ドウタヌキ?


僕のバク


※冒頭に(夢として)殺害シーンがあります。




ざらざらとした視界、ああ俺はまた夢を見ている、いつの間に眠ってしまったのだろう。
擦り切れたフィルムの無声映画に擦り切れたテープを合わせているように、視界も音もノイズだらけでちぐはぐ。
俺は狭い石段を登っている、手に何か固くて冷たい物を持って。
それが石段に当たるのかがたんがたんと耳障りな音がする。
視界は所々ノイズで切れていて、ひどく嫌な気分だ。
石段を登りきると、小さな神社、ノイズに紛れて聞こえてくるヒグラシの鳴き声だけがやけに綺麗に響いている。
古ぼけた、神さびた社の前にミヤ君が立っていた、俺を見るとくわえていた煙草を携帯灰皿に押し込んで、あまり××ではない顔で言った。
「逹瑯どうし×××よ、×然」
ああ、この夢でも俺はちゃんと逹瑯なのかと分かる。夢の中の俺は無言のまま歩みを進める、がこん、がこん、と耳障りな音がする。
ミヤ君は少しだけ驚いたような顔で俺を見た、顔に出るってことは本気で驚いたのだろう。
「×っか、そ××・・・・」
俺は既にミヤ君の目の前に立っていて、ミヤ君は俺を見上げて微笑む。
「ご×××、×××な、オマ×××悪かったわけじゃねぇよな、俺も×××んだ×な、ごめ××、きつ××よな、でも×の弱い部×が俺は××好きだったよ」
ミヤ君はそこで少し首を傾げて、また静かな×を見せる。
「×××やれなくてごめんな、結果が××××本当に×だな、××、馬鹿だった。××えてないのかもしれないけれどこれだけは覚えておいてくれ、逹瑯だけが××わけじゃな××、それに××のが遅かった、ごめ×な」
どうして過去形で話すんだろう?ミヤ君は短い髪を×目を×。
叫び声が聞こえた、頭の中で反響する俺の声。
俺は手×振り上げて、×された頭に×、何度も何度も。
露出した皮膚に××が飛んでくる。
涙が溢れて止まらない。
柔らかい手が俺に触れる、それを×う、固い×音が響く。
俺はずっと叫んでいる。
疲労して上がらなくなった腕が×取り落とした。
そしてミヤ君が



