今夜、星は降る
一部の麺がギャグとしてですが『女装』します。
シャレの通じる方のみご覧下さい。
夏、イベント目白押しの夏。
時期的には秋に近いけれどきっとまだ東京は暑いであろう時期に設定されたあるイベント。
出演者が発表されたら、きっと全国のバンドギャル達はチケット取りに奔走するだろう。
それくらいの豪華メンバー+シークレットゲストあり。
そんなイベントの打ち上げのことで、出演者のほうが上を下への大騒ぎになってしまうような爆弾が投下されたのは、そのイベントの一ヶ月前のことだった。
今夜、星は降る
選抜戦1『ムック』
「で、誰にする?」
鬼目全開なミヤの低い声に、残りのメンバーは顔を見合わせて引きつった笑いを浮かべた。
ついさっき、マネージャーから告げられた一言。
『イベントの打ち上げの余興で、メンバー内から誰か一人、女装をすること』
そんな阿呆な話があるか!と一蹴できるレベルの要求だと最初は思った。
が、その発案者が大先輩中の大先輩、ヒデからのものならば呑むしかない。
別に彼は無茶な要求をしてくるタイプの人ではない、むしろ本人に悪気も悪意もなく単純に「やったらおもしろいじゃん!」というノリでの企画だからこそ断れないのだ。
なんだかんだ言ってみんなヒデさん大好きなのでなおのこと。
「まず、俺は除外だね!だって輸血子さんやってるからさぁ、面白くないじゃん!?」
無理矢理明るくしたような声で言うユッケの足を逹瑯が軽く蹴った。
「オマエと輸血子は別人だろうが!」
「たつぅ、大人なんだからさぁ、その辺りは分別つけようよ」
「あ〜!?なんだよその上から目線?」
そのまま不毛な言い合いに発展しそうになったのをミヤが一睨みで止める。
「ユッケの言うことはもっともだ、だからユッケは除外。俺達の場合《正当派》は狙えないだろう、かといってキモイとか思われるレベルのものじゃ困る」
逹瑯は少し不服そうな顔をしたが一応納得したらしく頷いた。この二人の数少ない共通点《負けず嫌い》が発動したためだ。
「じゃあヤスは論外だね」
「なんで!!??」
「身体から顔から男らしすぎるだろ・・・メイク映えするタイプでもないわけだし」
「え〜!?」
「さとー、やらなくていいって言われてるんだから喜ぶところだよ?」
「あ、そっか!!」
笑顔で頭を掻くサトチを無視して、重苦しい空気をミヤと逹瑯が飛ばし合う。
「ってことは俺かミヤ君なわけだけどさぁ、身長からいってミヤ君でしょ?あ、髭を言い訳にしないでね、剃ればすむ話なんだから」
「言われなくてもしねぇよ。でも俺だってヤスやユッケほどじゃないにしてもけっこうゴツイぞ?その点おまえは細いからオマエがやったほうがいいんじゃねぇか?」
「こんな背の高い女はいないって。それにミヤ君、ファンの子から可愛いってよく言われんじゃん」
「背の高さ言い訳にすんなよ。だいたい俺に対する《可愛い》は《女の子みたいに可愛い》って意味じゃねぇんだから」
「だってミヤ君、趣味が乙女じゃん!」
「オマエに言われたくない。オマエのほうが目がデカイしメイク映えるだろ?」
「ミヤ君は色白だし肌も綺麗だべ」
「おまえだって充分白いよ、それに髪も綺麗で長いし、ウイッグの必要ないべ」
「や、俺よりミヤ君のほうが良いって、唇の形がエロイし!」
「逹瑯だって見ようによっては可愛いだろうが!」
剛速球のキャッチボール、いやドッチボールを始めた逹瑯とミヤにサトチがのほほんとした声で言った。
「すげぇな、二人とも、お互いの容姿誉め合っちゃってる!こんなの初めて!」
サトチにしては的確すぎる指摘だった、逹瑯もミヤも気まずそうな顔で口を閉じる。
ユッケが小さな声で「さとー、ナイス!」と笑った。
「あ〜あ!ウチにも明希みたいに可愛い子がいれば話が早いのに・・・」
「ないもの求めてもしかたないだろうが」
そもそもムックは『密室系メイク』だったので女形もなにもない。
遡ればそれらしいこともなくもないが、逹瑯以外のメンバーが見事にごつい体つきになってしまった今となってはやろうとすら思わない。
「じゃあさ、ミヤ君、ここは平等に《ダウト》で勝負しようか?」
「二人で《ダウト》って・・・それ勝負つかないからな」
ミヤが呆れたように肩を落とす。《ダウト》は三人以下でやると終わらないゲームなのだ。
「ちぇ。延々やり続けたらさっさとリハやりたいミヤ君が《俺がやる》って言ってくれる策戦だったのに」
「・・・殺すぞ」
漢字表記での「殺す」は本気で苛ついている証拠なので逹瑯も巫山戯るのをやめて、手を出す。
「じゃあ、じゃんけんね」
「・・・それしかねぇな。せこいことすんなよ」
「俺って信用ないなぁ」
「信用してほしけりゃ普段の態度見直すんだな。いくぞ・・・」
「「ちっ!!!けっ!!!たぁぁぁぁっ!!!」」
勇ましいかけ声と共に突き出された手はミヤが《ちょき》で逹瑯が《ぱー》だった。
「ミ・・・ミヤ君!これ三回勝負ね!!」
「小学生かてめぇは!?」
ムックの余興役、逹瑯に決定。
選抜戦2『シド』
「ま、それは明希にやってもらうとしてセトリだけど・・・」
さらりと言い放ったマオに明希が慌てた様子で「ちょっと待ってよ!」と声を上げる。
「なに?」
面倒くさげに視線を上げるマオに明希は頬を膨らませる。
「なんで俺がやること前提で話が進んでるんですか!?」
「はぁ?だって俺はしんぢやゆうやの女装なんて見たくなかし、俺はやらないから明希しかいなかやろ」
一瞬納得しそうになったが明希は首を振る、「俺は」とか言ったぞ、この人。
「別にマオ君がやったっていいじゃん・・・」
「嫌だよ。もうよかやろ、明希が一番適任なんやけん」
「え!?明希君がそんなに嫌なら俺がやってもいいよ!?」
とゆうやが上げた手をしんぢが掴んで下ろす。
「世界平和のためにやめてくれ・・・俺も明希が適任だと思う」
「でしょ〜?はい、明希に決定!」
「・・・・」
マオの有無を言わせぬ口調に明希はむっとした表情で何か言おうとしたがそれを中断して、目を細めた。
「いいですよ、俺がやる」
「明希ちゃんよろしこ!」
手元の資料に視線を落としていたマオと、マオの方を見ていたしんぢは気づかなかったがゆうやは気づいた、明希の口元が嫌な感じに歪んだのを。
ストレートな性格であるゆうやはその理由を聞こうと口を開きかけたが、その前に明希に睨まれて止めた。
そのまま始まったイベントの選曲中もどことなく楽しそうな明希を見て、ゆうやは心の中で手を合わせた、当日が怖いなぁと思いながら。
シドの余興役、明希に決定。
選抜戦3『メリー』
携帯電話を見ながらほくそ笑んでいるガラにテツが声をかけた。
「なにやってるんだ?」
「いや、例の余興、ムックからは逹瑯がやるらしい。ありえねぇし、見たくねぇし」
「ウチはまだ誰か決まってないんだが・・・」
「ん?」
「逹瑯がやるならウチからはオマエだな」
一瞬言われたことが理解できずぽかんとしてからガラは叫んだ。
「ええええええええ!?なんでそうなるの!?」
「誰もやりたがらないからな、でも逹瑯がやるならオマエがやらないと」
「だからどこがどうしてどうなってそうなった!?」
「逹瑯とは友達じゃないか」
「理由になっていませんが!?」
「というかさっき四人で話し合ってオマエに決まったんだ」
またもや言葉の意味を飲み込むのに数秒かかる、どういうことだ、それは?
