ドウタヌキ?


41話〜60話


その41「みやキャット」

「俺、今回のツアーで気づいたことがあるんだ」
サトチが真剣な表情でそう言ったので、他のメンバーは箸を止めてサトチを見た。
ちなみに前回の話から10分経過しているだけで舞台は移っていない。
サトチが真剣な表情をするのはさほど珍しいことではなく、ミヤとは違う意味で抜けているが、いつだって真剣だ。声が間延びしているけれど。
「さとー、何に気づいたの?」
ユッケに促されてサトチは意を決したように言った。
「ぐっちゃって滑舌悪いよな?」
逹瑯とユッケは一瞬ぽかんとしてから同時に叫んだ。
「「今更かよ!!??」」
「え?俺ってそんな滑舌悪い?」
ミヤは怪訝そうに三人の顔を見る。
「まぁ文章だと伝わりにくいけどねぇ」
「文章だととか言っちゃダメよ、たつぅ・・・メタになっちゃう」
ユッケの注意を聞き流して逹瑯はミヤに視線を向けた。
「いや、コーラスの時とかは問題ないけどさぁ、喋ってる時は普通に滑舌悪いよ。《武道館》が《ぶにょーかん》に聞こえるし、《名古屋》はもろ《にゃごや》って言ってたし」
さりげなく先程拳を入れられた鳩尾辺りをガードしながら言っているくせに、顔はどこか小馬鹿にしたように笑っている逹瑯をミヤは睨め付ける。
「《にゃごや》って言ったのは、名古屋弁で言ったからだべ!」
「名古屋弁で名古屋を《にゃごや》って言わねぇよ!」
言いません。
「そんなに聞き取りにくいか?俺の声」
「そうだね、声小さいしなんか舌っ足らずみたいな感じだし、顔に似合わずね〜」
相変わらず鳩尾をガードしたまま言う逹瑯、ビビってるくせに揶揄することは忘れないところがある意味すごい。
「じゃあさ、ぐっちゃ!」
ユッケがキラッキラなオーラを放出しながら顔を近づけてきたので、ミヤは椅子ごと軽く後ろに下がった。
「《生麦生米生卵》って言ってみて!」
「にゃまむぎにゃまごめにゃまにゃまこ!」
噛んでいる部分が多すぎて、もはやどこを噛んだのかすら分からない。
「ね、猫語萌え〜〜〜〜っ!」
叫ぶユッケに他の三名は驚いて固まった。
「やっぱぐっちゃは猫語だよ!ぐっちゃは猫!猫耳は神!」
「メンバーに変なフェチズム持ってんじゃねぇよ!変態キノコ!!」
いち早く我に返った逹瑯にユッケは頭を叩かれる。
「なんか逹瑯の言い方のほうがやらしいべ・・・フェチズムって・・・」
サトチは何故か嬉しそうだった。
「・・・優介」
ミヤからの《低音で本名呼び》がきた、巫山戯すぎたかと怖がるユッケに、ミヤはへにゃ顔で笑うと、右手を猫の手の様に軽く捻って言った。
「みゃ〜お!」
萌えとかギャップとかそんなものをすべて凌駕するような、とてつもない、取り返しのつかないダメージを喰らってしまうような、破壊力。
言葉も出ず、動くこともできないメンバーをしり目に、食事を終えたミヤはさっさと席を立って行ってしまった。
「にゃーにゃー」言いながら。

−やっぱりリーダーは分からない。


その42「取るに足らない」

「なぁ、俺に足りないものってなんやとおもう?」
事務所の小会議室、何の前置きもなく唐突に薫はそう聞いた。メンバーが揃うのを待っているところであるため、薫の他にいるのは敏弥と京だけなので、この言葉は当然二人に向けられたものなのだろう。が、いきなり聞かれて即答できる部類の質問ではない。敏弥は読んでいた雑誌から目を離してしばし考えてから言った。
「えっと〜・・・常識?」
「・・・ほぉ」
当たり前のことながら睨まれた。
「いや、ギャグだよ!冗談だよ!」
「もぉええわ・・・京君、なんやと思う」
隣で携帯ゲーム機を弄っていた京は気のない声で「ギタ・・・・」と言いかけてから顔を上げた。
「や、薫君に足りないもんなんてないで!」
いきなり明るい声になった。失言を取り消そうとしたのが丸見えな京の両頬を薫は軽くつまんで引っ張る。
「今、何を言いかけたのかなぁ〜?相変わらず京のほっぺはよう伸びるなぁ」
《ほっぺ》とか言ったぞ、このオーバー30。
「ひゃおるふん!ひたひ!ひょーないへんひゃんやから!」
(訳:薫君、痛い、口内炎あるんやから)
「ライヴで口の中掻きむしるからやろ〜、ほれほれ」
「ほへんて!」
(訳:ごめんて!)
ひっぱられた状態のまま笑ってそう言う京に薫は満足したのか手を離した。
「うわぁ・・・引くの通り越して殺意すら覚えたよ、今のやりとり」
暗い表情で呟く敏弥をスルーして京が薫に問う。
「でもなんでいきなりそんなコト聞くん?」
「ふと思ってん」
いや、ふとでそんな重い質問投げるなよ。
「あ、俺もさっきふと思ったんやけど、よく《二次元にしか興味ない奴っていつか犯罪おかしそう》って言うやん?」
「まぁ、よう言うわな」
「でもな、でもな、そもそも《二次元にしか興味ない》んやったら罪犯さへんと違う?だって現実に興味ないんやから」
「そういやそうやなぁ」
「・・・え?今、ものすごく話飛んだよね?なにこれ《思いついた事を言う》大会なの!?」
野暮といえば野暮だが、それなりに正当な敏弥の意見は京の一睨みで制された。
「敏弥、うるさい。息止めてろ」
「息止めたら窒息しちゃうよ!?それはなんなの?《口閉じてろ》の最上級系!?」
「《窒息死ろ》」
「なんか物騒な事言ってるように聞こえるんだけど」
「すまん、誤変換や。《窒息しろ》」
「なんだ誤変換かぁ・・・ってどっちにしろ物騒だよ!」
なかなか出ないぞ長野県民の《ノリツッコミ》は。
「あ〜そうかなるほどな!」
そんな貴重な《ノリツッコミ》を無視して薫が「合点がいった」とばかりに手を叩く。
「《口閉じてろの最上級系》に《窒息死ろ》がかかっとるんやな、京君、面白いなぁ」
「・・・・・・・あ〜、まぁな」
京、明らかにそこまで考えていなかったはずだが薫の意見には従うらしい。
「やっぱ足りないもん《常識》なんじゃねぇか」
今度は二人に聞かれないように敏弥はボソリと呟いた。

−薫君はけっこうかましちゃう人だ。

頬を引っ張る時に薫君が京君を呼び捨てにしてるのはわざとです。


その43「罰ゲームの行方」

ライヴ前、楽屋の隅でミヤを除くムック三名はオセロに興じていた。プレイしていたのは逹瑯とサトチ、そしてたった今、サトチの敗北が決定したところだ。
「俺様に勝とうなんて百年早ええんだよ!」
とふんぞり返る逹瑯に苦笑しながら、ユッケはサトチに《罰ゲームBOX》と書かれた箱を差し出す。
「はい!引いて〜!」
「こ、こわいの入ってんのか!?」
「それは引いてからのお楽しみ」
サトチは覚悟を決めて手を突っ込んで紙を一枚引いて開いた、そこに書かれていたのは・・・

