「え、え、えぇっ!?」
朝から元気な工くんの困惑する声が聞こえてきた。かと思えばふぅ、と安心したように息を吐く音が聞こえてきたので、私は踏み込む足に力を入れた。
「え、え、えぇっ!?」
再び、驚く工くん。私は吹き出すのを堪えながら、足から力を抜けば、また、胸を撫で下ろす工くん。楽しい。
もう一回、工くんの後ろから、工くんが乗る体組成計を踏み込んでやった。
「ナマエさんっ! 俺が体組成計乗ってる時に、遊ぶのやめてください!」
振り返って困った顔をしながら怒る工くんに思わずお腹を抱えて大笑いしてしまった。
「だって工くん面白いんだもーん」
パックの邪魔をし終えた工くんにいつも言われる言葉を返すと、面白くないですっ、と言って渋い顔をする工くんが今日も朝から可愛くて仕方がないです。
そんな私。この後、工くんに続いて体組成計に乗れば、表示させれた数字に驚愕し、後ろを振り返ることとなる。
「邪魔しないで! あと数字見ないで!」
「ナマエさん可愛いです」
「抱きつかないで! ちゃんと測れないから!」
朝食で食べる目玉焼きをフライパンで焼いていると、壁と向かい合った工くんが手に持ったバレー雑誌を頭の上に乗せていた。工くんの頭の上に乗ったバレー雑誌は垂直にピタリと壁にくっついており、その壁には首の長いキリンの絵が描かれた細長い紙が貼ってある。工くんの頭の上まで伸びるその紙は本屋で買ってきた子ども雑誌の付録で、紙に描かれたキリンの長すぎる首部分にはメジャーのメモリ線がついている。本屋を歩いていた時に、子ども雑誌の前で急に立ち止まってしまった工くんに、欲しいの? と聞いてあげればキラキラに輝かせた瞳を向けられたので、この雑誌、小三って書いてあるのになぁ、と思いながらも買ってあげたのだ。
工くんは手に持っていたバレー雑誌を壁に固定したままそろりと雑誌の下から出て、キリンの紙にいつかマジックで引いた線と同じところに雑誌が置かれていることを確認した。
『同じであるかを確認しているんじゃありません! 大きくなったかを確認しているんです!』
そう言えばそんなこと、昔言ってたっけ? と思いながらグラスに牛乳を注ぐ。私が飲むものではない。工くん用だ。
工くんは子どもの頃から牛乳を毎朝飲んでいるらしい。
「流石にもう身長は伸びないでしょ」
肩を落としている工くんに笑いながら言うと、そんなことまだ分かりませんよ、と拗ねたように言うのかと思えば自信満々な様子で腰に手を当てて言ってきた。
この可愛い生物はなんなのだろうか、と思いながら牛乳を入れたグラスをリビングテーブルに運んだついでに、工くんが手にしていたバレー雑誌を受け取り、工くんがしていたように壁と向き合って、頭の上に雑誌を置く。手で支えた雑誌が壁から離れないように気をつけながら雑誌の下から抜け出し、キリンの紙を覗いた。
「ナマエさんだって大きくなったかを見てるじゃないですか」
「私は変わってないかを見ただけなの!」
まるで、またそんなことを言って、とでも言うように、私に可愛い、と言って抱きついてきた工くん。いつだって可愛いのはあなたです。