「遅刻するオマエが悪い」
確かに、ガラは今日遅刻してしまったがそれも15分ぐらいのことだ、これじゃあまるで・・・
「休んでる間に面倒な委員押しつけられたみたいな系!?」
その通り。
友人の不幸を喜んだ罰だろうかとガラは頭を抱えた。
メリーの余興役、ガラに決定。
選抜戦4『D』
「はいはいは〜い!俺やる、俺!」
元気よく手を上げた涙沙に浅葱が笑顔で「じゃあるいちゃんに決まりね」と言った。
「あ、でもツネもやりたいんじゃない?」
「ん?そうなん?ツネもやりたいんか?」
英蔵と涙沙に問いかけられて恒人は困ったように首を傾げる。
「何言ってんですか?あ、涙沙さん、俺は別にかまいませんから涙沙さんやってください」
一言目がやたらキツイのは英蔵に向けた言葉だからだ、毎度のことなので特に誰も突っ込まない。
「そうなの?やりたくないの?」
何故か食い下がってくる英蔵に恒人は冷ややかな視線を向ける。
「・・・・・・見たいんですか?」
「や、別にそういうわけじゃあないけれど・・・」
「じゃないけど?」
「似合うかな、ぐらいは思った・・・かなぁ」
「・・・・」
「なんか答えてよ・・・」
「英蔵さん、気持ち悪いです」
年下のメンバーから暴言を吐かれてしまった。
「ああ、そうだ、ウチからは二人出してもいいよって言われてたんだった」
浅葱が今思いだしたとぽんっと手を叩く。
それを聞いた恒人は複雑そうな表情で言った。
「それって、遠回しにウチからは俺と涙沙さんでってことじゃないですか?」
「うん、まぁそうだろうね、浅葱君でもかまわないんだろうけど。ウチから二人って言ったらるいちゃんとツネってことじゃないかな」
恒人の的を得た言葉を大城が肯定する。
「じゃあウチからはるいちゃんとツネってことでいいかな?」
浅葱のまとめに反対意見が出なかったので、話は終わった。
Dの余興役、涙沙と恒人に決定
前準備1『逹瑯とガラ』
「おまえらが女装ねぇ・・・」
都内某居酒屋、逹瑯とガラの目の前で、京はアーモンド型の目を細めてそう呟いた。
「ひどいですよ、人がいない隙にそんなこと決めるなんて・・・」
「災難やったなぁ、まこ。で、そのイベント他には誰が出るんや?」
まだ落ち込んでいるガラの代わりに逹瑯が答える。
「メリー、ムック、シド、D、あとシークレットでヴァンプスで・・・飛び入りでイノランさんとヒデさんですね、っていうか企画者がヒデさんです」
「んんん?えらくバランス欠いた面子やな・・・もっと呼べそうなもんやのに」
「嫌だな京さん、《作者の都合》ですよ」
ニヤリと笑う逹瑯の鳩尾にガラの肘鉄が決まった。
「永久に口を閉じてくれないか?しかし逹瑯はともかくシドとDですよ!?シドからは明希で、D
からは涙沙君か恒人君でしょう!?それに加えてハイドさんとイノランさんが《余興》に参加するなら・・・俺達イロモノじゃないですか!?」
「まぁ、メイクマジックでどうにかなるとは思うけど・・・ちょっと他のレベルが高すぎるわなぁ」
京がフォローを入れつつもガラの言葉を肯定した。
「待ってくださいよ、俺はイロモノになる気はないですからね!絶対、ずぇぇぇぇぇたい!メンバーに《可愛い》て言わせてみせますよ!!」
「オマエの負けず嫌いは360度展開だな・・・」
鼻息荒く宣言する逹瑯にガラは呆れた様子で肩をすくめた。
「・・・そのイベント実はオレらにも声がかかってたんやけどね」
「そうなんですか?」
「どうしても予定が合わなくて、お断りさせてもらったけど、まさか打ち上げでそんな話が出るとはなぁ」
たしかにバランス的にディルが入ったほうがいくらかマシかもしれない、それでも時期的な穴はボコボコに空いているし、コアさに欠ける面子には違いないが。
「え?じゃあもし参加してたとしたらディルからは京さんですか?・・・いてっ!」
ガラに足を踏みつけられた逹瑯が声を上げたのも、けっこう失礼なその内容も全く気にせずに京はさらりと言った。
「いや、俺そもそも打ち上げ参加せんし」
「そうですよね!それにディルだったら心夜さんがいるわけですし!」