「小さくきみ〜が く〜ちづさむぅ〜 地下鉄のホ〜ムいと〜しくて 手を握った〜んだ ねぇも一度うたって〜お〜くれよぉ〜 無邪気〜に〜わ〜らうカ〜ナリア〜♪」
「・・・なぁヤス」
「おぉなんだべ?」
アンケート用紙を見ていたミヤは困り顔でサトチを見た。
「なんで俺の顔ガン見しながら《ファズ》歌ってるんだ?」
「ん〜別に、ぐっちゃ、イヤなんか?」
「イヤじゃねぇけどさ・・・微妙に音外してるぞ」
ふふっとミヤに笑われてサトチも照れ笑いを浮かべる。
「あ〜でもコレで終わりだっぺよ!」
と席を立つサトチを不思議そうに見送りながらミヤはアンケート用紙に視線を戻した。
15分後、今度はひどく思いつめた表情の逹瑯がやってきて言った。
「ミヤ君、ちょっと手出して」
「え?これでいいか?」
右手が塞がっていたので左手を逹瑯の前に差し出すと逹瑯はミヤの親指を軽握って、意を決したように口を開いた。
「なみ〜だを〜かみ〜し〜め ふ〜る〜える恋人よ〜 つな〜いだ〜この〜手は 悲しいほどあたたかく〜♪」
「・・・なにをやってんだよ?」
怪訝そうな顔をするミヤに逹瑯は目を泳がせながら言った。
「えっと・・・発声練習!?」
「えらく気の抜けた発声練習だな・・・音外してるし」
ミヤに睨まれて逹瑯は引きつった笑みを浮かべる。
「ミヤ君、ヤスと態度違う・・・」
「ヤスと?ん・・・あぁ、そういうことか」
そう言って突然ミヤは笑い出した。
「ミ・・・ミヤ君?」
「ユッケに言っとけ、《罰ゲーム》ならもっとマシなの考えろってな」
「あ〜。バレちゃった!?」
「二人連続で来たらさすがにな・・・と、いうかさ」
ミヤは少し困ったように逹瑯を見上げる。
「おまえらにとって・・・俺にからむのは《罰ゲーム》なのか?」
見上げてくる瞳はいつもの迫力の欠片もなく、むしろ捨て犬のような感じだったので逹瑯は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ・・・」
「そーじゃないでしょ、ミヤ君!この《罰ゲーム》のポイントはそこじゃなくて・・・」
そこまで言って逹瑯は言葉につまった、これを伝えるのはけっこう恥ずかしい。
「・・・単純に、ほら、恥ずかしいじゃん。メンバー相手にラヴソング歌うなんてさ」
「・・・・・・あぁ、それで《ファズ》に《流星》だったのか」
「ミヤ君だって俺に向けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?ミヤ君ってラヴソング書いてなくね?」
「いや、オマエほどストレートじゃないだけで書いてるぞ!《小さな窓》とか」
「なんかミヤ君の恋愛観って女だったら丙午って感じ」
「相手食い殺しそうってことか!?限りなく微妙な喩えの上に分かり難いな、おい!今のを拾えた自分にちょっと感動したっぺよ!」
「そこが良いんだよ、ミヤ君の詞は全部好き、ミヤ君が俺に書いてくれた詞が一番好き」
「・・・・・それも《罰ゲーム》の一部か?」
軽く下唇を噛んで見上げてくるミヤに逹瑯は微笑した、いつもの軽薄なものではない綺麗な微笑。
「だって俺の中ですごく大切な歌だから、ずっとココに持ってるよ、ライヴで歌わなくなってもずっとね」
そう言って逹瑯は自分の胸を指さす。
ミヤは眉間にシワを寄せて言った。
「・・・手」
「ん?」
「・・・いつまで俺の親指掴んでんだよ」
「あぁ、まだ終わってなかったから」
今度はしっかりと逹瑯は歌い始めた。
「《君の空 塞いだ僕を 責めてくれよ 見上げた空に今何を思う》」
「・・・それは《罰ゲーム》の続きなのか?」
「好きに解釈していいよ」
微笑む逹瑯の手から親指を引き抜いて、ミヤも笑った。
「ばーか!」

−見上げる空は星が降るようだったから、もう大丈夫。

ちなみに《罰ゲーム》の内容は《ミヤ君を見つめながらファズのAメロを歌う》と《ミヤ君の手を握って流星のサビを歌う》でした。


その44「斜光のアルバム」

ある日のこと、遅れてやってきた京がえらく真剣な顔で言った。
「薫君、堕威君、心夜、ちょっとええ?」
「俺は!?」
なんで3人が呼ばれて自分が除外されるのかという当然な疑問を発した敏弥だったが「敏弥はいい」とキッパリと言い切られてしまった。
地味にダメージを受ける。
「なになになになに?どした?」
喧しく寄ってくる堕威と、心配顔の薫と心夜がそばまでやって来ると、京は少し言いにくそうというか照れくさそうに鞄を下ろした。
いつもの鞄ではない、リュックサックだ。
大荷物だ。
「あんな、あんな・・・えっと、返そうと思ってん」
「何を?」
何か貸していたかと首を傾げる堕威に、京はリュックサックを開けてなにやらでかい物を取り出す。
ずっしりと重いそれは、100円ショップで売ってそうな手さげ袋に入っていた。
薫と心夜にも袋の柄が違うが同じようなものが渡される。
「返すの遅れてごめんな」
「・・・えらい愁傷やな、そんな大事な物貸してたか?」
「っていうかなんやこれ?」
「・・・・」
三人が袋を開けるとそこに入っていたのは『卒業アルバム』だった。
「って何年前に貸したやつや!?」
さすがは堕威、京の行動に突っ込み慣れている。
「・・・メジャーデビュー前なんは確実やな」
「貸したの忘れてた」
薫と心夜、苦笑い。
そういえば京は昔、やたらと人から『卒業アルバム』を集めてたなぁと懐かしく思いだす。
「返すの遅れてほんまごめんなぁ」
「いや、もう貸したのすら忘れてたし・・・気にせんでええよ」
本気ですまそうにいう京に堕威はすこし動揺しながらそう言った。
妙な沈黙に包まれる中、一人だけテンションを崩していなかった敏弥がさらりと言った。
「京君、なんか《死亡フラグ》立てたって感じ」
その言葉に、京以外の三人はふり返って敏弥を睨む。
「とし坊、不謹慎やぞ」
「この場の全員が思ったけど言わなかったことをなんで言うんや!」
「・・・空気読めや」
半分くらい本気で怒ってる風な三人に京は何故かはにかんだような顔で言う。
「ええねん、ほら、確かに《死亡フラグ》っぽい行動やと自分でも思ってるし、な?」
これには四人とも言葉をなくす、いや、京だって世間で思われてるほど暴言キャラではないのだが・・・雰囲気が変だ。
「京、なんか悩みでもあるんか?」
真剣な表情で肩を掴む薫に京は笑顔を返す。
「いや、部屋の整理してたらたまたま出てきたから返そうと思っただけで意味なんかないし、俺《卒業アルバム》って小学校のしかないから、ええな〜思って借りてただけやし、な」
「・・・・・・ならええんやけど」
釈然としないといった様子の薫に堕威が明るい声でいう。
「ならさ、久々に5人で写真撮らへん?仕事では撮ってるけど、普通の時に撮る機会あんまないやん」
この提案には他の4人もすぐに同意し、それぞれのデジカメを取り出す。
「どーしよ、誰かに頼んで撮ってもらう?」
「・・・敏弥が撮ればええんちゃうの」
「ちょっとやもちゃん!俺もメンバーだってばっ!」
結局、5人でぎりぎりまでくっついて、堕威と敏弥が(手の長さの関係上)カメラを操作する形で写真を撮った。
5枚、つまり5人分を取り終えてから、ふと心夜が言う。
「そういえば京君、なんで敏弥からはアルバム借りへんかったん?」
「ん?俺が加入前の趣味だったからじゃないの?」
「いや、俺が京君にアルバム貸した時、もう敏弥もおったで」
堕威にそう言われて、敏弥は京を見て「なんで?」と言った。
京は少し首を傾げてからニヤリと笑う。
「だって、敏弥の高校時代なんて・・・地雷やろ?」
「ぎゃふんっ!」
コントのような声を上げてソファーに突っ伏す敏弥を見て、(よかった、いつもの京君だ!)と他のメンバーは胸をなで下ろした。

−『しおらしい京君』にチャレンジ!


その45「それは、ない!」

その日はライヴのリハーサルだった。そして珍しいことに京の機嫌がむちゃくちゃ良かった、休憩中に歌を口ずさんじゃうくらい、最高潮に良かった。
「ご・き・げ・ん・れーす みるくいっぱいうれち〜 あそ〜んだあとはなで〜られてご・き・げ・ん♪」
一方、他のメンバーはありえないミスを連発していた、まず敏弥がシールドが足に絡まって転ぶというドジをした。綺麗に後転してから「俺、足長いからねぇ〜」と戯けてみせ、スタッフの引きつり笑いを誘った。
「いたらきま〜す おいちーもので ぽんぽん ねころんでしあわせ〜 ころり〜 おねむ〜♪」
堕威がギター弦を張り間違えた。「あかん、ちょっと考え事しとって」と爽やかに笑って和ませたがその後は硬い表情で弦を張り直していた。
「さ・て・さ・て さ〜んぽ えものどこら?みゃうみゃ〜う♪」
心夜がスネアを動かそうとしてひっくり返した。慌てて寄ってくるスタッフを制して、無表情で何事もなかったかのように元に戻した。
「たらいまれーす しっぽふってよろちく おはなしきーて うにゃ〜 うにゃにゃ〜♪」
そんな中、一人だけ妙に和んだ顔をしていた薫は自分に針のような視線が周囲から向けられてることに気づいた。
スタッフはさすがに控え目だが、敏弥、堕威、心夜からは針どころか剣山のような視線が向けられている、みんな笑っているが目が笑ってない。
薫は小さくため息をついて京のに近寄っていって軽くおでこをはたいた。
「ん!?薫君なに?」
「京君、えらいごきげんやな」
「ん〜。まぁな」
にこっと八重歯を見せて笑う、本当にご機嫌だ。
「でもその歌は・・・やめとき」
「・・・ん?」
「やめときなさい」
「わかった」
不思議そうな顔をしながらも京は素直に頷いて、歌うのをやめた。
薫は他のメンバーへ向き直り、京に分からないようにオーケーサインを出した。
その後は誰もミスすることはなかった。