僕のバク



俺は固いベッドから飛び起きた、一瞬現状を把握するのに戸惑ってしまったが、此処は海外のホテルで、ツアー中だということを思いだして息を吐いた。
「いや、夢でもダメでしょう・・・」
俺のそんな呟きに一人部屋では答えてくれる相手もいない。
感触やらなにやらがやけに生々しく残っている、俺の悪夢ランキングの中でぶっちぎりでトップを飾れるような夢だった。
今のは、夢?
夢じゃなきゃなんだっていうんだ、ばかやろう。
誓って俺はそんなことを考えたことも望んだこともない。
俺の中では知識的に薄い、夢診断などを持ち出して今のは分析すれば吉夢だとか考えても見たけれど不思議なもので、不安は打ち消そうとすれば打ち消そうとするほど膨らむのだ。
「正夢?ないないない!!!予知夢?いや、矛盾してるし!!いやでもなんかの警告とか!?」
しばらく部屋中をのたうちまわったあげく俺はキーと財布と携帯電話だけ持って部屋を出た。
えっとたしか二つ向こうだったからこの部屋で合ってるはずなんだけれど、間違ってたら逃げようと思いつつ扉をノックすると、少し間をあけてミヤ君が出てきた。
ものすごい面食らった顔で俺を見上げている。
「・・・・・・・・・・・・・・・なんか約束してたっけ?」
そうだよな、俺がミヤ君の部屋に遊びに行くなんてこと、いつからか全くなくなってたもんな。どう言えばいいんだろう。
−ちょっと無事か確認したくて。
俺の頭が無事じゃないと思われるので却下。
−ちょっと顔が見たくて。
気持ち悪い、普通に気持ち悪い。
−暇だから来ちゃった!どっか遊びに行かねぇ!?
あれ?妥当な言葉のはずなのに言いづらいのはなんでだ?
−ユッケどこにいるか知らねぇ?
知ってるし、自分の部屋にいるし。
−明日のライブのことでちょっと相談が
ミヤ君に相談するようなことが浮かばない!
−元気?
さっき一緒にご飯食べたつーの!
ミヤ君は黙っている俺を見上げてさらっと一言。
「怖い夢でも見たのか?」
そう言ってのけた。
なにそれ、ずるいでしょう、どんなピンポイント攻撃?
「な・・・なんで?」
「いや、明らかに寝起きのぶっさいくな面で泣きそうな顔してるからそうかなって」
しまった、顔ぐらい洗ってくるべきだった。
「いっそ探偵にでもなったら?」
「アホ、オマエだから分かるんだよ、何年付き合ってると思ってんだ?」
いやあ、俺はいまだにミヤ君の思考回路分からないんですけど。
「とりあえず入れよ」と部屋の中に招かれて俺は足を踏み入れた。
散らかってるし、やべえ片付けたい・・・
「鏡見ろよ、髪とかすげえことになってるから」
そう言われて備え付けの洗面台に移動すると、言われたとおり、髪ぼっさぼさの、寝起き面の、泣きそうな顔をした俺がいた。
顔を洗って、手櫛で髪をできるかぎり整えてからベッドに腰かけたミヤ君のところに移動する。
「飲むか?」と差し出されたコーラを受け取ってソファーに座った。
コーラを一口飲んでひどく喉が渇いていたことに気づいた。
「気分転換したけりゃ付き合うぞ、どっか行くか?」
「ん・・・いい、やめとく」
「そうか・・・で、どんな夢を見たんだよ?」
さすがに言えるわけがない。
誰にも言えない。
「バクの絵を枕の下に置けば悪い夢見ないって言うよな、バクの絵、描いてやろうか」
「ミヤ画伯のバクの絵、すげぇ見たいけど逆に悪夢見そうだからいいです」
ミヤ君は「なんだよそれ」と口を尖らせた。
「バクってあれだろ、耳が象で体が虎で尻尾が蛇で足が鹿で顔が人間・・・だっけ?」
「・・・あの、俺も自信ないけどたぶん全部間違ってるよ」
怖いよそれ、得体の知れない生き物だよ!
「ヌエと混ざったかな・・・」
「いや、もっと色んなもん混ざってるよ」
喉の奥で炭酸が弾けて、そんな間抜けた話をしているうちに少しは落ち着いたけれどまだ悪夢の感触は残っている。
「ん〜でもさ、やっぱ話してみろよ。悪い夢は人に話せば本当にならないって俺のばあちゃんがよく言ってた」
「・・・本当になったら困る、でも話したら絶対引くよ?」
「今更オマエの言うことに引くかよ、でなきゃオマエの存在そのものに引いてるよ」
優しい声で暴言を吐かれた。
俺はコーラを飲み干して、口を開く。
「あんさ、夢の中でさ・・・俺、ミヤ君を殺した」
「うん」
「よく分かんない、曖昧な夢なんだけど・・・殺したんだ」
「そっか、そりゃかなりキツイ夢見たな」
「怒らないの?引かないの?」
ミヤ君は少し苦笑したようだった。
「夢に怒ってもしょうがねぇだろうが、別に逹瑯は俺を殺したいわけじゃねぇんだろ?」
「当たり前だよ」
「夢にどんな意味があるとかさ、俺は分からないけど、ただオマエにとって辛い夢だったんだなってことは分かるから」
欲しい、ずっと欲しかった言葉を貰えた気がした。
そういえば夢の中の俺はずっと叫んでいた。
『俺が欲しいのはその言葉じゃない』と。
夢とはいえ幼稚すぎる動機だよな。
「うん、なんか色々考えてさぁ、パラレルワールドのぞいたんだったらどーしようとか、変なこと」
「ん?一時期でも俺に殺意を抱いたことがあるのか?」
「痛いトコつくねぇ、憎く思ったことはゼロじゃないよ。でもそれは・・・」
「お互い様だわな」
くくっとミヤ君が笑うので俺も笑った。
「なんだっけ、タイムパラドックスによって無数にパラレルワールドが存在するみたいな話。どっかでさ、俺とオマエが本気で憎みあってそーいう結果になる世界があったのかもな」
「・・・それはちょと笑えないです、リーダー」
そういえば夢の中のミヤ君は数年前の姿だった。たとえば何処かでこじれた糸が狂ってそんな結末を産み出すのだとしたらとても怖い。
ならばどうして夢の中のミヤ君は俺に殺されることを受け容れたんだろう、笑顔まで浮かべて、受け容れてくれたのだろう。
それこそ御都合主義だ。
どんな俺でも受け容れてくれるミヤ君なんて俺の願望が入りすぎだろう。
俺が道を誤ったらぶん殴ってでも引き戻してくれるのがミヤ君なのだから。
素人夢診断。
俺はいまだにこの厳しいリーダーに甘えたい気持ちがあると分析。
・・・だっせえ。
「自己解決した顔だな」
見ればミヤ君がにんまりと笑って俺を見ていて、勝負をしていたわけではないけれどまた負けたなぁって気持ちになる。
「まぁ蛇足の一言をつけるなら・・・今、オマエがいる世界は此処なんだ、それは間違いない」
殺し文句を言われてしまった。
つくづくこの人はずるい。
「あれだね、俺のバクはミヤ君でした、みたいな?」
「よくそういうことを真顔で言えるな」
「リーダーほどじゃありませんから、このお返しは・・・ライヴで唄で必ず」
「当たり前なんだよ、阿呆」
明日は早いのでもう部屋に戻ることにして立ち上がった時、ミヤ君が紙切れを押しつけてきた。
「もう怖い夢見て泣くんじゃねぇぞ」
渡された紙切れを開くと、ミヤ画伯によるバクの絵が描かれていた、なにかごそごそやってるなと思ったらこれか・・・というか・・・
「今、この絵に泣きそうですよ!?」
「うるせぇ!」
バクというより只の化け物の絵をありがたく頂いて(蹴り出されて)部屋を出る。
すげぇ絵だ、ナンセンスでハイセンスで気持ち悪い、ちょっと笑えるけどなにか原始的な恐怖を呼び起こすような絵だ・・・狙っても描けないよ、こんなん。
ガネーシャとグリフォンとケルベロスとキマイラとついでにマレーバクが混ざってる、でも顔が人間だ・・・怖い。
でもまぁ、これならきっと悪夢も逃げていく。
なにせウチの最強リーダーがくれたものだから。
悪夢如きに負けるわけがない。





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