冒険者の憂鬱
―時に人格は現状に勝る
冒険者の憂鬱
目の前にいるのは王様で、どこからどう見ても王様だった。
白い髭をたくわえた、赤い豪奢なマントを羽織った、金色の王冠を被った王様だった。
半ば記号的に王様といったらこんな恰好というイメージがあるのだけれど、はたしてそれはどこで植えつけられたものなのだろうなと思いながら大城は王様を見た。
王様は王様らしい渋い声で言う。
「よく来てくれた、戦士大城よ!」
この時点で突っ込みたいことは20ほどあったが、人の良い大城は黙って頷いた。なんともお城らしいBGMが鳴り響く中、王様は勝手に喋る。
「そなたも聞き及んでのとおり、この世界は今、危機に瀕しておる!」
「いや、今初めて聞いたけど、つーか此処何処ですか?」
「大魔王が復活し魔物達が蠢きだしたのじゃ!」
「のわりには平和な空気ですね」
「こうなれば大魔王を倒す以外他はない!行ってくれるな!」
「・・・・・」
選択肢が「はい」「いいえ」と出てきた。
大城はしばし悩んでから、手首のコントローラーのようなもの(十字キーとボタンが三つある)を操作して「はい」を選択する。
「では頼んだぞ!」
王様は一方的に喋って黙る。
「・・・・・・まったく」
大城は王様の隣にいた、禿頭の口ひげを生やしたいかにも大臣っぽい人に話しかけてみた。
「一人では苦難な道のりになるであろう、冒険者の酒場に行って仲間を集めるがいい。あそこには腕利きの物達がいる」
「腕利きっていうけど、あれだよね?全員レベル1だよね!?」
大城のもっともなツッコミには誰も答えない。大城は深いため息をついて王座を後にした。
「だから冒険者の酒場ってなんなんだっての!」
最近では冒険者達が登録している酒場って設定らしいですよ。
「やっぱ会員制の飲み屋じゃねぇかっ!」
で、冒険者の酒場なわけですが・・・
「俺にはV系集合の宴会場にしか見えないんだが・・・」
様々なV系メンバーが集まっていた、見たところ中堅クラスが上限のようだったが。
「大城さ〜ん!こっちです!」
奥のテーブルで英蔵が手を振っていたのでそちらへ移動、予想通りメンバーが全員集まっていた。
「みんなも王様に魔王倒して来いって言われたの?」
「いえ、主人公は大城さんですから、オレらは此処で待っていただけです。別段オレら以外の人間を仲間にしてもかまいません、ちなみにパーティの上限は6人、ウィザードリィ方式です」
恒人がガイドブックとかかれた本を片手ににんまり笑った。
「オマエら以外を仲間にするわけないでしょ〜!」
その肩に手を回してばしばし叩きながら大城も笑う。
「しかしまあ突っ込みどころは多いけど俺はわりと好きだな〜。だらだらオープニングやられるよりは、いきなり王様に『魔王倒してこい』って言われる方がシンプルでさ」
「ま、どうせ最終目標なんて魔王討伐ですからね、どうでもいい日常ターンを見るのも退屈ですし」
大城の意見に恒人が同意する。
「それに最初の町ですぐ仲間が集まるってのもいいな、ストーリー的に楽でさ。中古でゲーム買ったりすると後あとどんな仲間が加わるのか分からなくて、あれって地味にストレスなんだよ。最近のRPGって導入がぐだぐだ長すぎてさ、こういうのシンプルでいいよな」
「てか大城君!聞いてっ!」
ばんっと身を乗り出して涙沙が叫ぶ。
「このボタン押すとステータスが見えるんやけどな・・・」
と言って涙沙は手首のコントローラーを操作して自分のパラメータを表示した。
『涙沙 種族:エルフ 性別:女 職業:僧侶』
となっている。
「エルフはかまわんけどなんで女やねんっ!」
「ちなみに俺もです。職業はハンターでしたが・・・」
恒人も不満そうに言った。
「・・・え?ってことは!?」
「ないし、ついてるで!」
(名詞は避けて)涙沙が言ったので一応大城はほっとした。
なくても困るしあっても・・・困る。
「設定上『女』ってことか。あれじゃない?女性しか装備できないものとか装備できるようにする配慮とかじゃないかな」
「え〜!『踊り子の服』とか恥ずかしくて着れないですよ〜」
「散々露出しといて今更なにを言ってんのよ・・・」
むくれる恒人に、大城は苦笑いだった。
現段階では全員着用しているのは『布の服』だったが。
「ちなみに俺は、種族は人間で職業は盗賊ですよ」
英蔵が挙手して言うが大城は「あ、そう」と流した。
「しかし、この場合の『盗賊』ってどうなんでしょう」
恒人が話に乗ってきてくれたので英蔵が嬉しそうにその顔をのぞき込む。
「どうって、なにがや?」
