碧に捧ぐ誓
碧に捧ぐ誓
11月、秋が行方不明、どこいった小さい秋!!みたいな気候の中。連日連夜の激務の合間を縫って俺は街へ買い物に出ていた。
パートパートナーであるツネも一緒である。
普段こうしてプライベートで連れだって出かける機会はあまりないのだけれど、今回は『英ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行く』という目的あってのことだった。
基本、自転車と電車移動のツネを車に乗っけて。
まあ、それだけじゃ理由になっていないのは分かる、実は俺から足になることを申し出たのだ。
じゃ、3日前の回想スタート。
「そういえば今年の俺の誕生日プレゼント、英蔵さんと大城さんは一緒に買いに行ったんですよね?」
唐突にツネにそう言われて俺は驚いてしまった。
「そうだけどさ。なに?英ちゃんから聞いたの?」
「いえ・・・いやあ、頂いたプレゼントに詮索するようで心苦しいんですが、包装紙が同じ電気屋のモノだったので、そうかなと」
「ああ、そっか。でもそれだけで分かったのか?」
チェーン展開している電気屋であり、俺も英ちゃんも車を所持しているので行動範囲は広い。
断定する材料にはちと弱い気がする。
ツネは「ん〜」と苦笑した。
「おそらくですけど、大城さんは何を買うか決めずに行きませんでしたか?」
その通りだった。英ちゃんの買い物に付き合いつつ、俺も良い物があったら買おうという気持ちで行ったのだ。
「英蔵さんはだいたい決めていったんですよね」
これもその通り、行く道々聞かせてもらった。
現物を見てから決めるが、買うものは決まっていた。
「そうだけどさ・・・それがなんで・・・」
「んん、ほら。一緒に買うと被らないようにしつつもどっかで共通点のあるものを購入してしまうものなんですよ、同じ人へのプレゼントを選ぶ時は絶対に」
戦慄を覚えた。
そこまで推測できるか、普通。
こいつ実はシャーロック・ホームズなんじゃねぇの?
とか思いながら俺は笑顔で言っていた。
「・・・ツネさ、英ちゃんの誕生日プレゼント一緒に買いに行こうか?」
と、まあそんなことがあったわけである。
ちなみに共通点とは『女子アイテム』だったことだろう。
二人揃ってそんなものを選ぶから包装紙も女子向けにされてしまったのだ。
彼女にだとは思われなかったらしい、特に英ちゃんはね。
恋人に美肌グッズをプレゼントする男子なぞ蹴られても文句は言えまい。
俺は同僚と誤魔化した。いや誤魔化しじゃないか、広義では同僚だ。
「しかしまあ、男子に美肌グッズプレゼントってのもハイセンスではあるよなぁ」
俺の呟きを聞いてツネは首を傾げる。
「いえ、嬉しかったですよ、活用させて頂いてます」
まあ、職業柄っていうのもあろう。
ちなみに今は車を止めて徒歩だ。
色々見て回るのに車は不便だからね。
ツネはローライズジーンズにパーカー付きのシャツ、その上に皮ジャンと完全防備。
モデル体型にセンスの良い私服、そしてベリー色の髪は東京でも人目を引く。
「まあ気持ちは分かるんだよな、ツネってホントに肌綺麗だもん」
すべすべである。
まさにシルクのような肌触り。
染める前は髪もシルクのようだったので全身シルクだ。
いや、髪は少しだけ傷んだけれど、キューティクルの域は守っている。
二十代後半にして全身シルクな男。
なんというか高級な抱き枕みたいだなぁ。
萌え絵付きの。
「ん?なにか失礼なことを思いましたか?」
「エスパーかよ、オマエは・・・」
「今度同じこと考えたら摘発しますからね」
「え!?マジで俺の脳内だだ漏れ!?」
こんな阿呆なやりとりをしつつ、俺とツネは街を歩く。
さっきファッション誌の街頭撮影に声をかけられてしまったのだがツネは慣れた様子で断っていた。
慣れてんじゃねぇよ、そんなことに。
街を歩くとスカウトの声が煩いとかありえない設定のヒロインじゃないんだから。
「でも大城さんってAVのスカウト受けたことあるんですよね、英蔵さんから聞きました」
「・・・明日会ったらシメる!つーか普通に地の文読むなよ、オマエも」
「じゃあ〆ますか?」
「やかましいわっ!メタなことするのは浅葱君だけで充分なんだよ!浅葱君から学ぶところは山ほどあるが学ばんでいいとこまで学ぶな!」
ツネはスーパードルフィーみたいな顔を歪めて俺を見る。
「うむ、怒られてしまいました・・・切腹して詫びればいいでしょうか」
「そんな流血沙汰要求するか!!せめて土下座にしとけ!」
「分かりました、土下座ですね・・・」
そんなことを言って足を止めるツネの腕を俺は慌てて掴む。
「いや、土下座もやめて下さい、お願いします!」
天下の往来で土下座されたら人目を引くなんてレベルじゃない、通報されるわ。パトカー来るわ。
身元引受人で浅葱君来ちゃう!!