−ギャップがありすぎて動揺してしまった。


その46「アメオトコ」

偽?ライヴ。天気予報は外れて雨である。もうグッズに傘を常に組み込んでおくか、ビニール傘無料配布にしたほうがいいくらい雨ばかり。
楽屋では「ほんとイノランって雨男だよねぇ」という言葉が「おはようございます」の代わりのように使われていた。
「あのさ、いまさらなんだけど《アメオトコ》ってさ、正確にはどういう意味なの?」
そう疑問を発したのはケンだった、髪をセットしていたイノランがふり返る。
「ん?もしかして日本にしかない概念なのかな?」
イノランは視線だけ飛ばして説明をカオルに丸投げした。最年長だから知ってるでしょ?ってところか。
「えっと、どう言ったらいいかな、外に出たり、行事の時によく雨が降る人のことを《雨男》とか《雨女》って呼ぶんだよ。イノランはライヴの度に雨に降られてるからねぇ」
ルナシー時代、台風・大雪・突風と規模のデカイものを呼んでいたのはたぶん、5人の相乗効果だったのだろう。
ケンはしばらくカオルの言葉を噛み締めてから納得したように頷く。
「あ、たぶんイギリスにはないよ、だってほとんど天気悪いから」
「そうか、グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国にはないのかぁ」
「なんでいきなり日本語正式名称!?」
「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」
「・・・発音上手いしっ!なんか俺がわざわざ日本に合わせてイギリスって言ってんのが馬鹿みたいだ!」
「じゃあ《雨男》って英訳できないんだ」
「直訳で良いなら《Rain Man》になるんじゃない?」
「なんかサヴァン症候群を言い換えたと勘違いされそうだな。そうするとそもそも《雨男》って言葉が格好悪いのかね〜。ケン、なんか他のカッコイイ名称つけてよ」
なんでこの男は英語圏生まれの人間にこういうムチャぶりをするんだろうかと偽?サポートメンバーが苦笑する中、ケンは真剣な表情で考えてから言った。
「じゃあ《梅雨前線》でどうだっ!!」
イノランは無言で鏡へ向き直り、髪のセットを再開した。つまらなかったらしい。
「あ〜、ダメだった?ごめんね」
「つまんなかった、突っ込み入れるほどでもないしさぁ」
「えっとじゃあ《アメンボ》で!」
「・・・もしかして《あめふらし》と間違えてる?」
「うっ・・・・!」
突っ込みじゃなくてダメ出しを喰らってしまった。
というか何がしたいんだこの二人は。
「ふふっ、ケン。これから俺が言う言葉を噛まずに言えたら許してあげよう」
「うけてたつ!!」
「獅子汁、獅子鍋、獅子丼、獅子シチュー、以上獅子食試食審査員新案獅子食七種中の四種」
アンタそんな早口で喋れたんかい!ってぐらいのスピードでイノランが言う。
「うえええええ!?」
「残念だったね、ケン、おまえの負けだ」
「くそ〜!なら俺が今から言う言葉を・・・」
「だが断るっ!」
「断られちゃった!?」
だから何がしたいんだ、悪ガキコンビ。あとイノラン、ナチュラルにジョジョネタを使った。
「うたうたいのまえでうたうたうようなうたうたいならうたうたいのまえでうたうたうけれどもうたうたいのまえでうたうたうようなうたうたいでないからうたうたいのまえでうたうたわないうたうたいだ。はい、リピートアフタミー!」
またもとんでもないスピードの早口言葉だった。
「イノランってさぁ・・・もしかして普段本気で喋ってないの?」
本気で喋らないってどういう状況だ。
「さぁね」
「名称思いついたよ、イノランはね《謎男》だ!」
雨から離れた。が、イノランはそんなケンに親指を立てて笑ってみせる。
「グッジョブ!」

−特に意味のない会話がしたかっただけ



その47「夢幻」

「逹瑯、そういえばよ〜」と飲んでいたコーヒーを置いてミヤが言った。
「俺さぁ、お前とキスした記憶あるんだけど気のせいか?」
逹瑯はぶほっとコーラを吹き出して悶絶した。炭酸が鼻に入ったらしい。
リズム隊も驚いた様子で逹瑯とミヤの顔を見比べている。
「いや、俺は記憶にねぇべ!!」
「ん〜〜〜、そうか」
逹瑯に否定されてミヤはしばし首を傾げ、なにかを思いだしたらしく手を叩いた。
「あ!思いだした、あれ夢だった」
「そういえばそんな話したね、はるか昔に」
遠い目をするユッケの隣で逹瑯は乱暴にコーラのペットボトルを机に置いて吼えた。
「夢と現実混同してんじゃねぇよ!!」
「いや、同じようなもんだろ?」
「同じじゃねぇよ!?」
「夢であったのも現実であったのも同じようなもんだべ?」
ミヤの天然スイッチがオンになったらしい。逹瑯はため息をついて、どう言い返したものか考え始める。
「じゃあ俺、空飛べるんか?」
サトチが見当違いというか方向違いなことを言いだした。
「さとーあのね、ミヤ君が言いたいのは《記憶になってしまえば夢も現実も同じ》ってことだよ」
ユッケの説明にうんうん頷いてはいるがたぶん分かってない。
「だいたいよ〜。同性とのキスなんてカウントに入らねぇし、割とみんなやってるしな」
「カウント入らなくてもそんな勘違いされてたら俺の精神がすり減るんだよ!あとみんなはライヴパフォーマンスでやってんの!」
この場合の《みんな》は《一部のV系》という局地的なものだ。ちなみムックは初期はともかくあまり絡まないタイプのバンドである。
「てゆーかさ、ミヤ君」逹瑯は何かを思いついたらしくニヤリと笑ってミヤを指さす。
「《夢であったのも現実であったの同じ》?その理論で言ったら、俺、ミヤ君とセックスしたことあるからねっ!」
どーん!って感じだった。
「うわぁ、それはねぇわ、5000%ありえねぇ、3億円貰ってもありえねぇ、月が地球に衝突してもありえねぇ」
思いっきり顔をしかめてミヤが言う。
「・・・あれ?納得してもらえたし俺だってありえないのは同じだけど、地球災害規模で否定されるとなんか凹むのは何故!?」

−言い負かしたのに勝った気がしない。

はるか昔、逹瑯が「夢でミヤ君抱いた」というネタを言った話、実際見たかどうかは不明。



その48「僕だけを贔屓してください」

ディルメンバー本日は細々とした仕事をかたづけるため、全員事務所に集合していた。
時刻が夜中の12時をまわった頃、偶然窓の外を見た敏弥が言った。
「あれ?あそこに立ってるのガラ君じゃない?」
事務所の前、ガードレールにもたれかかるようにして骨っぽい男が立っている、間違いなくガラだ。
「あ〜もう来てるんか、ご飯食べに行く約束しててん」
記事をチェックしていた京がそう言うと敏弥は納得したように頷いた。
「わざわざお迎えに来てるわけだ・・・」
「あのさぁ・・・」と言いにくそうに声を上げたのは堕威。
「実は俺も気づいててな、京君に言わなあかんと思って忘れてたんやけど・・・」
「ん?今聞いたから別にええんとちゃう」
首を傾げる薫に堕威は心なしか引きつった笑みで言う。
「いや、俺が気づいたん一時間ぐらい前やねん」
現在、季節は冬。それも真冬である。今晩は今年一番の冷え込みになりますとか天気予報で言っていた。
全員に沈黙がおりる。
「彼は京君の靴でも温めてるわけ!?」
いち早く我に返った敏弥がそう叫んだ。
「おお、森蘭丸か〜」
「薫君、それは豊臣秀吉や・・・」
薫のとぼけた発言を心夜が冷静に訂正する。薫、ボケに天然ボケで返す男。
「しゃあないなぁ、電話して中入るように言うわ」
「あ、俺ちょうど玄関の方に行く用事があるからついでに言うて来るわ」
携帯電話を取り出そうとした京に薫がそう言う。
「ええの?なんか悪いなぁ」
「ええて、ついでやし」
《玄関の方に行く用事》なんてこの状況であるわけがないが、その辺りを分かっているのかいないのか京は部屋を出る薫に笑顔で礼を言っていた。

事務所から出てくる見覚えのある人物の姿にガラはガードレールに持たれるのをやめ、直立姿勢に変える。
「よお、ガラ。ひさしぶりやな」
出てきたのは薫だった。前髪が長すぎて表情が読めないが声の調子は普通だ。口角は上がっているが元々の顔の作りがそうなっているだけなので参考にはならない。軽くそう観察してからガラは丁重に頭を下げた。
「薫さん、お久しぶりです」
「京君とメシ食いに行くんやて?」
「え、あ・・・はい・・・」
「ふ〜〜〜〜〜ん」
わざと愉快な声を出したような感じだった、前髪の奥の鋭い瞳がしっかりとガラを捉えている。
「あの・・・・?」
「京君と遊びたかったら、俺を倒してから行け!!」
腕組みをしたままふんぞり返り、薫はきっぱりとそう言い放った。なんかバックに『ゴゴゴゴゴゴゴ』と効果音が入りそうだ。つまり軽くジョ○ョ立ちだった。
ガラ、唖然。そのまま1分ほど時間が過ぎる。
「なぁガラ・・・冗談なんやけど」
姿勢はそのままで薫が気まずそうに言う。
「・・・薫さん、本気に聞こえる冗談は冗談とは言いませんよ」
ガラが冷静かつ的確な突っ込みを入れたところで様子を見に来たらしい京が出てきた。
「薫君、なんでジ○ジョ立ちしてんの?」
一番目立つけれど一番指摘し難いところをさらりと言えるあたりやっぱりメンバーだった。
「ん?いやあ、久々に後輩との交流をな・・・」
答えになってねぇよ。
「ちょお薫君!まこに変なこと言うてないやろな!?」
「言うてへんて、なぁガラ」
「・・・言われてません」
洒落にならないジョークを言われて軽く背筋が凍っただけだ。
「ごめんなぁまこ、もうちょいかかるねん、寒いやろ?中で待ってて」
「はは、俺はそれを言いに来たんやった。入れ、ガラ」
まぁそんな感じで事務所内のロビーに案内され、二人は仕事に戻った。暖房の風で(色んな意味で)凍った身体を溶かしながらガラは
(つーかさっきの京さんと薫さん、男友達が家に遊びに来た時の父親と娘みたいだったな・・・いや、口にできないんだけど)
とやはり的確に突っ込みを入れていた。