涙沙の問いに軽く首を傾げて恒人は続ける。
「いや、ドラクエ3の盗賊ってかなり重宝する職業でしょう?装備できるものも多いし、素早いし、でもウィザードリィの盗賊って鍵開け以外なんの役にも立たないじゃないですか」
「ああ分かる!HP低いから必然的に後列行きだし、魔法も持ってないから戦闘には使えないもんな、完全に宝箱の罠解除のためだけにしかたなく連れてる感じ」
恒人、涙沙の姉妹組から立て続けに酷いことを言われ、英蔵は情けない顔で大城を見る。
「いや、どっちにしろ必要要員ではあるから連れてくけどさ・・・」
「そうっすか、よかったぁ!!」
「・・・英蔵さん、いぢめられ慣れすぎです、さすがに引きます、どんだけマゾなんですか」
率先していぢめている恒人に呆れられてしまった。
「ねぇ・・・なんでみんな俺と目を合わせてくれないの?」
黙り込んでいた浅葱が恐る恐るといった感じでそう言った。
『浅葱 種族:獣人 性別:男 職業:魔術師』
「やっぱりこれ、変かな?」
そういって浅葱は自らの頭、正確には頭に生えている猫耳を指さす。
たっぱのある美形のお兄さんに猫耳、でも装備は布の服と木の杖。
「・・・いや、変ではないで、慣れないだけで!」
涙沙が上手くフォローして他の三人も頷く。
「そっか、ならいいんだけど」
「うんうん、じゃあとりあえずこのパーティだけどさ。俺は戦士だから前衛として、あとはどうなるの?つーかツネちゃんのハンターってどんな職業?」
恒人から借りたガイドブックを読みつつ大城が言う。単純に猫耳で布の服装備の浅葱から話をそらす目的もあったけれど。
「ああ、俺は前衛でも大丈夫みたいですよ。後々補助魔法系も使えるようになるらしいです。ただ装備できるものが限られているので打たれ弱いみたいですけど」
恒人が言うと英蔵がまた挙手をしてから言った。
「俺もHP見る限りは大丈夫かと、探査系魔法修得できます」
「じゃ、『盗賊』って役にたつかもなぁ、名前の響きが悪いけどさ」
「というよりこの場合の『盗賊』ってトレジャーハンターなんじゃない?」
浅葱の言葉に全員感嘆の声を上げた。
「なんや急に格好いい響きに・・・」
「でも言われてみれば確かにそうですよね、洞窟の探索能力とかがあるわけですから」
「さすが浅葱く・・・ん」
それでもやっぱり猫耳で装備が布の服な浅葱を見ていると言いしれぬ違和感を覚えて、全員視線は合わせなかった。
「ひ、大城さん!多少なら軍資金あるんですよね!装備買いに行きましょう!ほら、浅葱さん魔術師だと防具ちゃんとしとかないと!なにかほら!フード付きのローブ的なものを!」
末っ子の機転に大城は心の中で親指を立てながら立ち上がる。
「そうだね!ローブ的なものをねっ!」
「いや、みんな平等で揃えていいよ・・・」
遠慮する浅葱を引っぱって、一行は酒場を後にした。
そして町の外、お馴染みのBGMが鳴り響く草原を一行は進んでいた。
「っていうかツネちゃんさ。ドラクエ3の『盗賊』とか言ってたけど、ドラクエ3の職業に『盗賊』が追加されたのってリメイク版じゃん」
大城の問いに恒人はきょとんとする。
「俺が子供の頃やったのは入ってましたよ。初めてドラクエ3やったのスーファミでしたから」
立ちふさがる年齢の壁に大城、軽くフリーズ。
「たぶん、オリジナル版が出た時は俺、就学前です」
「・・・俺が小六ぐらいの時に出たんだもんな、考えてみりゃ」
「俺は中学いってたと思う、というよりスーパーファミコンが出た時、高校生だったよ」
こういう話になると10歳差は大きい、年上組の浅葱と大城は苦笑いだった。
「いや〜ジェネレーションギャップってやつやね、俺はツネにそういうの感じへんけど」
「るいちゃんだってもう30・・・」
涙沙の言葉に反論を述べた英蔵の頭を涙沙が棍棒で叩いた。
「パーティアタック!!」
「いたいっ!HPが3も減った!!」
などという長閑な会話をしながら、スライムをボコリつつ経験値とゴールドを稼ぐ。ちなみにスライムは可愛いものではなく、でろでろした物体だったので躊躇なくボコった。
「そういえばドラゴンクエストシリーズに出てくるスライムって大きさはどれぐらいなんでしょうか?ずいぶん小さく見えますけど、踏み殺せないんですかね?」
「ええ!?踏み殺すってオマエ・・・」
恒人の言葉に英蔵が素っ頓狂な声を上げる。
「なんっすか?」
「いや、踏み殺すって・・・」
「はい?」
「や、なんでもないです・・・」
「英蔵君、どんだけヘタレなん?」
そのやりとりに涙沙が失笑した。
「あ、ねえ。あそこにいるのシドのみなさんじゃない?」