「ん〜!?それは微妙やなぁ、さらっと受けてくれるか断固として断るか俺にも想像がつかんもん。ウチの場合は堕威君は論外やろ、薫君はまぁどうにかなりそうやけど嫌がるやろなぁ」
敏弥は名前すら上げてもらえないのかとは後輩二人、突っ込めない。
「俺もどーしてもって言われたら腹括るけど・・・ちょっと最近、むっきむきやからな。その点オマエらは二人とも細いから誤魔化しきくやろ」
京に言われると(特にガラは)意味もなく自身が湧いてくる。
「ウケを狙うか、本気でやるか、それが問題だ・・・」
ハムレットの如くポーズを決めるガラの頭を小突きながら逹瑯も真顔になった。
「どっちにしても外せば・・・地獄だな」
前準備2『明希』
「これは仕返しですよっ!!」
男らしく缶ビールを一気飲みして明希はそう叫んだ。
「・・・仕返しって」
そんな明希の目の前でミヤは困惑顔。明希の自宅に呼び出されていきなりそう宣言されたのだ、そりゃあ困る。
「マオ君に対する仕返しです、嫌がらせです、今世紀最後の悪戯です!」
今世紀があと何年あると思ってるんだ!?という突っ込み待ちかと思ったがどうやら天然で言ったようなのでそこは流した。たぶん「最大」の言い間違えだ。
「相変わらずオマエのところは力関係がはっきりしてるんだかしてないんだか・・・」
「下克上なのです!!」
腰に手をあて、くいっと顎を上げて明希は笑う。無駄に可愛い。可愛いの無駄遣いだ。
「そんなにマオに対してムカついてるのかよ?」
「可愛さ余って憎さ1.5倍スーパーカップです」
「憎さの割合のほどがその言葉からじゃ分からないんだが・・・」
「女装イコール俺とは理不尽です、マオ君がやっても問題ないし、しんぢ君だってメイクしたら綺麗なのに・・・だ・か・ら!仕返し」
語尾にハートマークが見えた気がした。怖い。
「明希、オマエ酔ってるのか?」
酔ってるのなら今すぐにでも逃げなくてはいけない、明希の酒乱はシャレにならないのだ。破壊神が降臨する前に逃走だ、全力疾走だ、先輩の威厳なんか使用済みティシュの如く捨ててやる。
「酔ってません!!」
「そう言うヤツはたいてい酔ってるんだよ・・・」
「そしてその仕返しのターゲットには逹瑯さんも含まれています!」
「あいつがまたなにかやったか・・・」
「俺が余興役だと知ったその夜、一時間にわたるメールでのセクハラを受けました!」
何をやってるんだとミヤは頭を抱える、容易にその内容が想像できてしまうのにも脱力だ。
「ミヤ先輩なら分かってくれますよね・・・ドMを怒らせるとどうなるかっ!!」
その台詞、カッコイイんだか間抜けなんだか・・・でもまぁ実際分からなくもなかったのでミヤが頷くと明希は嬉しそうに笑った。
「と、いうわけでちょっと知恵を貸してもらえますか?」
その夜、本格的にマゾ同盟が締結されたのだった。
前準備3『涙沙と恒人』
「ウチのバンドに・・・女子大生がいる」
普段ならからかいの対象にしかならない英蔵の言葉にもこの状況を見れば大城は頷かざるおえない。
少し離れたところで涙沙と恒人がお菓子を食べながら仲良くファッション雑誌を見ているのだ、それも女性用の。
「これとかツネに似合うんとちゃう?」
「いや、俺にはちょっと可愛すぎますよ〜、むしろこれどうです、涙沙さん」
「え〜、ちょっと派手やん、キャバ嬢っぽくならへん?」
「でもこのふわふわした感じ、合うと思うけどなぁ・・・」
「じゃあこっち、これツネが着て!」
「似合いますかねぇこれ、ちょっとキュートすぎないですか?」
「ツネなら似合うって〜」
交わされてるのはそんな会話だ。なんかもう周囲に花が飛び散ってる。
「女子大生だね、その上、肉食女子だねぇ」
「それでもはまっちゃうあの二人に初めて恐怖を感じた・・・浅葱君、なんかすごいことになっちゃいそうだけど、いいの?」
そんな中で一人浮いた空気、もとい、独特のオーラを放っていた浅葱がふっと微笑む。
「だって余興だからね、ライヴが成功するならなにも問題はないよ」
ごく当たり前に、真面目なことを言われた。
「ああ、でも・・・楽しみだなぁ・・・」
妙に和んだ目で涙沙と恒人を見る浅葱に「何が楽しみなの!?」とは聞けない二人だった。
決戦当日!!
