プロンプトくんとキャンプ〜テント編〜
「あ〜お腹いっぱい!」
「オレは倍食べた気分だよ…」
標での夕食を終え、各々思い思いに口を開きながらお腹をさする。
「プロンプトくんだって同じ量なのに」
「…なまえさん、怒られたいの?」
「ごめーーん」
くすくす笑いながら同じ大きさのお皿を見比べるなまえさんをじとりと睨みながら「分かってるくせに」と言えば、反省した様子のないゆるーい返事が返ってくる。
そう、量は一緒だけど、オレはまんまと騙されて一口ずつなまえさんに食べさせてあげたのだ。それから自分の分を食べたんだから気分はお腹いっぱいだった。
当の本人はすっっごい満足そうだけど。
「イグニス、片付け手伝うよ!」
「あぁ、助かる」
なんだか振り回されて疲れちゃったから、みんなの食器を集めてイグニスと一緒に片付けを始める。きっと今イグニスの所になまえさんは来ないと思うから…また野菜の事で小言言われそうだしね。
ちらりと視線を向ければ、ノクトの釣り道具やグラディオのキャンプ道具を見せてもらって楽しそうななまえさんがいた。良かった、今はこっちに来なさそう。
「……はぁ」
「なまえのわがままに付き合ってくれてありがとう」
「もしかしてイグニスも食べれるって気付いてたとか…」
ため息を零せば苦笑いが聞こえて隣のイグニスを見る。
まさか共犯?!と疑心暗鬼になって疑うように目を細めるとイグニスはおかしそうに小さく笑った。
「いや…そこまではオレも知らなかったさ。見事にやられたな」
「ホントだよ…オレで遊んでるよね、完全に」
まぁやっぱりイグニスも知らなかったみたいだった。
弄ばれていると思うとまたため息が出てしまいながら、イグニスが洗った食器をオレが拭いて、重ねていく音が静かに響く。
「よし、終わったー!…て、何?どしたのイグニス」
「…プロンプトは、なまえが嫌いなのか?」
タオルを畳んでテーブルに置き、ぐっと両腕を上へ伸ばしていればイグニスから視線を感じて、そんな事を聞かれた。
「え?!…嫌い、ではないけど」
「オレは色恋沙汰には詳しくないが…なまえのあの態度は、プロンプトをからかっているだけのようには思えない」
もちろん嫌いだなんて思ったことはないし、出会い方が特殊だったとはいえ、今では頼りにもなる大切な仲間だ。だからこそ、なまえさんのオレに対しての気持ちを雑に扱ったりバカにしたりなんてしてるつもりはない。
からかってるだけだったら、あんなにスキンシップしないだろうし…
きっと、本当にオレのことを好きでいてくれてるんだろうなって、思いたいけどさ…その…なんていうか…
「……」
「顔が赤いぞ、プロンプト」
「だ、だってさぁ…」
「要は照れていただけか」
「っもおお!イグニスまでオレをいじめないでよ!」
クックッと楽しそうに笑うイグニスの肩にパンチを一発お見舞いした。さっきまでオレの味方ぽかったじゃん…
「…いつまで笑ってんのぉ」
「悪い悪い……まぁ、でもだ」
「ん?」
珍しく笑いが止まらないイグニスをじとーっと睨み付けると、謝りながらコホンと咳払いを一つして、まるでスイッチが入ったようにいつも通り冷静なイグニスに戻った。
「もしなまえの気持ちが本物なら…あれだけアピールするのにも、結構照れていたりして…な」
ーーーーーーーーーー
「ほんとにわたしが入っても平気?狭くない?」
「へーきへーき。何ならでけぇグラディオが外出ればいーし」
「なんだってノクトォ?」
夜も更けてきて、みんなが寝る為にテントへ集まる。
もちろんなまえさんも一緒に。男四人に女一人…普通ならありえないけど、そこはお互いに信じ合ってるから、誰も何も言わないんだと思う。
ノクトとグラディオがやいやい言いながらも、全員がテントに入ってからグラディオが入り口を閉めた。
「よーし寝るかぁ」
「なまえはプロンプトの隣だろ」
「ノクト〜!またそういう事言う!」
「もっちろん〜わたし達セットだもん」
「なまえさんも!」
ノクトの悪ノリに怒っていれば当然と言うようになまえさんが大きく頷いてオレの腕に抱きついてくる。
周りのみんなは決まり決まりと言いたげにいつもの並びで横になり始めるから、もう拒否権はないみたいですね!わかってたよ!
