ドウタヌキ?


創作者達の凱歌


創作者達の凱歌





創作作業には果てがない、明確な『完成』がないからだ。完成だと思ってもまだ手を加えれば、あるいは削れば、もっとよくなるのではと果てはなくなる。そんな中で、納得した形を作り出し提出しなければいけない。
年数は長くとも立ち場的には駆け出しのバンドである以上、スタジオを借りての作業となれば金銭問題も絡んでどうしても『期限』は設けられる。
体調管理と精神状態のコントロールも重要な仕事だ。
張り詰め過ぎてもいけないし、緩め過ぎてもいけない、いわば緊張状態を強いられるわけであり、心身共に疲弊していく感はいなめない。
望んで選んだ職種とはいえ人の身である以上疲れることに変わりはないのだ。
スタジオの玄関をくぐりながら恒人は小さく息を吐く。
それでも「いいな」と思えるのは、メンバーの誰からも愚痴めいたものはでないし、苛立ちをぶつけるようなことはしないことだ。
むしろ、他のメンバーやスタッフを気づかっている。
恒人自身もそうであるように心がけていた。
単純にそうしたいと思っていたし、曲を練って行く作業は楽しい。
浅葱から歌詞の構想を聞かされるのは心底楽しみだ。
そんなに難しい気持ちではなくやりたいからやっている、苦労も苦心も受けつけられる。
疲弊した状態でそんな風に思えることが案外『本当の幸せ』ではないかと思った。
疲れてはいるのだけれど・・・
「あれ?恒人君じゃない!?」
そう声をかけられて振り返ると、特徴的な金髪を帽子で隠し、マスクをした人物が立っていた。
「あ、輸血子さん!」
「違うってば!今は・・・今はじゃない!俺はユッケなの!マスク外すよ、ほら!」
恒人の冗談にユッケは笑ってマスクを外した。
「ご無沙汰してますユッケさん。スタジオが同じだと知っていたらご挨拶に伺ったんですが」
丁重に頭を下げる恒人にユッケは慌てたように手を振った。
「いいよ、そんなかしこまらなくて。いや、実はさ・・・作業長引いちゃってどうしても続き〜!で入れたのが此処だったんだ。今まで使ってたとこは予約が入ってるからって怒られちゃった」
「そうだったんですか・・・」
さすが中堅と嫌味でなく恒人は思う。
大御所になれば数年スタジオに籠りっぱなしなどという話も聞くが恒人からすれば夢のまた夢であるし、やりたいとも思わない。
1日が24時間より長ければと思うことはしばしばあるが、やはり曲はコンスタントに発表したいからだ。
「ウチはミヤ君が凝り性の完璧主義だからね、まあこんな風に食い込むことってあんまりないけど、最近はチャレンジすることが多くて大変みたい」
「風の噂で聞きますよ、プロデューサーとしてもミヤさんは天才的だって」
「同時に鬼でもあるけどね・・・」
そうまんざらでもない風に言うものだから、恒人は少し笑ってしまう。
「ところでユッケさん、甘味の神様にでも供物を届けに行くんですか?」
「恒人君って冗談面白いよね・・・これ?」
ユッケは手にさげたコンビニの袋を掲げる。
「間違ってミヤ君のオヤツ食べちゃったからお詫びの品だよ・・・ま、ある意味では供物だよね」
「オヤツ食べて怒られちゃったんですか?」
小首を傾げる恒人にユッケの頬がゆるむ。
妙に子供じみた仕草だったからだ。
「いや、いちいち怒らないよ。いっつも怒ってるみたいな顔してるけど実はそんなに怒ってないんだ。でもミヤ君は甘い物好きだから、買って行ったら喜ぶだろうなって、恒人君もでしょ」
ユッケは恒人が持っている袋を指差した、飲み物や菓子など一人分ではないことは見れば分かる。
「まあ、そうなんですけどね」
「ミヤ君って極限までやる人だから心配もあるし、やっぱ甘い物でも食べて元気になって欲しいなぁって」
「ああ、それはなんだか分かります」