イベントは大成功だった。途中コラボ企画なども挟み、会場は熱狂の渦に包まれた。飛び入りゲストに急遽サクラが加わることになり、昔のラルクの曲を演奏した時などは感極まって泣き出す客もちらほらいた。出演バンドの関係上、中高生より高い層が客席をしめていたので、イノランやヒデが出た時の盛り上がりは歓声で天井が抜けるかと思うほど。
あまりに盛り上がりすぎて時間を大幅に過ぎてしまい(即興で何曲かやってしまった)途中で帰らなければならなかった客がいたことと、「早く終わってくれ!」と怒る会場責任者のスタッフ間で一悶着あったが、それ以外は機材トラブルもなく大きなミスもなくスムーズに終わった。
夜の9時半、輝くような笑顔で帰っていく客達を見ると、胸に籠もった熱気が心地よくこのまま空でも飛べそうだ。
楽屋の窓からそっと外の様子を窺っていたマオにスタッフから「そろそろ打ち上げ会場に移動で〜す」と声がかかる。
そういえば《余興》があったんだよな、とマオは明希の方を見た。
「明希ちゃん。《余興》の準備できてるの?」
「できてますよ〜」
こちらを見た明希の視線に一瞬、棘のようなもを感じて首を傾げる。ライヴも大成功だったし、なにも問題はないはずだが。
「どんな格好するの?衣装見せてよ」
「ダメ、本番までのお楽しみ〜!」
からんでくるしんぢに軽く舌を出して笑う明希はむしろ楽しそうで、やはりさっきのは気のせいだったなと、マオは移動準備をするために鞄を取った。
ホテルの宴会場を貸し切っての打ち上げは盛り上がっていた、出演者達も挨拶回りを終え、酒好きな人間は呑んでいるし、そうでない人間は料理をつまみながら雑談している。
20分ほど前《余興》をやるメンバー達が着替えのために会場を出ていったので、今はそれ待ちといったところか。
席は決まっていなかったのでそれぞれ適当な場所に腰かけている。
マオのいる円卓にはミヤと浅葱、それから見覚えのない女性が座っていた。とんでもない美人なのでスタッフではなくモデルさんだろうか、もしくは誰かの彼女。
長い黒髪にノースリーブのタートルネック、アームウォーマー、タイトなロングスカート。胸はわりと大きくて背もマオより少し低いぐらい。
話しかけようかとも思ったが、綺麗すぎて躊躇してしまう。同じ席のミヤと浅葱は彼女の存在そのものを無視しているかのように視線すら合わせなかった。
と、いうかミヤはマオを見ている。それも妙に優しい目で。
ミヤが優しくないわけではないけれど、目つきの悪い人の《優しい目》というのはなんとなく嫌なものがある。
「・・・ミヤさん、俺なんかしました?」
「おまえのとこは明希だからまだいいよな、押しつけた形とはいえ、俺はあんま逹瑯の女装見たくない」
話を逸らされたが、深く追及する必要も感じない。
「まぁ明希は、そうですねけっこう良い仕上がりになるんじゃないかな、と」
「なんでマオはやらなかったんだ?昔、スカートとかはいてただろ」
「やりたくなかったからですね」
「まぁ・・・そうだよな・・・」
やはりなにか先程からミヤの態度がおかしい気がする、あとゆうやの様子もなにか変だ、さっきまで場を盛り上げる役を率先してやっていたのに《余興》組が部屋を出てからは隅っこのほうで静かにしている。
まぁ気にしてもしかたがないのでそのまま雑談を続ける。浅葱の「ウチの二人は張り切ってるよ」発言にちょっと驚いたりしながら《余興》組が戻ってくるのを待った。
トップバッターは逹瑯だった。特に順番が決めてあるわけではなく着替え終わった順、ステージに上がって何かをするでもなく、単に女装してくるだけという微妙に開き直りきれないのがこの企画のミソだ。
「俺、いっちば〜ん!」と明るい声を上げて入ってきた逹瑯は黒のサマードレス姿。
背が高いので迫力がある、よく服のサイズがあったなぁって感じだ。
そしてやはり彼もパフォーマンス上手なボーカリスト。自分の長所をよく分かっていて遠目に見るとなかなか妖艶で綺麗だった。つまり動きが上手い、ちゃんと計算されている。
あちらこちらのテーブルに顔を出しながら(ユッケに「近くで見るとたつぅだ!キモイ!」と言われてはり倒していた)マオの、というよりミヤのところにやって来る。
「どうよ、ミヤ君!?」
「・・・・・・いいんじゃねぇ?」
「でっしょ〜!?むしろ俺がやって正解みたいな!?だってミヤ君、行動がヤンキー抜けてないもんね、可愛いだろっ!?」
「いや、別に可愛くはないけど・・・悪くはないんじゃねぇの」
そう言いながらもミヤは半眼、逹瑯はつまらなそうに口を尖らせた。
「すっげぇメイクに時間かかったのに、そんな感想かよ・・・」
そうか、こっちは見ているだけでいいから楽だと思ったけど、感想を言わなければいけないのかとマオは顔をしかめる。
まぁ明希は感想を求めてこないかもしれないが、とりあえず今は逹瑯から余計な事を聞かれないように絶妙に視線をそらしておいた。
次に出てきたのは明希だった、女装・・・というかナース服だった。それも正規の、本格派のちゃんと医療系の店で買ったと思わしき完璧なナース服。
明希はヒデに挨拶をすると真っ直ぐにマオのところに来た。近くで見ても完璧だった、この日のために伸ばした黒髪がアシンメっぽく纏めてあるのがお洒落。
「明希ちゃん、それじゃ女装っていうかコスプレじゃん」
そう言うマオに明希は軽く口角を上げて微笑む。
・・・というかこの笑い方、そしてこの目つき、あれ?
あれ?
頭の中で黄色信号が瞬いている。
いつの間にかメリーのメンバーやらスタッフやらが集まって来て感嘆の声を上げてる。
周囲の賞賛にはなんの反応も示さずに明希は真っ直ぐにマオを見ていた。
様子を見に来たしんぢが笑顔のまま固まっていて、ゆうやは相変わらず隅っこのほうでデカイ図体を縮めていた。
頭の中の信号は赤に切り替わった。
これは明希が本気で怒っている時の顔だ。
「だってマオさん、ナース服いいなって言ったじゃない?」
《マオさん》が微妙に強調されている、ヤバイ、どう考えてもヤバイ。
「ちゃんとマオさんが言ったように膝下だし、色もマオさんが好きな薄ピンク選んだんですよ〜。俺は白が好きなんですけどね」
「あ、明希ちゃん!?」
気温がどんどん下がっていくのが分かる、周囲の視線は今やマオの方に向いていた。
「で、マオさんはナースな俺に注射されたいんでしたっけ?」
「おま・・・」
言い返す言葉が見つからなかった。何故なら明希は一つも嘘を言っていなかったからだ、確かに明希とそういう話をしたことはある、でもそれはラジオで、あくまで企画として、冗談半分で言ったことだ。
でも言い返せない誤解を招くような言い回しをしているだけで嘘をついていないのは事実。
誰でもいい、からかいの言葉の一つもかけてくれれば現状を打破できるのに、周囲の人間は固まっていた、凍っていた。
マオは必死でここしばらくの自分の行動を思いだす、明希を怒らせる何かがあったはずだ、そしてそれはゆうやが気づけるレベルのもの・・・そこでマオはふとミヤの方を見た。
ミヤはこの現状を存在しないかのように無表情で煙草を吸っている。
やっぱり、明希にしては手が込みすぎていると思ったのだ、たぶんミヤが入れ知恵をしたのだろう。
でも分からない、明希が怒ったポイントはどこだ!?
