幽霊☆ドッキリ!!
幽霊☆ドッキリ!!
ディルアングレイ編
堕威がホテルの部屋で休んでいると携帯電話が鳴った、それ自体はさして珍しくないが着信が京からであることにはちょっと驚いた。
なにか急な用事でもできたのだろうかと通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『ああ、もしもし堕威君……』
妙な沈黙に堕威は首を傾げる。
「なに?なんか用事?」
『いや、部屋に誰かいるん?』
そんなことを問いかけられ堕威は思わず自分の部屋を見渡した。
確認するまでもなく自分一人だ。
「一人だけど、なんで?」
『なんや、じゃあテレビの音か』
気の抜けたような声を出す京に堕威は首を傾げる。
テレビなどつけていない、ラジオだってついていないし、音楽だってかけていない。
そこそこ高級なクラスに入るホテルの部屋はほぼ無音状態だ。
「テレビなんかつけてないで?なんや、さっきから」
『え、じゃあこれ誰の声?』
電話越しの京は困惑たっぷりに言う。
「こ、声って?」
『さっきから女の笑い声が電話越しに聞こえてるやん』
「……え」
あらためて部屋を見渡す、やはり自分しかいないし、勘違いの元になりそうな音だってしていない。
『え、なんか怖い、嫌だ。じゃあ』
ある意味勝手なことを言って電話が切れる。
「ちょ!おまっ・・・」
徹底的な静寂が部屋に訪れた。
オレンジの灯りに照らされた部屋は外部の音も遮断し、とても静かだ。
その静かさ故に不気味さが募っていく。
―女の笑い声がする。
電話越しの京には聞こえていた正体のないなにか。
そういえば、心夜がこのホテルは出るとか言っていなかったか?
確か、ベッドの下に・・・
ぶるぶると首を振って堕威は気を取り直す。
きっと気のせいだ。
とはいえ、ベッドに近づく勇気すら出ない。
ぶっちゃけ怖い。
結局、手近にあった鍵と携帯電話だけ持って部屋を出た。
薄明りの廊下をドキドキしながら進み、薫の部屋をノックする。
この歳になって幽霊が怖くてとも言えないが、なにか理由をつけて部屋を変えてもらってもいい。
とりあえずその前に気分転換がしたかった。
ドアが開いて薫が顔を出し、そして堕威を見るなり露骨に嫌そうな顔をした。
「え、なに?」
無言で部屋の中を指し示す薫に従って中に入ると、何故かメンバー全員が揃っていた。
「やっぱ堕威君きたーー!!俺の勝ちっ!!」
ファンが見たらさぞかし喜びそうな無邪気な笑顔で京がベッドの上で跳ねる。
「ちっ・・・せっかく堕威君に賭けたのになんで来るんや、このヘタレ」
その隣で心夜が忌々しげに吐き捨てた。
「・・・は?」
きょとんとしている堕威に敏弥が高々とピースしながら言う。
「ドッキリだいせいこーーーーっ!!」
「はぁ!?」
瞬時に状況を理解した堕威のこめかみに血管が浮き上がる。
「堕威君が来たんだから薫君とやもちゃんは今からコンビニ行ってアイス買ってきて!!」
「あー、はいはい」
面倒くさげに肩を竦めてみせる薫と、拗ねた顔の心夜。
それから喜色満面な京と敏弥を見て堕威は口角をひくつかせた。
「つまりあれか?あんな電話して俺が怖がるかどうかのドッキリか?で、俺が怖がって部屋から出るか、我慢するかで賭けしとったんか」
「まあ、この状況を見れば分かる通り」
にぱ、と笑う京に掴み掛らんばかりに顔を寄せて堕威は叫ぶ。
「オマエな、絶対に、絶対にやりかえしたるからな、覚えとけよ」
「覚えてる限りはひっかかりませーーん」