浅葱が指差す方向を見ると、確かにシドの四人がいた。
「どうもこんにちは!」
大城が爽やかに挨拶をすると、何故かズタボロになっているゆうやが半泣きで、でも元気よく
「こんにちは!」
と返して来た。
「え、えっと・・・どうしたの?」
「いや、ウチ・・・前衛が俺しかいないんですよ。俺が戦士で・・・」
ゆうやが後ろを振り返ると、だらだらしていた他の三人が言う。
「マオにゃんは薬士で〜す」
巨大な注射器を抱え、ふんぞり返ってマオはにんまりとした。
「特殊攻撃専門だから後衛だよ」
「俺は魔獣使いなんだけど〜、まだ前半だからね〜、見てるだけ」
うにゅ顔で明希も言った。
「俺は無難に魔術師だよ」
しんぢが表面だけの笑顔で肩を竦めた。
「ひどいでしょう!?バランス最悪だよ!回復役すらいないんだよ!!」
半泣きのゆうやに大城は引きつった笑みを浮かべるしかない。
「た、大変だね・・・」
「いやあ、でもその職業面子ならば後半かなり楽になりますよ!頑張ってください!」
恒人がガイドブックを確かめながら言うと、ゆうやはこくこく頷いた。
「うん、頑張る!」
「ってゆーかさ、そっちすごいバランス良くない?」
ガイドブックを見比べつつ明希がやはりうにゅとした顔で言う。
「うん、偶然にも良いバランスなんだ」
英蔵が少し自慢げに言うと明希はますますうにゅーとした顔になった。
「いいなぁ、俺そっちがいい!」
「明希しこっ!!団体行動を乱すなっ!」
マオがむすっとした様子で明希の頭をはたくとしんぢが大げさに肩を竦める。
「団体行動って?統率も取れてないのに?」
「なんか文句あるのかなぁ」
微笑みながらも目が少しも笑っていないマオにのぞき込まれ、しんぢは静かに首を振った。
「っていうか!あの!薬草余ってません!?使い果たしちゃってもうないんですよ!」
ズタボロのゆうやに縋りつかれ大城は浅葱に確認を取るように視線を送った。
「いいよ、こちらは余ってるからどうぞ」
にこやかに言う浅葱の隣で涙沙がぴょんと飛び跳ねて手を上げる。
「なんなら俺が回復してあげよか?」
「いいんっすか!?」
「ええよ〜。困った時はお互い様やろ」
「天使っているんだ!なのになんで俺のまわりは悪魔しかいないんだよ!?」
「「「誰が悪魔だよっ!!!」」」
他のシドメンバーからのパーティアタックを喰らい、ゆうやは涙目だった。
そんなこんなでフィールドを歩きまわっていると色々なバンドの人達とすれ違った、ちょっとした対バン後の楽屋気分だ。
どうやら女形は強制的に女性に設定されているらしいことも分かった。
メリーやガゼットのメンバーと会って情報交換やらアイテム交換をしつつ、マメにかつ真面目にレベルを上げて進んでいく。
「というより、俺らの他にも魔王討伐に乗り出している人達がいるということは、これって競争なんですかね?」
毛皮の帽子(何故か狐耳付き)に鉄の胸あてとハンターっぽい装備になった恒人が言う。
胸あてはともかく自分のキャラ設定上、帽子は最後まで被ってなきゃいけないんだろうなぁと諦めていた。
「いや、どうだろう。そもそもこの世界観がかなり適当な気がするで?」
『みかわしの服』を装備した涙沙が苦笑した。
「ところで・・・ものすごくくだらないこと言ってもいいですか?」
控えめに言う恒人に浅葱は優雅な笑みを向ける、ちなみに現在の装備『闇のローブ』、無駄に雰囲気が出ている。
「なになに?恒人のユーモアセンスは最高潮に認めてるからね、どんどん言って」
「無駄にハードル上げられたあげくにいつも面白いことを言うキャラにされてしまいました・・・いやあ、ガイドブックにはパーティ上限は六人と明記されてましたが、他の人達と行動してもなんの問題もなかったじゃないっすか?だったらいっそ全員で協力してしまうという方法はとれないんでしょうかね?」
「全員でっていうと・・・」
「この世界で冒険者設定になっている全員で、ですよ。見たところモンスターは多く出てきても8匹、こちらが30人もいれば楽勝です、袋叩きです」
「袋叩きって!?」
驚く英蔵に恒人は真顔で言う。
「袋叩きは袋叩きですよ、言葉を濁しても意味はありません。まあ経験値は人数に割り振られるのでレベルが上がる速度は落ちてしまいますけど、大勢で向かえばレベルの高いモンスターでも倒せますよね」
「確かに理屈上はそうなるね」
浅葱も真顔で頷く。
「世界観はドラクエ3っぽいけど、職業は豊富やしね。補助魔法系や攻撃魔法がんがん使えばけっこう楽に進めるかも」
