ドウタヌキ?


ジェネレーション!!


ジェネレーション!!



毎度おなじみD御一行様、何かのスタンバイ中らしく事務所の小部屋でくつろいでいる。
「そういえば、浅葱さんと大城さんってバブル世代なんですか?」
末っ子の恒人が急にそんなことを言うので大城は苦笑する。
「ツネちゃんねぇ、どんだけ俺らのことを年寄りだと思ってんのよ」
「あのね、バブル世代っていうのは86年から92年までに社会に出た人を指すんだよ。俺は本当にギリギリだけど高卒だからギリギリなの、バブルの恩恵なんて受けてないから・・・まあ氷河期ってほどでもなかったけれど」
高校卒業後一時就職していた浅葱の言葉に恒人は納得したらしく頷いた。
「なるほど、社会人になってバブルの恩恵を受けた人をバブル世代と呼ぶんですね」
「それをゆーたらツネはあれやろ、ゆとり世代」
からかうように言う涙沙に今度は恒人が苦笑する。
「違いますよ。あれは87年生まれ以降です、ゆとり教育なんて受けてません」
「まあツネはゆとりって感じゼロだもんなぁ。いや、別にゆとりを悪く言うわけじゃないけどさ。むしろ偶に俺より年上に思える・・・」
「それは英蔵さんが子供だからじゃないっすかねぇ」
英蔵の言葉に恒人はすました調子で笑った。
「ていうことはアレか?こんだけ年齢差あるのに俺らはみんな氷河期世代ちゅーことやな。いかに不景気が長いか思い知らされる現実やなぁ」
涙沙が難しい顔で頷いていると、壁にフラフープみたいなものが浮かんだ。
きょとんと皆でそれを見ているとフラフープから見覚えのありすぎる人物が出てきた。
「呼んだ?」
と一言、床に着地したのは大大大先輩、大御所、V系の元祖となった男、井上様ことイノランだった。
「いえ、呼んでいませんが・・・」
恒人が引きつりながらもそう答える、この末っ子、胆が据わっている。
「うん、バブルがどうこうとか言ってたからさ、呼ばれたかなぁと思って」
そう言ってイノランは口元だけで微笑む。
あまり目まで笑うことがない男だった。
「あの、ところでどうやって来られたんでしょうか?」
気を取り直した浅葱がそう質問するとイノランは壁に張り付いていたフラフープを取ってくるくる回す。
「『通り抜けフープ』、通販で一万五千円だったんだよ」
「・・・それは良い買い物をしましたね」
天然だが先輩の扱いを心得ている浅葱は笑顔でそうかわした。
世の中には突っ込んではいけないこともあるのだ。
次々と正気に戻ったメンバーが椅子を開けてイノランに座ってもらう。V系は基本的に体育会気質である。
「まあバブル世代って言ったら俺らだよね、バリバリのバブル、就職戦線異状なし!同級生みんな金持ってたなぁ、まだ俺らが売れてない頃」
とイノランが煙草片手に語りだすので全員傾聴姿勢。
「ヨシキさんの考え方なんてバブルだよね。ライブに客来て欲しいからCD作っちゃえ、CD流通させたいから会社作っちゃえ、広告代がいる?はい出します。みたいな感じ」
「・・・確かに言われてみればバブリーな発想かもしれません」
一応バブル世代というものを身近に見ていた大城が頷く。
「君らのやりたいことを全部自分でやるために会社作るとはちょっと発想が違うんだよね、お疲れ様」
「・・・ありがとうございます」
褒められてるのかな?と疑問に思いつつ浅葱が礼を言った。
「でも俺らはV系バブルに乗っかれたわけじゃん。良いか悪いかは別として。土台作ったのはヒデさん達だけどさ、最後の穴開けたのはグレイとラルクかなぁ。俺ら丁度活動休止してたじゃない、で・・・戻ってきたら土管がどかーん!みたいな」
美形の親父ギャグに誰も突っ込めず頷くに留める。
他にも突っ込みどころはあったが突っ込む勇気はない。
「それで反動がきちゃったわけ、ねぇそこのギリギリ氷河期」
「あ、俺ですか」
恒人が恐る恐る手を上げるとイノランは満足そうに頷く。
「中学時代でしょ、俺ら見てたの・・・なんでこいつら高級外車とか乗ってるのとか思わなかった?」
思ってたって答えられるわけがない、答えない恒人にかまわずイノランは続ける。
「バブルに乗れなかった反動なんだよねぇ、80万の時計とか、高級外車とかさぁ・・・」
そこまで言うとイノランは急に立ち上がり、通り抜けフープを壁に貼り付けると手を突っ込んで誰かを引っ張りだした。
「イノラン君!いきなりなにすんねん!」
タクヤだった。
「はい、こちらV系バブルに乗り損ねて別のバブルに乗った変態ギタリストさんです」
「いやいやイノラン君、いきなり壁から引っ張り出した挙句に悪口?変態ギタリストって文脈に気をつけて使ってよ、俺の性的嗜好が変態ちっくみたいやん・・・あれ、みなさんお揃いでこんにちは」