「しかしなんでお詫びが切腹なんだよ・・・」
「日本人ですから」
「日本文化を曲解してる外国人みたいなことを言うなよなぁ」
一部では未だにそういうイメージらしいんだよな、日本って。
逆に西洋の国々のイメージが産業革命で止まってるなんて話は聞かないから本当に日本って世界から見れば小さいんだなと思う。
「でも切腹ってやっても死なないらしいじゃないですか、原田左之助とか」
「まあ、腹って刃物の傷においては急所なわけじゃないからな。処置が悪くなきゃ生き残れる個所だし、介錯人いてこそだよな。実際は切らずにフリだけして介錯ってのが後半はほとんどだったらしいし」
「うむ、では俺は介錯人はいりません」
胸を張って堂々と言うツネ。
「次、ライブでミスしたらやってみます」
「ノリでやるもんでもねぇし!!ライブでのミスにそこまで責任感じなくてもいいからっ!!」
「ライブでミスる度に切腹してたら、お腹が縫い痕だらけになってちょっと斬新なビジュアルだと思いませんか?」
「色んな意味で痛々しくて見てられねぇよ!つーか生き残る気でいるわけ!?」
「現代医学を舐めてはいけませんよ、大城兄さん」
「医者が呆れて治療してくれないって・・・」
別の病院行きだろ、そんなヤツ。
「つーか、ツネちゃん薄すぎて刃物刺したら一気に貫通しそうだけどな」
「うぬ!」
ショックを受けるツネ、横から見ると本当に薄いんだよな。
皮膚の下ダイレクトに内臓だろ。
いやいや、さっきからなんでこんな血生臭い話になってるんだ?
「しかしツネはけっこう性格は男前だよな」
うぬうぬ言ってるツネの頭を軽く叩くように撫でてやると、すぐに笑顔になって見上げてくる。
実際外見を裏切る性格をしているのだ。
構成要素は『努力・気合い・根性』である。
「大城さんほどじゃありませんよ〜」
「いや、ツネが戦国時代に生まれてたら三英傑が四英傑になってたと思う」
「ならば俺の場合『鳴かぬなら 逃がしてあげよう ホトトギス』ですね」
「優しい!超優しい!そして綺麗なオチになってる!」
リズム隊がタッグを組むと漫才は朝飯前だ。
「ま、この手の知識って全部英蔵さんの受け売りなんですけどねぇ」
「枕詞が『英蔵さん』だろ、ツネは」
「そんな、人が英蔵さんの話しかしてないみたいに!」
「実際してねぇだろうが」
そう言われるとツネは思うところがあるのか、またうぬうぬ言いだした。
可愛いんだよな〜
変な意味じゃなく、歳の差もあるせいか可愛い弟だ。
ついつい撫で撫でしたくもなる。
「えっと、石田三成って歴史的には重要人物なのにどうしてあんなに扱いが残念かって話をしてたんでしたっけ?」
「してねぇよ。たしかにわりとやってること凄いのに扱いはことごとく残念だけど、してねぇ」
「まったく、敗者に冷たい国ですね・・・人間に生まれたこと自体が敗北だとも気づかずにっ!」
「もっと違うわっ!なんで人類に対して上から目線なんだよ!」
「ん〜。俺達ヴァンパイア一同が戦国時代に乗り込んだらって話だったじゃないですか」
「ヴァンパイアが天下統一に乗り出すのって反則だろ!戦国自衛隊より反則だろ!!」
「そもそも浅葱さんが天下人になれば一万年ぐらい平和だったのに・・・」
「それには全力で同意する!!」
俺らは全員、浅葱君が異様に好きなのだ。
はたから見たら引かれるほどに大好き好き好きだ大好きだ。
っていうか引かれてるけどね、既に。
「まあ、どんなに残念な扱いされている武将でもゲームかアニメで美形に設定されれば人気がでるんですけどね」
「嫌なことを言うなよ!!」
その通りなだけに嫌だよ!
