生生世世




布団に入ったのは何時頃だったか。浴室からバスローブ姿で出てきた建人さんは、ただの色気の塊だった。これ以上彼を見てはいけない。見たらきっと釘付けになってしまう…!

「おや、先に寝ていても良かったのですが。」
「…あ、はは…、流石に失礼かなと思いまして…。」

布団の上で思わず正座をしてしまう。建人さんは備え付けの冷蔵庫にサービスで入っていたミネラルウォーターを取り出した。

「…2本あります、飲みますか?」
「え!あ、はい…では。」

ボトルを受け取ると、建人さんは持っていた方を一気に半分程飲み干した。ゴクゴクと喉が鳴って、上下する喉仏。あ、ヤバイ、これエロい…!見たらまずいやつだ…!

「…何か。」
「…え?」
「そのように熱い視線を送られると、私も期待してしまいます。」
「ええ!?あ、いや、これはその違くて…、」
「冗談です。」
「あ、はいすみませんでした。」

動揺した私はミネラルウォーターを三口ほど飲んだ。味がしない…!あ、水だから当たり前か…。

「お好きなタイミングで寝ていただいて結構です。」
「あ、はい…じゃあ…、おやすみなさい。」

シャワーの際に歯磨きも済ませている。あとはもう寝るだけ。…寝るだけなんだけど…。

「…眠れない…。」
「では何か眠れる音楽でも。」
「え、あ、大丈夫です…。…あの、聞いてもいいですか…?」
「…答えられる質問なら、お答えします。」
「…建人さんって何者ですか…?霊媒師的なやつですか?あの五条さんって人もなんか包帯で怪しいし…。」
「彼は霊媒師ではなく、呪術師です。」
「じゅじゅ…なんですか?」
「呪術師。まあ、やってることは霊媒師と似ています。悪いものを祓う仕事です。…私はもう辞めました。」
「え、なんで辞めちゃったんですか?」

体を少し起こし枕に両肘をついて、首だけを彼に向ける。一人用のソファーに優雅に足を組む建人さん。…絵になる…。

「逃げたんです。」
「…何から?」
「呪術師という縛りから。」
「…?」
「これ以上この話はしたくありません。」
「あ、ごめんなさい。」
「いえ、答えられる質問は答えました。」
「…建人さんって…、」

真面目ですね、そう言いかけた時私の体が突然重たくなった。締め付けながら押し潰されているような感覚に、息が詰まる。建人さんが目を見開いて私を見ている。御守りはさっきテーブルの上に…。視線をテーブルに向けると、建人さんが悟ったらしい。御守りを私に握らせた。少しだけ体が楽になって、漸く息を吸えるようになった。

「ありがと、ございます…。」
「いえ…。それより…例の神主さんが亡くなったことで、お守りの効力が弱まっています。次にまた発作が起きた場合、効き目はあまり望めないでしょう。」
「…建人さんには、今のが見えてるんですか?」
「…ええ。大きな黒蛇が、あなたの体を締め付けていました。普段発作が起きるときに規則性はありますか。」
「…わかりません。連日だったり、何日かおきにあったり、時間帯もバラバラです…。」
「一日に二度起きることは?」
「…なかったと思います。」
「…そうですか、では、起きるとすれば、明日でしょう。」
「分かるんですか?」
「橘の家系を捨てるのですから。」

そう言って建人さんはまたソファーに座り直した。



 


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