プロンプトくんとはじめての海

でっかい岩ばかりに囲まれた道を抜けると、目の前にキラキラと太陽を反射させる海の青色が広がる。



「うっわー!!すごいキレイ!てか広!すご!!」

「なまえさん落ちるってば!」



まだ着いていないのに、坂を下るレガリアから身を乗り出して負けないくらいキラキラした瞳で海を眺めるなまえさんが、レガリアから落っこちてしまいそうで腕を掴んでる…けど、オレが掴んでないとマジで落ちそうなんですけど!



「もう着くからそう暴れるな」

「はぁーい!」



イグニスのお叱りを受けて、子どものように片手をあげ元気よく返事をしたなまえさんが、元通りぽすんとオレの隣に腰を下ろして、それはそれは嬉しそうに笑顔を向けてくる。



「海、楽しみだね!」

「そーだねっ」



そう、オレ達は今日、海目的でガーディナを目指していた。
モンスター討伐も落ち着いてきて「貯まったお金で少しだけ贅沢をしてもいい」とイグニスが一言こぼしたのがキッカケ。
キャンプ用品、お酒、釣具、武器、カメラ用品、調理器具、食材、肉…みんなが好き好きに言って決まらない中で、「海、行ってみたいなぁ」と呟いたなまえさんの意見に即決したのだった。ずっと砂と岩だらけの街で暮らしてきたから、海を見たことがないんだって。
なんだかんだ、なまえさんってみんなに愛されてるよなぁ…



「着いたー!行こうプロンプトくん!」

「わあっ、ちょ、引っ張らないでも行くってば!」



レガリアが駐車場に停まると誰よりも早く飛び降りたなまえさんに手を引かれ、まだ車から降りてもいないオレは足がもつれそうになりながらもはしゃぐ背中を追いかけた。

強く握られた手に、数日前の夜を思い出す。
朝まで恋人繋ぎで寝ちゃって、珍しく…というか運悪く 早起きしたノクトに写真撮られたなぁ。
あの夜以来、あんなしおらしい姿は見なくなって普段通りのなまえさんに戻っていた。オレはというと…意識してなかったって言ったら嘘になるけど、今までよりも確実に意識するようになっちゃって…正直、手繋いでる今でもドキドキが止まらない。なまえさんに伝わらなきゃいいけど。



「あ、ねぇショップで水着も売ってるよ。泳ぐ?」

「みっみずぎ…!」



ビーチ近くまで来た所で、なまえさんが指差す先に視線を向ければいつもアイテムを買うショップに、水着が数着陳列してあった。
なまえさんはかっこいい柄とか似合うんじゃないかな…迷彩とかいいかも。あ、でも案外白黒の水玉模様とかチェック柄にフリフリがついてるやつとかも可愛いかも、なんて…結構おっぱい大きいし…



「ねぇってば!」

「!!…な、なに?」

「話聞いてなかったのー?水着、結構高いからイグニスに怒られちゃうから無理だねって」

「あ、そーなんだ〜今回はおあずけだねぇ」



少し強めな口調に引き戻されて慌ててなまえさんを見ればムスッとしていて、オレが上の空だったことにご立腹のようだった。
いつも通り返事をしたつもりだったけど、めっちゃ睨まれてる…かと思えば、急にニヤニヤしだして。



「…わかった、わたしの水着姿を想像してたんでしょー」

「え?!し、してないっ!」

「はいはい、プロンプトくんは嘘が下手だねぇ」

「ほんとだってば!」

「また今度着てあげるからね」

「話きーてないしぃ!」



あぁもう、すぐそうやって見抜くから困る…オレそんなに嘘下手じゃないと思うんだけどなぁ。
…でも、今度って言葉に期待しちゃってるオレ。ああ〜オレってほんとに単純っていうかちょろいっていうか…もっとシャキッとしろ、オレ!って意気込んだ時、すれ違ったお客さんが持っているドリンクに目が留まる。
ガーディナ名物、甘じょっぱいシーソルトシェイクだ。前にみんなで来た時初めて飲んで、すごい美味しかったやつ。なまえさんこういうの好きかな…



