ドウタヌキ?


21話〜40話


その21「ツッコミ待ち?」

撮影スタジオにて、涙沙が衣装のまま喫煙所で煙草をふかしていると、メンバーの英蔵が顔を覗かせた。
「小耳に挟んだんだけど、イノランさんが来てるらしいよ」
「ホンマに!?」
「って聞いたけど、浅葱君が挨拶行ったほうがいいんじゃないかって・・・」
「そやな、ん?誰か介すべきなんか?いきなり行っちゃって大丈夫!?」
「だから今、渡りをつけてもらって・・・・・・・・・・・・・・・あ」
「ん?にょわっ!」
珍妙な悲鳴を上げてしまった。
イノラン本人が喫煙所に入ってきたのだ。慌てて姿勢を正し、挨拶と自己紹介をするとイノランはしばらく何かを思いだそうとするような顔をしてから挨拶を返してくれた。
「ん〜るいざ君?」
「はいっ!」
ぺたっと胸を触られた。
「!?」
「・・・あ、マジで男なんだ、びっくり」
(いやいやいやいや!貴方がそれを言いますか!?貴方にだけは言われたくないと全てのバンドマンが思ってますよ!?つーかさすがに声で分かりません!?こんな声の女子おらんやろっ!しかもいきなり胸触って確認ってどんだけ!?それ女子にやったらセクハラやん!ほかにいくらでも確認の方法あるやろ!?いや、男子にやってもセクハラ的なもんやないか?っていうか本気で言うてんの!?もしかしてツッコミ待ち?いやそんな馬鹿な!でも天然だったらもっとイヤや・・・ってツッコミてぇ!!!!!)

−英蔵、後ろでハラハラ。



その22「表現者達の日常茶飯事」

都内某居酒屋にてガラと京が向かい合っていた。和やかにお食事中である。
京は炙りサーモン寿司の上のマヨネーズを薬味として乗っていた玉ねぎスライスで丁寧に取り除いていた。マヨサーモンは邪道だと思っているタイプらしい。そこまでやるかというほど徹底的にマヨネーズを取り除いてから口に運ぶ。
「ん〜〜〜やっぱ居酒屋の寿司ってラインが微妙やな・・・」
ならば寿司屋に行けとのツッコミもあろうが、ガラの方が生物が食べられない(というか偏食)なのでメニュー豊富な居酒屋が食事場所に選ばれたのだ。
「それでも食べるんですね」
サラダをつつきながらガラがそう言うと「だってメニューにあったら気になるやん」と京は八重歯を見せて笑う。
じゃれあいのような会話を続けているとガラの携帯電話が振動した。
逹瑯からのメールだ。
「・・・京さん、逹瑯も合流していいですか?」
「ん〜?別にオマエがええならかまわんけど」
あっさりとそう言われてガラは少し驚いた。
イヤならイヤだときっぱり言う人なのでこちらに気を使っているわけではないだろう。
「逹瑯のこと、苦手にしてませんでしたか?」
「ん、今なら別に。初対面の印象が悪かったなってぐらい」
「あいつなんかしましたか?」
『今なら』という物言いはまるでつい最近、逹瑯に対する感情が変わったかのような口ぶりだったがむしろ『初対面の時』が引っかかった。
俺様な自由人のように見える逹瑯だが、実のところは礼儀正しい男なのに。
「いや・・・俺と喋る時、屈んで視線合わせてきたから」
「・・・・・・マジですか!?」
「えらくマジや、敏弥にやられたの以来だったもんで、ちょっとムカついた」
笑って言うところを見ると、もう気にしていないのだろうが、命知らずなことをする男だ。とはいえOKを貰えたので、ガラは逹瑯に了承のメールを送った。
場所等の詳細はその後返すつもりだったがメールが返ってくる前に本人が居酒屋に入ってきた。
「なぜ此処が分かった!?」
思わず悪役のような台詞をガラが叫ぶと逹瑯はさらりと「店の前通ったらオマエと京さんの姿が見えたから」と笑う。
「そうならそうと言えよ」と噛みつくガラに構わず、ガラの隣に座って逹瑯は京に挨拶をした。
「・・・オマエそれどうしたん?」
京は顔をしかめて逹瑯の額を指さした。逹瑯の広いおでこの右側にシップのようなものが貼られている。
「あぁ、ちょっとミヤ君にやられたんですよ、酷いですよね〜」
「オマエ、いったいどんな馬鹿をやったんだ・・・」
ガラ、はなから逹瑯のほうが悪いと決めてかかっている、さすが友達。
「まぁ喧嘩するほど真剣ってことやろ」
「いや、音楽の話じゃなくて日常会話だったんですけど」
「いったい何を言ったらそうなるんや!?」
日常会話でどうやればバンド内でバイオレンスが起こるのだ。
「可愛いボケだったんですよ〜。ミヤ君のツッコミは激しくて困る、ハイキックとアッパーはかわしたんだけど、最後は投げ飛ばされてコブできちゃった」
唖然とする京にガラが囁く。
「ハイキックとアッパーは嘘ですよ!」
「死ねばいいのに」
京、くだらない嘘は嫌いらしい。
「ツンデレですね、京さんは」
逹瑯が戯けて言うと京は心底嫌そうな視線を向けた。
「どいつもこいつもツンデレツンデレて!」
「言われてるんですか!?」
ガラ、びっくり。
「今日だけで36回言われたわ!内34回は敏弥やけどな!」
なにげに薫とやることが同じな京。まぁ京の場合は気まぐれで数えていただけだろうが。
「で、どういうリアクションしたんですか?」
聞いちゃえる逹瑯にガラはちょっと感動した。
「その辺にある尖ったもん突きつけて黙らせた」
「それはツンデレじゃなくてヤンデレですよ!」
言っちゃえる逹瑯はすごいとガラは以下略。
「おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、誰がヤンデレやねん!・・・・ってオマエらなんでヘドバンしとんねん!」
「はっ!いや、つい条件反射で!」
「俺もつい条件反射で・・・」
目の前に割り箸が突きつけられた。
「な・ん・や・と?」
「「すいませんでした」」

−やっぱりヤンデレじゃねぇか!


その23「言霊バイオレンス」

ムックメンバー休憩中。ユッケとサトチがじゃれあう横で携帯電話をいじっている逹瑯。パソコンに向かっているミヤ。
ミヤがふと思いだしたように逹瑯に声をかけた。
「なぁ、逹瑯」
「ん〜〜」
生返事をする逹瑯にミヤは少し肩を落として「ちょっと来て」と呼んだ。面倒くさそうに携帯電話を置くと逹瑯はミヤの隣に来た。
パソコンの画面にはムックのブログがうつっている。
「おまえの絵、相変わらず上手いけどさ、なんで裸の絵なんだ?」
現在のイラスト、謎のきぐるみを着ている逹瑯以外、全員裸だった。まぁ三頭身のミニキャラなのでいやらしい感じではなかったが。
「ん、おもしぃべ?」(おもしろいだろ?)
「いや、理由を聞いてるんだが・・・まぁいい」
「このミヤ君のケツのぷりっとした感じとか上手く描けてねぇ?」
「てめぇに俺のケツの何が分かる!?」
文法以前に根本的に間違っている返答をするミヤにユッケとサトチもじゃれあいを止めて二人を注視する。
「いや、ミヤ君のケツのことは分からないけど、ケツのことは」
「オマエにケツ見せた覚えはないからな」
ケツケツ連呼するな、ファンに聞かれたら泣かれるぞ。
「俺だって男のケツに興味ねぇし、ミヤ君童貞捨てたの早いくせして潔癖すぎ」
「おまえが軽薄すぎるんだろうが」
さっきから凄い会話が展開されているが二人は気づいていないらしい。
「ははは!でもミヤ君、オレら正反対だけど体の相性はいいべ?」
どごっ!とトラックが衝突したような音を立てて逹瑯が吹っ飛んだ。
182センチの男が飛ばされる図というのはなかなか迫力がある。
「お、お、おまえ今、何を言った!?」
当て身を喰らわせた姿勢のままミヤが吼える。
「いきなりなにすんだよ!ただミヤ君と俺は音楽とかの相性が良いって言っただけだべ!?」
「体の相性って言っただろうがっ!!」
「はぁ?ミヤ君、何想像してんの?」
色白な顔を真っ赤に染めて怒っているミヤにユッケが駆け寄って止める。
「ぐ、ぐっちゃ!とりあえず落ち着いて!」
ばふばふと肩を叩いてからユッケは逹瑯の方を見る。
「今のはたつぅの言い方が悪いよ!」
「あ?」
ひっくり返った逹瑯を起こしながらサトチも言う。
「お〜〜、オマエが悪い!」
「ほら!さとーでも分かるくらい悪いんだよ!」
どさくさに紛れて貶められたサトチだがそれには気づかず頷いている。
「俺はただ、音楽の相性つーか感性の相性つーか・・・そういうのひっくるめて言いたかったから・・・まさかそんなリアクションされるなんて・・・」
拗ねてるの半分、落ち込んでいるの半分ぐらいで逹瑯は小声でそう言った。
いったん凹むととことん弱い男だった。
「・・・・・・るかったな」
「え?」
「悪かったな、いきなり吹っ飛ばして・・・びっくりして反射的に・・・いや、マジごめん」
急にしおらしくなったミヤに他の三名はちょっと驚いた。
「逹瑯、だいじ?」(大丈夫?)
「あ、うん!だいじ、だいじ!」
一気に機嫌を治した逹瑯は慌てて立ち上がって笑う。
「まぁ、確かにそういう相性は良いと思う・・・」
だから一緒にやってんだろと、ミヤは照れくさそうに言った。
「だべ!?でもミヤ君、この手のネタが弱点だったとは、良いこと知った」
「少しは懲りるということを覚えなよっ!!」
ユッケに突っ込まれてしまった。
なにはともあれ、ムック凸凹コンビ、本日も雨のち晴れで関係良好。