−それに関しては誰も突っ込めないだろう


その49「2009年7月8日」

本日誕生日を迎えるスギゾウは起床してパソコンを起動させた。新着メールが何件かありその全てが「Happy Birthday」を件名にした誕生日を祝うメールである。0時ジャスト。日付が変わる瞬間に送られてきたメールはスギゾウの元・相棒、ユウナからだった、律儀かつ記念日にマメなユウナらしいと微笑みながらメールを開く。

一分後、スギゾウは携帯に向かって怒鳴っていた。
「ユウナァァァァッ!」
『いきなり叫ばないで下さいよ。どうしたんです?』
「どうしたもこうしたもねえっ!なんだあのメールは!?」
『誕生祝いのメールですよ。あれ?カードのほうがよかったですか?』
「て・め・え・な!なんで年齢の部分がゴシック太字最大フォントになってんだよ!しかもなんで漢字で四十歳って書いてあんだよ、漢字で書くと生々しいんだよっ!」
『いやだな、俺は普通にメール送りましたよ。文字化けじゃないですか?』
「あんなピンポイントな文字化けがあってたまるかっ!」
続けて怒鳴ったせいで軽く息切れしながらスギゾウはがっくりと項垂れた。
電話の向こうでユウナが笑い転げている。
『いや、そんなにダーメジ受けるとは思いませんでした。じゃあ今からもっとダメージ受けること言いますからそれで緩和して下さい』
「どんな理屈だよそれ!?受けて立とうじゃないか!言ってみろ!」
『スギゾウさんって喋らなければカッコイイのに』
「ぐはぁっっ!!!」
ザラキを唱えられた。ころころと童女のような笑い声を上げてユウナが言う。
『冗談ですよ』
「あたりまえだっ!!」

ユウナとの通話を終えて(ちゃんと和解した)再びメールをチェックしていると珍しい人物からメールが来ていた。この場合《珍しい》という単語は《メール》のほうにかかっている。
つまり人物的には珍しくないけれどメールが来るのは珍しい相手だった。
『おめでとうございます』というDMのような件名なのがらしいといえばらしいが。
メールの送り主はイノランだった。緩む頬を押さえながらスギゾウはメールを開いた。
そこには簡潔に一文『初老突入おめでとう(^^)/』と書かれていた。スギゾウは高速で携帯を操作し相手が出るなり叫んだ。
「イノラン!!!ごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『・・・うるさい、耳が割れる』
「巫山戯てんのかあのメールは!?お前の場合、一年後は我が身だと言うことを忘れるなよ!!」
『うん、巫山戯てるんだけど?』
あっさりとすげぇことを言われた。スギゾウ驚きのあまり返す言葉がない。
『いやあまさかそんなにダメージ受けるとは、じゃあもっとダメージ受けること言ってあげるからそれで緩和させてね』
「・・・あれ?なんかすごいデジャヴを感じるんだが!?」
『杉ちゃんて喋らなければカッコイイのに』
「ぐはっ!?」
ザラキどころかムドだった。一撃必殺問答無用で死に至る呪文。
『冗談だよ?』
「・・・今日だけでガーディアンが二回も入れ替わってしまった」
『じゃあ今はゼリー・マンが憑いてるんだ、最弱じゃん』※
「ぐあ・・・・・・・・・また死ぬとこだったぞ今!つーかお前いつのまにユウナと打ち合わせしたんだ?」
知らない仲ではないものの親しくはないはずであるが、打ち合わせもせずにこんなに綺麗に言うことが揃うわけがない。
『いや、俺、雅楽はできないけど?』
「は?・・・・・・・・・・・あ!《打ち合わせ》の語源が雅楽のリズム合わせから来てることによるジョークか!」
説明的な突っ込みになってしまった、まぁそれでも突っ込めるのがすごいけれど。
『ああゴメン、さっきまでタクヤ君と喋ってたから変なボケが出ちゃった。ジョブチェンジしなきゃ』
「ジョブチェンジできるの!?ってゆーか普段タクヤとどんな会話してんだ!?」
『ん〜?普通の会話だよ、杉ちゃん』
急に声のトーンが可愛くなった、というかさっきまでが低音すぎたんだが。リアルタイムで猫被られるとすごく微妙な気分だった。
「あのさ、マジでユウナとなんの話し合いもしてないのか?」
『してないよ〜。っていうかそもそも連絡先知らないし〜』
「え!?じゃ偶然同じこと言ったのかオマエら!?」
『なんのことだか分からないけど、そうなんじゃない』
俺は兄貴分として何を間違えたんだと悩むスギゾウの耳にのほほんとしたいつもの調子のイノランの声が響く。
『杉ちゃん、誕生日おめでと〜』
そして通話は切れた。なんてマイペースな奴だと呆れながらスギゾウは自分の頬に手をやる。
思いっきりにやけていた。

−なにはともあれ、おめでとう。

※真女神転生ifに導入されているガーディアンシステムネタ。キャラクターが死亡するとガーディアンが入れ替わるが、ゲージと睨めっこしながらタイミングよく死なないと狙い通りのガーディアンが憑かず、その後のパラメータや修得魔法に影響が出る。下手な死に方をすると《ゼリー・マン》という最弱ガーディアンが憑いてしまう。
《ムド》も同ゲームシリーズの即死魔法、和名は《呪殺》であり、FFの《デス》に近い。人間が喰らうと高確立で即死する。このシリーズの難易度を上げている魔法。


その50「リーダーは○○カッコイイ」

職業にミュージシャンというものを選択していても時流というものには普通に乗る。ムックのメンバーはそれなりのミーハー精神とオタク気質を全員が持ち合わせていたので今一番ホットな話題は決まっていた。
某国民的RPGの最新作の話だ。
根っからのゲーマーである逹瑯などは休憩時間を見つけてはDSを取り出し、ピコピコと真剣にプレイしている。
「逹瑯、それおもしい?」
「・・・おもしいべ〜」
ミヤの質問に一拍遅れて逹瑯が答える。RPGは常時画面を見て集中していなくていはいけない部類のゲームではないので、それ以上の会話を振ってこないミヤに今度は逹瑯のほうから声をかけた。
「ミヤ君は買ってないの?」
「あ〜、ほら、何日も前から発売日だ〜!って煽られるとタイミング逃すんだよな」
「えぇ?俺、予約までして買ったんだけど!?」
「そりゃたつぅはねぇ」
「だよなぁ・・・」
隣で話を聞いていたユッケとサトチが苦笑いで頷くのを見て逹瑯は口を尖らせた。
「その新作ってなんか新しいシステムあるの?」
攻撃を避けるためユッケが話題を変えると逹瑯は少し首を傾げてから言った。
「いっぱいあるけど・・・あれだな、シンボルエンカウント方式になってる」
「シンボルエンカウント方式ってなんだよ?」
いきなり出てきたゲーマー用語にミヤがそう口を挟む。
「簡単に言っちゃうと、フィールド歩いてていきなり敵が出てくるのが《ランダムエンカウント》で敵の姿が見えててそれに接触するとバトル画面になるのが《シンボルエンカウント》だよ」
さすがというかさらっと分かりやすく説明する逹瑯にユッケが言う。
「俺それダメなんだよ〜。怖いから徹底的に避けちゃって・・・」
「俺もだべ。それでレベル上がらなくてボス戦で死んじゃうんだよなぁ」
サトチも頷く。逹瑯も苦笑いを浮かべながら頷いた。
「分かってるんだけど、ついめんどくさくてねぇ・・・」
ミヤはそんな三人の発言に不思議そうな顔をする。
「え?俺その《シンボルエンカウント》とやらだと敵の姿見たら全部に突っ込んで行くぞ?まぁそれで序盤死にまくるんだけど・・・」
他三名はそんなミヤを目をぱちぱちさせて見つめた。
「ミヤ君って・・・マゾっぷりがすげぇカッコイイ・・・」
「なんかもうマゾカッコイイ、Mカッコイイ!」
「ミヤ君が勇者だべ・・・」
何を言ってるんだてめぇらは?という顔のミヤに三人は心から尊敬の視線を送った。

−《Mカッコイイ》って定着しないかな・・・

某小説に《Mカッコイイ》って言葉が出てきてミヤのことじゃんと思った事+逹瑯が予想どおりあのRPGを買っていたこと+私自身が友人からこのRPGを借りた結果できた話。