舌を出す京と、笑いを堪えている敏弥を交互に指さして堕威は叫ぶ。
「いや、1年後が10年後か20年後かは知らん、でも絶対に俺にやったこと忘れる瞬間がくるやろ!その時や!その時に絶対、絶対にこれを倍返しにするからな!覚えてろよ!」
「堕威君が10年後も20年後も俺達は仲間だって言ってる」
心夜が顔色一つ変えずにそう返し、堕威は一瞬固まった。
「今のをどう解釈すればそうなんねん!!」
「・・・違うの?」
「いや、それは別にそうやけど、今のはそういう意味じゃなくて・・・」
絶妙なところを突かれておたおたしている堕威にすっかり出かける準備を整えた薫が言う。
「じゃあコンビニに買い出し行ってくるけど、堕威はなにがいい?」
「は!?えっと、ガリガリ君で」
「ん。やもちゃん行くで」
「んーー、分かった」
だるそうに出ていく二人を見送ると、怒りなんぞどこかへ飛んで行ってしまってることに気づく。
目の前でにまにま楽しそうな京と敏弥に溜息をつくしかない。
「まったく、ふざけた悪戯して・・・子供か、自分ら」
「発案者は薫君やもん」
「だよねぇ」
「その言い訳もガキっぽいっての」
結局、軽快に笑ってしまう堕威だった。
ムック編
「ねぇねぇたつぅ!」
駆け寄ってきたユッケの額に逹瑯は容赦のないチョップを綺麗な角度で決めた。
「話しかけただけでこの仕打ち!?」
さすがに涙目なユッケを鼻で笑い顎をしゃくる逹瑯。
「俺様と話したいって?今すぐコーラ勝って来いバーカ」
「いやさ、なんか変な話聞いて」
「あぁ?」
首を傾げる逹瑯にユッケは声を落とす。
「このホテルさ、出るらしいんだよ」
「はっ、また幽霊かよ。オマエいちいちビビりすぎ!つーかしょちゅう見えてるなら怖くねぇべ」
「いやいや、マジな話さ。ベッドの下に女の人がいるんだって・・・」
「美人なら歓迎だな、おっぱいでかけりゃ大歓迎」
ユッケは呆れたようにため息をついた。
「たつぅに相談した俺が馬鹿だったよ。サトチのとこ行こうっと」
そうしてユッケはさっさと離れていってしまう。
「ん?そういえばヤスはどうしたの?」
「疲れたから先に部屋に行ってるってさ」
無言で隣を歩いていたミヤがだるそうに答える。
「あー、今日も無駄に暴れてたもんなぁ」
「オマエもだろ、今日は大人しくしてろよ」
「あいあいさー!リーダー!」
軽薄な返事をする逹瑯に溜息混じりの一瞥をくれてさっさと自分の部屋に向かうミヤ。
ツアー先のホテルでのいつもの光景。
さすがに逹瑯とて慣れない土地で夜中に遊びに出ることはない、近くに友達のバンドでもいればすかさず乱入しただろうがそれもない夜。
隠れ真面目な逹瑯は喉のケアなどをしながらホテルでゆっくり過ごしていた、そうして夜中、携帯電話が鳴る。
ミヤからの着信に逹瑯は仕事の話かと居住まい正して電話に出る。
「もしもし?」
『もしも……』
何故か途中で言葉を切ってミヤは黙り込んだ。
「なに?」
『オマエ、部屋に女連れ込んでんのか?』
「はぁ!?なにそれ!とんだ濡れ衣ってゆーかなんでそんな話になるの!?」
いきなり怒気の混じった声で窘めるように言われ、逹瑯は唇を尖らせて言い返す。
『オマエの後ろで笑ってる女だよ、誰だ?』
「は……?」
思わず振り返る逹瑯、誰もいない。
ホテルらしいがらんとした空間が広がっているだけだ。
そうして時刻もあって静かだった。
『けらけら笑ってるじゃないか、誰だ?』
「ちょ、ちょっと待って。俺一人だよ!ホントだって!!」
言い返して血の気が引く。
この部屋に女がいる?
ユッケはなんと言っていた?