恒人は浅葱の顔を思い浮かべた、根を詰めるタイプなので見ていて心配になることがある。
「恒人君も極限までやるタイプ?」
「いえ、俺は眠いのとかは我慢してやれるだけやるって感じです」
「やれるだけ?」
「えっと、倒れるまで」
「極限までやってんじゃねぇか!!」
ユッケにキャラ放棄で突っ込まれ恒人は首を振る。
「いえ、倒れるといっても失神とかじゃないですよ。気絶する勢いで眠れるまでは我慢しようかなぁって程度で」
「あんま変わってねぇし!!なんなの?やっぱり気合いでなんとかなると思ってんの?それとも苦行スイッチついてんの?」
「すみません、『聖☆おにいさん』ネタはあまり・・・」
「ネタ元分かるだけで充分だよ!恒人君って天然だね〜」
一周して和んでしまったユッケに恒人はやはりきょとんとした顔で言う。
「そんなこと初めて言われましたよ」
「ま、いいや。しかし地下活動ばっかりだとご飯が恋しくなるよね」
話を変えたユッケに恒人は頷く。
「そうっすね。どうしてもコンビニか店屋物になりますから・・・お野菜いっぱい食べたいです」
「ヘルシーだね。みんなで鍋とかいいな〜。野菜もお肉もたくさん入れてさ、お店じゃなくて家で作ったヤツ。恒人君は何食べたい?」
「ん〜・・・お店でになっちゃうけどウナギですかね、夏にメンバーで食べて美味しかったし楽しかったんで」
「やっぱり楽しくご飯食べたいよね、地下活動から解放されてぱーーっとさ。あと、意外と食べられない卵かけご飯とか!」
「いいっすね」と頷いてから笑い出した恒人にユッケは首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、いえ・・・なんだか『極道めし』みたいだなぁって思って、『スタジオめし』ってイベントやったら盛り上がりそうですよね」
「・・・・・・」
固まってしまったユッケに恒人は不安そうに言う。
「すみません、知らなかったですか?」
「いや、年下の子から土山しげるネタが出たことに驚いた・・・恒人君ってけっこう言葉とか古い子?」
「それはよく言われます、いつだったか『若いツバメ』って言ったら、よく知ってるねぇって感心されました!」
「感心なんだ、ツッコミじゃなくて・・・」
「ん〜、ツッコミではなかったですねぇ」
「ウチのバンドなら大喜利のお題が出たかのような騒ぎになるのに」
「ですから『聖☆おにいさん』ネタはあまり・・・」
「詳しいじゃん!!超詳しいじゃん!!」
しばし笑い合い、話し込みすぎたかと時計を確認する。
「ごめんね、引きとめちゃって」
「いえ、良い気分転換になりました。ありがとうございます」
「・・・俺もなんだか癒されたよ、ありがとう」
ユッケの礼にこれまた恒人はきょとんとした。



ユッケと別れ恒人はエレベーターに乗り込んだ。
眠さと倦怠感は少しだけだが和らいだ。
袋の中身を確認する、アセロラのドリンクは浅葱に、ちょっと高めのコーヒーは大城と英蔵に、エクレアは涙沙と分けるつもりだ。
後は飴類などなど。
それから今日やるべきことを頭の中で描く。
作業が終わったら今度はプロモーション活動にライブにと忙しい、しかし暇があったら自分からメンバーを食事に誘ってもいいかもしれない。
想像するだけでなんだか楽しくなった。
そういえば今日辺り、浅葱が作詞の構想を聞かせてくれるようなことも言っていたか、それも楽しみだ。
気がつくと頬が緩んでいた。
大丈夫だ、まだまだ頑張れる。
内から気力が湧き上がってきて、背筋が伸びて、前を向ける。
「やっぱり、幸せじゃん」
呟いた言葉とエレベーターが到着する音が重なる。
そして今日を精一杯やるために強く一歩を踏み出した。



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