その51「そして、さよならを知っていた」

時間軸にして90年代後半、ルナシー健在の頃。都内某レコーディングスタジオの端、喫煙所のソファーにイノランが腰掛け煙草を吸っていた。スタジオ内が禁煙というわけではないが気分転換をしたい時はよくこの場所に来る。イノランにしては珍しくやや険しい表情、時折指をコードに合わせるように動かしては小さくため息をついている。
「煙草一本ちょーだい」
聞き慣れた声に顔を上げて見ればこちらもやはり険しい顔をしたスギゾウが立っている。イノランは箱ごとスギゾウに煙草を渡した。
二人の間に会話はなく紫煙だけが漂っている。ふとイノランが笑顔を浮かべて、廊下の向こうの人影に向けて手を振った。
「タクヤ君じゃない!?」
「イノラン君?」
たたたたた、と軽い足音を立てて駆け寄ってきたのはやはりタクヤだった。この頃はまだJAMのタクヤ。
「お久しぶりです、スギゾウさん」
「ああ、久しぶり」
「なんでタクヤ君が此処にいるのかな?」
「ん、ちょっと知り合いがいたから顔見せにね、イノラン君も此処とは知らなかった」
狐を思わせる切れ長の目を細めてタクヤが言う、相変わらず表情の乏しい男だった。
「ところでイノラン君、困ったことがあってさ。このまえ髪を切りにいったんだけど」
「そうなの?気づかなかった」
「ここは見てすぐ“あれ?タクヤ君髪切った?”と言って欲しかったところやね」
「タクヤ君頭切った?」
「うん、切った」
「すっげー!頭切ったんだ!?」
「という小学生のテンプレートは置いといて」
《置いといて》の動作をきっちり行うタクヤにイノランがふふっと笑う。
「美容室でさ、頭洗ってもらうでしょ、で《痒いところはありませんか?》って聞かれるじゃない?だから俺は答えたの《頭を地球として鼻を日本として、モロッコ辺りが痒いです》って。それが通じなくてさ、ああいう時なんて言ったら良いんだろうね?」
イノランはゆっくりと吸った紫煙を吐き出してから答える。
「それじゃダメだよタクヤ君、ちゃんと緯度経度で言わないと」
「ああ、そうかなるほどね。さすがイノラン君、じゃあ俺は急ぐからこれで帰るわ」
「ん。じゃあ《子度向けアニメの悪役風》でお願い」
タクヤは軽く頷くと後ろ向きに猛ダッシュしながら叫んだ。
「これで終わったと思うなよ〜〜〜〜〜っ!!」
そして後ろ向きのまま角を曲がって消えた。帰ったらしい。
「・・・・・・なに!?今のっ!?」
口を挟めなかったというか唖然としていたというか、とにかく普段の饒舌さを1ミリも出せなかったスギゾウの問いにイノランは不思議そうに首を傾げた。
「え?《なんか元気ないけど大丈夫?》って聞かれたから《大丈夫だよ》って答えただけだけど」
「・・・暗号文かなにかになってたのか、今の会話!!??」
「てゆーか、フィーリング?みたいな」
そう言うイノランの表情からはもう完全に険しさは消えて穏やかだったので、スギソウはたぶんこれで良いんだろうなと思いそれ以上の質問はしなかった。

−口にできなかったけれど、知ってたんだよね?


その52「リーダーの幸せDay」

俺が不真面目のように見られるのは周囲が真面目すぎるからだということをたまに主張したくなるが、どのタイミングで言ってもいいわけにしか聞こえず、さらに不真面目な印象を持たれるだけだろうなと思っているので、実際に口にする気はない。
とはいっても俺だって真面目に、本気になる時だってけっこうあるのだ、本日、ボーカル録りの時はやはり緊張するというか張りつめている。
というわけで今回の語り部、逹瑯だ。
語り部も真面目にやればこんな感じなんだよ。俺、今すげぇかっこよくない?
スタジオに着いてすぐ、廊下の端で電話をかけているリーダーを見つけた。なんだかにっこにこな顔で心なしか声が弾んでいる、電話の相手は《先輩》かな?と思った。
ミヤ君は電話に夢中で俺に気づいた様子はない。
「ええ、もちろんライヴ行かせてもらいます、勉強させてもらいますよ、いえいえ、たぶん今日は時間通りに終わると思うんで」
今日のライヴという言葉で相手が誰か分かった、というかそれ、俺も行くつもりなのだ。
そうかライヴに行けるからご機嫌なのかぁと思っていると、相手の言葉を頷いて聴いていたミヤ君がひょいっと首を傾げた。
「え、俺、電話でも分かるほど楽しそうですか?そうなんですよ、今日はボーカル録りなんでもう朝からウキウキしちゃって!」
へにゃへにゃな笑顔で言うミヤ君。
・・・・・・・・・ちょっと待って、今の言葉はどーいう意味ですか??
「ボーカル録り大好きですから、っていうか逹瑯の歌声大好きなんで、録りの時が一番聞けるからすごい楽しいんですよ、ライヴの次ぐらいに楽しいかもしれないっす」
うわぁ・・・顔が熱くなるのを感じた。いや、ミヤ君が俺の唄を評価してくれてるのは知ってるけど、他の人にこんなデレッデレで喋ってんのかよ、リーダー!?
もう嬉しいんだか恥ずかしいんだか分からないんですけど。
「じゃあ、失礼します」
とミヤ君が電話を切ったので俺は慌てていったん引っ込み、さも今来たかのように歩いていった。
「お、逹瑯、おはよう」
既にあのへにゃ笑顔は消えて、いつもの仏頂面に戻っている。
・・・どう考えてもさっきの話聞いてたの黙ってたほうが良いよなぁ。
「おはよ、ミヤ君」
なるべく普通の調子を装って言う俺の背中をミヤ君はぽんっと叩いた。
「今日は頼むぞ」
「もちろん!今ぜっこーちょーですから俺!」
ミヤ君はもう俺の前を歩いていたけど、微笑んでいるのは分かる。
・・・お望み通り、最高の唄を聞かせてやんよ、と俺も笑った。

−リーダーは誰よりも逹瑯の唄マニ。


その53「レッツ!県民性テスト」

「堕威君が本読んでる、珍し〜。何読んでるの?」
くてっとソファーごしにしなだれかかるように敏弥が堕威をのぞき込む。
「なんか《県民性》について書いた本なんや、今流行ってるやん?面白いで〜」
「ん〜〜流行ってるかな、どうだろう」
「あれ、流行ってへんのか。でもこれ面白いで、三重県民の県民性は《のんびりで穏やか、人を信用するが偶に我が儘》やて、当たってへん?」
「まぁ一部分は当たってるんじゃない」
「・・・どの部分や?」
「まぁいいじゃん。長野はなんて書いてあるの?」
曖昧な笑みで誤魔化す敏弥を軽く睨んでから堕威はページを捲る。
「長野県民の県民性は《理屈っぽく四角四面、倫理意識や道徳意識が高い、他人にも自分にも厳しい》・・・あれ、一個も当てはまらんな、おまえ」
「ちょ、なんかすげぇバカにされた気分なんですけど!?じゃあ京都はなんて書いてあるのかな?」
そう言って敏弥は向かいに座っていた京を指さす。「俺も巻き込むんかい」と迷惑そうに京は顔を上げた。
「えっとな《プライドが高く排他的、悪意は穏やかな言葉に隠し、本音と建て前を使い分ける》やて」
「あるぇー?前半しか当たってないよ、京君!」
「死にたいのか?」
「ほら!ストレート!」
何故か嬉しそうな敏弥に京が冷ややかな視線をおくる。
「あほらし、出身地で性格が決まるわけないやん、血液型占いとかと同じ眉唾やわ」
「それもそうやなぁ」
最初に話を持ち出したのに堕威はあっさり納得する。
「え、その本、面白かったんじゃないの?」
「・・・いや今、兵庫と大阪も見てみたんやけど、薫君と心夜も当てはまってないねん。ウチが変人の集まりだと思うよりは・・・そっちのほうが精神衛生上ええわ」
「あはは、納得!」

−まぁ当てはまらないですよね、県民性なんて

兵庫県だけは地域によって県民性が変わるんですが薫君の正確な出身地が分からなかったのでボカシました。心夜は大阪といってもほぼ京都と奈良の境なのでまた違うのかもね。
V系麺をざっと調べても特に「当てはまる」って人はいませんでした。