確かベッドの下に……
ごくり、と唾を飲み込む。
逹瑯は今、ベッドの上で電話を受けてるのだ。
『……混線?いや、なんか喋ってる……』
「ちょ!?」
『オマエの名前呼んでるし、やっぱ誰かいるんだろ?』
「いるんだったらこんな下手なシラの切りかたしねぇって!!」
恐怖とミヤに疑われたくはない思いから逹瑯は必死で叫ぶ。
「や、やだやだやだ!もうやだ!ミヤ君!今からそっち行くから入れて!!」
『は?なんで』
「なんでって、ユーレイだよユーレイ!!」
『ならオマエについて俺のとこに来るかもしれないからイヤ』
「そっ、そんなこと言わないでよぉ」
最早半泣きの逹瑯は必死で叫ぶ。
「お願い!ミヤ君のとこに入れて!もう馬鹿な悪戯しないからっ!」
『わかった……すぐに来い』
冷静であればミヤに頼まなくても、マネージャーの部屋に走るなりなんなりいくらでも方法があっただろうに、なまじミヤと、《頼れるリーダー》と通話が繋がっていたために縋る形になった逹瑯は本気で、半泣きでミヤの部屋に走り、そこで見たものは……
手を叩いて笑い転げているメンバーだった。
「ちょ、たつろ、半泣き!?マジ泣き!?やべぇ!!」
「たつぅってば怖がりなのに強がっちゃってぇ、マジウケるんですけど!!」
小学生ですらやらなさそうな、露骨に指をさして腹を抱えて笑うという実にムカつくことをしているリズム隊を横目にミヤは涼しげな顔。
「ど・・・どういうこと!?」
「ぱっららっぱっららっぱらーーん」
「ドッキリかよ!?あとその言い方分かりにくいし!!」
「テッッテレー」
「大成功なんですね!大成功だよね!?最高のリアクションだったよね俺!」
「もぅ大変だったよー」
とようやく笑いが収まったユッケが言う。
「俺の前フリは滑ったっぽいし、サトチに会わせたらバラしちゃいそうだから隔離めんどかったし。実行がミヤ君ってのも超不安だったけど、意外に迫真の演技だったねぇ」
「主犯はテメェかっ!つーかミヤ君にマジ声で言われて疑えるかよ!あと女連れ込んでるって思われてたとしたら二重の意味で怖かったんだべ!!」
「それは普段の行いが悪いからだな!俺はちっともくらくないからへいきだ!」
笑顔のサトチにユッケが頷く。
「うんうん、『後ろ暗いところがない』だよ」
「うん!『うしろがくらくない』!覚えた!」
「つーかなんでこんなことしたのさぁ」
すっかり気が抜けてへたり込む逹瑯にミヤが言う。
「俺にドッキリしかけたことは一生忘れないって言わなかったか?」
「あ、あれはちゃんとした企画だし、主犯はユッケだべ!?」
「覚えておけ」
へにゃりと笑ってミヤはメンバーを見渡す。
「全員にきっちりと、何年もかけて、死ぬまで続く分割払いでお返しするから」
その笑顔に皆が竦みあがったのは言うまでもない。
D編
浅葱は一人、ホテルのベッドでくつろいでいた。
ホテルに入る前、涙沙が語っていた怪談話をふと思い出す。
夜中に女の人の声で目が覚めて、身を起こすとベッドの下からぞろりとした長い髪がのぞいていたという話。
意外にその手の話題が苦手な恒人が怖がっていたけれど、英蔵と相部屋なので大丈夫だろう。
メンバーのことを思うと一人でいても口元がほころんでしまうような淡くあたたかい気持ちになれる。
携帯電話が着信を告げた、恒人からだ。
大方、コンビニに行くのでなにかいるものがないかというような些末な用事だろうと電話に出る。
「もしもし」
『あ、浅葱さん、あの……』
中途半端なところで途切れた言葉に首を傾げていると、恒人は窺うような声で言う。
『あの、テレビつけてます?』
「ううん、つけてないけど」
電話の向こうは無言だ、どうしたのだろうと浅葱は部屋を見渡した。
シングルの狭い部屋は時刻が遅いこともあって静かだ。
『いえ、気のせい……かな?』
「どうしたの?」
『いや、あの、話し声が』