「メラも10人がまとめて撃てばメラゾーマですよ。補助魔法でひたすら攻撃力と防御力上げまくれば前衛も楽になるはずです。さらに後ろに回復要員をスタンバイさせれば完璧です」
「っていうか、それもう軍隊じゃねぇか!?」
大城の突っ込みに恒人はついっと胸を張って言う。
「そもそも魔王討伐を国がやろうって話なら軍隊出動じゃなきゃおかしいじゃないっすか」
古き良きRPGを根本から否定する発言だった・・・が、正論だ。
というわけで次に会ったバンドの人達から声をかけることに決めてD一行は行動を開始した。
そう決めてから最初に他のバンドに会ったのは海辺の町で、そこにはムックのメンバーが揃っていた。
鉄の爪を装備した武道家ミヤ(獣人らしく猫耳)がDチームの提案に細い目を糸のようにして、おそらく微笑みだと思われるものを浮かべて言った。
「奇遇だな、俺もまさにそれを考えていたんだ」
隣で精霊使い(同じく猫耳)の逹瑯もへらへらしながら言う。
「俺らさ〜、ヤスが戦士で、ミヤ君が武道家で、前衛二人っしょ。で、そこのキノコが僧侶。俺の精霊使いってのが中盤以降にならないと補助魔法しか使えないから敵が多いとめんどくってさぁ、だったら俺ら4人って不公平じゃねってことで〜」
逹瑯の投げやりな説明を理解して浅葱が頷く。
「俺達と合わせれば9人になりますね。ウチは大城君と英蔵君が前衛、ツネの職業は本来中衛で俺と涙ちゃんが後衛、かなりバランスがよくなります」
ミヤが今度はうっとりしたと思われる顔で言う。
「いいな・・・俺は本来、前衛キャラを多くして敵をぼこぼこにするのが大好きなんだ・・・」
「俺もです!」
と意外にも恒人が手を上げた。
「俺、自分が喧嘩とかてんでダメなんでそーいうの憧れてます」
「じゃあ協力ってことで良いべ」
逹瑯がにやっと笑って言う。
「一応自己紹介しとくね、俺は逹瑯、たた様って呼んで。でこっちの馬鹿っぽいのがサトチでこの怖い人がリーダーのミヤ君、でそこのキノコが『ああああ』ね」
「え?ユッケさんですよね」
首を傾げる大城にユッケが引きつった笑みで言う。
「名前変更できるとこあったじゃない?そこでこのアホの逹瑯が俺の名前勝手に変えやがったの、変な名前にするとすっごいお金払わないと戻せなくてさ・・・」
「うん、だからこいつユッケじゃなくて『ああああ』だ!」
サトチは何故か嬉しそうだった。
「ま、まあええやん、なにも本当に名前が変わったわけでもないわけやし」
涙沙が慰めるがユッケは静かに首を振る。
「だってさ、俺がなにかするたびに『ああああの攻撃!』とか出るんだよ、もうテンション下がりっぱなしだよ・・・」
「でも、ほら、お金集めたら改名できるわけやし!」
「そんな無駄金払う気はないってリーダーが決めました・・・」
「大丈夫です、名前なんて記号にすぎませんよ、ユッケさんがユッケさんであることに変わりはないじゃないですか、逹瑯さんもそういった・・・つき合いの浅い俺がいうのもなんですが、優しい面や人間として成熟してらっしゃるところを認めているからそんな悪戯をしたんでしょう、もちろん愛情表現として。こんな状況です、少しでも殺伐としないようにと逹瑯さんが気づかったのかもしれません」
と、浅葱が言った。彼にしてみれば思ったままを口にしただけだったが、ムックメンバーにとってはザラキ以外のなにものでもなく、全員地に伏していた。
「ひ、大城さん、俺らとムックさん達上手くやっていけますかね・・・」
声をひそめて言う英蔵を一瞥して大城は達観の微笑みを浮かべた。
「じゃあどことなら合うっていうのさ」
地に伏せたムックメンバーが起き上がると浅葱はまたにっこりとして言った。
「こちらも自己紹介を・・・俺は浅葱です、魔術師。こちらの可愛い子がるいちゃん、ユッケさんと同じ僧侶です、魔法でだけでなく存在でも癒してくれます。そしてこちらの聡明そう、いえ聡明な子が恒人、ハンターです、機転がきいて年下だけど頼りになりますよ。英蔵君は盗賊です、優しくっていつも周りを気づかってくれる大切な存在です。こちらは戦士の大城君、見た目通り精神まで芯の通った男前な人です」
今度は全員が地に伏せることになった。
どうやらムックメンバーは船を購入したばかりだったらしく、さっそくその船に乗って中ボスがいるダンジョンへと向かった。
そこには伝説の武器の元となる一つがあるらしい。
本来ならもっとレベルを上げなければクリアできない場所だったが、人数が多いためがんがん進める。