−逹瑯に悪意がなかったかといえば・・・あったんでしょうが


その24「式神降神!」

偽?ツアー中、ケンは机の上に無造作に置かれた物体を見つけた。銃のグリップのような形をして、ファンシーな模様の入った物体。黒色のものと白色のものがある。どこからどう見ても子供向けの玩具である。
「なにこれ?」
ケンはパブロの髪の毛で遊んでいたイノランに聞いてみた。
「アニメの主題歌になったじゃん?」
「あ、あれか、一回見た」
イノランのかなり吹っ飛ばした説明にも対応するケン、日本語能力が上がっている。
(パルスが『○陽大戦記』の主題歌になったじゃん?とイノランは言いたいのだ)
「それの玩具をね、もらったの。ドライヴとかいうやつ。ゲームだってさ」
「へ〜」
「ちょっと遊んでみようか」
とイノランはドライヴを手にとって構えた。
「式神降神!行け!ケン!」
「は?え、俺!?明らかに遊び方違うんじゃない!?」
すかさずカオルがもう一つのドライヴを手にとってニヤリと笑って年下組を見る。素早く目を反らすモリッシーとパブロ。
「式神降神!パブロ!」
「やっぱ俺っすかぁ〜!」
嘆きながらももはや慣れてるパブロは立ち上がってファイティングポーズ。
「行け〜!ケン、パブロを倒せ!」
「いやいやいや!ちょっと待ってよ!」
ノリノリなイノランに抗議しているとベースが近寄ってきた、止めてくれる・・・わけがない。
「はい武器!」と言ってケンとパブロにどこから持ってきたのかT箒を手渡す。
結局、T箒を振り回しながら(勿論体には当てないように注意はしていたが)パブロとケンはやけくそぎみに戦った。
「行け〜」「やれ〜」と完璧にアニメの設定を無視してドライヴを構えたまま声援を送るイノランとカオル、爆笑しながら茶々を入れるベース。それを笑って眺めながらも巧妙に年上チームと視線を合わせないようにしているモリッシーという光景が展開された。
が、ご存じの通りライヴハウスの楽屋は狭い。
あまりの騒ぎに様子を見に来たライヴハウスの従業員からがっちり怒られた。即座に他人のふりをした年上チーム+モリッシーは免れて、ケンとパブロだけが怒られた。
その後、事情を見抜いたマネージャーからイノランも怒られた。
「怒られちった。これでおあいこだね、ケン」
笑顔で肩を叩いてくるイノランに、ケンががっくりと項垂れる。
「英語圏の人間ですが言わせてもらいます、その日本語は間違ってます、イノランさん!」

−思わず敬語で突っ込んでしまった。


その25「入れ墨ブラボー!」(その22の続き)

京は唐突に堕威の隣に座ると、堕威の手を指でつついた。ヘビ柄の入れ墨の部分をつつきながら少しだけ笑う。
「どうしたん?」
若干警戒した様子で堕威が手を引っ込めると、一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になって堕威を見上げる。
「なぁなぁ堕威君!もっとタトゥー入れへんの!?」
「い・・・いや、だってもう手に入ってるし・・・」
「もっと入れようや!堕威君タトゥー似合うて!かっこええて!な!?」
「だって、めっちゃ痛いやん・・・」
「ヘタレ!」
やけに子供っぽくお願いしてきたと思ったらいきなり暴言を吐かれた。
「ほら、俺はライヴでも京君みたいに脱がんし、あんま意味ないやろ?」
「薫君は脱がんけど入れとるし、敏弥は脱ぐけど入れてへんで。な、堕威君、入れよ?」
「ダ〜メ。俺の身体のことなんやから俺が決めます!」
「・・・ケチ」

「と、いうことがあったんや」
不満そうに口を尖らせながら言う京にガラと逹瑯は顔を見合わせた。
「京さん、メンバーにそんなお願いしてるんですか?」
やはり切り込んだのは逹瑯、勇気があるのか無謀なのか。
「堕威君にだけな。だって堕威君かっこええからタトゥー似合うやろなと思って。そういやオマエらは入れへんの?」
「俺はそういう予定ないっすね」
さらりという逹瑯の隣でガラは少し悩んでから言った。
「・・・京さんとお揃いにしてもいいなら入れます!」
面食らったような顔をする京と小声で「馬鹿?」と呟く逹瑯に構わず、ガラは畳みかけるように「どうですか!?」と身を乗り出した。
「お揃いって・・・どこまでや?」
京、現在身体の三分の一ぐらい入れ墨である。もはやナニかに乗っ取られているんじゃないかという勢いで体中模様だらけ。
「・・・全部ですか?」
「なんで疑問系やねん、別に俺はかまわんけど、かなり痛いし時間かかるで」
本気で悩みだしたガラに逹瑯はにやにや顔で言う。
「痛いと思うべ、ちょ〜痛い」
「オマエは入れたことないだろ?」
「その痛いじゃなくて〜、オマエが仮に京さんと同じ・・・そうだな、腹に虎の入れ墨を入れたとするだろ?で、ライヴなり撮影なりで服を脱いだ時にそれをファンに見せるわけだ」
「・・・そうなるな」
「そうなるなじゃねぇよ、どうなると思うんだよ?」
「どうなるんだ?」
逹瑯は身をくねらせて高い声で言った。
「うわ〜ガラ君ってば京さんと同じ入れ墨してる〜!いくら憧れてるからってそれはないわぁ!ガラ君イタすぎっ!」
「・・・・」
「と、なってだな、オマエのファンが53人ぐらいいなくなる」
どっから出たその数字。
「・・・まこ、やめとけ」
真顔になった京にそう言われてガラは黙って頷いた。

−京君のはもはや入れ墨というより服に見える、でも背中には入ってない不思議。


その26「ひみつのノート」

タクヤ&イノラン飲み会中。タクヤはイノランの鞄からはみ出たノートを見つけて何気なく手に取った、ごく普通の大学ノート。
タクヤにしてみれば本当になんとなく持ってみただけなのだがイノランは一瞬固まった後「にゃわわわわっ!」という妙な悲鳴を上げて素早くノートを奪い返した。
「ダメ!これはダメっ!特にタクヤ君はぜっっっっっっっっっっっっったいダメっ!」
イノランにしては珍しいリアクションだ。
「それなんなの?」
「な、なんでもいいじゃん!とにかくタクヤ君はダメっ!」
「・・・“べ、別にタクヤが特別なわけじゃないんだからねっ”って言ってくれる?」
妙なフリだったが軽くパニクってたイノランは素直に返した。
「べ、別にタクヤが特別なわけじゃないんだからねっ!」
「ツンデレ万歳!神様仏様宇迦之御魂大神様ありがとう!」
宇迦之御魂も神様ですよ?
ばふっと顔面におしぼりがぶつけられる。
「とにかくヤンバルクイナ君はダメっ!」
「俺の名前を原型留めなくするほどムカつかれた!?」
「あ・さ・ぬ・ま・た・く・や・・・《や》と《く》が被ってるよ!あと文字数!」
「くっ・・・反論できない・・・」
いや、できるだろ。
「まぁそれはともかくさ、見られたくないものなら《見るな》って書いておけば?」
「ん〜。そうだね・・・」
イノランはアンケート記入用に置いてあったボールペンを持って表紙になにか文字を書いた。
「これでどう!?」
《このノートを無断で見ると、貴方の家にQ太郎的なモノがやってきます》
「・・・ますます見たくなったんやけど!めちゃ来て欲しい《Q太郎的なモノ》!」
「あれ?ん〜〜〜」
イノラン再び何かを書いて「これは?」と表紙をタクヤに向けた。
《このノートを無断で見ると、貴方の家にヨナルデパズトーリがやってきます》
「ヨナルデパズトーリって正義の味方やん」
ヨナルデパズトーリ、悪魔くんの第三使徒。
「甘いな、鬼太郎では悪役なんだよ」
いらない知識だった。
「家にやってくる系はダメだよ、こうすればいいんじゃない?」
とタクヤはノートとボールペンをとって書き直す。
《このノートを無断で見ると、イノランが怒ります》
「これで完璧!誰も怖れて見ないよ!」
「・・・いや、俺はどんだけ怖い人なの?」
自覚がないらしい。
「イノラン君、それさぁ・・・作詞ノートでしょ?」
「っっっっタクヤ君なんか嫌いだっ!」
ノートで側頭部をぶん殴られながら(やった、初めて勝った!)とタクヤは心の中でガッツポーズを決めていた。