「ねぇなまえさん、おいしいシェイクがあるんだけど飲…「あれっ?なまえちゃん?」…へ?」



海の上に浮かぶように建つ建物に向かおうとなまえさんの手を引きかけた時、聞き覚えのある声が遮った。この声は…



「ディーノ!久しぶりー!」

「やっぱりそうだ!後ろ姿見てもしかしてと思ったんだけど…変わってないねぇ。…あれっ、キミは王子ご一行の金髪くんじゃん」



そうだ、新聞記者のディーノ。このチャラチャラした男は忘れもしない。最近は原石取ってきてって依頼もなくて会うこともなかったけど、今ここで会うなんて…しかもなまえさんと知り合いっぽいし。



「なまえさん、ディーノと知り合い?」

「うん、昔地元で取材受けたことあって」

「もう1年は前だよな〜超久しぶり!」



ふぅん、オレがディーノに会うよりもなまえさんに会うよりもずっと前に2人は出会ってたんだ…ふーん?
なーんか懐かしそうに話しちゃってさぁ、オレのことなんて空気みたいに見えてないっぽいし。…おもしろくない。



「そうそう、あれからちょっとした有名ハンターになっちゃってさー……あっ」

「オレ、ノクト達んとこに行ってるからゆっくり話してなよ。久しぶりの再会楽しんで!」



静かに繋いでいた手を離して、精一杯の笑顔を貼り付けて、そこから走り去る。呼び止めるなまえさんの声やディーノの申し訳なさそうにしている言葉が聞こえてきたけど、今すぐ2人から離れたかった。


ーーーーーーーーーー


ノクト達は釣り場近くのビーチにいた。ノクトは黙々と釣りをしていて、イグニスは釣具屋のおじさんと話しながら何かメモしてる…レシピでも聞いてるのかも。グラディオは砂浜に座っていた。



「いーのかぁ?彼女とられちまったままで」

「かっ彼女じゃないし!」

「へいへい」



なんでオレがこっちに来たのか、見ていたみたいで。いつもの茶化しを否定しつつ、隣にどかっと腰を下ろす。



「オレと会うよりもっと昔から知り合いなんだって、ディーノと」

「へぇ」

「すっごい楽しそうに昔の話してんの。オレが入る隙ないくらい」

「ほぉー」

「せっかく美味しいもの飲みに行こって誘おうと思ってたのにさっ」

「…ははぁん」



不思議とオレの口はペラペラと喋って止まらない。それをグラディオは聞いているのか聞いていないのか微妙な相槌を打ちながらオレを見ていたけど、なぜかその表情は楽しそうで。



「…なんでグラディオそんなにニヤニヤしてんの」

「ん?若えなと思ってよ」

「はあ??」



今の話の流れでどうやって若さを感じたのか、全く意味が分からなくて眉間にぐっとシワが寄る。
そんなオレを見てグラディオは肩を竦めて小さくため息をついてから、オレをチラ見する。なっ、なんだよぉ…



「お前、気付いてねぇようだからこの際教えてやるがな、それ完全な嫉妬だぜ」

「しっ…と、って…はああ?!オレが?!」

「…やっぱ無自覚か」



オレが?!嫉妬?!つまりヤキモチ?!



「ありえな……」



言い切る前にぴた、と言葉が止まる。
“ありえない”なんてどうして思ったのか。
自分のことを好きと言ってくれて、しかもオレも意識しだしてる女の人が、目の前で他の男とそれはそれは仲睦まじくお喋りしているのだ。



「オレ、ヤキモチ妬いてたんだ…」

「オレだったら、あんな男ほっといて女連れ出すけどな」

「グラディオと一緒にしないでよ〜…」

数えきれないほど女の人を抱いてきたグラディオ(イメージ)ならカッコついて良いけどさぁ。まず付き合ってもないんだから…って何でオレがこんなに悩んでんの?!