逹瑯が補助魔法で攻撃力や素早さを上げ、ユッケ(ああああ)と涙沙も補助魔法で防御力を上げまくり、遠距離攻撃ができる武器を持った恒人と英蔵が突破口を開き、浅葱が攻撃魔法で蹴散らし、残りをミヤ、サトチ、大城が叩き潰すといったぐあいだ。
そして塔の最上階、中ボスの扉の前にはスケルトン・・・骸骨・・・いや、メリーのガラが仁王立ちしていた。
「此処を通りたければ俺を倒して行って下さい!」
と言うガラを逹瑯が杖でぶん殴った。
「痛い!痛いじゃないか!いきなりなにすんだ!」
「ああ!?てめぇが倒せって言ったんだろーが!こんなとこでなにしてんだよばぁぁぁぁぁぁぁか!!」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞっ!」
小学生並みの言い争いを始めた二人の間に浅葱が割って入る。
「だめですよ、逹瑯さん。ガラさんにもなにか事情があるんでしょう、ガラさん、メリーのみなさんはどうされたんですか?」
逹瑯もガラも、こんな穏やかかつ丁重にいさめられたことは初めてなので大人しく口を閉じた。
ガラが一息ついてから言う。
「結生君達は俺を置いて行ったよ、俺は魔王側に寝返ることにしたんだ」
「ああ、此処の中ボスって京さん?」
「な、何故分かった!?」
「それ以外になにがあるっちゅーんだよ・・・」
逹瑯が本気で呆れていると浅葱が感心した様子で「さすが友人同士ですね」などと言うものだから脱力してしまった。
「と、ともかく、逹瑯。京さんと戦う前に俺を倒してから行け!」
ガラ、浅葱の台詞にちょっと照れたらしい。
「じゃあ帰るか」
と言ったのはミヤ、頭上にクエスチョンマークを付けて見る他の面々に当たり前だろうと言う顔らしきものをする。
「・・・京さんに勝てる気がある奴、一人でもいるのか?」
ぶんぶんぶんぶんぶんと全員が高速で首を横に振る。
じゃあ帰りましょうと背を向けると扉が開いた。
全身黒づくめの京が不機嫌そうな顔で出てきて一言。
「飽きた」
「京さん!?」
「どいつもこいつも俺の名前聞くなり逃げ出しおってからに・・・俺は名前を言ってはいけないあの人か。此処にいるの飽きた、中ボスやめた、俺も魔王倒しに行く。おまえら、つれてって!」
これには全員が反射的に「はいっ!」と元気よく返事をする。
「うん、なら薫君達も呼ばないかんな」
と京はツチノコなみに貴重な笑顔を見せて携帯電話を取り出した。
「なんでこの世界に携帯電話が・・・」
「ツネちゃん、しっ!」
突っ込みかけた恒人の口を大城が塞いだ。
しばらくぽちぽちと携帯電話をいじっていた京はやがて焦れた顔で電話をかける。
「薫君!この携帯ちっちゃい『つ』どうやって出せばええの?・・・あ、もう電話してまったからええわ、えっとな、あんな〜」
そして最初の町、各地で中ボスをやっていたディルのメンバー全員集合。
「よかった、俺も中ボス飽きたとこだったんだよ、みんな俺の顔見るなり帰っちゃうし!」
「俺、そんな顔怖いんか?」
嬉しそうな敏弥と不満げに首を傾げる堕威。
「・・・・・・」
「俺も飽きた、やることないし、みんながおらんとつまらんし」
石像のように佇んでいる心夜とご機嫌な薫。
「な、いい案やろ、みんなで魔王倒すの」
「俺は京さんが行くところならばたとえ地獄の果てであろうともついて行きます!」
ガラはテンション上がりっぱなしだった、ちなみに職業は武道家である。
「それでは、全体のリーダーは薫さんにお願いしたいのですが・・・」
控えめに言う浅葱に薫は首を振る。
「あかん、俺って統率力ないし」
「そんなご謙遜を・・・」
「謙遜ちゃうて、マジでないもん」
「・・・常識もな」
ぼそりと言う心夜を睨んでから薫は他の面子を見る。
「う〜ん、ミヤか浅葱君にお願いしたいな」
「俺は前衛だからやりにくいんで、浅葱さんに」
ミヤがそう言ったのでリーダーは浅葱に決まった。
そして、そこにさらにシド、メリーが加わった、ガラは罰として名前を『いいいい』に変更され「京さんから頂いた名前が!」と青筋を浮かべたが、むしろ京が面白がったので機嫌を直した。
「前衛陣は回復アイテムを充実させ、僧侶も攻撃魔法及び補助魔法を基本として下さい、ハンターと盗賊は先制攻撃率の高い弓を装備し、敵陣を混乱させ、そこに俺達広域攻撃系魔法が使える魔術師が魔法を打ち込む、前衛陣はひたすら敵を薙ぎ払い、回復は手持ちのアイテムでお願いします。補助魔法が基盤の職業の方は後ろからひたすら攻撃力などを調整し、敵にステータス異常を起こして下さい、では」
という浅葱の作戦の元、フィールドを進んでいった。
モンスターの群れが現れた!