−タクヤがヤバイ人になってしまった・・・


その27「天気予報をお伝えします」

ディルメンバー車移動中。
「京君、お菓子で遊んだらあかんて、子供じゃないんやからさっさと食べなさい」
ハッピーターンをくわえたまま窓の外を見ていた京は薫にそう注意されて一瞬迷惑そうな顔をしたものの、大人しく言う事を聞いて普通に食べ出した。
「お前はオカンかっ!」との突っ込みが入ってもよさそうなやりとりだったがこれは日常風景であるため、他のメンバーはつっこむどころか見もしない。
後部座席の堕威と敏弥が世間話をぽつぽつとしているだけで車内は静かなものだった。ラジオから聞こえるニュースが一番大きな音だ。
『それでは注意報をお知らせします××県××部に濃霧注意報・・・・』
「ふあぁはおるふん」
先程注意されても無言だった京が突然そう声を上げた。
「京君、ちゃんと口の中なくしてから喋り」
苦笑する薫に「ん!」と頷いて口の中のお菓子を飲み込んでから京はもう一度言った。
「あんな、薫君」
「どうしたんや?」
「俺なぁ、子供の頃、濃霧注意報のことをノーム注意報だと思っててん」
「え?」
「せやから、ノーム注意報って妖精が攻撃してくるから気をつけろって意味やと思ってたんや」
ノームは確かに妖精のことだが、どれだけファンタジックな天気予報だ、それは。薫がリアクションに困っていると、堕威と敏弥が後部座席から身を乗り出してきた。
「ほんま!?俺も思ってたで!ノーム注意報!」
と堕威が賑やかに薫と心夜の間から顔を出す。
「俺も、京君と同じ!ノーム注意報だと思ってたよっ!」
敏弥は京の頭に顎を乗せて言ったため鬱陶しそうに振り払われていた。
「・・・・・・俺も、思ってた」
文庫本に視線を落としたままの心夜もボソリとそう言う。
「ウチのメンバーっていったい・・・」
4対1ではどうとも言えず薫は遠い目をして呟いた。

−この後「薫君だけ仲間はずれ!」といぢめられました。


その28「中区錦町ラーメン戦争」

やぁ!みんな!ムックのアイドルユッケたんだよ!☆
《地の文》が室内で腰バンしてタンスに頭強打して失神したのでたつぅに引き続きぷりちぃベーシストな俺が語り部なのです!
ちょっと・・・誰!?「昔はかわいかったのに」とか言ったの!これは皺じゃなくて影ですっ!
え〜っと状況説明ね、ライヴ終わって今は楽屋なんですけどね〜ミヤ君の横にパグっぽい人が縮こまって立ってます。
昨日食べたラーメンをね、オレらがあんま美味い美味い言うもんだからミヤ君が今日食べに行こうと思ってたらしいんですが、たつぅがね、ライヴで宣伝しちゃったんですよ!その店っ!
そう、行けなくなっちゃったの!
それをさっきスタッフから聞いてたつぅ大慌てでミヤ君のところに来たわけです。
でもねぇ、よほど慌てたんだろうねぇ・・・メイクを半分しか落としてない状態なのよ。分かるかな?目のところをね、黒く塗ってるでしょ?それを片目だけ落とした状態なんですよ!で、コンタクト外しちゃったからその上にメガネかけてるの!
シュールすぎるの!ピカソの絵みたいになってるの!
そんなのに横に立たれたらさすがのミヤ君でも笑いたくなるでしょ!?でもたつぅが真剣だから笑うに笑えないらしくて、すごい引きつった顔になってるんだけど、たつぅはそれを見てミヤ君が怒ってるんだと思っちゃったらしくてますます縮こまってるの!!なにこの面白すぎる構図!
ミヤ君はなるべくたつぅを見ないようにしてるんだけど、たつぅからすれば「話しかけても視線合わせてくれないほど怒ってる!?」って解釈しちゃったわけで・・・この二人の微妙なかみ合わなさが奏でる絶妙なハーモニーは素敵だね☆
あんまり面白いからサトチにも教えてあげようとしたら
「《初めて月面着陸に成功したのは・・・》おお!これなら分かるべ!《人工衛星》だろ!?」とドリル片手に一人で盛り上がっていたんでそっとしておきました!これはこれで面白いしね!
「あ〜〜〜〜〜ミヤ君、ごめんね」
お!たつぅちゃんとあやまりましたよ!
「ん?別にいいし、気にすんな」
ミヤ君も爽やかに許しましたね。視線は合わせないようにしてるけど!
ピカソ状態のパグに顔近づけられて視線どころか顔ごとそらしてるよ!
「あ!じゃあさ、ミヤ君なにか食べたいものない?二次会あたりでさ、一緒に行かねぇ?俺が奢るからさ」
たつぅがあんなこと言うなんて雨どころか雹が降るんぢゃないでしょーか・・・
「ん?じゃあここ」
ミヤ君は持っていたグルメガイドの一頁を開いてたつぅに見せました。絶対に顔見ないようにしてるけど。
たつぅは文字通り目を点にして、まずメガネを着脱、次に首を傾げて見て、最終的にグルメガイドをひっくり返して見てます。
そんなことしても内容は変わらないと思うんだけどねぇ・・・どのページ見せられたのかなんとなく分かっちゃってる俺。
「ケ・・・ケーキバイキング?」
とうとう口に出してミヤ君に確認するたつぅ、やっぱりそれだったか・・・
「おう、ほら、あれだろ。男一人だと入りづれぇべ?」
とへにゃ顔で笑うミヤ君に
「いや、男二人のほうが入りづらいだろ!?」
たつぅが正確な突っ込みを入れました。う〜ん雹じゃなくて豹が降るかも、こわっ!
なんか楽屋の気温が下がって来たので俺は外の空気吸いに行きます。
語り部放棄!ばいばい!

