同じ部屋にいれてみた。
Dとリンチを同じ部屋に入れてみた。
「なあ、これ……」
と晁直がメイド服を手に取るなり葉月が叫ぶ。
「着ないでくださいよ!!」
「着ないよ、二回同じヤツが着ても面白くないがん。というわけで葉月が着て」
「着ねぇよ!!」
「じゃあ、明徳」
明徳は慌てて顔を上げて全力で首を振る。
「勘弁してくださいよぉ、そんな全力で笑い取りに行く気ないっすよぉ」
「じゃあ……玲央さん?」
「地球を破滅させたいのか」
突っ込みの葉月。
無礼なことを言っているのか玲央をガードしているのかいまいち分からない。
「んー」と明徳が室内を見渡し、目に留まった人物を呼ぶ。
「恒人さん、ちょっといいですか?」
「なぁに?」
警戒心ゼロで寄ってくる恒人、基本的に表情は変わらないが放つ空気は何故かほんわりしている。
「恒人さんって女形ですよね?」
「まあ、一応ね」
「じゃあメイド服抵抗ないっすよね、着てくださいよ!」
おいおいと葉月が言うが恒人はちょいと小首を傾げて頷いた。
「ん、いいよ」
「オマエ……抵抗ないの?」
葉月に問われ恒人は薄く微笑む。
「ないよ。むしろこういう量産品なことに抵抗あるぐらいかなぁ。アレンジしてる時間はないみたいだし」
「あ……そう」
それ以上突っ込むのをやめ、メイド服を受け取って部屋を変える恒人を見送った。
「オマエね、年上になに無茶ぶりしてんのよ」
晁直に言われ、明徳は今更気まずそうな顔になる。
「葉月さーん、恒人さん怒ってないですよね?」
「さぁな。怒っても言葉にも態度にも出さないし、アイツ」
「うあー……怒ってたらどうしよ」
「明徳って意外と考えなしだよな」
ちょっとドキドキしながら20分は待っただろうか、恒人が戻ってきた。
メイド服で、ナチュラルメイクで黒のゴスっぽいショートストッキングまで穿いて。
「どうかな?」
頼んだ3名は無言で見つめる。
「あ、やっぱダメだった?」
「女形すげぇ、違和感が仕事しない」
「ふ……普通に可愛いっす」
葉月は友達と言う立場上感想を避けたが同じだ。
何故、男がメイド服着て1ミリの違和感もないのか、下手にその辺の女子に着せるよりよほど可愛い。
ヘッドドレスの脇にポニーテールにも見えるエクステをつけ、赤毛は派手だが可愛いメイドさんが完成されていた。
「あは、それは気合入れた甲斐がありました」
「ごめん、笑いを求めてたんだけど」
そういう晁直に恒人はきょとんとする。
「はい、笑いを求めてますが?」
三人は目を合わせ、思ったことは一つ。
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……
「あれ?笑えませんか、男が気合入れてメイド服って」
「いや、気合入れすぎて完璧になっちゃってるから!」
またも突っ込みの葉月。
しかし恒人は怪訝そうに首を傾げ言う。
「笑いのツボが違うみたいだねぇ」
「いや、オマエの頭がおかしい」
そこに浅葱がやってきた、どんなリアクションをされるかと様子を窺っていると浅葱は優雅に微笑んで言う。
「おや、これは可愛いメイドさんだね。紅茶でも入れてもらいたいよ」
「あはは、ペットボトルのでよければ」
「ペットボトルの紅茶もその姿で入れたら高級茶葉の味になるよ」
「浅葱さんってば、もう!」
けらけら笑う二人に明徳は震えながら葉月の袖を引く。
「あ、あの、あれって怒って言ってるんじゃないですよね?」
そんな明徳の肩を叩き、葉月は神妙な顔で言った。
「明徳、冷静になって聞けよ」
「は、はい……」
「あの二人にとってアレは日常会話だ」
「……え、ええええええええ!?」
「まあそのうち慣れるさ」
晁直は鼻で笑った。
別室に言っていたDのリズム隊が戻ってきて、英蔵が声をかける。
「たい焼きの差し入れあったよー」
「先に食べちゃったけどね」
と涙沙が笑い、最後の一口を飲み込んだ浅葱が気まずそうに笑った。
「たい焼きですか!?」
語尾に音符を飛ばして嬉しそうな恒人と大城が机の上に置いてある袋の前に行き、そうして首を傾げた。
「一個しかないよ」
「ええ!?」
驚くDのメンバーに玲央が目を細めて葉月を見た。
「最後にとったのオマエだったよな」
「し、知りませんよ!?」
「まあ、最初から数が足らなかったんでしょう、確認したつもりでも数え間違えというのもあります」
浅葱はあくまで穏やかだ。
「あそこまで疑いを持たずに人って生きられるんだ」
悠介が何かに開眼した顔で呟いた。
「じゃあツネちゃん、これはんぶんこしよう」