恒人(ハンター)の攻撃!モンスター1の30のダメージ!
結生(ハンター)の攻撃!モンスター1に32のダメージ!
逹瑯(精霊使い)は風の精霊を召喚した!全体の素早さが10上がった!
健一(僧侶)はマホトーンを唱えた!モンスター1にはきかない!モンスター2の呪文を封じた・・・・・・
英蔵(盗賊)の攻撃!モンスター1に45のダメージ!
マオ(薬師)は毒薬を放った!モンスター1は毒におかされた!モンスター2は・・・・・
ああああ(僧侶)はルカナンを唱えた!モンスター達の守備力が10下がった!
・
・
・
浅葱(魔術師)はヒャダルコを唱えた!モンスター1に49のダメージ!モンスター2に・・・
しんぢ(魔術師)はベギラマを唱えた!モンスター1に32のダメージ!モンスター1を倒した!モンスター2に・・・
・
・
・
敏弥(魔人)は力をためている
心夜(魔人)は力をためている
京(魔人)はいててつくふぶきをはなった!モンスター2に90のダメージ!モンスター3に・・・
いいいい(武道家)の攻撃!モンスター2に50のダメージ!モンスター2を倒した!
ミヤ(武道家)の攻撃!かいしんのいちげき!モンスター3を倒した!
「ちょ、ちょっと待って!ログが早く流れまくっててなにが起こってるのかさっぱり分からない!」
「いいんですよ英蔵さん、勝てれば!」
堕威(魔人)の攻撃!モンスター4に120のダメージ!モンスター4を倒した!
「中ボスが仲間ってズルじゃないかなぁ、今更だけど・・・」
「明希しこ!ぼけっとすんな!」
「・・・俺の攻撃する番になったら全部終わってそう」
「ゆうや、いいだろー楽できるんだから」
「っていうか『ああああ』と『いいいい』が地味に嫌だね、あ、終わった」
モンスターの群れを倒した!
経験値獲得・・・・のログが延々流れているのでしばらくお待ちください。
「ダメですね、予想はしていたのですが・・・これではレベルが上がりません。そもそもレベルの概念がないディルの皆様は別ですが、僕等がこのままでは・・・」
難しい顔をする浅葱の横で明希がテンション高く笑っている。
「ってゆーか!モンスターみんな逃げてくね!」
「そりゃこんな面子が大勢いればねぇ」
ユッケ(ああああ)は苦笑いだった。
「俺に良い考えがありますよ」
と挙手したのはしんぢ。
きょとんとする他の面子に胡散臭いスマイル全開で言った。
「みなさん、手持ちの『種』系のアイテムを全て出して下さい」
そして集まったラックのたね、すばやさのたね、ふしぎなきのみ、スタミナのたね、かしこさのたね、いのちのきのみ、ちからのたねを前にしんぢはポチポチと手元のコントローラーを操作した。
「バグがありましてね、こうするとアイテムが無限に増えるんです」
しんぢの言う通り、ちょっと複雑な出し入れをするとアイテムが増えていく。
「おお!すごいやん!」
堕威が感嘆の声を上げる。
「・・・おまえら、やけに金持ってると思ったら、バグでアイテム増やして売り払ってたのか」
ミヤは呆れとおぼしき表情を浮かべて言った。
「まあ、邪道ですけどね。しかしレベルが上がらなくてもこれでパラメータを上げればなんとかなるでしょう、呪文を習得できないのが難点ですが」
ぽりぽりぽりぽりと一心不乱に種を齧る皆様(パラメータ変動がないディルメンバーは除外)
「・・・節分の気分になってきた、ってゆーか気持ち悪い」
「はちみつとか欲しいっすね」
「いや、水で流しこんだほうが早いんじゃない?」
と英蔵と恒人がやや無我の境地に達した顔で種を齧っている。
種をぽりぽり食べながら落ち着きなく歩き回っていた逹瑯は浅葱の所へやってきた。
「浅葱さんってさぁ、すげえ優しいのね。ウチの鬼リーダーとは大違い」
ミヤは浅葱と今後の相談をしていたので、その言葉を聞き咎め、不快とおぼしき表情を浮かべて逹瑯を見上げた。
「ミヤ君って鬼だもん、目つきだけじゃなくて性格も鬼よ、すぐ怒るしさぁ」
これが逹瑯なりのかまってちゃんだと分かっているミヤはあえて無視して浅葱と話を続けるが、挟まれた浅葱は困惑顔。
「浅葱君って怒らなさそうだよねぇ、怒んないっしょ!?」