−ミヤ君は100%天然で言いました



その29「ピンチの神様はロン毛でした」

やっほー☆みんなのアイドルとっちだよ!え?前の人と自己紹介が被ってるって?・・・・俺はキモキャラじゃないよね?違うよね!?違うって言ってよ!クネとか蟹とか言わないでよ、マジ凹むから!
俺、只今とんでもないピンチを迎えております!今「存在がピンチだろ?」とか言った奴誰だコラ!もう影薄いキャラは卒業したもんね〜だっ。
で、なにがピンチかと言いますと、ライヴ前に軽くステージを見て回っていたらですね〜踏んじゃったんですよ、京君を!!
端のスピーカーの前で丸まって寝てた京君を思いっきり踏んづけちゃったんですよ!なんでこんなとこで寝てるんだよ!!
感触的にはむにって感じだったよ〜。思ったより柔らかい・・・じゃなくてどうしましょうか!?
さっさと足どけろって?それがねぇ踏んだ瞬間、足首がっちり掴まれちゃったんですよねぇ・・・
俺の足の下で京君は地の底どころか地獄の底から響くような声で唸ってます。
なんかもう気分的には「パンを踏んだ娘」だよ!絶対このまま地獄に引きずり込まれるよ・・・
救いを求めて辺りを見回したんですが、目があったスタッフ全員にそらされちゃった。明らかに今、手空いてただろって人まで慌てて作業しだして孤立無援だよ。やもちゃんに至っては見てすらくれないし・・・堕威君はいないし・・・・
「・・・おい」
俺の足の下から地獄の番人のような声がして京君が立ち上がりました。ちなみに足は掴まれたまま。
まぁ俺は運動神経良いし、背も高いからちっちゃい京君に足を持たれたままでも辛くはないんだけどねぇ・・・超睨まれてるのが怖いよ・・・
腰の辺りで俺の片足を抱え込んだまま、京君は目をこすってます、猫みたいだなぁ。
「オマエ、なにしてくれとんねん・・・」
どうやら本気で怒ってらっしゃるようです!引きずり込まれるの地獄じゃすまないかも。俺の命もここまでかぁと走馬燈が巡りかけたその時
「こら!」
「う゛にゃっ!!」
いつの間にか後ろに立っていた薫君にどつかれて京君がやたら可愛い悲鳴をあげて俺の足をはなすと頭を抱えて座り込みました。
「京君がそんなところで寝とるからやろ、寝るなら楽屋行って寝なさい」
いや、薫君、言ってることはもっともだし助かったんだけどねぇ。今、エフェクターで京君どついたよね!?いいのかリーダー!?京君、悶絶してるけど・・・
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛・・・・・」
ライヴでも出さないような声を上げる京君に薫君は不思議そうな顔をして自分の手元を見て、ようやく鈍器で自分の可愛いボーカリストをどついたことに気づいたらしい。
・・・・てゆうか天然でやったんだ、怖いよこのリーダー。
「あ〜・・・ごめんな、京君」
そう言って京君の頭を撫でる薫君。いや、ごめんですむか?今の。
「・・・・・・別に」
ちょっと涙目で起きあがってそうそっけなく言う京君に薫君はニコニコ顔。
つーかさ、俺に対する態度と違いすぎない?沖縄とシベリアぐらい温度差ないか?
「ほら、とし坊も京君踏んだんやからあやまれ」
あぁ、ちゃんと公平なんだねぇ・・・でもなんでエフェクター振り上げながら言うのかな?かなかな?
「きょ・・・京君、ごめんね?」
「・・・・・・」
そっぽ向かれた!?
そして薫君はエフェクターを振り上げたまま俺ににじり寄って来てます・・・
「か、薫君、俺ちゃんとあやまったよね!?」
「そやな、でもほらあれやろ?喧嘩なんとかかんとかって」
喧嘩両成敗って言いたいんだろうなぁ・・・と現実逃避しながら後退する俺。
「それでお互い水に流すゆーことでええやろ?な、京君」
俺の意見も聞けよ!つーか京君も頷いてんじゃねぇよ!!
・・・誰か、この変人親子をなんとかして下さい。

−エフェクターの角が入ったらしい


その30「本音は戯れ言に隠しておこう」

ツアーは中盤、本日もつつがなく終了し、ムックメンバーは楽屋でくつろいでいた。長いツアーともなると体調管理やテンションの維持など様々な問題があるが、そこは中堅。それぞれのやりかたで切り抜けている。
アンケートに目を通していたミヤは逹瑯が近づいてくる気配を察してさり気なく吸っていた煙草をもみ消す。
どかっとミヤの向かいに座って濡れた髪を拭く逹瑯はそれに目敏く気づいてニヤリとした。
「・・・なぁ逹瑯」
「なに?」
「アンケートのイラストも全裸なんだな」
「今このタイミングで言う!?」
ツアーも中盤、つっこむにしてはかなり遅い。
「いや、全裸なんだなぁ・・・と思っただけ」
「さいですか。今度からもっと早くつっこんでよ」
逹瑯、つっこみ待ちだったらしい。
「はいはい」
「ミヤ君!《はい》は4回だよ!」
「はい!はい!はい!はい!」
「あの日吐き出したこと〜ばを〜ここに〜埋めて〜おこう♪」
『前へ』のブレイクの再現だった、息ぴったりというか楽しすぎる会話だ。
ライヴ直後のせいなのかミヤもノリが良い。
「そういえば、いつの間にか俺の目を線で描くようになったんだ?」
「ん〜?ミヤ君の目つきが優しくなった頃から」
さらりとむずかゆくなることを言い放つ逹瑯にミヤは少し動揺した様子で口を尖らせた。
「でもさ、なかなかリアルに描けてると思わない?ちゃんと観察して描いたんだよ、メンバーのち○こ」
「一瞬でもオマエの言葉に感激した俺が馬鹿だった。20秒前の自分を殴りたい気分だが今一番殴りたいのはオマエの顔面だっ!今がツアー中であることを神に感謝しろっ!」
ツアー中でなければ顔面を殴るつもりだったらしい、まぁ冗談だろうが。
「ミヤ君、キャラ壊れてるよ〜」
「そうか、そんなに殴られたいか、顔面は勘弁してやるから頭出せ」
ミヤがぎろりと睨んでくるのを尊大な表情で受け止めて逹瑯は笑う。
「よく描けてるでしょ?風呂とかトイレとかで確認したから間違いないよ」
「俺はメンバーのアレを観察する趣味はないから分からん」
「そう?でも自分のは確認できるでしょ?」
「自分のをまじまじと見る趣味もねぇんだよ!」
「ないのかぁ。ユッケとヤスなんてシャワー浴びてるとこムービーで撮ったんだよ」
「・・・自分のところのボーカルが変態だったとは」
「趣味じゃなくて参考資料だよ?ミヤ君は隙がなくて撮れなかったんだよねぇ」
ミヤはニヤニヤ顔の逹瑯の頭を掴んで目一杯力を入れた。
めりめりと人体からしてはいけない音がする。
「撮ったらコロス」
「いだっ!いてぇって!ちょ、孫悟空の気分!っていうか頭皮はやめてっ!痛いって!爪食い込んでるって!すいませんでした、リーダー!」
「分かればいい」
ミヤが手を離す時に指に絡まった髪の毛が三本ほど抜けた。逹瑯、本気で痛かったらしく涙目どころか泣いている。
「でもさ、ヤスのなんて超おもしい(おもしろい)んだべ!?裸でぞうさん踊りしてんの!見る?」
《ぞうさん踊り》に惹かれるものがあったのかミヤは一瞬迷ったようだが結局黙って首を横に振った。
「あそ」
逹瑯も本気で勧めたいわけではなかったのか、頭を握りつぶされかけて学習したのかあっさりとそう言った。
「おまえ、なんでそんなもん残してあるんだよ?」
「ん〜落ち込んだ時とかね、見ると元気出るから」
「馬鹿馬鹿しくてか?」
「それもあるけど・・・俺、良い仲間に囲まれてるなって思うんだよ」
またもやさらりと言い放った逹瑯にミヤは面食らったような顔をしてそれから笑った。
「それは、なんか分かる気がする」
「だべ?」
視線は合わせることなく微笑みを浮かべる二人の横で、さきほどからずっと無言だったユッケが小さな声で言う。
「あ、あのさ・・・報告があるんだけど、怒らない?」
「あ?なにがだよ?」
態度のでかさが対ミヤの時の4倍ぐらいになった逹瑯に言われてユッケは後ずさりながら答える。
「い、いや、楽屋の様子をね、ムービーでブログに載せようと思って携帯で・・・い、今の二人の会話・・・全部録音しちゃったんだ・・・けど・・・・」
「「・・・・・・・・・」」