端から、グラディオ、イグニス、ノクト、オレ、なまえさん。
まぁ…なまえさんを男で挟むのもどうかと思うし、何よりオレがなまえさんと壁に挟まれたら何されるか分かんないし?!
「明かりを消すぞ」
「おやすみみんな〜」
イグニスが枕元のランタンを消すとテントの中は外からうっすら標の光が入ってくるだけで、ほぼ真っ暗になった。
すぐにグラディオはいびきをかき始めて、ノクトは釣りしてる夢でも見てるのか寝言を言ってる。イグニスはきっといつも通り静かに寝てる、と思う。
…こんな状況で寝られるわけないじゃん。
なまえさんも静かだから、たぶん寝たんだと思う。
かなり近い距離で寝顔があるはずなんだけど、暗闇ではちっとも見えなくて逆に良かった。
「ねぇ、まだ起きてる?」
「へっ…?」
不意に声をかけられて変な声が出てしまった。
ずっと起きてたのか、眠ったけど起きたのか、どっちかは分からないけど、なまえさんは目が覚めているようだった。
「オレ?」
「うん、プロンプトくん」
「まだ眠くないから起きてたよ」
「そっか」
まぁこの状況だし、オレに話しかけてるんだろうけど一応確認。やっぱりオレだったみたいで、起きてた事を伝えるともぞもぞと動く音がして、「あのね」となまえさんが言った。
その声は、寝ているみんなを気遣って小さいものだけど、さっきよりも聞きやすくて、なまえさんが今まで背を向けていたけどオレの方へ向いたんだと分かった。
「ご飯のこと、まだ怒ってる?」
何を言うかと思えば、さっきの夕食の事を気にしていたみたいで。
なまえさんの声色は、いつもノクト達と悪ノリする時と違って落ち着いた、女性らしくて柔らかい、初めて聞くものだった。
「あー…怒ってないよ。ただ、食べれるんじゃん!ってビックリはしたけど」
「…うん、今日のはたまたま食べれる材料だったの。騙したみたいでごめんね」
「いいよ。食べれるもので良かったじゃん」
「ほんと。食べなかったらまたイグニスに何て言われるか…」
最後にため息をつくなまえさんに思わず小さく笑うと、つられるようになまえさんも小さく笑う。
…あ。ぼんやりだけど、顔見えるかも…
暗闇に目が慣れてきたのか、こちらを向いているなまえさんの顔がぼんやりと映る。目は伏せがちに、表情を緩めて笑っていた。
そんな顔するんだ、なんて思いながら思わず見つめてしまっていて、バチッと目が合って慌てて逸らす。
心臓が少しだけうるさくなった。
それにしても、なんで今更こんなことを聞いてきたんだろう。オレがずっと怒ってると思ってたのかな。
「ねぇなまえさん…オレが怒ってたら、いやなの?」
自分でも分かってる、何て変な質問するんだ。
いやだから気になって聞いてきたんだろうなって分かってるのに、ずるい質問だった。
なまえさんを見ると、不思議そうな顔をして目をパチパチと瞬かせている。
「ご、ごめん変な事聞いて」
「いやっていうかね…嫌われたのかなって、すごく不安になる」
「不安…?」
「さっきも、ご飯の後から避けられてるような気がして、どうしようって思ってた」
ゆっくりと話すなまえさんの口調は穏やかなものだった。じっと見ていると目が合って、暗闇でも分かる切なげな瞳の色に目を逸らせない。
泣いてはいない、声も震えてはいない。だけど今にも泣き出しそうな表情だった。
「わたしね、プロンプトくんに嫌われる事が何より怖いのかもしれない」
「なまえさん…」
「…ねぇ、嫌だったら断っていいから、お願い聞いてくれる?」
「うん、何?」
「手、繋いで寝てもいい…?」
そんな泣きそうな顔で、切なげな声色で聞かれたら、放っておけないじゃん。やっぱりなまえさんはずるいよ。
「…いいよ。…これでいい?」
かけていた毛布から片手を出したら近くになまえさんの手があって、きゅっと優しく包み込むように握ってあげる。
初めて触るなまえさんの手は、武器を握るから所々にタコがあるけどとても小さくて柔らかい、暖かい手だった。
「ん…こっちのがいい」
「っ!!もぉぉ…!」
オレとしては勇気…ってほどでもないけど、そんな感じのを奮い立たせて手を握ったっていうのに、なまえさんはにへっと笑って、あっさり指と指を絡めいわゆる恋人つなぎにしてしまうから、またオレの心臓はうるさくなる。
ずるくて、オレより一枚も二枚も上手で、可愛いヒト。
振り回されるのも、悪くない…かな。
to be continued...