「・・・ってラジオで巫山戯てそんな話しましたよねぇ」
そう言って明希はけらけらと笑い出した、同時に周囲の空気も溶ける。
どうやら周囲は今の言葉は多少酒が入っていることプラス明希の天然のなせる技だと思ったようで「びっくりするじゃん」「変な想像しちまった」という言葉が飛び交う。
「あ〜き〜!おまえなっ!!」
「俺、なんか変なこと言った?」
笑顔でとぼけられた。
「あ、そうだ逹瑯さん」
くるっと綺麗に反転して明希は逹瑯を見る。
「な、なんだよ?」
危険を察知したのだろう、引きつった笑みを浮かべる逹瑯のそばに近寄っていって明希はさらりと言う。
「ニップルピアス見たいとか言ってましたよね、今見せましょうか?ちょうど脱ぎやすい服ですし」
「いや、ちょっと待て!いい!今はいいからっ!!」
「遠慮しないで下さいよ〜」
「してねぇし!マジでいいですからっ・・・・・・ごめんなさいもうしません許して下さい」
俺様男な逹瑯が後輩に三連コンボで謝るというツチノコより珍しい事態に周囲から笑いが巻き起こる。
マオから見たら明らかに嫌がらせでやっていたその行為も「天然」もしくは「お茶目」と取られたらしい、日頃の行いは大切である。
「ん〜、おもしろい絵が撮れると思ったんだが、残念・・・」
いつのまにかデジカメを構えていたミヤ呟きにマオの顔が引きつった。
「おもしろい絵って・・・っていうか明希に何吹き込んだんですか!?」
「俺は只の作戦参謀」
「やっぱり、明希にはこんなやり口無理だもん・・・」
「ああいうタイプは怒らせると怖いんだぞ?」
「そりゃ分かってますけど、悪知恵つけないで下さいよ、心臓止まるかと思った・・・で、明希は何に怒ってたんですか?」
そう聞くとミヤに呆れた顔をされてしまった。
「自分で聞けば?まぁあれだけやれば怒りもおさまっただろうけど、気になるならな。逹瑯はなんで怒らせたか分かったみたいだが、少し前フリが長すぎたか。気づかれなかったらすげぇ恥ずかしい写真が撮れたのに」
この人だけは、ミヤだけは何があっても敵にまわさないようにしなけばいけないなとマオは遠い目をしながら思った。
「明希(何だか知らないけど)俺が悪かったよ。(一応)あやまっとく」
「括弧括りの部分が気になるけど、いいよ、もうすっきりしたし。お腹のすく思いですよ!」
「じゃあなんか食べれば?」
思わず冷ややかな突っ込みを入れてしまったマオに明希は不思議そうな顔をする。擬音をつけるなら「うにゅ?」って感じだ。
「明希、それを言うなら《胸がすく》じゃないか?」
「ん?でも気分的にお腹の辺りがすっきりしたのです!」
そういえば着替えに行く前にけっこう酒飲んでたなとミヤもそれ以上のフォローをやめた。いかに明希が酒乱とはいえこれだけ先輩に囲まれていて破壊神降臨はないだろう。
そしてそうなった時に止めるのはミヤの役目ではない。
「じゃあ俺、着替えてきますね」
「あれ?《余興》組は最後までその格好じゃなかったっけ」
「だってこれじゃ只のコスプレですから、ちゃんと女装用の衣装も準備してある・・・ていうか、予定がある!?」
含みのある言い回しで笑って明希は部屋を出ていった。
同時に避難していた逹瑯が戻ってくる。
「ちょっとなんなんだよアレ!?てかミヤ君なに撮るつもりだったの!?」
「ナース服でニップルピアス公開している明希を見る逹瑯の図」
「・・・撮ってどうするのかな?かなかなかなかなかなかなかな!?」
「ヒグラシかオマエは。もちろん知り合い全員に転送だ」
「あんた鬼か!?鬼畜っ!?」
現在の自分の衣装も忘れ、オーバーに仰け反る逹瑯にミヤは冷めた視線を送る。
「明希の交友関係の広さを考慮に入れたほうがいいぞ、勿論明希に悪気はないんだろうが」
「どーいうこと?」
「オマエが明希にやったこと、広まるんだよ。今回は直に俺のところに来たからいいけどさ・・・いつだったかハイドさん、サクラさん、ケンさんと回ってきて俺の耳に入ったこともあったからな」
ミヤの言わんとすることが分かったのか気まずそうな顔をする逹瑯にマオは顔を寄せた。
「ウチの明希ちゃんになんばしたんでしょうかね?」
ついさっきまで明希の怒りの矛先が自分に向いていたことは棚上げらしい。ジャイアン。
黙っている逹瑯の代わりにミヤが言う。
「セクハラメールだよ。《マゾだからボンテージでも着れば》とか《ついでにニップルピアス公開すれば》とかそんな内容」
「あああああ!!明希に直に送った時は冗談ですんでたのに、改めてミヤ君の口から聞くと死ぬほど恥ずかしい!!!」
「だったらそんなメールを後輩に送るなよ・・・」
「ウチのメンバーにセクハラ禁止です!!」
マオにも怒られて逹瑯は改めて反省した。反省してからふと気づく。
「と、いうか・・・《ナース服でニップルピアス公開している明希を見る逹瑯の図》だっけ?それって明希も被害被らない?」
ミヤはくっと顎を下げて上目遣い気味に言った。
「《俺はまったく困りませんよ?そのぐらいのダメージむしろ楽しいぐらいです》・・・だそうだ」
「どっちかつーとミヤ君による明希のモノマネにダメージを受けましたが!?でも明希、カッコイイ、マゾカッコイイ、Mカッコイイ!ミヤ君に続いてMカッコイイ第二号!」
「当然です!ウチの明希ちゃんはかっこよかです!!」
見当違いな方向にマオがボールを投げた。そこで今まで静観していた同じテーブルの二人に限界がきたらしい。今まで俯いて肩を震わせるにとどめていた浅葱の無駄に綺麗な笑い声が響く。
マオの隣に座っていた謎の女性も笑い出した。
・・・というか。
マオは油が切れたロボットぐらいの速度でふり返って女性を見る。
「災難だったね、マオ君」
そう言う声には聞き覚えがあって、いやそれ以前に・・・
ガタガタガタッ!と派手な音を立てて椅子から落ちたマオと妙なポーズのまま固まった逹瑯が同時に声を上げた。
「「イノランさん!!!???」」
「イノランさんですよ〜。やだな、ホントに全く気づかなかったの?」
髪をかき上げて謎の女性改めイノランは呆れた顔。