その54「夏生まれの君たち」

本日はメンバー全員で事務所での仕事、その休憩中、ミヤがDSと格闘中の逹瑯に声をかけた。
「そういえば、誕生日プレゼントなにがいい?」
「えらく気が早くない?まだ一ヶ月ばかり先だしヤスのほうが早いよ」
「いや、ヤスのはだいたい決まってるんだけど、おまえのが決まらなくてさ」
その言葉にサトチが身を乗り出して「え!?なにくれるの!?」とはしゃいだが「今言っちゃたらおもしろくねぇだろ」とあしらわれた。
「ん、別になんでもいいつーか今更照れくさいつーか、俺もたいしたもんあげなかったし」
「そうか、じゃあ・・・俺がおまえの言うことを何か一つだけきくとかはどうだ?」
「ふえ?」と間の抜けた声を上げて逹瑯はDSを落としそうになった。
「は!?なんでもきいてくれんの!?」
「ああ、エロ方面以外ならな」
「いやいやいやいや、リピート!いやいやいやいや!!エロ方面ってなんでしょうか、リーダー!?」
「女紹介してくれとかそーいうのはナシってこと」
ぎょろ目をむいて驚く逹瑯に「なに動揺してんだ?」といった調子でミヤはさらりと言う。
「日本語オカシイですよ!エロ方面って言葉が変だよ!そもそもそんなこと頼まないし!!」
メンバーの友達なんてつき合いにくいにもほどがある。
「エロ方面って、一日猫語で喋れとかそういうのかと思った」
苦笑しながら言うユッケに全員からひややかな視線があびせられた。
「黙れ、菌類」
「黙れ、ロリコン」
「だまれ、編隊」
「ちょ、そこまで言われるようなことなの!?あとさとー!《編隊》じゃなくて《変態》だよ!」
「あ、でもぐっちゃ!!」
「無視かよ!!」
ユッケの叫びを無視してサトチはさらに身を乗り出してミヤを見る。
「俺も誕生日プレゼントそっちがいい!ミヤ君にお願いきいてもらえる権!」
「ヤスも?まぁ別にいいけど・・・」
「やったあ!!」
「じゃあ俺もそれがいいなぁ」
唯一秋生まれのユッケも続いてそう言うとミヤは少し顔をしかめた。
「・・・なんか俺が普段オマエらの頼みまったくきいてないみたいじゃないか?」
「いやいや、そんなことないよ。でもなかなかこう《なんでもきいてくれる》って機会はないからねぇ」
にやにやするユッケの頭をミヤがペットボトルで殴った、地味に痛かったらしくそのまま撃沈。
「ねぇねぇ、ミヤ君、ミヤ君の言うところの《エロ方面禁止》にはユッケが言った《猫語で喋って》とかは入らないんだよねぇ」
真顔で聞いてくる逹瑯にミヤは首を傾げる。
「別に猫語はエロでもなんでもないだろうが」
「じゃあさぁ、例えば語尾に《にゃん》をつけて喋ってとか、一日巫女コスプレとかYシャツ一枚で手料理とかは入らないのね?言ったらきいてくれるんだね?」
ざっと腰をずらしてミヤは逹瑯から離れた。
「何言ってんだ!?」
「それも禁止?」
「・・・いや、男に二言はないからやってやるけどよ、オマエは俺にそんなこと要求して楽しいのか?」
Mカッコイイ男、リーダー、ミヤ。
「楽しくねぇよ、むしろダメージだよ、ギガデイン並だよ。でもまぁ・・・肉を切らせて骨を断つ!みたいな?ミヤ君が受けるダメージの方がでかいからね」
「俺がオマエに何をした!?」
「いや普段つもりつもった名前のつけられない感情の発散です」
怨みでもストレスでもなく別段ネガティヴなものでもないなにものかが溜まっているらしい。それがなんなのか日本語で該当する言葉がない。
「たつぅ・・・それさぁ、肉を切らせて骨を断ってるけど、切った肉から臓物はみ出てる感じだよ?」
殴られたダメージから浮上してきたユッケが呆れたように逹瑯を見る。
「あ?なんでだよ?」
「いや、その要求を呑むミヤ君は男前だけどさぁ、それを要求するたつぅははたから見たらただの変態だもん」
逹瑯は不意をつかれた顔でユッケを見て叫んだ。
「しまったぁぁぁぁぁぁ!!俺の完璧な策にそんな落とし穴があったとは!!確かにそれじゃ俺が変態だ!!」
変態というか外道だ。
「いや、たつぅの策が成功したことなんてほとんどないでしょうが・・・」
「む〜!まぁいいや、まともなの考えとく、誕生日までに」
机につっぷす逹瑯に「そうしてくれ」とミヤは苦笑いを浮かべた時、今までずっとうんうん唸っていたサトチが声を上げた。無駄にデカイ声を。
「ぐっちゃ!!!」
「うお、びっくりした。なんだヤス、決まったのか?」
「俺、神様になりてぇ!神様になって世界を平和にする!!」
一同、しばしぽかんとした顔でサトチを見る、しばらくしてミヤが笑い出し、肩を震わせながら言った。
「いや、まて、ヤス、言ってることは立派だけど・・・それを叶えられる俺は何者なんだよ?」
「え!?うお!?あれれ!?」
混乱した様子のサトチを見て、ユッケと逹瑯も笑い出した。
誕生日ラッシュの夏はまだ始まったばかりだ。

−考えているうちに《ミヤ君がきいてくれる願い》の《ミヤ君が》の部分が抜け落ちてしまったサトチさん。

ちなみにサトチの誕生日は8月12日、Jと一緒、バカの当たり日な・・・(殴打)


その55「アメオトコその2」

今日も曇りか。とケンは空を見上げた、梅雨だからしかたないとは思うがやっぱり晴れているほうが嬉しい。
都内某所、繁華街に近く、待ち合わせに使われることが多い場所でケンはポケットに手を突っ込んで空を見上げていた。
オフだったので何気なくイノランに電話をしてみたら「俺も夜まで空いてるから久々に遊ぼうよ」と言われて出てきたのだ。
待ち合わせ時刻を10分ほど過ぎた頃、空を覆う黒雲はその暗さを増し、とうとう雨が降り出した。手近で雨を防げる場所に身体を滑り込ませ、イノランを待つ。
「たまには時間通りに来いよなぁ・・・」
周りには同じように雨から避難してきた人が数人集まっていた。
通りのほうを見ているとビニール傘をさして歩いてくるイノランの姿を見つけた、体型に関しては平均値の域を出ないくせにやたらと目立つのが不思議だ。
「イノラ・・・」と呼びかけてケンは口を閉じる、外では大声で「イノラン」って呼ぶなと注意されていたのを思いだしたからだ。
イノランは既にケンの姿を見つけていたらしく、迷わずこちらに歩いてきて、庇の下に入ると傘をとじ、ケンを見上げて「よう」と一言。
「ひさしぶりだね」
「そうかな、そうかもね」
「・・・あ」
雨が止んでいた、イノランが庇にはいった途端、雨が止んだ。
「イノランさん、迷わず成仏して下さい」
「面白い言葉知ってるねぇ、ケンは。しかたないよ俺は龍神の息子だから」
「冗談で言ってるんだろうけどイノランが言うと冗談に聞こえない・・・」
サングラスの奥の目を細めてイノランが笑う。
「どうせまた雨に降られるから、そこのコンビニでケンのぶんの傘買って行こうか」
「イノランの傘に入れてよ」
「こんなデカイ犬と相合い傘するのはイヤ」
軽く舌を出して言うイノランにケンは肩を竦めた。
「じゃあ行こうか」とイノランが傘をひらいて外に出た瞬間、大粒の雨が降り出した。
「・・・迷わず成仏してくださいっ!」
「そういえばケン、この前タクヤ君から聞いたんだけど、俺みたいなタイプはツンデレじゃなくて黒デレって言うらしいよ」
「は?」
脈絡のないことを言われて首を傾げるケンにイノランは声を上げて笑う。
「だからケンはそこのコンビニまで雨に打たれながらダッシュしてね、俺は先にコンビニ行ってるから」
軽い足取りで走っていくイノランの背中を見ながら「まったく意味分からないんですけど!?」とケンは心の中で叫んだ。