タクヤに手を振られて全員慌てて頭を下げる。
「たっくんもポルシェとか乗ってたもんねぇ・・・」
「フェラーリとベンツに言われたくありまへん!」
「まあ、まあたっくんにポルシェって似合うよ、子供っぽくて」
「ねぇ、一回ぐらいわりと本気でどついていい?」
「やれるものなら、どうぞ」
「・・・ごめん、無理」
唐突に始まった大先輩二人の漫才に口を挟む勇気のある人間なんぞ存在しなかった。
「V系バブルねぇ、ラストがディルアングレイとピエロってところかなぁ。まあ、あそこらがさっさとその恩恵ぶん投げたのがある意味良かったのかもね。青田買いとか酷かったし、もうあれは『青田狩り』だったね」
「そだね、たっくんありがとう。もう帰っていいよ」
「イノラン君、後輩いぢり大好きだもんねぇ・・・」
タクヤは憐憫を込めた視線をDの面々に送って、通り抜けフープから帰って行った。
「まあさしずめ君らはV系氷河期でもあるよね」
「・・・氷河期、ですか」
顔をしかめる浅葱にイノランはやはり口元だけで笑う。
「倍率上がってるわりにのし上がれる確率は低いでしょ、未だにV系はイロモノみたいに思ってる人達もいるし、まあアレは俺らも悪いんだけど」
「イノランさんが悪い?」
「うん、俺っていうか俺らね。『V系って言うな!』みたいなことをV系の枠に入るのに言っちゃったからさ、V系が悪い言葉になっちゃったの、その先鋒は・・・まあ名前出すのも変かぁ。ジャンルを表す言葉としてV系って別に悪いものじゃないと思うんだよ俺は。だって俺らの初期のスタイルに憧れて始めたんならそれでもいいじゃんって思うよ。ただみんなでぐちゃぐちゃ口を挿んで一時的なブームみたいにしちゃったから、今は氷河期なわけよ」
そう言われてみれば納得できなくもない内容に、一同は顔を見合わせる。
「あ、あのっ!」
と声を上げたのは英蔵だった。
「でもやっぱりルナシーさんが与えた影響って良いものだったと思います!多くの人間が楽器を手に取るきっかけになったのは事実ですし、やはりスタイルが斬新でした」
「ああ、ギタリストでも目立たなくていいんだ、的な?」
「いや、そこは・・・そこもかもしれませんけど・・・」
「ウチはベースがぐいぐい前に出たがる人だったし、全員『俺の音を聞けぇぇぇ!』みたいな性格だったから、俺がああしないとバランス取れないの。たまに聞いてて切なくなるベーシスト君いるもん、ああいらんとこマネして、みたいな」
イノランの毒舌っぷりに全員だんだん引いてきているが、誰もなにも言いだせない。
「君らのとこの子はいいよねぇ、バランス取れた位置にいるし、丁重だし・・・」
「そうなんです!!」
これには浅葱が力一杯頷くので恒人が赤面した。
イノランは一瞬驚いた顔をして、今度は顔全体で笑った。
「じゃあ俺、帰るね」
「すみません、なんの御構いもできず・・・」
頭を下げる大城にひらひらと手を振って、イノランは通り抜けフープをくぐる、潜り抜ける前にこちらを見て言った。
「君らの次はV系ゆとり世代になるんだよね」
くすり、と凶悪な微笑みを半分だけ出した顔に浮かべる。
「音楽を違法で無料ダウンロードしまくっているような子達に・・・はたしてCDを出そう!なんて根性あるのかな?かな?」
と、強烈な爆弾を投下して、イノランは帰っていった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なにもなくなった壁を全員無言で見つめている。
「まあ、さぁ・・・」
涙沙は椅子に腰かけて笑う。
「俺らが次の世代に良い影響与えたらええんとちゃうの?」
「さすが涙ちゃん、いいこと言うね!」
浅葱は満面の笑みを浮かべて涙沙を見た。
「時代の流れてのはデカイけどな、違法ダウンロードが多いのは事実だし」
珍しく弱気な大城を恒人がのぞき込む。
「その時代の流れを変えてきたイノランさんが言ったんですよ、変えられる要素はあるってことじゃないですか」
「ツネちゃん良い子!抱きしめてあげるっ!」
わしゃわしゃと大城に撫でられ恒人は声を上げて笑った。
「じゃあもっともっと頑張らないといけませんね!」
拳を握る英蔵も大城がまとめて撫でる。
「もう、君らは良い子っ!」

次世代にどんなバンドが来るのか、実際のところは予想しようもないけれど、確かに受け継がれていくのが『音楽』なのだ。



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