「それで話を本筋に戻しますけれど・・・英蔵さんの誕生日プレゼント、大城さんはなににするつもりですか?」
この話に本筋なんてあったっけ?とか一瞬思うぐらい楽しく雑談してしまった。
そうだった、それそれ。
「それとも『聖ミカエラ学園漂流記』の話を続けます?」
「俺が言ったのは『戦国自衛隊』だ!!」
歩道のど真ん中で明らかに年下の子にチョークスリーパーを本気できめてるいい年こいた大人がいた、俺だ。
お兄ちゃんとして教育的指導であるが周囲から突き刺さる視線が痛い。
けほけほと咽てるツネの背中をさすりながらようやく本筋。
「やっぱアクセか、でなきゃ実用性のあるものだな、俺は」
「えへへ〜」
と急に満面の笑みになってツネは俺にぶつかってくる。
何度も何度も。
「英蔵さんの誕生日だ〜」
「そこまで喜ばれたら英ちゃんも本望だろうよ・・・」
軽量級のツネにぶつかられたところで痛くもなければよろめきもしないけれど。何度もぶつかって来られると・・・可愛いじゃないか!
「・・・うぬ?」
と、真顔になってぶつかるのをやめるツネ。
「どうした?」
「あそこにいらっしゃるのって・・・ディルアングレイの京さんじゃないですか?」
ツネは丁重に、指ではなく手でその方向を指した。
カフェの庇の下にいる人物。
身長は低いけれど冬着でも分かる鍛え抜かれた体躯、短い黒髪。
サングラスどころか帽子もかぶらず、確かに京さんはそこにいた。
秋晴れの空の下、雨宿りでもするかのように不服そうに空を見上げ、ポケットに親指をかけたまま。
さながら日光を避けるヴァンパイアのように、いるだけで険呑な、近寄りがたい雰囲気をまとって、存在している。
「だな、挨拶すべきか?」
「ん・・・プライベートなようですし、こちらを知っているかどうかも微妙ですからねぇ」
確かに立ち位置としては先輩だけれど、彼等が幹の上部なら俺らはまだ枝葉みたいなもの、知られているかといえばたぶん知らないだろう。
実は俺の方は年齢にさほどの違いはないけれど、先輩は先輩。
挨拶するなら筋を通すべきだ。
それにどこか声もかけ辛い。
それほどにこの穏やかな午後の街で京さんという存在は浮いていた。
逆だ、洞の様だった。
「まあ、次回作への伏線でしょうし、此処は知らぬふりをしておきましょう」
ツネはきっぱりと言う。
いや・・・いいのかな?
いかにもこれから何か起こりますみたいなフリしちゃったけれど。
「って次回作の伏線ってなんだよ!!馬鹿!!」
「・・・大城兄ちゃんに馬鹿って言われたっ」
ツネは大仰にショックを受けた顔を作る。
「酷い・・・傷つきました、立ちなおれません」
「いや、言いすぎた、ごめん・・・」
「しょぼーーん。がーーーん。どーーーん」
口で漫画チックな擬音を言ってんじゃねぇよ。
「大城兄ちゃんがそんなこと言う人だったなんて、酷いな〜酷いですね〜」
「そこまで機嫌損ねなくてもいいじゃん」
「出るとこ出ます」
「身体には凹凸ないのにか?」
むしろ肋骨の凹凸が出てるぐらいだけど?