明朗で軽快な喋りをする恒人らしくない様子に浅葱は少し不安になる。
「話し声?」
『なんか、女性の笑い声がそっちから聞こえた気がして。あ、気のせいですよね』
「いやいや……」
あの怪談話を思い出した。
このホテルには女の霊がいる。
恒人もそのことを思い出しているのか、言葉が続かない。
「今も聞こえる?」
『はい、なんかぼそぼそ喋っている声が』
さほど高いホテルではないので隣室の声が抜けることはある。
しかし今、浅葱の部屋は静かで電話の向こうに聞こえるような音源はない。
「え、やだな。怖いじゃん」
『す、すみません……。あの、ごめんなさいっ』
いきなり通話が切られ、浅葱はそっちにびっくりしてまじまじと自分の携帯電話を見つけた。
なにかよほどのことがあったのだろうかと思う。
聞こえた声とやらが怖かったのだろうか。
だとするならば、怖い場所は浅葱の部屋の方になるのだが、それを分かっていながらそれを置いて、浅葱は恒人が心配になってしまった。
涙沙に怪談話をされただけで怖がっていたのに、実体験になってしまったら本気で怖いかもしれない。
どうしようかと悩んでいると扉がノックされた、開ければそこにいたのは恒人で浅葱は慌ててチェーンロックを外して迎え入れる。
「ツネ、大丈夫?」
「すみませんでした!」
いきなり頭を下げられ、浅葱は驚く。
見れば他のメンバーも揃って部屋の前にいた。
「どうしたの?」
「あの、ドッキリ仕掛けようって話だったんですけど……ちょっと度が過ぎたというか、悪戯にしてはアレっていうか、とにかく嘘ついてごめんなさい」
「いやいや」と浅葱は首を振る。
「いいよ、悪戯だったんでしょう?なら嬉しいな、恒人に悪戯してもらえて」
穏やかに微笑む浅葱に恒人がほっと息を吐いた。
そしてその後ろに立つ三人。
「か、体中がむずむずする・・・」
と大城が赤面して自分の身体を抱きしめる。
「なぁ英蔵君。英蔵君の浅葱君大好きっぷりは半ばネタ化してるけど、ツネもかなりヤバい領域だと思わん?」
「うん、なにがヤバいって当人達が自覚ゼロなとこが本気でヤバい」
いつもは突っ込まれる側の英蔵が冷静かつ真顔でそう言う。
「あーあ、せっかく面白い悪戯やと思ったのに、実行役をツネにしたの失敗やん」
涙沙はそう言って大城の背中を叩く。
「だ、だってツネちゃん腹芸得意じゃん、こんな展開予想できないよ」
「なぁ!?英蔵君に仕掛けるならこんな風にはならなかったのに」
「それって俺は喜べばいいの?悲しめばいいの?」
「うーん、どっちだろう」
失笑を合わせる三人に、恒人の頭をぽふぽふしながら浅葱が言う。
「じゃあみんなでコンビニにアイス買いに行こうか」
失笑を微笑に変えて、三人は頷く。
「ま、ある意味で成功ってことやね」
リンチ編
「葉月さん聞きました!?このホテル幽霊出るらしいっすよ!」
明徳が駆け寄ってきてそんなことを言う。
フリスビーを咥えてきた犬を連想させるきらっきらな瞳に葉月は鬱陶しげに手を振った。
「どーでもいいよ、そんなん」
メジャーに行ってからようやく一人部屋に泊まれるようになった。
少し寂しいがむしろありがたいこと、それに水を差すような情報なんて欲しくない。
「マジだよ」
こちらは悪戯っぽい猫系の笑みで悠介が言う。
「夜中に女の笑い声で目が覚めるとベッドからぞろりとした長い髪が……」
「怖いっすよー!悠介さんとこ泊まりに行っていいですか」
「いいよ、床で寝てくれるなら」
「行きます!」
「馬鹿かオマエ。女子中学生じゃあるまいし、幽霊なんて出るわけねぇだろ」
「じゃあ葉月さんは怖くないんですか?」
ムキになる明徳に葉月は鼻で笑う。
「幽霊なんかより生きてる人間のほうが怖いんだよ。いい齢こいた男が幽霊怖がるとかダサっ!でらダサい」
「ふぅん」と含みありげな笑いで口を挟んできたのは晁直だ。