−黒デレ→グーグルさんに聞いてください。

「迷わず成仏してください」は『○物のお医○さん』ネタなんですが、ケンが言うのはやっぱ無理があったか・・・


その56「僕だけを贔屓して下さいパート2!」

都内某所某駅前のタクシー乗り場近くにガラが立っていた。待ち人いまだ来ず。30分ほど前に『すまん、仕事が長引いた。あと道混んでる、もうしばらくかかる』と電報みたいなメールが来た。待っているのは言うまでもなくガラが尊敬してやまない先輩、京だ。
「あっれぇ、ガラじゃね?どこの不審者かと思ったべ」
後ろからいきなり暴言を吐いてくる友人に心当たりがあるというのが妙に悲しいなと思いながらガラはふり返った。逹瑯が楽しそうな笑みを浮かべながら立っている。
「何をやってるんだこんなところで。というか一日に二回も職質受けたヤツに不審者呼ばわりされる筋合いはないんだが」
「いたら悪いのか?その顔でV6名乗ったヤツに職質の件について言われたくないね」
そんな応酬をしながら逹瑯はガラの隣まで来てニヤっと笑った。
「で、何やってんの?」
「・・・京さんと待ち合わせ、でも遅れるってさ」
「じゃあその辺の店にでも入って待ってりゃいいのに」
「来た時に待ち合わせ場所にいなかったら失礼だろうが」
「忠犬ハチ公ですか?」
小馬鹿にしたように言う逹瑯の横っ腹にガラは軽くパンチを入れた。運動神経ではガラが勝っているのでその一撃で逹瑯はめげたらしい。
「悪かったって!ごめん、ごめん」
「・・・心がこもってないぞ」
「こめる気がそもそもないからね〜」
もう一撃ぐらい殴ってやろうかと思ったが腕力で解決するのはよくない、なんだかんだ言って仲の良い友達なのだ。
「で、オマエはなにをやってたんだよ?」
「ん〜一人で遊んでたけど退屈になってきたから誰か呼び出そうかなと思ってたとこ、久しぶりに明希で遊びたいな〜」
「・・・明希《と》だろ?」
「いや、明希《で》なの。いぢめると楽しいからね〜可愛いしさぁ・・・あのミヤ君ですら明希相手だとサドになるからね、もうこねくりまわしたいよ」
「オマエな、今すごい変態くさい発言してるという自覚はあるのか?」
「ん〜?この《後輩萌え》が分からないかねぇ、癒しだよ、癒し。まぁオマエは《先輩萌え》だから分からんねぇか」
「俺は別に京さんに萌えてるわけじゃない!」
「違うの?」
「当たり前だ、萌えではない、萌えでは!」
からかわれていることは分かっているはずのに京が絡むとつい本気になってしまうガラが面白いのか、逹瑯はけらけらと笑う。
「ったく・・・あ、メールだ」
ポケットの携帯電話が振動しているのに気づいてガラは慌てて取り出してメールボックスを見る。京からだ。
『今すぐそばにいるんだけど、おまえらどっからどう見ても危ない人っぽくて近寄りたくない・・・まこの変態』
「・・・逹瑯」
「どうしたの?」
明らかにトーンの変わったガラの声に逹瑯は少しびびりながらそう返す。
「てめぇのせいで・・・」
「もしもし、ガラさん!?目が据わってますけど、怖いよ!?」
「ゆるさん!」
そのまま派手なじゃれ合いに発展した二人の様子を少し離れたところで見ながら京はため息をついた。逹瑯とガラは周囲の人間が避けて通っているのも気づかずに馬鹿なやりとりを続けている。
「あ〜あ、阿呆かあいつら・・・」

−10分後に和解して、15分後に京さんと合流できましたが、めちゃくちゃ怒られました。

逹瑯さん、職質を受け「サラリーマン」だと答えてあやしまれる。
ガラさん、撮影中(?)に通りすがりの人に「俳優さんか?」と聞かれて「V6です」と答える・・・一人足りません。


その57「仕返しには倍返し!」

イベント内容ではなく打ち上げの、主に《余興》のことを思いだすとこめかみが痛くなる、そんなまだ余韻が消えていない頃のこと。
シド、現在ツアー中、本日のメニューを終えて打ち上げ会場。
「ツンデレは理解できたんやけど、ヤンデレってどぎゃん感じなの?」
突然隣の席に身体を滑り込ませてそう聞いてくるマオを明希は不思議そうに見る。
「ツンデレは理解できたんだ・・・」
「ん、つまり俺みたいなののことやろ?」
「・・・いや、マオ君はどっちかつーとオラニャンじゃないかなぁ」
「オラニャン?なんだそれ。まあそれはいいや、今知りたいのはヤンデレ」
元々上がり気味の口角をぐっと上げてのぞき込んで来るのは《拒否権使用不可》のしるしだ。
対する明希は天然100%のアヒル口。
しばし表情のみによる無言の攻防が続いた。
「・・・ヤンデレっていうのは、愛情がいきすぎて精神が病んじゃったキャラを指す言葉だよ」
「へぇ、そう説明されるとツンデレより分かりやすいかも・・・じゃあさ、なんかヤンデレな台詞言ってよ」
「なんで?」と苦笑する明希にたたみかけるように「言って!」と要求するマオ。
眉をよせてしばらく考えてから明希は言った。
「・・・中に誰もいませんよ」
「え?今のがヤンデレ台詞なの!?」
「それはもう、究極の。後で検索してみてよ」
「ふぅん・・・覚えてたらね」
何故かつまらなそうな顔をして席を立つマオを明希は首を傾げて見送った。

「あ、もしもし逹瑯さん?」
打ち上げ会場の店のエントランスでマオは携帯電話片手に話していた。
『どうだった?良いの録音できた?』
電話の相手はつい先日《ドS同盟》を組んだ相手、逹瑯だ。
「ダメだった。意味の分からない台詞言われましたよ。一応録音したけど、別に恥ずかしい台詞じゃなかったし、明希も恥ずかしがってなかったから、失敗ですね」
『ストレートにツンデレ台詞言って!のほうがよかったかもな、ちなみに明希はなんて言ったんだ?』
「《中に誰もいませんよ》とかなんとか」
『・・・・・・』
「逹瑯さん、知ってるんですか?検索してみて〜とか言われたんですけど」
『うん、してみたらおもしろいと思うよ』
「そうなんですか、では、またなにか計画できたら・・・」
『おう、じゃあな〜』
「はい、おやすみなさい」
電話を切ってマオはふっと一息つく。
「さて、次はどんな罠を張ろうかなぁ・・・・・・《中に誰もいませんよ》ね、後で調べてみよ・・・」

−検索しちゃダメだ、検索しちゃダメだ、検索しちゃダメだ、検索しちゃダメだ、検索しちゃダメだ!!



その58「但しイケメンに限る」

「方向としては間違ってなかったんだと思うんだよ、《ヤンデレ台詞》言ってっていうやつ、でもまぁ俺が言う側だったら恥ずかしいのは回避するけどさ、そのあたりもっと押せ押せどんどんでいけば言いそうじゃねぇ?」
後輩連中と盛り上がっていたところを逹瑯に指先でちょいちょいっと呼ばれ、来てみたらそれかい、とマオは苦笑いを浮かべた。
「確かにしつこく押せば言うかもしれないですね、でもどうも俺がそれを要求すると不自然さが・・・録音してるってバレたら終わりなわけですしね」
「明希はいいよ、多少しつこくしたって、ミヤの場合こっちが《嫌がらせでやってる》ってバレたら朝日を拝めないかもしれないんだよ?まあ朝日なんてほとんど見ないけどさ、この生活じゃあ」
「そうですね、朝日新聞は読みますけどね・・・」
マオの冗談を逹瑯は「つまらん」と言って流した。
「ミヤの天然ぷりもかなりのものだけど、明希ってナチュラルに発言ヤバイよな、萌えとか普通に使うもんな」
「それはアレでしょう、オタクな男子も可愛いよ☆《但しイケメンに限る》ってやつでしょう」
その言葉を聞いた逹瑯は急に半眼になって壁にもたれたままずり下がって、床に座り込んだ。
「あ〜、そうですよね、俺がゲーマーアピールすると《遊んでばっか〜》とか言われるけど、明希がゲーマーアピールしても《可愛い!》って反応ってことでしょ!?」
「いやいや、明希も言われてますって。たまにそれでぶーたれてますから・・・って何かあったんですか」
長い髪をぐしゃぐしゃにしながら逹瑯はグラスの酒(カシスオレンジ)を一気にあおる。
「ひっでぇんだよ!?《ミヤさんと身体だけ取り替えたら外見的にパーフェクトな人が一人できますよね》ってファンメが来たの!俺の利点は身体だけかよ、デレスケにしどんか!?」
語尾が思いっきり訛った逹瑯にマオもつられる。ちなみに逹瑯は茨城弁でマオは福岡弁であるためお互い本気で訛ったら通じなくなるかもしれない。
「それはひどいやね・・・つまりミヤさんの顔で逹瑯さんの身体で、中身はどっちやろか?」
「ミヤってこと」
「いや、でもそれ全体のバランス悪くなりますよ?見た目的に」
逹瑯は勢いよく立ち上がってマオの肩を掴んだ。
「あっれぇ?大事なところが否定されてないんですけど!?」
「逹瑯さんはかっこよかとよ!」
「あ〜!男に言われても嬉しくねぇ・・・まぁいいやこんなん、今に始まったことじゃねぇし。それより今は明希にどうやって公開羞恥プレイを・・・」
「そん言い方やめてくれんねっ!?」
マオの額に青筋が浮かんでいるのを見て、逹瑯は軽く咳払いしてから言い直す。
「どうやってこの前の《余興》に対する仕返しをするか、だけどあえて正攻法、ストレートに行こう、今度は俺も行くべ」
明希の姿を探すと隅のほうの席で水と酒を交互にあおっていた。チェイサーの意味あるんですか?ってぐらいのハイペースだが見た目から酔いは感じられない。
ぶっちぶっちと卓上花をむしってはいたが、そのぐらい可愛いものだ。
その明希に近寄っていく人物がいる、ミヤだ。ミヤは明希に何か囁いてすぐ離れて行った。
「じゃあ行くか!」
「らじゃー!出動!」

「ねーねー明希様!」
渋谷のナンパ師ノリで寄ってくる逹瑯にも明希は特に警戒した様子も不審そうな様子もなく笑顔で「なんですかぁ?」と見上げてきた。
「明希さぁ、この前聞いたじゃん、《ヤンデレな台詞》」
「あ、マオ君も一緒だったの?ん〜〜〜〜、そうだね、そんな話したね」
「あれなんだけどさ、もうちょい分かりやすいの言ってくれない?」
「ん〜?なんで?」
「なんででもいいから言えよ」
逹瑯、それは「押し」じゃなくて「強制」だ。
明希は酔っているらしいとろんとした目で二人を見上げて言った。
「×××××××××××××××××××××」
「「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」」
絶叫に近い謝罪をして逃げていく《ドS同盟》の背中を見送りながら明希はけらけらと笑った。
「さっすがミヤ先輩、大正解」