しつこくからんでくる逹瑯をのぞき込むように見上げた浅葱は一言。
「・・・いや、怒る時は怒りますよ」
と微笑んだ。
文字通り飛んで逃げた逹瑯は、サトチと、そしてサトチと話していた大城の後ろに隠れる。
「いやだな、冗談ですよ」
と浅葱が言うが逹瑯はぶんぶん首を振る。
「いやいやいやいや!Lが死んだときの夜神月みたいな笑顔だったよ、さっき!」
「ウチのメンバーの中で一番怒ると怖いのは浅葱君だよ・・・」
大城がぼそりと言った。
「マオ君、顎が疲れるよ、種ばっか食べるの」
「・・・・」
明希がぶーたれているが、元々集団行動になると無口になるマオは無視している。
「ねぇ、マオ君ってば!黙り込んじゃって寂しい人みたいになってるよ〜」
「うるさい、明希のナス」
「秋茄子は美味しいよね、だから俺、ほめられたんだよね!」
「どんなポジティブシンキングだよ!おたんこなすって言ってんだよ!馬鹿しこっ!」
「さむしこ〜!」
「お前がな・・・」
ちなみにこの間もパラメータが上がったことを知らせるログとファンファーレが鳴り響き続けているが、早くて読めないので無視だった。
「しかし、どれだけパラメータが上昇しても魔法習得ができないのは辛いな」
「はぐれメタルが群生している塔にでも行きますか?」
「いや、ただでさえ逃げられるのにますます逃げられるだろ、こんな大所帯で行ったら」
なんとなくリーダーを任されている浅葱とミヤが相談していると、もうさっきのことを忘れたのか逹瑯がやってきた、何故か恒人を引きずっている。
「ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君ミヤ君!!!」
「うるせぇ」
「あんねぇ、恒人君から提案があるんだって」
引っ張られた腕を痛そうにさすりながら恒人が言う。
「どうやらですね、心夜さんが自分の後ろにあった宝箱・・・まあゲーム上、中ボスを倒した時のボーナスですね、そこから持ってきた『しあわせのくつ』があるんですよ。これを人数分増やして、全員が装備すれば経験値が稼げるんじゃないかと」
ミヤはおそらく感心と思われる表情を浮かべて恒人を見た。
「装備して歩くだけで経験値が溜まるあれか、道のりは遠そうだが・・・確かにいいかもな」
「ええ、地味な作業になってしまいますけど。しかし妙な話ですよね、みんなミュージシャンなのに戦士だの魔術師だの・・・」
「うえ!?このタイミングで世界観に突っ込むかぁ」
顔をしかめる逹瑯に恒人は少し拗ねたように言う。
「だってそうじゃないですか、本来戦闘能力なんて持ち合わせてませんよ」
「銭型平次みたいにピック飛ばせばいいんじゃね?」
「ピックに殺傷能力はないですよ・・・ん、いや・・・眼球を狙えば・・・」
真顔で言う恒人に逹瑯はやや引いた顔。
「君は真面目に何を言うんだよ!必殺仕事人か!?ちょっとそこの飼い主、なんか言えよ!」
逹瑯に指差され浅葱は「飼い主ではないですが」と苦笑して言う。
「ダメだよツネ、眼球の大きさから考えて、ピックじゃ脳まで刺さらないから殺せないよ」
「アンタ真顔でなに言ってんだよ!!」
逹瑯、本気でシャウトだった。
それにミヤが微かに口角をあげて言う。
「それなら弦を使ったほうがいいんじゃないか?三味線屋の勇次みたいに」
「ああ、でもベースもギターも弦に柔軟性がないから難しそうですが・・・いや、そもそも楽器で人を傷つけてはダメですよね」
「そうだね、ツネ」
微笑みあう浅葱と恒人に逹瑯は顔を引きつらせた。
「綺麗にまとめたつもりか!?ねぇ!!綺麗にまとめたつもりなの!!??」
全員しあわせのくつ装備で魔王城まで徒歩で向かう、モンスターは皆こちらの姿を見るなり逃げて行った。
そして良い感じに黒い霧が包む魔王城。門の前にはボストロールが三匹いた。
「え・・・戦うのめんどいんやけど」
京がだるそうにそう言った。
心夜がそれに無言で頷き、口を開く。
「じゃらっちゃら〜じゃっちゃら〜」
「う゛ぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぐい!!」
京はマゴッツを歌い始めた!