−その後、楽屋から助けを求めるユッケの悲鳴が響き渡りました


その31「としやクラブ」

ディルメンバー、車移動中、後部座席(三列シートの一番後ろ)で携帯電話をいじっていた敏弥がふと言った。
「なんか俺さぁ、“蟹腹”ってあだ名で呼ばれてるじゃない?」
これには隣にいた堕威と前の席の薫だけが「そやな」と答える。
「腹筋割れてるから“蟹腹”って呼ばれるならさ、京君も“蟹腹”ってあだ名じゃきゃおかしくない?っていうか不公平じゃない?」
「・・・へぇ」
「・・・ふぅん」
「・・・あぁ」
「はぁ・・・」
「ちょ!なんだよそのそっけない答え!やもちゃんにいたってはため息じゃねぇかっ!」
エキサイトする敏弥に堕威と薫がそっけなく答える。
「だってたいしたこと言ってへんし?」
「つーか今更やろ、それ」
「いや、総合的に見てさ、俺のあだ名だけ酷すぎるってことを言いたいんだよ!」
たぶんそうでもないだろうが。他のメンバー無言。
「・・・なんか言ってよ、寂しいじゃん!」
「あ〜なんやっけ。“爽やか”って漢字が全然さわやかじゃないって話やっけ?そやな、デジタル画面に表示された“爽”って漢字をまじまじと見るとほんまに気持ち悪いな」
表情を変えずに淡々と言った京に敏弥は身を乗り出して叫ぶ。
「長々と喋ったと思ったらボケかよっ!違うよ、“蟹腹”の話だよ」
「ん?蟹がどうかしたんか?」
「・・・え!?本気で聞いてなかっただけ!?」
薫に「とし坊、うるさい」と押し戻されたので敏弥は大人しく後部座席に収まった。
「で、その話のオチは?」
文庫本に視線を落としたまま心夜が言う。
「オチ?ないよそんなん」
敏弥の答えに他4名は露骨に嫌そうな顔をした。
「オチないんかつまらん」
「オチぐらい考えとけや」
「はぁ・・・・」
堕威、薫、心夜に責められて敏弥はしゅんとした顔になる。
「おい。敏弥、俺は京都人やからオチなくても気にせんで」
そう言ったのは京。思いがけない方向からの助け船に喜んで身を乗り出し、敏弥は京の顔をのぞき込んだ。
「ほんと?」
「ほんまや。が、他三名が納得せんし、小話にオチがないのはまずいやろ。というわけで敏弥、爆発しろ」
びしっと指を差して京は言った。
「・・・・・・・・・はい?」
座席に身を預けたままの堕威もにやりと笑って言う。
「爆発オチか、ベタやけどしゃあないな」
「ま、古風なコントっぽくてええんちゃう」
薫もそれに続く、顔は笑ってないが目がおもいっきり笑っていた。
「ぐだぐだな話は爆発オチと相場が決まっとるからな」
心夜は相変わらず文庫本を見たまま無表情。
「「「「つーわけで敏弥、爆発しろ」」」」
ディル関西勢が息ぴったりに声を揃えて敏弥を見る。
「・・・ムリに決まってんだろっ!!!!」
敏弥、ある意味大爆発。

−この後マネージャーから敏弥だけ「危ないから車内で暴れないで」と言われました。


その32「そっか、またね」

朝7時、基本夜行性であるミュージシャンからすれば早朝ともいえる時間、自室のベッドで眠っていたイノランの携帯電話が振動した。ストラップでも挟み込んでいるのか、かなり豪快な音を立てたため寝起きの悪いイノランも目を覚まして携帯電話を手に取る。
『着信中 浅沼拓也』
「・・・タクヤ君?」
同じく夜行性であるタクヤがこんな時間になんの用だろうと思いながらイノランは電話に出た。
「なに?」
怒っているように取られそうな出かただが、イノランの場合これが普通である。
『あ、ごめんね、朝早くに』
「いや、かまわないけど。どうしたの?」
『またしばらく海外に行くから、そのご挨拶と思って、といっても今回は一週間ぐらいだけど』
空港内から電話をかけているらしく、受話器の向こうにざわめきが聞こえる。
「相変わらずナフキンだねぇ」
『それを言うならスナフキンやろ!』
「そうそう、一文字忘れただけでこうも違う言葉になるとは俺もびっくりだよ」
イノラン、京都人につっこませる男。
『天然なのか計算なのか計りかねるなぁ・・・』
「想像に任せるよ。今回は何処へ行くの?」
『ベニスとアイスランドとロスに』
「それ一週間で行く内容じゃねぇ!っていうか無理じゃないか!?」
『まぁ頑張ればできるよ』
頑張ってもほぼ機内ですごすことになりそうだが。
「そ、じゃあ頑張ってね、しかしまたなんでそのチョイスなの?」
『実はこの三カ所に伝説の吸血鬼イノレインが潜伏していると聞いたんや、この吸血鬼は局地的に天候を変えて生態系に悪影響をもたらすという危険な存在でね、こいつを倒しにいこうと思ってさ』
「よし、順番につっこもうか。なんで三カ所!?分裂でもしたんか!イノレインて俺のことじゃねぇか、あんな部分的なあだ名持ってくるんじゃねぇよ!つーか俺は吸血鬼だったの?知らなかったよ自分でもびっくりだよ!局地的に天候を変える?俺の雨男っぷりが生態系に悪影響をもたらしてるなんて知らなかったよ自重しないとね。たしかに吸血鬼の能力に《天候を操る》ってあるけどすげぇマイナーチョイスだな、吸血鬼のくせして被害それだけかよ!で、それを倒しにいくタクヤ君は何者なわけ!?」
鬼神のごとき突っ込みだった。電話の向こうでタクヤが拍手する。
『実は俺は7番目の息子の7番目の息子なんだ』
「確かにそれは吸血鬼ハンターの条件だけどタクヤ君に6人も兄弟がいたなんて初耳だよ」
『俺は狐から生まれたからね、兄弟はみんな狐だよ』
「阿倍清明!?狐とハーフだったの!?」
『生粋の狐だからハーフではないよ』
「吸血鬼ハンターの条件から遠ざかったじゃん!」
『すごいなイノラン君、此処までマニアックなボケに対応してくれるなんて、面白すぎてどんどんマニアックにボケたくなるじゃないか』
「注釈つけながら突っ込まなきゃいけなくなるからやめてね・・・」
すでに注釈いる段階に達している気もするので抗議は受けつけよう。
ふぅと息を吐いてからタクヤは話を戻した。
『ところで、お土産何がいい?』
そんな強行旅行する人間に何を頼めというのか。
「そうだねぇ。土産は旅で一回り成長したタクヤ君ということで」
『めちゃめちゃカッコイイ台詞やな!でも普通に物買って来るより地味にハードル高い!』
電話越しにけらけらと笑い合ってからタクヤが言う。
『じゃあイノラン君、ツンデレ風に送り出して下さい』
「・・・べ、べつにタクヤ君のことなんて心配じゃないからねっ!でもちゃんと帰ってこなかったら許さないんだからっ!」
『・・・・・・・・・・・・』
「リアクションしてよ、恥ずかしいじゃん」
『いや、まさかここまで完璧にやってくれるとはふった俺でも思わなかった』
タクヤ、本気でびっくり。
『あ、そろそろ行かないと、じゃあ・・・いってきます、またね、イノラン君』
「いってらっしゃい、またね、タクヤ君」
イノランは電話を切って天井を眺めた。目は冴えてしまったし、もう眠る気にもなれない。
「・・・“またね”って良い言葉だなぁ」

−気の置けない二人。



その33「ゲーマーズブラボー」

ディル年下チーム(京、敏弥、心夜)が気分転換を兼ねてスタジオ近くのコンビニへ行ったその帰り道。
「俺、読む本が切れたから此処寄っていきたいんやけど、なんだったら先帰ってて」心夜が指さしたのは黄色い看板の古本屋さん。
「ん、俺もつき合うわ、DVD見たいし」
「俺も行くよ!」
他二名も賛同したため、三人は連れだって店内へと入った。
入ってすぐのところで京が足を止めて入り口近くに設置されたゲームに視線をやる、それに気づいた心夜は言った。
「京君、ムシキングやりたいん?」
「はっ!?べべべべべべ別にやりたないしっ!」
思いっきりどもっていた、冷静沈着な京だが、突発的なフリやいきなり図星を突かれると対応できない部分がある。
「やってきたら?」
平日の昼間、店内は空いていてゲーム機の前に子供の姿はない。
「やりたないて!僕、DVD見てくる!」
動揺しすぎて一人称が「僕」に戻っていた。さすがの心夜もこれは可笑しかったようで押し殺した声で笑うと、京は拗ねたようにそっぽを向いてDVDのコーナーの方へ行ってしまった。
心夜も特に京をからかいたいわけではなかったので、目的の古本コーナーへと足を運ぶ。

20分後、目的のものを買い終えた心夜と、とくに欲しい物がなかったので手ぶらの京はレジの前で合流した。
「そういや敏弥は?」
そう言って店内を見渡すと、「見て見て!」とやたらハイテンションな敏弥がやってきた。
「レアカードGETしちゃった!」
「レアカードってオマエ何をしとったんや?」
「え?オシャレ魔女 ラブandベリー」
げしっ!と京のローキックが敏弥の太股に炸裂した。
「いたっ!なにすんのさ!」
「腹立つ!色々腹立つ!!もはや何が腹立つのか分からないぐらい色んなところに腹立つ!」
「え??京君も欲しいの?レアカード」
「いるかぁぁぁぁ!!!!」
京、真っ昼間の古本屋で本気シャウトをしてしまった。

