グッバイ・スカート

 頼んで抱いてもらっているのに、自分の体はガチガチに固まって、流石の勝生もふう、とちょっと疲れたようだった。
「ごめん」
「いや、いいよ。◯◯、緊張してる?」
「そうかも」
「休憩しよっか」
 自分の上からどいた勝生は、肩も腹もしっかり筋肉が付いていて、やっぱり男だなぁと思う。脱がされた自分を見ると、ぎゅっとスポーツブラで押さえつけられた胸と、鍛えてはいるけれどやっぱり厚みの違う腹。はぁ、とため息が漏れた。
「怖いんなら辞めていいよ」
「怖いっていうか……うーん」
 勝生はちょっとイライラして、制服のポケットから出したタバコに火をつけた。おい、お前、タバコ吸うの?
「なんでやろうって言ったの。したくないならいいよ」
「怒んなよ。ほら、自分男っぽいじゃん。男と……したら、何か変わるかなって」
「は?」
「だからさ、その……」
「あー……そゆこと」
「勝生だったら、エッチ上手いって評判だし、嫌な思いした人いないって評判だし」
「ちょっと待って僕そんな風に言われてるの?」
「誰でも知ってる」
「まじか〜」
 しまった、という風に頭をかく仕草とか、こういうのに女子は多分ころっといくんだろうな。女子。ボクはスカートの下に体育のジャージを履いて、セーラーの上にパーカーを羽織り、「かっこいい」の形容詞が堪らなく嬉しい。可愛い女の子が好きで、かっこいい男は、好きというか、憧れで。
「やったら、何か変わるかなって」
「女になれる、的な?」
「うん、まぁそんな感じかな」
「そっかー」
 タバコをぐりぐりとアスファルトに押し付け、勝生はそれから暫く黙った。
「どうする? そういうことだったらやめとこうか。男は趣味じゃないでしょ」
「うーん。それもそれでもったいない気もする」
「泣かれるの嫌だよ」
「まだ、自分でもよくわかってないっていうか。自分が、どっちなのか」
「◯◯オナニーはするの?」
「するけど」
「どこで?」
「……外で」
「イく?」
「それはよくわかんない」
「中に指挿れるのは?」
「なんかそれが、微妙なんだよね。自分はそこに入れて気持ちいいって感じるのが正解なのか、人に挿れたいのか」
「で、やってみようかと」
「そういうわけです」
「やっぱ変わってんね」
「そうだよな〜」
 寝転ぶとぼろっちぃ倉庫の屋根が見えた。さっきまでは緊張していたからわからなかったけれど、あ、あそこにツバメの巣がある。
「勝生はしたい? どう?」
「まぁ、嫌ではないけど。したくない人に無理強いすることはないから、そっちに合わせるよ」
「みんな、勝生は上手いって言うんだよね」
「ちょ」
 自分にはない、柔らかくなっているそこを触る。どんな風に触ったら気持ちがいいか、本当はよく知りたい。でも、自分じゃ一生わからない。それが、悔しくて悲しくて、どうしたらいいかわからなくて、こんな変な手段に出てしまった。それでも、いまはこれが精一杯だ。
「やっぱやろ。やってみて、よかったらちょっと嬉しいし、ダメだったらもう諦める」
「諦めるって、何を」
「女の子になるのを諦める」
「「なる」って言ってる時点で、男子じゃん」
「男は無理?」
「ううん、いけるよ」
 学ラン姿の勝生が上に覆いかぶさる。
「お前、バイなの?」
「考えたことない。セックス、大好きだから」
「わ、最低だな」
「そうかもね」
 ニコッと笑った勝生とキスした。キスの仕方は変わらず優しいけど、さっきと違って、喉の詰まった感じはしない。
「お願いが、あるんだけど」
「なに? ゴムならつけるよ」
「そうじゃなくて……やってる時、かわいいって、言わないで」
「……おっけ」
 勝生の手がするするとスカートの中へ伸びてきた。スカート。それを認識するだけで嫌だ。
「待って」
「まだなんかある?」
「違う、全部脱ぐ」
「待ってよ、見つかったらヤバイ」
「じゃあ、セーラーとスカートだけ脱ぐ」
「いいよ」
 パーカーとジャージのズボンというなんとも色っぽさのかけらもない服装になった。結局すぐにジャージは脱がされて、ローションのついたコンドームを着けたちんこが触れる。
「慣らすとかないの」
「触ってほしい? ひと思いにこっちの方がいいかなって」
「何それ」
「どうする?」
「……いいよ、挿れろよ」
「潔いね、◯◯、かっこいい」
「っぁ……」
「ふ、あんま、なんも挿れたことないっ?」
「当たり前、じゃんっ、っう」
「痛い?」
「いた、いけど、大丈夫」
「力抜いて」
「無理っ」
「しょうがないな、ほら、息吐いて……」
「ふ、は、ぁ」
「そうそう」
「……ふ」
「あ、入った」
「は、ぁ、全部……?」
「全部入ったよ……どう?」
「どうって……ちんこが入ってる」
「ふふ」
「いいから、早く動けよ……。誰か来たらまずいんだろ」
「ん……分かった。痛かったら、言って」
「優しくしなくていいから」
「僕はセックスの相手には優しいって評判なんだ。男女問わずね」
「……」
「楽しもう。一緒に」


「で、どうだった」
「うーん、やっぱり、諦める」
「そっかー、自信あったんだけどなぁ」
「どんだけやってんだよ……いや、気持ちいいのは気持ちよかったけど。どっちかっていうと、お前になりたかった」
「そう」
「だって、気持ち良さそうだし、楽しそうだったから」
「楽しくなかった?」
 スカートの下にズボンを履きながら考える。
「楽しくない、わけじゃない」
「セーフ」
 勝生は胸をなでおろす。そんなに心配してたの?
「たださ、人を気持ちよくするって、いいなぁって思って」
「僕も気持ちよかったよ」
「勝生が?」
「気持ちよくしてもらった。てか、セックスってそうでしょ。両方気持ちよくなきゃダメでしょ」
 キョトンとした表情をみて、あ、こいつ、案外童顔だな、と思う。怒られてばっかりの金髪もピアスも、ひょっとしてカモフラージュなのかな。
「いいこと言うじゃん」
「伊達にセックスしてないから」
「やっぱり却下。ムカつく」
「なんでだよ」
 背中をはたいて立ち上がった勝生は、少し背が高い。やっぱりそれが悔しいけれど、最初の、腫物を扱うような触れ方じゃないのは嬉しかった。
「じゃあ、僕は最初で最後の男、ってことかな」
「そうかもね」
「トラウマにならなきゃいいけど」
「大丈夫でしょ、勝生、上手だと思う。わかんないけど」
「お世辞」
「違うよ、本気だって。ボクも、次セックスするときは相手に優しくしてやろうって思ったよ。勝生がしてくれたみたいに」
「そう、よかった」
 また、眉毛を下げてニコッと笑って、勝生はボクの背中をポン、と叩いた。正確に言うと、頭を撫でようとして、その行き場のなくなった手を背中に持ってきただけだけど。帰りに肉まんを奢ってもらい、ボクはそれを食べながら、明日からもうこのスカートはしまっておこう、と心に決めた。
 ボクの「女の子」との、気持ちのいい別れだった。


END