−直前で二人の悪巧みに気づいたミヤが明希に指示をだしてましたのですよ。



その59「その愛、手渡しでお願いします!」

所用があって連絡した先輩との電話のシメで「そーいやオマエ、絶好調だって?やぐぴーが自慢してたぞ、ま、頑張れ」と言われたことが最初の「あれっ?」だった。
続いては懇意にしてもらってるライターさんから「絶好調なのすごく分かるよ、ミヤもご機嫌だったしね。3分の2ぐらい逹瑯の話で終わったよ」で「あれあれ?」と来た。
絶好調なのは事実だけれど、どうしてこうも迂回して入ってくるのだ?
スタジオの廊下でとてててっと明希が寄ってきた、愛すべき猫系後輩。ミヤも猫系といえば猫系だけれど、あれは山猫、いやホワイトタイガーレベルだから愛でる対象ではない、その点明希は多少凶暴だけどにゃんこだ。
「逹瑯先輩、この前ミヤ先輩がウチに遊びに来たんですけどね、で、今日気づいたんですけど、壁にこんなメモが貼ってあったんですよぉ」
と見せられたメモは明らかにミヤの字で、逹瑯は目を丸くした。
『ばかあき。おれたちいまぜっこうちょう、とくにたつろーがさいこう』
散々人のこと「小学生か!?」って言いながらアナタもやってること小学生じゃん!?というか一文字ぐらい漢字使えよ、せめて俺の名前ぐらい、なんてことがぐるぐる頭を回った。
「ミヤ先輩ってかわいいですよねぇ」なんて童顔女顔の明希にふにゃふにゃした顔で言われてちょっとこめかみが痛くなったりした。
次は現在、絶賛ツアー中の親友にして悪友のガラと久しぶりに電話で話した時に言われた。
『なんかオマエ調子いいつーか最高なんだって?』
「はぁ?なんだよ藪から棒に」
《藪から棒》という単語がツボに入ったのか電話の向こうでガラが笑い転げた、ツアー中の精神状態の狂いっぷりは逹瑯も身に染みて分かっているのでいつものように悪態をつかずガラが笑い終わるのを待った。
『いや、ちょっと用事あってミヤ君と連絡取ったんだけど、その時にそっちの調子どう?って聞いたら《逹瑯が最高だ》ってさ〜。面白いからカウントしてたら15分間に27回言ってた』
その後、散々ガラにからかわれたので「明日のライヴの一番シリアスなシーンで歌詞が飛びますように!」と呪ったら本気で怒られたので謝った。

久しぶりにメンバー揃ってのスタジオ入り、ソファーに身を預けてギターの感触を確認しているミヤの前に逹瑯は立った、意図的に作れる中で一番の真顔で。
「ミヤ君さぁ、なんか俺に言うことない?」
「ん?」とミヤは顔を上げてしばらく考えてから「あ、一昨日渡した歌詞?」と言った。
「それじゃなくて」
「ん〜〜、なんかアレンジしたので気に食わなかったのがあるか?」
「ないよ」
「あ、朝見せて貰った歌詞ならあとで会議・・・」
「それでもない」
仕事関係は出尽くした、といったところか、ミヤはギターを置いて改めて逹瑯を見た。
「なにか約束忘れてるとか、借りた物返してないとか?」
「ん、そっか、いや、ないならいいんだよ」
「はぁ?なんだよそれ」
「いいの、ホント、たいしたことじゃないから気にしないで」
怪訝そうな顔をするミヤに背を向けて逹瑯は少し離れた椅子に腰かけて、ダレた。
思いの外、緊張してしまった。
「たつぅさぁ・・・」
「うお!?」
いきなり後ろから声を掛けられて逹瑯は飛び上がる。
「ミヤ君はねぇ、素っていうか天然でやってるんだから、言ってほしいならたつぅからもっと明確に誘導しないとダメだと思うよ?」
「・・・・・・分かってるし」
「ま、でもそんな必要もないってことも分かってるよね、言ってくれたらそりゃあ嬉しいだろうけどさ、つーか迂回してでもそこまで褒めちぎられてるんだから素直に喜べばいいんだよ」
ユッケがこういうところをちゃんと見ていて、たぶんメンバーの中で誰よりも冷静に状況を分かっていることは知っているから逹瑯もいつもの馬鹿ノリを封印して、肩を竦めるにとどめた。
「・・・嬉しくないわけないべ」

−直接言ってよ!とは言えなかった逹瑯さん。


その60「おめでとうの代わりに」

「あ、薫君」
背を向けていた心夜に声をかけられて薫は少し驚いた。
「なんで俺やって分かったん?こっち見たっけ?」
心夜は顔だけでふり返って言う。
「いや、音で分かるんや、音で」
「音って、そんな音立ててたっけ?」
「アクセの音。それぞれ違うから聞けば分かるんや」
「・・・・・・・すごっ!?マジで!?」
薫が感心していると扉が開いて京が入ってきた。
「京様ふっか〜〜〜〜〜〜っつ!!!」
「おお、京君、喉全快おめでとう!」
「ありがと〜薫君!ところでジャンプ系の漫画って一回戦ったらその後は仲間ってパターン多いよな!?」
デレ大放出&ハイテンションな京に薫も嬉しそうな顔をする。
「そやな、DBとかジョジョとかな!」
「薫君・・・たぶん今の台詞突っ込むとこやから・・・なんで入ってくるなりその話って」
そう呟く心夜も嬉しそうだったなんだかんだ言って京とは一番付き合いが長い。
「あ、そうや京君、心夜がすごいスタンド能力持ってるんやで!」
「え!?心夜ってスタンド使いやったん!?」
この二人はいざとなれば会話なしでも心が通じ合うのに、何故ただの日常会話だとどんどんずれていくのだろうなと思いながら、心夜は面白いのでそのままにしておいた。
「うん、めっちゃすごい能力」
「あれ?ってゆーかスタンドって実在するんや・・・」
するわけねぇだろ。堕威君、今この場に至急ツッコミ役が必要や、早く来い!と思いながらも心夜は面白いので黙っていた。
「京君、俺スタンドの話なんかしてへんで?」
「え〜!?最初にスタンドって言ったん薫君やん」
「だからガソリンスタンドの話がな・・・」
「心夜がガソリンスタンドでどうしたんや?」
既に会話ですらねぇ!つーかどこまで天然でやってるのお二人さん!と思いながらも心夜は面白いので以下略
「京君、スタンドの話は一回忘れて・・・」
「俺、ハンドやっけ?あれ使いたいなぁ」
「ええ?京君はエコーやない、それも初代の」
京君がエコー使えたらもはや進化しなくても最強なんじゃないか、いや、あんたらなんの話がしたいんだよ!思いながらも心夜は以下略
「ん〜じゃあ薫君は・・・なにがええかな?」
「いや、京君、俺は別にスタンドの話がしたいわけとちゃうねん」
「え?じゃ、なんの話?」
「心夜がな・・・」
ようやく話が本筋に戻った。薫の説明を聞いた京が心夜の顔をのぞき込みながら言う。
「ええ!?オマエほんまにそんなことできるん!?」
「・・・まぁ一応」
「ん、ほな実験な!」
「・・・・え?」

というわけで残りのメンバーも集合(偶々みんなヒマだった)

椅子に腰かけて背を向けた状態の心夜の後ろで、楽しげに固まっている他4名。
「じゃあやもちゃん、これから一人後ろを歩くから誰か当ててな!」
何故か仕切っている堕威の声を聞きながら心夜は「なんでこんなことになったんだ」と思いつつ頷いた。
トップバッターは敏弥、ゆっくりと心夜の後ろを歩くと即座に言われた。
「敏弥。一番分かりやすい」
「なんで!?」
理由は教えてくれない心夜にちょっと拗ねたような顔をしながら敏弥は元の位置に戻った。
続いて堕威、薫、京の順に後ろを歩いてみたが全問正解。
顔を見合わせて感嘆のため息をつく弦楽器隊の服の裾を纏めて掴んで京が険しい顔で何かを囁く。
内容は聞こえてこないがろくでもないことを考えているんだろうなぁと心夜は方を落とした。
「やもちゃん!最終問題や、今から行くのは誰か当てて!」
「はいはい」
こうなったら全部当ててやろうと耳を澄ます。足音とアクセサリーの鳴る音。
「・・・京君やろ」
「え!?なんで分かったん!?」
ふり返るとやはり後ろにいたのは京だった、本気で驚いた顔をしている。
「アクセサリー、全部敏弥と交換したのに!」
「・・・京君と敏弥じゃ歩幅が違いすぎるやん」
「・・・・・・・・・あ!」
ってゆーか京君に関しては歩幅で分かるってことは言わないでおいてあげようかな、でも言ったら爽快な気分になるだろうなぁと思いながら・・・面白いので言ってみた。
「べ、別にショックやないもん!」

−また京君と言い合いができて嬉しかった心夜君。


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