「《余興》組だったんですか!?」
「うん、普通にやったら面白くないかなぁと思って、会場入る前から変装してたのにさぁ、あんまり面白くならなかった。喋ったら一発でバレるから喋れないし。あ〜疲れた!」
そう言いながらイノランは煙草に火を点ける。たぶんずっと我慢していたのだろう。
「全く気づきませんでした・・・完璧ですよ」
というか完敗、とばかりに肩を落とす逹瑯にイノランは可笑しそうに首を傾げた。
「そうでもないよ。浅葱君は見た瞬間に気づいたっぽかったし、ミヤ君も気づいてたでしょ?」
「肩ってけっこう見分けるポイントですからね・・・」
苦笑する浅葱にイノランは頷く。いや、観察眼の鋭い人なのか肩マニアなのかどっちとでもとれる発言な気もするが・・・
「分かってたんだけどね、この季節に長袖は無理あったしさ。ミヤ君はいつ気づいたの?」
「仕草ですかね。まぁ最初顔を見てイノランさんの親戚の方かなって気にして見てたんで」
「仕草かぁ。難しいなぁ・・・」
イノランは《余興》に本気を出す人間らしかった。
「なんかもう、マオにゃん撃沈・・・」
ごんっとテーブルに額をぶつけるマオを見てイノランは軽快な笑い声を上げた。
「ちょっと、マオ」
肩に逹瑯が手を回して顔を寄せてきたので、マオは露骨に顔をしかめる。
「あんま顔近づけないでもらえます?気持ち悪いんで」
「ひでぇな、でも緊急事態だぞ?ミヤ君と明希がマゾ同盟を本気で結成しちゃったんだよ、この先、妙なことしたらあんな恐ろしい報復が待ってるんだよ、ヤバくね?」
ミヤに聞こえないように小声で言う逹瑯に合わせてマオも声をおとす。
「そりゃヤバイですけど・・・」
「つーわけでさ、オレらで《ドS同盟》結成しねぇ?」
「同盟組んでどうするんですか・・・」
「自衛手段プラス普段の地味な攻撃」
「・・・ちょっと楽しそうかもしれない」
「だろ!?とりあえず規約第一条は・・・《一つの失言につき一ヶ月はいぢめる》ってことでどう?」
「ウチのメンバー失言多いからやりがいありそうだなぁ・・・」
アナタもですけどね。まぁ明希の失言は群を抜いているけれど。
そんな流れで逹瑯とマオによる《ドS同盟》結成。この先長きにわたる《マゾ同盟》との戦いの幕開けであった・・・というのは嘘ですが。
「そんなおもしろおかしいことがあったとは、俺も見たかったな・・・」
三番手はガラ、赤いチャイナドレス。フェイスラインを隠すために髪は下ろしている。スリットは控え目、でも巨乳仕様。メンバーからの評価は「絶妙に微妙だけど予想よりずっといい」だった。
ちなみにサトチからは「おっぱいでかいのがいいな!」と言われたので無視しておいた。
「おもしろおかしくねぇよ!危うく俺は変態にされるところだったんだぞ!?」
マジキレ寸前の逹瑯をガラは鼻で笑う。
「オマエが変態なのは事実じゃないか?」
「その恰好で言っても説得力ねぇんだよ!」
「オマエもな」
「・・・何が悲しくて女装してんだろ〜な、俺達」
「俺はもう開き直った、何を言われても動じないよ」
「へぇ・・・じゃあちょっとオマエそこ立て」
そう言って逹瑯はミヤに頼み込んで借り受けたデジカメを構える。
「・・・なんで写真撮るんだよ?」
「ん、京さんに撮ってきてくれって頼まれててさ〜」
その言葉を聞いたガラは不機嫌そうに目を細めた。
「なんでオマエが京さんに頼まれるんだよ?」
「なんでって、昨日電話で話してたらその時に・・・」
「なんで京さんと電話してんだよ?」
「別にオマエを通さなきゃ話しちゃいけない決まりはないっしょ」
「ないけどなんかイヤだ!」
「おや?いいの?俺は京さんに頼まれてるんだけど?」
はっとした顔をするガラに逹瑯は勝ち誇ったように笑う。
「京さんが《まこの女装とか超見たい!絶対写真撮ってきて!》って言ったんだぞ〜」
「・・・ふっ、ならしかたないな、いくらでも撮ってくれ!」
「《絶対キモイもんな!落ち込んだ時に見て笑う用にするから、最高にキモイの撮ってきて!》って話だったけどな」
「本望だ!というか最高に幸せだ」
「・・・気持ちわるっ!!」
馬鹿コンビが馬鹿なやりとりをしている間に四番手が出てきた、恒人だ。
ピンクのエンパイアワンピの上に白いジャケット姿、髪をややもっている。
会場の反応は好意的な意味での「おお〜!」だったが本人は恥ずかしそうだった。
男にしてはギャルっぽい顔立ちをしているので違和感がなく似合っているのだが、開き直りきれなかったようだ。やはり衣装と女装では違うものがあるらしい。
ヒデを中心とする重要人物に声をかけてから浅葱のところにやってくる。
「いや・・・涙沙さんが絶対ピンク着てくれなきゃイヤだ!ってことで・・・こんな感じになりました・・・け、ど・・・」
「いやぁ似合ってるんじゃない!?てゆーかけっこういけてるよ!」
いつの間にか近寄ってきた英蔵を恒人は大きな目で睨みつける。
「英蔵さんの意見は聞いてませんけど?」
「えぇ!?」
「うん、いいと思うよ」
「ホントですか?浅葱さんありがとうございます」
「いや、ホント良いよ!」
「だから英蔵さんに意見は求めてませんってば・・・」
そんなやりとりをしているDのメンバーを興味深そうに見ながらイノランがマオの袖を引いた。
「ああいうのツンデレって言うんだよね?」
「・・・返答に困ります」
マオは笑顔で受け流した。こういうところはさすが大人。
その後イノランはヒデの方に移動してしまった、マオと逹瑯を騙せて満足したらしい。
英蔵と恒人による夫婦漫才に和みながらしばらく、ラストの涙沙と着替えてくると出ていていた明希が同時に戻ってきた。
それもお揃いの服で。
浅葱ですら目が点になっている。ユッケをどつきまわして遊んでいた逹瑯はまた攻撃されるのを怖れてガラの後ろに隠れた。
襟の深いボーダーのニットセーター。袖が長い俗に言う「甘えんぼ袖」で、下はチェックのプリーツスカートにニーソックス。
若いアイドルみたいな服装だが明希は髪型のせいか微妙にパンクっぽくなっている。