−心夜はスタジオに帰るまで「他人のフリ」をしていました。


その34「そこがボーダーライン!?」

はい、どーも逹瑯です。つーかもう語り部飽きたからやりたくねぇんだけど。だからパグじゃねぇっつーの。あ〜だる〜。
状況説明ね、前回(その14「リーダーと僕」)と同じだけど場所はミヤ君の家でユッケとヤスもいる。分からないって?だから、メリーとムックで飲んでて、ミヤ君が潰れたから家まで送ったんだよ、今回はちゃんとカギあったんだけどさ、今度は俺の家のカギがねぇの!で、オレらが出た時まだガラ達は店に残ってたから電話したらさ、ガラが俺ん家のカギ拾ったから持ってるって言うもんで「じゃあ取りに行くわ」って返したら「悪い、もう家に帰ってる」って言うんだよ!?
こっからガラの家かなり遠いんだよ!俺の家からも遠いし!
なんかもうめんどくさくなったんでミヤ君の家に泊まる事にしました。
ちなみに了承は得てないけどね!だってミヤ君起きねぇんだもん!
ユッケとヤスはなんでいるのか知らん。
で、朝になったらユッケが「朝ご飯作るなり!」とか言い出して、ヤスが買いだしに行かされて、俺はなにもしたくないから待ってたら「ミヤ君起こしてきてよ!」とか言われたんだよ。
なんだよその難易度の高いミッション!ミヤ君の寝起きの悪さ知ってるだろうが!
「ミヤ君、起きてよ〜」
なるべくそっと肩を揺するけど唸るだけで起きてくれません。
「ミヤ君、起きろって・・・」
「お〜い!」
そんなことをしばらくやってたらすっと手が伸びてきて俺の頭の上に置かれました。
「・・・ギズモ?」
この人、俺と愛犬を間違えてますよ!?感触全然違うだろうが!!
ほっそい目をゆっくり開いてミヤ君が俺を見ます。
「あれ?ギズモなんかでかくねぇ?」
どんな勘違いだ!そしてどんな寝ぼけ方だ!やべぇ、おもしい。
「はい、ギズモです。ミヤ君が可愛がってくれたので人間になれました!」
「そ〜か、すげぇなぁ。よかったな、ギズモ」
・・・信じたよこの人!つーかナチュラルに俺の存在が抹消されたよ、今この瞬間!
ミヤ君はへにゃ顔で笑って俺の頭をぽふぽふ叩いてます、地味に恥ずかしいな。
「・・・・・・・・・・・・・・おわっ!逹瑯!?なんでいるんだ!?」
気づくの遅せぇぇぇぇぇ!!ミヤ君、状況が把握できずにきょろきょろしてます。
「いや、俺はギズモですよ」
面白すぎるので続けてみることにしました!どこまでやったら怒られるのか確かめたいし。
「え?でも逹瑯・・・あれ?ギズモ?」
寝起きのせいか真剣に悩み出すミヤ君、なんかあれだよなぁ、微妙に脳内がファンタジックだよな、この人。軽くジャブいきますか。
「今朝ほど人間になりました」
「それ《元犬》のサゲじゃねぇかよ!やっぱおめぇ逹瑯だべ!」
ミヤ君、俺のボケにいきなり覚醒しました、さすがだなぁ。つーか俺が俺である判断基準は外見よりボケ方なのか?それはちょっと傷ついたぞ〜。どSを怒らせるとどういうことになるか思い知っていただきましょう。
「今のボケに対応するなんてさすがだね、これでいつミヤ君の偽物が現れても判断できるよ」
「いや、なんで俺の偽物が現れるんだよ!つーか俺が俺であることを証明するにはメンバーのボケに突っ込まなきゃダメなのか!?」
「そんなことないよ。俺はミヤ君なら偽物と並んでたってすぐ見分けられるかんね」
俺がそう言うとミヤ君は上唇を噛んだ。照れてる!おもしろすぎる!
「ね、ミヤ君は?ミヤ君はどうなの??」
「・・・おめぇみてぇな奴が何人もいてたまるかっ!!」
う〜んボーダーラインギリギリってとこかな。もうちょっと踏み込もうとしたその時、ピロリロリンという軽快な電子音。ふり返ると携帯電話を構えたユッケ。
俺とミヤ君に睨みつけられて「へりゃ」という妙な声を上げて逃げて行った。
「なに撮ってんだよこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」とものすごい巻き舌で怒鳴ってユッケを追いかけていくミヤ君を見送りながら、もーちょっとボーダーライン越えしてみたかったなぁと俺は思った。
たぶん、たまにはこんな朝も悪くない。

−逹瑯もこりないがユッケもこりてない件について。


その35「あの頃のボクら」
(過去話のためお互いの呼び方が少し違います、ミヤは全員「ぐっちゃ」呼びで逹瑯は「たつお」ユッケのみ「たとぅー」と呼びますが、混乱を避けるため地の文では「ミヤ」「逹瑯」のままでいきます)

がたがたと車が揺れる。平らな道を走っているはずなのに荷物を積みすぎているのか車そのものがオンボロであるからか、車は揺れていた。
「そういえばよ〜」とハンドルを握っていたサトチが口を開く。
「この辺りにすっげえ怖いお化け屋敷があるんだと、今日の対バンの奴らが言ってたっぺよ」
「お化け屋敷?遊園地でもあるの?」
助手席にいたユッケがそう言うと後部座席の逹瑯が鼻を鳴らした。
「バカ。おめぇお化け屋敷ったら廃墟のことだべ、なぁ?」
「そうそう、ハイキョだべ!ほんとにすぐそこなんだ、ちょっとのぞいていかねぇ?」
サトチはそう他のメンバーに同意を求めた。
「おお、いいんじゃね、廃墟探検」
日はとっぷり暮れていて、市街地から遠いせいか街灯もまばらなため、車の外には濃い闇が広がっていた。
「ちょっと俺はいやだよ!なんでわざわざ怖いとこ行かなきゃいけないの!?」
「はぁ?なにユッケ。おめぇこえぇのかぁ?」
逹瑯にバカにしたように言われて、ユッケはむきになる。
「怖いよ!怖いに決まってるよ!俺、幽霊とか見えるもん。廃墟なんて危ないよ、行っちゃダメだ・・・」
そこまで言ってユッケは自分の失言に気づき慌てて口をふさいだ。おそるおそるふり返り後部座席を見る。さっきから一言も発していない、彼の顔を窺う。
手遅れだった。
「危ない」「行っちゃダメ」という単語は彼にとっては逆効果。好奇心の塊、そして過去を考えれば廃墟ごとき怖くもなんともないであろうリーダー。ミヤは爛々と細い目を輝かせていた。
「行ってみっぺ!」
「お、ぐっちゃ乗り気だな〜!」
サトチは嬉しそうにハンドルをきった。

廃墟は元病院だったらしい。霊感体質なユッケは見ただけで震え上がってしまったがサトチに引っ張られてしぶしぶ外に出た。
ミヤはとっくに車から出て、興味深そうに廃墟を見上げている。
そして逹瑯は車の中で固まっていた。
「たとぅー・・・何やってるの?」
「は?別になんでもねぇし!」
「・・・もしかして、怖いの?」
「はぁ?別に怖くねぇし、何言ってンのわけわかんねぇ!」
そう言いながらも逹瑯、膝の上にのせた手が震えている。
「なんだ、たつお、怖いのか〜」
「怖くねぇつーの!!」
サトチに邪気のない笑顔で言われたのが効いたのか、逹瑯は車から勢いよく飛び出す。
「なにやってんだよオマエら、早く来いよ〜。こっちに入り口あるぞ!」
ミヤがめちゃめちゃ嬉しそうにそう言う、へにゃ笑顔大放出中だった。
「えぇ!中入るの!?」
「お〜楽しそうだな、ぐっちゃ!」
「いやいや、ぐっちゃ!入るのはどうなの!?いや、俺は別に怖くないけどユッケが怖がってるべ!?」
ふだんいじり倒してるくせに、ここでユッケを盾にする逹瑯、ヘタレ全開だ。
「そうか、じゃぁユッケ此処で待ってろよ。ヤスとたつおは来るよな?」
「お〜行くべ、行くべ!」
「お、俺べつに怖くねぇからだいじだしっ!ユッケは此処で待っててオバケに食われちまえ!」
「ちょ!待ってるほうが怖いって!俺も行くよ!」