残り一つのたい焼きを取り出して笑う大城に、恒人も「はい!」と笑顔で頷く。
そうして大城は尻尾の先、ほんの少し……餡も入っていない部分を折って口に入れ、残りをまるまる恒人に差し出す。
「はい、半分」
「いや……大城さん?」
「だってツネちゃんたい焼き好きじゃん、ならツネちゃんが食べられるなら俺は満足」
夏の青空のように爽やかに言う大城に恒人は肩を竦めて笑い、そうしてたい焼きをキレイに半分にすると頭の方を差し出した。
「でも、二人で食べた方が美味しいでしょう?」
大城はふっと微笑んでそれを受け取る。
「そうだね、ツネちゃんありがとう!」
その光景を見ながら明徳が全力で震えていた。
「あ、あ、あれ?」
「大丈夫だよ、怒ってやってんじゃなくて素だから」
たい焼きを食べながら言う晁直に明徳はぶんぶん首を振って言う。
「葉月さんが二個取りました!!」
「ちょ!?1秒の迷いもなく裏切ってんじゃねぇよ!」
「足りなかったらどんな反応するのかなって葉月さんが取ったんです!俺は今、自分という存在の小ささに打たれました」
膝をつく明徳の頭を軽く押して玲央が葉月に近づく。
「れ、玲央さん。ちょっとしたお茶目ですよ!?」
「子供かオマエは、恥ずかしい」
そうして葉月の頭に拳骨がお見舞いされ、葉月は涙目になりながら隠していたたい焼きを恒人と大城に差し出した。
「すみませんでした!」
「気にすんな、悪戯だろ。はい、今度はツネちゃんが頭の方ね」
そうして大城はキレイに半分にしたたい焼きを恒人に渡した。
そのたい焼きにはむ、と齧り付いて恒人は葉月を見つめる。
「いや、悪かったって……」
「んー、ありがと」
「はぁ!?」
「なんかこうやって食べるとすごく得した気分だよ、ありがと葉月」
そうして葉月も膝をついた。
「分かった、己の小ささが痛いほどに!!」
そうしてこちら、涙沙と悠介。
「なんというか、独特ですよね……えと、浅葱さんって」
「まあね、俺は付き合い長いから慣れたけどなぁ」
「大抵イメージと違うんですけど、期待を裏切らないと言うか」
「うん?」
「ほら、玲央さんとか晁直君とか怖く見られがちですけど喋るとそうでもなくてそのギャップに驚かれるような」
ああ、と涙沙は頷く。
「ん、でもツネはギャップあったーって驚いてたな」
「そうなんですか?」
「うん、もっと王様みたいな高貴喋りすると思ってたら穏やかだったって」
にんまり笑う涙沙に悠介は小さく吹き出す。
「そりゃ、そんな人は実際にいませんからねぇ。恒人君も天然入ってるんだ」
「というかズレてんのかな。まあ、ウチが独特なのは否定せんけどねぇ」
そんな話をしているととことこと浅葱が寄ってきた。
「涙ちゃん、チョコクッキー食べる?」
「食べる」
「はい、あーん」
「あーん」
チョコクッキーを涙沙の口に入れて、浅葱は笑う。
「悠介君は?」
「あ、いえ、けっこうです」
「そう?」
と、浅葱は他のメンバーにあげるためだろう、またとことこと去って行った。
「まあ、これぐらいは慣れないと」
「…………無理です」
悠介は首を振る。
「うーん、俺は付き合い長いし、浅葱君とツネなんて10歳差があるからついつい子供扱いしてまうんだとは思うけどなぁ」
「それを言ったら玲央さんと明徳なんて干支一回りしてますよ」
「え?そんなあいてんの?」
「どっちも寅年という。まあ、子供に見えるとは言いますけどね」
「なんつーか、多少のオイタは許せる差やなぁ」
「それでそこはみんな納得してくれるんですけど」
と悠介は悪戯っぽく笑う。
「俺と晁直君が同い年だって言うと驚かれるのってどっちが原因でしょうね?」
「……そ、それはどっちも原因やと思うよ」
「ですよねぇ……」
「精神年齢は悠介君のほうが高そうなところがよけいに混乱する」
ふふ、と悠介は小さく笑う。
「Dの皆さんは、精神年齢がぐだぐだですね」
「そこは指摘禁止ー!」
「ウチは見事にお子ちゃまと大人に別れてるのに」
「まあね、オトメンの分だけ浅葱君の精神年齢ってよく分からんし、大城君は中身が少年やし、ツネはしっかししてるとことお子様な面が見事に分離してるからなぁ」
「もしかして英蔵さんが意外に一番大人だったりします?」
「いや……それはないかな、ぐだぐだって表現が的確かも」
「涙沙さんはだいぶキャラ作ってますもんね」
「……そこも指摘禁止」
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