「明日スタジオで大城さんと二人っきりになったとこを狙って、服をはだけて泣きながら浅葱さんのところへ走ります」
「切腹でも土下座でもするから許してくれ!!」
怖い。
怖い怖い!!
浅葱君がキレたら一番怖いのに!!
「じゃあなにか機嫌直ること言って下さい・・・」
「カーバンクルたん萌えっ!」
「許します!」
親指立てて言ったら許してもらえた。
尊厳的ななにかを失った気もするので立てた親指そのまま下に向けてやろうかと思ったがそれはやめておく。
・・・ま、そんな感じで京さんをやりすごしたのだった。
「それで英ちゃんの誕生日プレゼントなぁ、一番喜ぶのなら分かってるんだけれどねぇ」
「お、さすがつき合い長いですね!なんっすか」
満面の笑みで見上げて来るツネに俺も爽やかに微笑んで言う。
「浅葱君をプレゼント!」
「さすがです!大城さん、考えることが常人である俺と違いますね!さすがはジョースター家の人間です!」
「隙を見てはジョジョネタを挟もうとするな、俺に星型のアザはない!」
「さすが後付け設定はない人は違いますねぇ・・・俺なんてツンデレという根本が後付けですよ」
「ツネちゃんの根本はツンデレじゃなくて『気合いでどうにかなる』だろ。問題はどうやって浅葱君をプレゼントするかなんだが・・・」
「ふむ、拉致するにはサイズが大きいですからねぇ」
ツネから見れば大きいが、俺から見るとさほど変わらないんだけど。
まあそこはいいや。
ナチュラルに拉致とか無邪気な笑顔で言ってるのがなんか面白いし。
「最終的にはリボン巻いてプレゼントだな」
「じゃあ俺の『スノーホワイト』の衣装取ってきますよ!首元にリボン」
「いや、ツネの衣装を浅葱君が着れないだろ。多少はゆったりめだけどさぁ」
「むむ、ここでもサイズ違いの問題が。まあリボンは別に準備しましょう」
尊敬し敬愛しているメンバーの人権を無視した会話だ。
やべー超楽しい。
背徳感がたまらない!!
「ま、リボンで拘束してプレゼントだな」
「大城兄貴!重要な問題に気がつきました」
「なんだい、恒人君」
「英蔵さんのリアクションはおそらく冬眠前のリスばりに動き回ったあげく転んで終了です」
「目に浮かぶなあ!!」
ありありと浮かぶよ。
良いヤツなんだよ、英ちゃんは。
据え膳どころか口に突っ込まれても食べないんだよな。
なんかたまに男所帯であることを素で忘れている気もするがいいや。
別のバンド目的で読みに来た人がドン引きしてる姿が見えるようだがかまわん。
俺はメンバーみんなを愛しているし萌えている!!
愛って素晴らしい!!
「ああ、なんで日本では重婚が認められていないんだ!認められていたらメンバーみんなと結婚するのにっ!」
「その場合は複婚ですね、ポリガミー。中東辺りだと多いようですが」
「じゃあ移住しようぜ、もう結婚しようよ、みんなで」
「すごい話になってますが、あくまで認められているのは一夫多妻であって、男5人は無理ですよ・・・」
「ちっ!狭いなぁ地球は、もう日本から独立しようぜ」
「あの・・・すみません、なんでそんなにテンション上がってるのか、ちょっと理解できないんですけど」
ツネは引いていた。
どん引きしていた。
しかしここで意見を引っ込めるわけにはいかない。
「なんだよ、ツネは俺と結婚したくないのか!家族になりたいだろ!?」
「ん〜・・・なりたいっすけど。もうなってるようなものですし、別に国に認めてもらわなくてもいいっすよ」
「そうだな、悪かった、急にテンション上げて」
ツネはにっこり笑って頷く、もう引いてないらしい。
「いえ。確かに恋愛事情複雑化している昨今、男女二人ペアの夫婦のみ限定という法律は狭いですよね。もう合意があればどんどん家族になれちゃえばいいのにと思います」
なんかボーダーラインが目の前に見える会話だが、かまわず続けよう、楽しいし。
「だよな、もうちょっと柔軟に対応して欲しいなぁ。別に俺らは恋愛じゃないけどさ、恋愛にも色々あるもんなぁ」
「ええ、俺の友人がつき合っていた彼女の親友が実は百合で、友人もその百合な親友さんのことを好きになり、紆余曲折あって最終的に3人でつき合っていたなんてこともありましたし」
「へぇ・・・それはすごいな」
「最終的に友人は、ゲイの友人と親密な関係になって4人で交際してました」
「もう色々とフリーすぎるっ!」
「ところで大城さん・・・ギャグターン終了って感じなんですけどどうしましょう」
ツネは笑顔を消して硬い表情になった。
「なんだよね、実は」
・・・俺がテンション上げた辺りか?