「俺がナース服しか持ってないって言ったら涙沙君が貸してくれたんだよね」
「予備のがあったんや。サイズ合っててよかったわ、あ、横じゃなくて縦のな〜」
「でも涙沙君ほんと小顔っすね!?」
「ん〜、明希君かて小顔やん?鎖骨も綺麗やし」
同じくヒデ周辺に挨拶してから涙沙と明希はマオ達のいるテーブルに歩いてくる。涙沙は浅葱がいるからだろうが、明希がまたなにか企んでやしないかとマオは近くにいたしんぢの腕を掴んで逃がさないようにしていた。ゆうやは本格的に逃げたので(明希の企みを察していたのに黙っていたことも含め)あとで制裁だ。ドS同盟の最初の攻撃相手はゆうやだ。
「てゆーか明希君は背が高くてええなぁ・・・」
「俺、マオ君より高いんだよ〜」
そして二回目の攻撃は明希に向けよう、で、その次はミヤ・・・勝てるか不安だけれど。
マオが剣呑な表情になっているのに気づかず明希と涙沙はじゃれ合いのような会話を続けている。
ずりずりとガラを後ろから押して逹瑯も寄ってくる、安全だと判断したらしい。
「おい、やめろ、逹瑯!この二人と並んだら、俺達は地獄を見るぞ!?」
「開き直ったんだろ!?もういいじゃねぇかよ!!レベル差はんぱねぇことぐらいやる前から分かってたんだからさ!!」
「予想以上だったんだよ!」
「そこの似非紳士!出番だ!!」
いきなり逹瑯に指示を出されてしんぢが「え?俺?」とばかりに自分を指さす。
あなた以外に誰がいると?という周囲の視線に押されてしんぢは一歩前に出た。
「・・・明希」
「ん、なに?しんぢ君」
「幾ら出せばいい?」
「なんの話だよ!!??」
べちっとしんぢの頭を叩く明希を見て涙沙はきゃらきゃらと笑う。
「明希君とこおもろいな!あ、浅葱君、らぶ〜!」
「るいちゃんらぶ〜!」
なんだその会話。
「涙沙君のとこも充分面白いじゃん!?」
目を丸くする明希に「どの辺がや?」と涙沙は首を傾げた。
賑やかな様子に離れたところで黙々と呑んでいたサクラも寄ってきた。
「あ、サクラさん、どうっすか?」
感想を求める明希にサクラは古伊万里の壺を前にした鑑定士のような目をして、顎に手を当ててじっくり観察を始める。
「そうだな、75点かな。明希の身長だったらもう少し胸があったほうがいいし、そのファッションなら肩が見えるくらい襟が広いほうが可愛い」
「・・・そこまで具体的に言われるとなんか恥ずかしいんですが」
「絶対量域の完成度はなかなかだ、借り物だからスカートの丈が短くなったんだろうが怪我の功名といったところか、絶対量域にポイントを絞れば90点だが髪型がな、半端にパンクでいまいち。ウイッグつけてもいいからもう少し長いほうが良い」
変なスイッチが入ってしまったらしい、明希の笑顔が引きつっているのにもかまわずサクラは語り続ける。
「いや、でも胸に関しては《スレンダー系》とすれば悪くないか、その偽チチCカップだもんな」
「よく見ただけで分かりますねぇ・・・」
「そりゃあ分かるさ、しかし今時はCカップって小さめだってことに時代の流れを感じるよな、それに慣れてる自分にも。となるとそっちの涙沙君、身長と顔のバランスから言ってもっと胸大きくしたほうがいいよ、《ロリ系》ってことで」
まさか自分のほうに飛び火すると思っていなかった涙沙は「はい?」と目をぱちぱちさせている。その隙に逹瑯とガラは逃亡した。
「とするならスカートはもっと短いほうがいいな、もっとちゃんと腿を見せないと」
「・・・そうですかぁ、俺ってロリだったんですか」
サクラ、固有結界発動だった。恒人は英蔵を自分の前に引っぱってさりげなく後ろに隠れるが少し遅かった、いきなり「そこの姫系」とか呼ばれてしまう。
とりあえず周囲を360度見渡してみたが、浅葱もマオもミヤも、もちろん英蔵も該当しない。しぶしぶ英蔵をどかして顔を出した。というか英蔵、ナチュラルに物扱いされていた。
「完成度は高いけど威圧感があるんだよな、せっかくピンク着てるんだからもう少しメイクは柔らかいほうがいいとおも「やっちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
講釈を続けるサクラに叫びながらタックルを決めた人間がいた。ハイドだ。
「後輩にセクハラとかマジでやめて、友達やめたくなるやん」
「セクハラじゃないし、感想を述べてるだけだろうが」
「その感想の言い方がキモイんや!あのな、これ《余興》なんやから、ギャグだから!笑うところやから!」
・・・そうだった、ギャグでやっているんだった!!と皆が我に返った。まさかハイドに言われるとは!って感じだったが。
「ハイドは女装しなかったんだ?イノランさんですらやったのに」
「やる必要性を感じまへんっ!」
「・・・酔ってますね?」
一部を除きだいぶ酒が入ってきたため、この先は音声のみでお楽しみ下さい。
「ていうかあれだな、英蔵君と恒人君ってほらあれだべ、お高い女性とダメホストのキャッチ」
「あははははははっ!ミヤさん、上手いこと言いますね」
「ちょ、浅葱君、認めないで・・・」
「ダメって部分は否定できませんよね?」
「ネロせんぱ〜い!どうですか?」
「・・・・・・ちょっと良いかもって思ってしまった自分がダメだぁぁぁ!ガラ、こっち来て!オマエを見て正気に戻るから!」
「ふざけんな!この状況で明希と並べって罰ゲームだろ!?っていうかそもそも女装って罰ゲームだ!」
「そうだな、ガラ、明希と並べ!落差をつけてキモさアピールした写真を京さんに送るべ」
「京さんに送るのならしかたないな・・・って二度同じ手を食うか!てめぇも一緒に写れ!あ、ミヤ君、写真お願いします」
「りょーかい。あ、ついでだから涙沙君と恒人君も入って」
「その写真俺にも転送してもらえます!?」
「英蔵さん気持ち悪いです」
「ええやんツネ、記念、記念」
パチリ。
「そうだマオ君、改めてどうかな?」
「知らなか!」
「しんぢ君、マオ君が怒ってる」
「明希が怒らせたんでしょ。で、改めて幾らならいいの?」
べち!