陽光が差し込む楽屋で、それぞれの回想を終えたムックの四人は改めて笑い合った。
「そうだな、あれは確かこの辺りだったな」
にこにこと機嫌良く笑うミヤの隣で逹瑯はダレたように身体を伸ばす。
「あの時のミヤ君ってばノリノリだったもんね〜。どんどん一人で奥行っちゃうし、子供みたい」
「逹瑯はずーっと無言で俺のシャツ掴んでたよな、怖かったのか?」
「はぁ!?掴んでねぇし、怖くねぇし!」
「「「いや、ずっと掴んでた」」」
三人からユニゾンで言われてさすがの逹瑯も否定できなくなったのか矛先を変えた。
「ユッケだってよ、ずっとぎゃあぎゃあわめいてただろうが!」
「そうだよ、怖かったもん!」
睨み合う逹瑯とユッケに笑いながらサトチが言う。
「今もあるのかなぁ、あの廃墟」
「どうだろうな、確認しに行くわけにいかねぇからなぁ」
苦笑するミヤに逹瑯がしみじみと言った。
「だな。もう廃墟探検なんてできねぇよな・・・」
あそこになにか置き忘れてきたものがある気がして4人は目を閉じてみた。黒々とそびえ立つ廃墟は思い出のままに浮かんできたれど、忘れ物は思い出せなかった。

−そして今年も夏は来る。


その36「愛しの先輩(ドリンク・オア・ダイ)」

某イベント打ち上げにて、長い挨拶回りを終え、ようやく逹瑯は腰を下ろした、さりげなく下座を選ぶあたり、この男そういうところはちゃんとしている。
「あれ?ミヤ君、此処にいたの?てか明希もいんじゃん」
「お〜、俺もようやく挨拶終わったとこ」
「逹瑯さんもようやくですか?」
「おう、つーかなに、マゾ同盟でも組んだの?お二人さん」
「コロスぞ」
「ミヤさんマゾなんですか?」
「え!?そんな期待に満ちた目で見られても・・・」
本気で困った顔になったミヤに逹瑯はへらっと笑う。
「ダメだよ明希、ミヤ君はね、ただの自己マゾマニアだから」
「逹瑯・・・なんでそういうことを吹聴するんだよ・・・」
「だって事実じゃね?」
ぐてっと机に頭をつける逹瑯の後ろにふらりとある人物がやってきた。
ミヤと明希が声をかける間もなくその人物は人差し指で逹瑯の背中をすっとなぞる。
「たて線き〜〜〜った!!」※
「のぉ!?」
ふり返るとそこにいたのは満面の笑みを浮かべたイノラン。
(た、たて線きられた!もう三十手前なのにたて線切られた!!)
「あ、明希君、さっきはどーもね」
「いえ!こちらこそ、写真ありがとうございます!」
正座して頭を下げる明希にイノランはいいのいいのとばかりに手をひらひらさせた。何故か逹瑯におぶさるように乗っかかりながら。
「あの、イノランさん、なにやってみえるんでしょーか?」
「ん〜〜〜アルハラ」
(((自分で言ったよこの人!)))
三人同時に心の中で突っ込んだのを知ってか知らずかイノランは満面の笑みで言う。
「スーパーアルハラタイム!ちなみに向こうでハイド君もやってるよ〜ん」
「あぁ・・・さっきからマオ君が変な悲鳴上げてると思ったら・・・」
明希、苦笑い。
「逹瑯君、ムラサキカガミ!」
「いや、さっきからたて線引いたりなんで俺を呪うんですか?」
「ん?身長高くていいなぁと思ってさ。ね、ミヤ君、この子ちょうだい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・ウチのだからダメです」
「そこは即答してよ!」
思わず本気で叫ぶ逹瑯にイノランはふと真顔になってから微笑した。
「そっか〜。逹瑯君、黄色いハンカチーフ!あとたて線解除!」
もう一度逹瑯の背中を人差し指で撫でてからイノランはまたふらふらと別の場所に移動していった。
「ちゃんと呪い解除していってくれましたね」
明希は正座した足を崩しながら言った。
「つーかツッコミどころ満載だったんだけど・・・突っ込んでよかったのかな?」
「いや、俺に聞くなよ」
「でもイノランさんに“ちょーだい”って言われちゃった。今日の俺、そんなかっこよかったかな?」
「その台詞は全力でシカトするからな・・・」
またどこか違う場所で歓声のような悲鳴のような声が上がる。スーパーアルハラタイムとやらは継続中らしい。
「でもおもしぃなこーいうの!」
「あぁ」
「そうですね」
こうして祭りの夜はふけていった。

−オチがどこにも見あたらなかった。


その37「くるりの三乗」
(ケーアールキューブのPVネタ)

ディルメンバー、PV撮影中。自分の出演シーンを取り終わった堕威はセットから離れ、パイプ椅子に座って休んでいた。セットには京と敏弥が残っており、二人のシーンを取り終わったら映像チェックが残っているのでまだまだ帰れそうにない。
「おつかれさん」と同じく出演シーンを終えた薫が声をかけてきた。
「おまえは今回の衣装、楽でええなぁ、まぁ俺もいつもよりは軽いけど」
そう言いながら薫は隣の椅子に腰を下ろす。
「まぁな、普通に外歩けそうな服やからな」
コートの裾をパタパタと捲ってみせる堕威に薫は冷めた目線を送った。
「いや、ガラの悪さが際だつから無理やと思う。職質受けそう」
「さらっと言うたけど、すっごい暴言やからな、今の!つーか薫君かてほぼスーツやろ、今回の衣装は」
「いや、なんか帽子が地味に重くて首が痛かってん、あとこの服、胸元が複雑で」
「まぁそやな、俺は楽やな」
「京君を撃てたしな、ええなぁ」
「・・・いや、別にそのポイントは嬉しないつーか、薫君やりたかってん?」
引きつった笑みを浮かべる堕威の首にすっと青白い手がまわされる。
「よ〜く〜も〜殺したなぁ〜」
「うおわっ!」
耳元でデス声を出されて飛び上がる堕威の後ろに立っていたのは京、撮影が終わったらしい。けらけらと楽しそうに笑っている。
ちなみにデスメイクで眉間と口と胸に血糊をたらした状態だ。
「堕威君なに本気でビビっとんねん、ばーか、ばーか!」
「“ばーか、ばーか”って小学生か、オマエはっ!」
堕威が怒鳴ると京はすっと薫の後ろに隠れた。
「いや、眉間から血糊たらした小学生はおらんやろ」
真顔で言う薫に堕威は肩を落とす。
「俺が言うてんのは京君の言動のことでな・・・いや、ツッコミを解説させんなや!」
薫、ボケどころかツッコミまで殺す男である。
「堕威君、よくも俺を撃ったな!三代先まで祟ってやるで!」
「せめて七代祟れや!」
「疲れるからイヤ、つーかめんどいからやっぱ一代祟るわ」
「それ祟るの俺だけやん、怨みたいしたことないなっ!」
「俺を殺したくせにたいしたことないとか言われた〜!薫君もなんか言ったってや」
ちょいちょいと服の裾を引く京にせかされて薫が言う。
「そうか、ほな後の二代分は俺が祟ってやるわ」
「ちょお待て!薫君こっち側やろ!」
今回の薫の役回りは潜入&暗殺実行補佐である。
「じゃあ直前で寝返ったってことで、潜入してるウチに心変わりした設定にしたら問題ないやろ」
「勝手にストーリー変えるなぁぁっ!!」
「薫君、薫君が使ったモデルガン見せて」
「ん?ええで」
「・・・勝手に話終わらせるなや・・・おい・・・あ〜もうどうでもよくなってきた」
堕威、完全に脱力。

−仲良く兄弟げんか。

京君の愛人役として密着できる敏弥よりも銃を向ける堕威君に代わってもらいたいと思う自分は京虜として問題があると最近気づいた。
薫君の帽子(狐の剥製っぽいものが乗っかってる)重そうな気がするが実際どうなのだろう。
素肌に毛皮のコートな京君も衣装的には楽・・・かな?


