8−5
思っていた通りだった。
土方さんなら私のいない時にまず皆を納得させる。
突然話しても、私はきっと喚いて何も聞かなくなる。
そこに多分一緒に平助や総司も入るから余計だ。
なら、味方が全くいない状況で話してしまえばいい。
…本当に陰険で性格悪い。
でも今回ばかりはそんなこと言えた立場じゃないので、口が裂けても言えない。
私の顔を見た土方さんは一瞬吃驚したように目を見開き、すぐにいつものように皺を刻む。
近藤さんも驚いた顔をしているが、安心したように笑ってくれている。
私はゆっくりと近藤さんと土方さんに歩み寄る。
途中左之さんと目が合った。
大丈夫か?と目で聞かれた私は、返事の代わりに少し微笑んだ。
「何を待ってほしいんだ」
「話は聞こえました。でも、俺の話も聞いて下さい」
「…今更何言っても変わらねぇぞ」
「それでも。聞いて欲しいんです」
お願いします、私はそう言って頭を下げる。
沈黙が落ちた部屋は、ただ風の吹く音だけが聞こえた。
「分かった!聞こうじゃないか!」
その空気を壊すかのような近藤さんの言葉に、思わず顔を上げてしまう。
「ありがとうございますっ!!」
「奥でいいかな?皆は飯を続けてくれ」
そう言って部屋を出ようとする近藤さんに私は続く。
後ろで「いいか、お前ら!絶対ついてくんなよ!!」と舌打ち混じりの土方さんの声がした。
……うん。
その点には感謝しようと思う。
〜・〜・〜
「で。そんなに改まってする話とは何だい?」
奥の和室で、私は並んで座る近藤さんと土方さんの前で、背筋を伸ばし正座している。
「俺がここに来たのは十一のとき…もう九年前になります」
近藤さんと出会い、土方さんに背負われ、たどり着いた試衛館。
多少のいざこざはあったものの、今では隣にいるのが当たり前になった総司に出逢い。
そして徐々に賑やかになっていく道場には、いつも気の置けない仲間達がいて。
「本当に俺にとって大切な場所になりました。ここは――失ったもの以上のものがある」
「失ったもの?」
「…近藤さんたちには詳しく話していませんでした。俺の過去を」
幼少の頃の記憶は無いこと。
両親は死んだこと。
そんな最低限の事しか話せなかった幼き日の自分。
そんな自分を気遣ってくれてたのだろう、近藤さんも土方さんも、自分から私に両親の事を聞いたりはしなかった。
「まぁ…総司は知ってるんですけどね」
そう笑いながら、私は話し出す。
以前、総司にした時と同じように。
勿論、性別の事は隠して、だが。
あの時は話している間に、涙が込み上げてきて、泣きながら話した。
しかし、今はどうだろう。
さらさらと、一つの思い出のように話せる。
それが何を意味するかは分からないけれど、過去を受け入れ今を生きていることを実感できるようだと、前向きに考える。
……さすがに、両親の最期を口にしたときはチクリと胸を刺されたような痛みがあったが。
私が話している間、近藤さんも土方さんも、何も言わなかった。
「――そうした時に出会ったのが近藤さんです。俺が今こうして笑っていられるのは……近藤さん、あなたのおかげなんです!!」
私は拳を握りしめ言う。
本当に、心からの言葉だったから。
「いつも何か恩返しができたら、と思っていました。……だから、浪士組の話を聞いたときは本当に嬉しかったんです」
ここで何か役に立てれば!
深く意味を考えずそう意気込んでいた自分。
「でもそれだけじゃ駄目だった。土方さん…あなたの言う通り、俺は人を斬る覚悟なんて全く考えていなかった」
斬るのも斬られるのも怖い。
見て、聞いて、肌で感じて。
殺し合い、それがどれだけ恐ろしいものか私は知っている。
故に私はずっと悩んでいた。
……左之さんと話すまで。
「人を斬る――殺すことはその人だけじゃなくて、その家族、友人…数えきれない人達を悲しみにつき落とします。どれだけ恨まれ蔑まれ、狙われるか分からない。それでも……覚悟は出来ています」
私はそこで言葉を切る。
少し深呼吸をしてから、真っ直ぐ、二人を見た。
「他人の、命を奪ってでも!…譲れないものがあるんです」
それは昨日左之さんと話しながら、思い出した父の言葉。
改めて誓った――幼き日の約束。
守りたいものを、守るために。
掴んだものを、失わないために。
強くなる―――…。
「俺には、守りたいものがあります。そのためなら……人斬りでも何でも――鬼にでもなる」
だから、俺もつれていって下さい。
私は畳に額を擦り付けるように頭を下げた。
落ちる沈黙。
ただ自分の呼吸と鼓動の音だけが聞こえた。
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