表現者達の凱歌2
表現者達の凱歌
邂逅、と呼ぶにはいささかこの空気は緊張感がありすぎるだろうか。この二人が向かい合って座っているのは、言うなればサイコロを振ったら3回立て続けに一の目が出たような、いや3回続けてサイコロが割れてしまったような、そんな偶然だ。
確かに両者とも東京を住処としてはいるが、東京という街の人口密度を考えれば天文学的確率といえよう。
などと大仰に書きだしてはみたが、簡単に言ってしまえば接点はないが同業である二人が都内某食事処で向かい合って座っているだけのことである。
ディルアングレイのボーカリスト京と、Dのボーカリスト浅葱。
二人掛けの席に向かい合って座っているのだ。
なんのことはない、店が混んできたからという理由の相席である。
両者とも礼儀正しい性格であるのできちんと挨拶はしたが、両者とも人見知りであるため、その後の会話はない。
そもそも騒がしい場所を苦手とする京が外食することが稀有なので天文学的確率なんてレベルではないのかもしれないが。
計算しきれないほどの数値の偶然が起こってしまった。
京も浅葱も妙に引きが強いところがあるのでほかっておいたら隕石ぐらい落ちてくるかもしれない。
さてここで改めて両者を見てみれば驚くほど共通点がないことに気づくだろう。
ボーカリストであるという以外の共通点が上げられない、どちらもバンド内での表現面のキーパーソンではあるが、京がその「表現」に終始しているのに対し、浅葱は実質リーダーでメインコンポーザーだ。
外見面においても(両者とも只者じゃないオーラを放っているので周囲の席から多少注目されていた)、京が小柄で童顔であるのに対し、浅葱は長身で大人びていた、年齢的にはさほど差はないのだけれど、キャリアでいくならば京が遥かに上をいく、メジャーデビューから数えた場合ではあるが。
沈黙が流れていた。
相席をしなければならないほど混んでいるだけのことはあって注文の品はなかなか運ばれてこない。
「・・・・・・なぁ」
と口を開いたのは京だった、彼なりの気づかいらしい。
「本物と偽物の違いってなんやと思う?」
が、放たれたのは雑談には重すぎる内容だった。
浅葱は少しだけ困ったように首を傾げ、しかしさすがと言うべきか自然な風に答える。
「違いはない、と思います」
「・・・理由は?」
「この世のあまねくものが本物であり偽物であるからです」
「・・・観測する者の判断ってことか?」
「ええ、たとえ天然のダイヤと人工のダイヤであっても、それが本物か偽物かは持ち主が決めることだと、そう思います」
京は少しだけ笑った、しかしそれは親しい者しか分からないレベルの微笑であったため浅葱には「笑った」というようには通じなかったが。
「ナントカ鑑定団って番組・・・あるやろ、見たことある?」
「・・・数回程度ならばありますよ」
「どう思う?」
「教養番組としては面白いと思いますね」
こちらはしっかりと微笑む浅葱に京は目を細める。
「模範回答が自分の回答である部類の人間なんやね・・・えと、浅葱君て」
「恐縮です」
京なりの褒め言葉であったのだかそれをちゃんと褒め言葉として受け取れた浅葱もたいしたものだろう。
今度は第三者にも観測できるレベルの笑みを浮かべて京は続ける。
「時に金銭には代えられない物も山ほどあるんやな、と俺は思った。だったら何故金額をつけるんやろな、とも思った」
「ええ、俺もそう思いますよ」
「ところでやけど・・・浅葱君にとっての金に代えられない宝物ってなに?」
「もちろんバンドのメンバーですよ、国家予算積まれても渡しません」
即答する浅葱に京は今度こそしっかりと笑顔を見せた。
「アメリカの国家予算でも?」
「289兆円より価値、いえ価値なんてものじゃない、珠玉ですよ、価値の付けようがないほと尊い仲間です」
浅葱のキャラクターを知っていればなんとも彼らしい返答ではあったが、京は浅葱をそこまで知らないので少し驚いた顔をした。
「・・・ま、そうやね」
言外に俺のメンバーもそうだと言ってみる。京の性格上、口が裂けても明確に言ったりはしないだろうが。
「じゃあ・・・」と京は浅葱を見上げる、不本意ながら上目使いだがなにせやっているのが京なので可愛くはない、むしろ怖い。
これを可愛いと盛り上がれるのは京に対して夢的なモノを抱いている薫ぐらいだろう、単に慣れの問題かもしれないが。
「浅葱君は自分を偽物だと思ったことはない?」
「ありますよ」と浅葱は微笑む。
「何度もあります。でもその度に、俺を信じて、俺を本物だと思っている人達への裏切りにならぬように、俺もまた俺自身を本物だと信じ、本物であり続けようと思うんです」
そこで浅葱は考えるように目を細めてから言った。
「・・・京さんは?」
「俺の真贋は俺が決める、他の誰にも判断権なんて渡さない、自分の価値は自分で決めるんや」
「なるほど」
納得がいったというように頷く浅葱に京は肩を竦める。
「どっちが強いんやろな、自分を他人にゆだねられる人間と、自分のことは自分で決めなければ納得がいかない人間は」
「どうでしょう・・・それもやはり観測点の違いじゃないでしょうか?」
「白黒つけられないちゅーことか」
「一口に黒といってもそこから喚起されるイメージは多岐にわたりますからね、白も同様です」
両者とも確固たる世界観を持った表現者ではあるが、その中身は全く違う。
浅葱は許し続け、京は否定し続けた。
しかし許しは何かへの否定で、否定は何かへの許しだ。
そういった意味では同一だ。
「・・・浅葱君って面白いな」
京は笑う、その童顔に見合った八重歯をのぞかせる無邪気な笑顔を浅葱に向ける。
「ありがとうございます」
浅葱もまた優雅に微笑んだ。
闇の中の光と光の中の闇が偶然出会った話。
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