好い酔い




仕事が終わると、私はすぐにスマホを確認した。建人さんからの連絡はまだ来ていなかった。先輩と一緒に更衣室で着替えて、化粧を直す。鏡に映った自分をしっかりと見つめて、変なところがないか確認すると、ロッカーを閉めた。先輩と別れて、更衣室で連絡を待つ。…残業かな…?十五分ほど待った所でスマホが震えた。建人さんからのメッセージだ!

『終わりました。』
『建人さん、お疲れ様です!更衣室を出て、ロビーに向かいます。』

既読がついて、変な顔のキャラクターがりょうかーい、と言っているスタンプが送られてきた。ギャップで心臓が暴れている。どこで買ったのこんなスタンプ!と思いながら、私はウインクする猫のスタンプを送った。

「建人さん!」
「お待たせしました。行きましょう。」
「はい!」

会社を出る。建人さんが手を出したので、首を傾げた。繋いでいいのかな?そういうことだよね?

「お手を。」
「…はい。」

ついついにやけながら、私も手を重ねて指を絡めた。私の歩幅に合わせて歩いてくれる建人さんがとても愛しい。先日のイタリアンのお店に着くと、前回食事に手も付けずに帰った私達に嫌な顔一つせず、迎えてくれた。

「先日は急用ができてしまい、手も付けれず申し訳ありません。今日は前回の分も含めて食事を楽しませてもらいます。」
「いえいえ、お気になさらないでください。お連れ様がしっかりと召し上がってくださいました。」
「建人さんの予想通り、五条さんが食べてた…。」
「では先日の支払いは。」
「そちらも、お連れ様が。お連れ様から、お客様方がご結婚されたとお聞きしましたので、今回は勝手ながらサービスをさせて頂きたいと思っております。」

お店側の神対応に感激して私が目を輝かせていると、店長さんがニッコリと笑った。

「ではお席へご案内致します。どうぞこちらへ。」

私達は先日と同じ席に案内された。今日はコース料理ではなく、お互いの好みを知るためにも二人でメニューを見て決めた。やはりイタリアンと言えばピザ、パスタ、プロシュット!とメニューを見ながらワクワク。注文を終えるとすぐにワインが運ばれてきて、二人で乾杯した。建人さんはグルメらしく、色々なお店で食事をすることが好きらしい。今度はお勧めの韓国料理屋さんに連れて行ってくれるそうだ。料理が運ばれてくると、他愛ない話をしながら舌鼓を打った。私はつい調子に乗りすぎて、普段あまり飲まないワインをグイグイと飲み進めて、気が付くと…。

「…小春、歩けますか。」
「…う、はい…。」

足が覚束ない。視界がぐるぐると回るようだ。頭もちょっと痛いし、建人さんの顔がぼやけて見える。私はよーく目を凝らそうとして、建人さんの顔を覗き込む。

「…なんれ、そんらに建人さんは…、んー…、」
「私がなんです。ほら、タクシーが来ましたよ。住所は言えますか。」
「…あーええとねー、■■駅まれ!」
「…とりあえずそこまでお願いします。」
「はい。」

タクシーに乗って最寄り駅まで行くと、建人さんは道を覚えていたのか運転手に私の家の近くまでを案内してくれた。

「ここで結構です。おいくらですか。」
「2100円です。」
「ではこれで。」
「あー、ついたー!」
「降りますよ。どうも。」
「ありがとうございました。」

タクシーを降りて、エントランスに入る。特にオートロックなんてないから、すぐにエレベータに乗ってボタンを押した。その間も建人さんが私の体を支えてくれる。逞しい…。思わず彼のネクタイを引っ張ってキスをすると、口の中にアルコールの香りが広がった。

「ふふ、建人さん愛してうーへへ。」
「分かりましたから落ち着いてください。着きました。部屋は何号室ですか。」
「あそこー。ねー、泊まっていくのー?それとも帰っちゃうのー?」
「それは小春次第です。」

私の鞄を漁って鍵を開けてくれた建人さん。玄関で靴を脱ぎ捨てると、私は床に座って彼を見上げた。

「…もっと一緒にいたい。」
「…では泊まります。コンビニで下着などを買ってきますから、あなたは化粧を落として。すぐに戻ります。」
「ほんと?」
「ええ。明日は高専に行くので、仕事も休みました。」
「じゃあ、待ってます!」

建人さんが部屋を出て行った。私は嬉しくなってその場に寝転がった。

「やったー!」



 


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