その38「ケン、挑む」

偽?メンバー、リハ中。休憩を兼ねて買い出しに行っていた年上チームが賑やかに戻ってきた。イノランは微笑みを浮かべながらケンの前に来ると「はい、お土産、ケンに似合うと思って」とショッピングセンターの袋をケン渡した。
不審に思いながらもケンが袋を開けてみると中に入っていたのは
『首輪・大型犬用』
明記されている通りの、大きな首輪、色は赤。
イノランはけらけら笑いながらカオル達の方へ戻っていった。
即座に怒鳴りたくなったがそれをぐっと堪えてケンは隣で唖然としていたモリッシーに言う。
「俺だってやられっぱなしじゃないんだよ!」
「・・・いや、やめておいたほうが」
不安そうに止めるモリッシーの制止を無視して、ケンは首輪を取り出して、首にはめる。ちょっときつかったがちゃんとはまった。
ケンは首輪をしたままお菓子を吟味しているイノランに近寄っていった。
「イノラ〜ン!どう?似合うでショ?」
そんなケンの姿を見てイノランは一瞬驚いたような顔をしたがすぐに微笑みを浮かべた。
そりゃあもう菩薩様の如く慈愛に満ちた微笑みを。
そして袋からあるものを取り出してケンに見せる。
「そうか、よかった。リードも買っておいて」
犬の散歩用のリードを振り回しながらイノランは笑顔で言う。
「散歩行こっか、ケン」
「・・・すいませんでした、出直してきますっ!」
イノランに追いかけ回されるケンを見ながら他のメンバーは心の中で合掌した。

−井上様の二重トラップ。

4コマのネタだったから短いです。
広げられる話でもなかったのでそのまんま(笑)


その39「一緒に行こうか?」

「さとー!さとー!」
スタジオの廊下をばたばたと走りながらサトチを呼ぶユッケ。
サトチは休憩室からドリル片手に顔を出した。
「お〜!ユケツ!徳川バクフを開いたのって小野妹子だべ?」
「いろいろツッコミたいけど急いでるからスルーするね!大変なんだよ、ぐっちゃとたつぅーが喧嘩してるんだよ!」
「おおおお!?た、たいへんだっぺ!!」
サトチは近くにあった机の下に荷物をまとめて潜り込んだ。
「・・・さとー、地震じゃないんだから。あと今回はただのバカ喧嘩だよ」
「なんだ!じゃあ見に行くっぺ!」
「なんだか俺たち江戸っ子みたいだね!」
「ん?俺は水戸っ子だべよ」
「・・・も〜いいよ」

のぞいてみると逹瑯とミヤが言い合いをしていた。喧嘩の原因は逹瑯のジュースをミヤが間違って飲んだ事らしい。
「だからあやまったじゃねぇか、それは」
「みみっちいことで怒るなって言葉は余計じゃねぇ?俺がまわし飲みとかダメなの知ってるでしょ?」
「ジュースぐらい新しいの買ってこいよ、それで済む話だろうが」
言いながらもミヤは作業の手を止めていないし、逹瑯も顔が怒っていない、ユッケの言うとおり「バカ喧嘩」だった。
「あ〜、なにその言い方・・・ミヤ君そーゆうこと言ってると、今書いてる曲の詞、デト●イト・メ●ル・シティみたいのにしちゃうからね!」
「やれば?却下するだけだぞ」
「労力の無駄だって言いたいの?でもゴリ押しして入れちゃうよ!」
「馬鹿か?歌うのはオマエだろうが。恥ずかしいのもオマエだ」
「作詞のクレジットをミヤ君にしちゃうよ?」
「でも歌うのはオマエじゃん」
逹瑯、劣勢になってきた、言っていることは低レベルだが。
「ミ、ミヤ君が作っためちゃめちゃカッコイイ曲に変な歌詞つけちゃうんだよ!?イヤじゃないの!?」
言い負かしたいはずなのにおもいっきりミヤを誉めている逹瑯、本人は無意識でやっているらしい。それを聞いたミヤは作業の手を止めて逹瑯を見た。
「オマエが書いた詞ならそれでもいいかもな」
逹瑯は頭を掻いて天を仰いだ。負けたらしい。
「あ〜・・・ミヤ君、俺もう一回コンビニ行ってくるけど、なんかいるもんある?」
「俺がオマエに要求するのは沈黙と、真面目さ、良い歌と、チーズケーキだけだ」
ミヤは真顔で逹瑯を見上げてそう言った。
「すっげえ良いコト言われた思ったら最後に何か即物的なもん要求してねぇ!?」
「そして俺が世界に要求するのは、音楽を作れる空間と、音楽を聴ける空間と、チーズケーキだ」
「途中までカッコイイ台詞だったのにっ!とりあえずチーズケーキが欲しいのね」
「そうだな、チーズケーキとプリンとシュークリームと苺のパンケーキとポン●リングとストロベリーアイス」
「増えてるし!めちゃめちゃ増えてるし!5つも増えてるし!あとポ●デリングはコンビニに売ってねぇし!・・・あの、ミヤ君」
「なんだ?」
今までの台詞が冗談なのか本気なのかはかりかねる真顔のミヤに逹瑯は笑顔で言った。
「仲直りと気分転換を兼ねて一緒にコンビニ行かねぇ?」
「・・・・・・ちょうど煙草も切れたからな、ジュースぐらい奢ってやるよ、弁償じゃねぇぞ、奢りだ」
ふて腐れたような顔で立ち上がったミヤの後を逹瑯は嬉しそうについて行く。
そして部屋を出て扉に張り付いていたリズム隊を見つけると顔を見合わせてから二人同時にユッケの頭を掴んだ。
「録音は消せよ、キノコ」
「今度やったら携帯壊すからな」
「ひゃい!わかりました・・・!」
身長差の関係上、上下から掴まれる形となったユッケは必死で頷いた。
「ケンカもおもしーけど、仲なおりっていいな!」
サトチの笑顔に毒気を抜かれて、結局4人でコンビニに出かけたら、後でマネージャーに怒られた。

−喧嘩じゃなくて只のじゃれあい?


その40「構成要素」
球/体ツアーお疲れさま記念!

ムック、ツアー移動中。ドライヴスルーで食事をとっていた時の事。
いつも通りのバカ話の流れで逹瑯が言ったことがきっかけだった。
「あれだね、俺を構成する要素は遊び80グラム、歌が20グラムって感じだべ」
「その通りだが俺としては遊びと歌を逆にして欲しいな・・・」
すかさずそう言うミヤに逹瑯はいつものへらへら笑いで言う。
「ま、その80グラムが20グラムに繋がってるんだからいいべ?ユッケはあれだな、ブログが50グラムで俺のストレス発散が50グラム」
「いや・・・ちょっと・・・ベース弾かせて下さいっ!そんでストレス発散にしてる自覚はあったわけだっ!」
「あ?おまえムックのブログ担当だべ?」
「・・・泣いていいかな?」
当然だろとばかりに逹瑯に言われてユッケがそう言うと、サトチが頭をぽふぽふ撫でた。
「ユケツはムックのベースだべ!」
「さとーは優しいなぁ・・・微妙に会話の流れが読めてない気もするけど、俺も優しいからそこはスルーするね・・・」
それを呆れたように見ていたミヤの隣で逹瑯がやはり軽薄そうな笑みのまま言う。
「ヤスは〜、ドラム50グラム、筋トレ30グラム、遊び20グラムだな!」
「そうだな逹瑯、ヤスを見習え」
逹瑯、墓穴。
「ちなみに俺はだな・・・」
ミヤは食事の手を止めて一気に言った。
「白金10グラム、金20グラム、水銀30グラム、ニッケル40グラム、塗炭50グラム、偽金60グラム、鉛70グラム、ブリキ80グラム、そして逹瑯への悪意が0.1グラムと80キログラムの音楽で俺は構成されている」
意味が分からずポカンとするリズム隊をよそに逹瑯は口の中の唐揚げをしっかり食べきってから言った。
「うこんしゃっぽのカンカラカンのカアン!かよっ!あとさり気なく俺への悪意が含まれてるしっ!」
「・・・・・・いや、まさか返して貰えるとは思わなかった、すごいな逹瑯。これでオマエに対する悪意0.1グラムがなくなったわ」
「安い悪意だったんだねぇ」
逹瑯とミヤだけが妙に納得した表情で笑うのをみてリズム隊は顔を見合わせた。
「さとー・・・今の会話、理解できた?なんかスッゲー高度なのは分かるんだけど」
「お〜?わかんねぇ!」
分かってないのに清々しい表情のサトチから情報は聞き出せないと判断してユッケはミヤを見た。
「宮沢賢治だよ・・・説明すんのはめんどくせぇから自分で調べろ」
「でもよ〜ミヤ君のこーせーよーそ?水銀とか鉛とかなんか舐めたら苦そうだなっ!」
サトチの思わぬ言葉にミヤは目を点にする。
「ははっ!あれだけ甘い物食べてるのに本人は苦いんだ!超ウケる!」
げらげらと笑い出した逹瑯の腹にミヤの裏拳が飛ぶ。
「苦くしてる要因はどこか自分の胸に手を当てて聞いてみろ」
「・・・ミ・・・ミヤ君・・・飯食ってる時に鳩尾に拳入れないで・・・」
ムックは今日も平和です。




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