hanabi
遠くの空に散る極彩色
ほそほそと音もなく
空の隙間の物語
hanabi
「休憩入れるか」
ミヤのそんな号令に逹瑯はマイクから離れた。
休憩したいと思っていたところだ、ミヤのことだから逹瑯の集中力が途切れたのに気づいたのだろう。
軽くコントロールルームに挨拶をしてから廊下に出る。
扉を閉める時、ミヤは仏頂面のままブースを眺めていた。
だいたい仏頂面なので特に不機嫌というわけでもなかろう、注文が多いのもいつものことで、それでへこたれるほど逹瑯はミヤとの付き合いが短くはない。
廊下の自動販売機で飲み物を買い、ぼんやりしているとミヤも出てきた。
「ミヤ君もなんか買う?」
「ちょっと来い」
逹瑯の質問には答えず、ミヤは顎をしゃくってハンドポケットのまま歩き出した。猫背ぎみのその姿を逹瑯はきょとんと眺め・・・血の気が引いた。
なにをやった?俺、なにをやったんだ!どこでどんな馬鹿をした!?心当たりありすぎてむしろ分からないっ!
戦々恐々といった様子でついて行く逹瑯を振り返りもせずミヤは足早に歩いて行く。そして階段を上りはじめた。
上階は別の人達が使っているはずである、逹瑯はますます怯えながら、しかし逃げるわけにもいかずついて行く。
どんどん上がって行って、少し息が切れる頃、目的の場所に到達したらしくミヤが鉄製の重い扉を開ける。
そして此処まで来れば逹瑯も自分がどこに連れて来られたのかも分かる。
「屋上・・・出れるんだ」
「廊下が禁煙で此処が喫煙所代わりだからな、お前は知らないだろうと思って」
ようやく振り返ったミヤだが無表情なのでなにがしたいかまでは分からない。
むしろ告られるか、シメられるかの二択しか浮かばない逹瑯はそんな自分の脳味噌に感心してしまった。
「いや、告られるってなんだよ!!」
「お前は何を一人で叫んでるんだ?」
思わず自分の脳内に声を出して突っ込みを入れてしまいミヤに呆れられた。
こういうことをするからミヤに変人だと思われているのだけれど、ミヤに変人と言われるのは甚だ理不尽と考えている逹瑯は態度を改める気はない。
ミヤはそのまま柵のところまで歩いていって手招きで逹瑯を呼ぶ、首を傾げながらも逹瑯はその隣に並んだ。
「あそこ・・・あのビルの隙間をずっと視線で縫っていって見てみろ」
ミヤが指差す方に目を凝らす。
星も月もない夜、ネオンでミルクを垂らしたみたいに薄汚く淀んだ空が続いている。
そして、ミヤの言うビルの隙間。
「・・・あっ!」
「見えたか?」
くすりとミヤが笑った。
「見える見える見える見える見える!!すげえ!超すげぇ!」
「内緒のお勧めスポットだ、俺しか知らないし、今年は今日この時間しか見れない」
「ミヤ君すげぇ!俺もすげぇ!」
「お前はすごくねぇよ」
律義に突っ込みながらミヤも柵に手を置いてその先を見る。
そこから見えるのは花火だった。
どこかの花火大会の花火がビルとビルの隙間から奇跡的に見える。
遠くのものなのだろう、そしてまだ車が行き交う時間というのもあるのだろう、花火独特の音は聞こえない。
色とりどりの光は薄い夜空に舞ってきらきらと消えていく。
青が紫が紅が音もなく花咲きそして散る。
「どうして教えてくれたの?こんな良い場所」
「地下活動ばっかじゃ季節も感じられないからな、こーいうの見つけるの好きなんだ」
「あの・・・なんで俺に教えてくれたの?」
「一昨年見つけたんだ、偶々来ててな。今日が花火大会の日だった、見に行こうとしたらお前がいた、そんだけだ」
「そっか、うん、そっかぁ」
にやにやする逹瑯を面倒くさげに一瞥してから、ミヤは花火に視線を戻し煙草をくわえる。
しかし逹瑯が隣にいるからだろう、火は点けないまま香りだけ楽しんでいる。
「すげぇ街明かりだよな」
「うん、そだね」
「この中で何人が俺らの音楽聞いてくれてんだろな」
逹瑯は驚いてミヤを見る、若い頃ならばともかく最近になってそんな物言いはとんと聞かなくなっていたからだ。
「誰にも俺の声なんて届かないと思ってた、俺の考えてることなんて誰も理解できないし、俺も人の気持ちとか全然分からなかった、でも叫びたかったから・・・」
「ミヤ君?」
「聞こえたんだよな、届いたんだよな、少なくとも何人か、何百人か何千人か、地球規模でみたらほんのちょっと、でもそんなに大勢に届いたんだよ。まるで刻んでるみたいじゃないか、生きている証を。俺達の作った音楽が届いた全員が俺達の生きた証じゃないか?あるいは種かもしれない・・・咲けばいい、こんな世界で美しく咲けばいい、咲いた花がみんな俺達の命だ」
珍しく饒舌なミヤに逹瑯はなにも返さない。
言いたいことも伝えたいことも痛いほどに分かったからなにも返さない。
花火大会は終盤なのか金色の光が低い位置でぱちぱち光っていた、スターマイン。
金色の光の上で小さな火の花が咲いては散り、咲いては散り、ネオンの滲みとは違う白を夜空に流していた。
「ミヤ君、ありがとね、良いもの見せてくれて」
「感謝なら花火職人の方々にしろ、土下座しとけ」
「いや、なんで土下座?」
「俺は戻るけどお前はどうする?」
「せめてボケた分ぐらい答えてよ!う〜ん、もうちょいいる」
「喉乾燥させるなよ」
「は〜い」
踵を返して歩いて行くミヤの背中を見送っているとドアを開ける直前振り返って言った。
「ああ、そうだ逹瑯・・・花火で思い出したんだが。お前、今度『hanabi.』歌い終わった後に俺に近寄ってきて得意げな顔したら・・・ギターのヘッドで鳩尾ぶん殴るからな」
「い、今それを言う!?去年の話しだべ!」
逹瑯が叫んだ時にはもう、ミヤは屋上から出ていってしまっていた。
「うっわぁ、マイペース」
呆れながらそう言って、逹瑯はビルの隙間に視線を戻す。
やはりあれがクライマックスだったのかもう花火が上がる気配はない。
火薬の煙もどんどん流されてすぐに何事もない夜空が広がる。
花火は刻めない。
でも人間は刻める。
生きる証を刻むことができる。
逹瑯は夜空を見上げ、思いっきり伸びをした。
「うしっ!歌うぞ!ミヤ君ぎゃふんと言わせちゃる!!」
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