「もう知らねぇ!あ、ゆうやに見せてないから見せてくる〜ってなんで逃げるんだよ!」
「あっきーこっち来るなぁ!!」
「まてぇ!!」
「頼むからもう明希に一滴も酒飲ませなかでくれんかね・・・」
「いやぁまだ大丈夫じゃね?明希って上限高いし」
「逹瑯、オマエ懲りてないのか?」
「《懲りる》?そんな言葉は俺の辞書にはないね!」
「落丁だな、まさにオマエの人生のように」
「ミヤ君が上手いコト言った!?あ、ヤス!そういやオマエの感想聞いてなかったんだけど?」
「ん〜〜〜〜〜〜!キモイ!!」
「そうだよな〜俺も最初はいけるかなぁとか思ったけどやっぱりな〜」
「でも、おっぱいでかかったらよかった!」
「・・・・・・はあ?」
「おっぱい!!」
「さとー!やめて恥ずかしいっ!」
「てゆーかミヤ君さぁ、俺のこと見ようによっては可愛いって言ってなかったっけ?」
「それはアレだ、イグアナってよく見ると可愛いとかそんな感覚だから」
「ひどっ!?俺、なく「たつろーせんぱぁ〜い!!うりゃ!!」
「明希、てめぇな、やめろ!おぶさるな!」
「にゃんでっすか?」
「ゆうやっ!明希に飲ませるなって言ったやろ!?」
「すまん、俺だ・・・」
「テツさんでしたか・・・」
「面白くてつい」
「・・・面白いですか、そうですか・・・よかった、あはは」
「マオさんって案外打たれ弱いの?」
「浅葱君、サドな人間はたいてい打たれ弱いんやで」
「るいちゃんみたいに?」
「ふふ、まぁな〜」
「なぁ、そのバカップルっぽい会話って地なのか?」
「全力でやってこんな感じっす!」
「マオにゃん、二度目の撃沈します、探さないで下さい・・・」
「この状況でも冷静ですね、浅葱さんって」
「ツネもじゃん?」
「英蔵さんが挙動不審すぎるだけですよ」
「ツンデレがいる〜!」
「はいはい、明希ちゃん、もうおねむの時間かなぁ!?」
「うなっ!」
「マオ!明希の首締まってる!」
「マオ君、ほら、俺が面倒見るから!」
「ゆうや、オマエ今まで逃げてただろうが・・・」
「だって、明希君怒るとマジ怖いし!」
「明希〜!お酒あげるからおいで〜」
「ホントっすか!逹瑯先輩!」
「ちょーマジ。おいで〜」
「行っちゃうの!?あっきーの脳内レベルが小学生まで下がってるよ!!」
「鈍器で殴って気絶させてくるわ・・・」
「ちょ、マオ、ストップ!」
「止めるなしんぢ、つーか止めるならオマエが行けよ!」
「ていっ!!」
「ちょ!逹瑯先輩、何するんですか!?」
「ん、スカートめくりだけど」
「マオ、行こう。俺は逹瑯を永眠させるからそっちは明希を黙らせてくれ」
「らじゃーです、ミヤさん。出撃だぁ!!」
走るヤツ、踊るヤツ、寝てるヤツ、叫ぶヤツ、じゃれるヤツ、脱ぐヤツ、写メ撮りまくるヤツ、会場内はカオスと化していた。
「幼稚園のほうがまだ静かな気がしますねぇ、図体がデカイ分五月蠅さ倍増してる・・・」
ヒデの隣でその様子を静観していたイノランがぽつりと言った、女装のままだったが「着替えるのが面倒だ」とかそんな理由だ。
「俺はなんか懐かしいけどね〜。でも昔のオレらの飲み会ってもっとバイオレンスだったじゃん?」
目を細めて楽しそうなヒデにイノランも笑う。
「すぐ喧嘩になっちゃうんですよね、さんざん殴り合ってまた飲むエンドレスワルツで・・・ヒデさんは入らないんですか?あの騒ぎに」
「・・・入りそこねちゃった!」
「俺もですよ」
「嘘だぁ、イノランちゃんは昔っから静かだったよ。でもちょっとばかし目論見が外れたかなぁ」
そう言ってヒデは天井を見上げた。
「女装だからさぁ、もっとギャグっぽくなるかと思ったけど・・・女性スタッフなんか顔引きつってるよ?どんだけレベル高いの!?」
「まぁ、今の子って体型から違いますからね・・・」
「イノランちゃんにオヤジ発言されたら俺ってどーなるのかなぁ〜」
半分ほど残っていた冷酒を一気にあけてヒデは「オヤジなのは事実だけど」と笑う。
そうしてちょうど前を通った明希に(マオから逃げてきたらしい)声をかけた。
「明希ちゃん」
「はい、なんでしょうか」
若干ふらつきつつも姿勢を正す明希に口元をほころばせながら質問を投げかける。
「楽しい?」
問われた明希は必死で何かを考える顔。
「ヒデさん、質問が大雑把すぎますよ・・・」
イノランに言われてヒデは照れたように頭を掻いた。
「えっと・・・なんていうかさ、全体的に、楽しい?」
「全体的なら・・・楽しいっていうか・・・」
柔らかく微笑んではっきりと明希は答えた。
「幸せです」
「そっか、なら良かった」
一礼して去っていく明希の背中を見送りながらイノランが言う。
「たぶん、此処にいる全員、同じ回答をするんでしょうね・・・」
「・・・イノランちゃんは?」
「秘密ってことで」
「ホント、生意気になったよねぇ、昔はあんな可愛かったのに」
夜は更けていく、ライヴで観客に振りまいた光と、今此処にある笑顔を乗せて。
東京の暗い空にも流星が降り注ぐように。
−幸せです
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