ボストロール1は倒れた!
ボストロール2は倒れた!
ボストロール3は倒れた!
ボストロールの群れを倒した!!
「・・・なぁ薫君、京君って中身なんなん」
遠い目で言う堕威に薫は当たり前だろうという顔で返す。
「奇跡や」
レベルが上がったことを知らせるファンファーレが鳴り響き、ログが流れる中、全員無言だった。
というより誰も突っ込む勇気がなかった。
そして魔王城の扉は開かれた、道がいきなり5つに分かれている。
「戦力を分散させるのは得策ではありません、右端から順に攻略していきましょう」という浅葱の号令で一行は一番右の道を進んでいく。
その先に巨大な美しい細工が成された扉があった。取っ手の部分には紫色の宝石。
「開けるぞ」
先頭のミヤが扉に手をかける、ガラも手伝って扉を大きく開けはなった。
紫を基調にした巨大な部屋、ぞろぞろと全員で進んでいくとその終点、やはり紫色の巨大な長椅子の真ん中に一人の人物が座っていた。
「イノランさん!?」
薫が思わずそう声を上げる。
「イノランさんですよ」
とイノランは菩薩様スマイルを浮かべた。目はちっとも笑っていなかったが。
「ようこそ、世界を救う勇者御一行様達、俺は魔王の配下五天王が一人、イノランだよ・・・って言えって命令されてます」
「あの、五天王ってことは・・・」
聞くのもアホらしいが聞かなければ進まない、堕威がそう質問する。
「そうそう、杉ちゃんとリュウちゃんと真ちゃんとJだよ。ちなみに俺が五天王の中では最弱です、よかったね」
「イノランさんが最弱って、残りの人は宇宙意志レベルのパラメータなんですか?」
思わず突っ込む薫にイノランは心外だという顔をした。
「どっからどう見ても俺がルナシーの中じゃ最弱でしょ」
「・・・いや9割の人がイノランさん最強伝説を信じていますから」
「ふぅん、みんな妙なこと思ってるんだねぇ」
「それで、念のために聞くんですが・・・魔王って?」
「ヒデさんだよ。隠しボスの魔神がヨシキさん」
全員、その場に座り込んだ。
「やっぱりぃぃぃぃぃ!!」
「そうじゃないかとは思ってたけどな・・・」
「最初の段階で俺らが上限だったのオカシイと思ったんだよ」
「ディルのみなさんが中ボスって時点でほぼ確信でしたけどね・・・」
「っていうかどうなってんの!?レベルリミットまで上げても勝てないんじゃない!?」
「つーかそもそも此処を突破できる気がしない」
「指先で弾かれて全滅!?みたいなっ!?」
「どんだけゲームバランス悪いんだよ!誰もクリアできないじゃん」
「・・・馬鹿馬鹿しい、帰ろうよもう」
などど口々に言い合っていると、天井から轟音・・・あえて文字にするならちゅどーーーん!!みたいな音が響いてショッキングピンクの人が降ってきて椅子に着地した。
表情一つ変えず、自然な動作で退いていたイノランが小首を傾げた。
「どうしたんですか、ヒデさん」
「魔王飽きた!もう飽きた!もうイヤだ!」
駄々っ子のように足をバタつかせるヒデに一同唖然。
イノランだけは特に気にした様子もなくヒデを見つめている。
「ヨシキさんは?」
「うん、よっちゃんはねぇ『なんか閃いた!』とか言って地下のスタジオ行っちゃったから3年ぐらい出てこないんじゃない」
ヒデは何が可笑しいのかにこにこしながら言う。
(数字がリアルすぎる!!!!!!!)
と一同、戦慄だった。
「イノランちゃんさぁ、俺もう世界征服飽きたからやめる!」
「別に俺はどっちだってかまいませんけどねぇ。次はどうします?」
「世界平和!!」
「杉ちゃんが喜びそうですよ。じゃあとりあえず、世界に溢れた魔物でも駆逐しますか・・・」
「なんでも良いよ、他のことできればっ!」
まだ床にへたり込んでいる一同を睥睨し、イノランは淡々と言った。
「では異論のない者・・・起立!!」
反射的に全員が立ち上がる。立ち上がってから誰もがきょとんとした顔で互いを見つめて、最終的には笑って頷いた。
俺達もやらなきゃダメなのかぁという達観の微笑みだった。
こうして世界に平和が訪れたのだった。
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