「まぁ、おまえがまだ微妙な感じだしな…っと、彼女のお出ましだ」

「だから彼女じゃ「プロンプトくん!」…え、あ…なまえさん」



何回つっこませるんだ、とグラディオを見ればその視線はオレよりもっと上を見ていて、つられるようにオレも振り向けばなまえさんが1人で立っていた。
「ノクト手伝ってやるか〜」と立ち上がって海へ向かっていくグラディオに何も言えないままでいると、今度はなまえさんがオレの隣にゆっくりと座った。



「わたしが引っ張ってきたのに、話し込んじゃってごめんね」

「別に気にしてないからいいよ…」



…あーオレ今のすっごい態度悪いかも。空気も悪いし、最悪…こんな風になりたくないのに。すぐごめんって謝ればいいのに、それができないオレはまだまだ子どもってことか…
それから少しの間沈黙が流れて、先に口を開いたのはなまえさんだった。



「ねぇ、先に謝っとく。違ってたらごめん」

「へ…?」



急に謝られて、何を言おうとしてるのとか、いやオレが謝るべきなんだって、声にならないセリフが頭の中でぐるぐるするだけで間抜けな声がこぼれた。



「もしかして、ヤキモチ妬いてくれてる?」

「っ?!ゲホッ!」

「うわっ大丈夫?!」



なまえさんの小さな手が肩に置かれてめっちゃ真剣な顔で見てくるから、何を言われるか身構えてたけど…なにこの人、超恐ろしいんですけど。それともオレがわかりやすすぎるの?
思わずむせちゃってなまえさんが優しく背中をさすってくれてる。めっちゃカッコ悪い、オレ…



「…ちがうし」

「ほーらやっぱり、嘘つくの下手だねぇ。ディーノに ヤキモチ妬いたんでしょ?うふふふ」

「〜ッ、…もぉお何で分っちゃうのなまえさんは!オレちょー恥ずかしいんだからね?!」



さっきの真剣な表情はどこへやら、嬉しそうにニコニコニコニコ笑ってオレを見つめてくるなまえさん。もはやその洞察力コワイくらいだよ…



「ふふ…でも正直に図星って白状しちゃうとこもカワイイ」

「……」



だってバレてるんだから一緒じゃんか!
って悪態をつきたくなるけど、さっきまでの空気感は嘘のように普段と同じ明るいものになっていてなまえさんはすごいなって思ったのも事実。もうオレの腕に抱きついてるし。オレ、耳まで真っ赤だって自分でも分かるよ。



「そっかー、ヤキモチ妬いてくれるくらい、わたしのこと好きになってくれたってことだよねぇ」

「すっすすすす好きとか!!」

「じゃあ嫌い?」

「う…嫌いなわけないじゃん…」

「うふふふ」



だめだ完全になまえさんのペースに飲まれてる…
ここはなんとか脱出しなきゃって思った時、ふと思い出した。



「あのさ!ここのシェイクすっごい美味しいんだ、飲みに行こう」

「うん!」



急に大きい声を出したからびっくりされたかもしれない、それでもなまえさんは嬉しそうに大きく頷いてくれて、2人で砂浜を離れた。


ーーーーーーーーーー


観光客で賑わう建物の中はビーチよりも人が多くて、はぐれないようにしっかりと手を繋いで歩く。
オレはパイン味、なまえさんはベリー味を選んだ。カップを持つ手がひんやりと冷たくて、繋ぐ手は温かい。



「ん〜冷たくておいし〜!塩味もアクセントになってるね」

「でしょ!いろいろ味あるけど、どれも美味しいんだ」



海を眺められるソファに座ってシーソルトシェイクを味わう。この場所は日差しは眩しくてちょっと暑いけど、潮風が心地いい。
そして何よりこのシェイク、やっぱり美味しい!海のあるガーディナでしか飲めないのが残念だけど…



「…プロンプトくんのもちょうだいっ」

「え、あっ!!」



ちょうだい、という言葉と同時になまえさんの手がシェイクを持つオレの手を掴んで引っ張ると、赤い唇がストローをぱくりと咥えてしまう。か、間接キス…



「ん、パインもおいしーね。ベリーも飲む?」



無邪気に笑ってベリー味のシェイクをオレに差し出すなまえさん。分ってるのかそうじゃないのか…



「…イタダキマス」





to be continued...



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