周囲がおかしくなっていた。
俺達は繁華街を歩いていたはずかのに、いつの間にか欝蒼とした森に変わっていたのだ。
あげくに森の切れ目は切立った崖で、その向こうには青い青い海が見える。
異常事態。
おかげでプロポーズ叫べたけれど、これはヤバイだろう。
東京から、明らかに地中海っぽい色の海が見える森へ移動していたのだ。
異常・・・なのだ。
周囲を観察した結果、森の向こう、海から斜め横に当たる辺りがやはり崖になっていて、そこでは街が燃えていた。
東京でもなければ、ヨーロッパでもない、なんというか中世っぽい街並みである。
「・・・一応離れるなよ、ツネ」
「はい、大城さんも」
守り合うべき状況。
とはいえ非現実的すぎてあまり頭がついていかず、むしろ冷静になれた。
「大城さん、今年のお正月にした話、覚えていますか?」
「俺もそれを聞きたかったよ。ああ、覚えてる」
繰り返し見る『碧の夢』。
初夢を最後に見なくなった夢。
何故か恒人と共通して見ていた夢。
あの夢そのままの風景が存在していた。
俺達は崖の端に座った、あの夢と同じようにくっついて座る。
「海底で見つかった白骨体・・・あれの続報聞きましたか?」
「いや、聞いてないけど」
一瞬、ブリザード級の視線が俺の頬を撫でた。
軽蔑された、ツネに軽蔑の視線を向けられた!?
妹に宿題教えて〜とか言われて「ごめん、俺分からない」と返した時の妹の視線を思い出した。
「あれね、実は二体じゃなくて三体だったみたいですよ」
「三体?」
「ええ、古いものですからね、重なるようにあったために、欠損部分を三体目が埋める形になっていて、発見時は二体だと思われたってことらしいです」
ツネは小首を傾げて目を閉じる。
「実はですね、あの時は言わなかったけれど・・・俺の夢のスタートも森の中なんです」
森の中、ツネの夢は4、5人の兵士に囲まれているところから始まる。
剣で脇腹を突かれ、さながら切腹のように即死はできなくても致命傷となる傷を負わされ、死を覚悟した時、もう一人の人物は現れる。
夢の中でツネはその人を「兄ちゃん」だとか、そんなニュアンスで呼ぶらしい。
ヒーローよろしく現れた彼は、ツネの背中を押して叫ぶ。
「振り返らずに全力で走れ」と。
そしてこの場所に辿りつくのだ。
俺の夢とリンクするのはその後。
「じゃあ・・・三人目はその人?」
「英蔵さんに聞いてみたんです、そしたら断片的でしたが・・・同じ夢を見ていました」
俺とツネと英ちゃんで夢がリンクしているわけ・・・か。
「これって、前世の記憶みたいなものなんでしょうかねぇ」
何故か俺は苛立った。
あの夢はあの夢で嫌いではない。
悲しい夢だけれど、大切だ。
でも、違う。
根本的に間違っている。
「違うだろ・・・いや、仮に前世だとしても俺らには関係ねぇだろ」
俺の声に含まれた苛立ちを察知したのか恒人は心配そうにのぞき込んできた。
その背中を撫でながら、俺は海に向かって言う。
そこにいる「誰か」に向かって。
「俺だったら諦めない。看取ってやるのも優しさかもしれない、でも俺は・・・ツネちゃんが死にかけてるなら諦めない、どんなことがあっても、どんな状況でも二人で助かる方法を探す、最後まで諦めない。ツネもだろ?ツネだったらなんと言われようが一人で逃げたりはしないだろ」
致命傷を負っていようが、絶望的な状況だろうが、自分を助けに来た相手を置いて逃げられない。
