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道場裏にいたのは近藤さんと――涙を流す沖田くんだった。

思わず目を疑ってしまう。
普段の彼からして、どうして泣き顔を想像できようか。
私はしばらくその場に立ち尽くした。
近藤さんが何を言っているかはよく分からない。
沖田くんを撫でるその顔は少し申し訳なさそうに見えた。
きっと近藤さんは、沖田くんが泣いている理由を知っているのだろう。

でも。
今は沖田くんから目が離せなかった。

涙で濡れるその顔は――ただ。
ただ、悔しい、と。
本当にそれだけが伝わってくる。

きっとあの門人たち……兄弟子にあたるあの人たちは、沖田くんへの嫉妬心からあんなことをしているのだと思う。
剣の腕前は勿論のこと、近藤さんに可愛がられていることも、彼らには面白くないだろう。

「でもだからって…」

剣術じゃ勝てないからって丸腰の子供相手に、よってたかって暴力はないだろう。
私は言い様のない怒りに震える。

沖田くんも木刀なり竹刀なりを持っていたら。
あんな人たちに負けるはずないのに。

私は拳を握り締める。
何故自分がこんなに悔しいのか、怒りが込み上げてくるか分からない。
もう一度彼の顔を見れば、心が痛くなった。

私はそのまま踵を返した。


〜・〜・〜


その日の夕餉の沖田くんは、右頬に綿布、手足には包帯という姿だった。
誰もそのことには触れない。
この場にいる全員が沖田くんの怪我の原因を知っているのだろうか。

ちらりと沖田くんを見れば、いつも通り笑いながら源さんや近藤さんと喋っている。

強い人だな。

私は心からそう思った。
今日のことがなければ気付かなかっただろう事実。
あれ程の悔しさを隠し、何事も無かったように振る舞う彼。
朝のことからを考えて、もう何度も経験したことなのだろう。
しかし、それに耐え、毎日あの人たちと顔を合わせ、あまつさえ内弟子として世話までする。

自分には耐える自信が無い。

今日のことを見ただけでも、あの人たちに会ったら思わず喧嘩を仕掛けてしまいそうだ。

「冷たい人だと思ってたけど…」

私は呟いた。
彼は私が思っていた人物とは全然違うのかもしれない。
あの冷たさには何か理由があるのかもしれない。

私の中の沖田惣次郎が変わり始めた瞬間だった。

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