「じゃあオマエ、実際に出ても人に助けを求めないか?」
「はぁ?出るわけないでしょ、仮に出ても無様に人の部屋に泊めてもらうようなまねしませんって」
言い切る葉月に3人は視線を交わす。
「ここ、マジでシャレにならないんだけどな」
そうして聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いて晁直が悠介と明徳に言う。
「俺らは無様に固まってよっか」
「ですね、葉月さんは全然怖くないんですから、平気ですよね!さすがっす!」
「そこまで言ったんだから、何があろうとこっち来ないでね」
無邪気な明徳と嫌味を含めた悠介がそれぞれ言い捨てて去って行くのを葉月は微妙な気持ちで見送った。
内心では話を聞いただけで怖かったのだ。
しかしプライドが高い彼はそれを出すことができない。
「お・・・お化けなんていない」
そう自分に言い聞かせて部屋へと向かう。
シングルの手狭な部屋、オレンジの灯りをつけてもホテルの部屋らしく生活感はなくて無機質だ。
「お化けなんていない、幽霊なんて全部科学的に説明がつく、うん!」
またそう言い聞かせて、とにかくシャワーを浴びてベッドへ。
眠るにはまだ早く携帯ゲームを弄っていると玲央から着信。
なにかトラブルだろうかと通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし・・・っておい、なにやってんだオマエ?』
「はい?」
『そこで笑ってる女は誰だよ?知り合いでも呼んだのか?』
「なに言ってるんですか、一人っすよ、俺」
心外だと口を尖らせる葉月に玲央の声はあくまで厳しい。
『誰もいないのに笑い声がするかよ、なんか喋ってるし。ホテルの部屋に女を呼ぶのはちょっと無警戒すぎるだろ』
葉月は立ち上がって部屋を見渡す。
もちろん誰もいないし、玲央がそれと勘違いしそうな音もない。
「い、いや、玲央さん。本当に一人なんですよ、本当です!」
葉月の必死の訴えが通じたのか玲央は軽く唸って言う。
『そうか、じゃあ混線かな?悪かったな、疑って』
「い、いや、あの、そうじゃなくて……いったいなんの声が……」
『分からん、でも聞こえたのは事実だ。今もなんか聞こえてる』
「こ、このホテル幽霊出るって!」
『幽霊なんているわけないだろ。ああ、なんの用事か忘れちまったじゃないか。またかけなおす』
通話が切れると、どっと襲い掛かってくる静寂。
エアコンや冷蔵庫のうねる音がやけに大きく響き、葉月は身を竦めてベッドから離れた。
窓際のソファーに膝を抱えて座る。
あんな大見得を切ってしまったのだ、晁直達のところへ行けるわけもない。
「う……」
嫌な汗をかきながら葉月はじっとベッドの下を凝視した。
淡い灯りの中でそこだけ闇が蟠っていて、視線を感じる気がする。
「ないない、うそうそ」
しかし、怖いものは怖い。
部屋を即座にチェンジしてもらえるほどいい身分でもない、晁直達にバレないようにと、こっそり外へ出る。
廊下に出たところで明徳と遭遇した。
「あれ?買い物ですか?」
「ん!?ああ、まあ、ちょっと」
「顔色悪いっすよ、なんかあったんですか」
「ないないないない、気のせいだろ」
「いやあ、素直に言った方がいいですよ」
にまっと笑う明徳に葉月は動きを止める。
どういう意味だ?
「ほら、怖かったなら怖かったって言ってくれないと。こっちだって種明かしできないでしょう」
「て、てめえら……グルか!?玲央さんまでグルか!?」
「あは、まあそうですねぇ」
「……なんか、もう」
怒鳴る気力も失せる、大見得切った自分も悪い、脱力しながら明徳を見ると、手書きの『ドッキリ大成功』を掲げていたので軽く蹴りを入れた。
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