むしろ正面切って立ち向かっていく。
努力と気合いと根性の人間であり、誰よりも純粋で優しいから。
「そしてその人が英ちゃんなら、ツネに一人で逃げろなんて残酷なこと言わねぇよ」
アイツはアイツで優しいから、誰より人の気持ちを大切にするから。
自分を見捨てろなんて言葉は絶対に吐かない。
「・・・大城さん」
「全員で助かる、全員で生き残る。それ以外の選択肢なんて存在してねぇよ。隠しコマンドでもない」
ツネは俺の腕を強く掴んでいた。
微かに震えているので泣いているのかもしれない。
やっぱもうダメだ、こいつの、みんなのいない世界とか考えられない。
「戻らなきゃ・・・いけませんね」
「当たり前だ。老後は浅葱君のつくった毛玉王国に永久就職だっちゅーの」
前世も来世も知るかよ。
来世に望みを託して現世を諦めるようなこと、できるわけがない。
だってツネはツネで、英ちゃんは英ちゃんで、浅葱君は浅葱君で、涙ちゃんは涙ちゃんだ。
生まれ変わっても出会いたいとは思うけれど、それは『今』をおざなりにするって意味じゃない。
俺はツネの腕を掴み返して立ち上がる、持ち上げるようにツネも立たせる。
俺を慕ってついて来てくれた英ちゃん。
はにかんだような笑みで、俺のすべてを受け入れてくれる弟分。
早く打ち解けようと「兄弟」って笑って声をかけたら、心を開いてくれたツネ。まだ俺のこともよく分かっていないのにあっさりと心の鎧を脱ぎ捨てて、真っ直ぐに向き合ってくれた。
こんな可愛い弟がいるんだぞ。
諦められるわけがない。
「悔いはあったとしてもやり直しはきかないんだよ、だったら俺は『今』を守る、前世も来世も関係ない、俺はみんなを守り切るさ」
平和な国に生まれた者の綺麗事と言われても、それが俺の信念だ。
それは同時に起こった。
「あれ?大城さん、ツネ!?」
そんな耳慣れた声と、景色が戻るのは同時だった。
俺とツネは元いた街の中に立っている。
振り返ると英ちゃんがひどく驚いた顔で俺達を見ている。
「デート中です、邪魔しないで下さい」
ツネはおどけた調子で言う、恐ろしく持ち直しの早い子である。
「え、あ、ゴメン・・・」
そして素直に謝る英ちゃん、コイツはホントに可愛いよなぁ。
俺は英ちゃんにチョークスリーパーをきめ、ツネは前に立って英ちゃんの両腕を掴む。
「ああ?ゴメンじゃないだろ、今から三人でデートだ。どうせ暇してんだろ?」
「そうですよ英蔵さん、アイス食べたいです」
「・・・ぐがっ!ぎ、ぎ。ぎぶ!」
半ば本気で締めている上、ギブアップを表明しようにも腕を封じられている英ちゃんは絞り出すように言った。
俺が手を放すと咽ながら頷く。
「わかりましたよ、せっかくですしどっか行きましょう。アイスもおごるよ」
「やったーー!!」
ツネはぺちぺちと英ちゃんを叩く。
なんかもう周囲の視線が痛いどころか露骨に視線を逸らされているけれど、まあいいか。
三人並んであるけば、すぐに笑顔になれる。
もしもお前が前世なら、もう眠れ。
俺には守るべき今がある。
それがお前が持っていたモノの形を変えたモノだとしたら、やっぱりお前には無関係なんだ。
そして俺にまかせとけ。
あやまちは繰り返さない、最後まで諦めない、守り切ってみせるから、どうか・・・おやすみなさい。
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