻った二人は、打ち合わせ用に取ってあった部屋に行った、時間はぎりぎりだ。
「お、ちゃんと元に戻ってきたな〜」
「はは、子供やないんやから、ちゃんとできるて!」
「もう突っ込む気力もない・・・」
すっきりした顔の京と憔悴した様子の堕威に心夜が淡々と言った。
「なんや、そのままで来たらおもろかったのに」
「え!?二人が中身入れ替わってたんだよね!?なにこの軽く悪戯しちゃったけどちゃんとかたづけてきたよお父さん!みたいなノリは!?」
焦る敏弥の肩を心夜が軽く叩く、微細だがおそらく嘲笑と思われるものを浮かべて。
「敏弥、まだこのメンバーに常識求めてるんか?」
「・・・・・・なんかもう根本からおかしいけど事実なのがイヤだ」
敏弥は脱力して、笑った。
- 19 -
*前次#
ページ: