窓から空を見上げる君の為に




「で、新婚生活どうなのー?」

小春が出勤した後、彼女の部屋でシャワーを浴びて高専に向かう支度をした。借りたバスタオルからは彼女と同じ柔軟剤の香り。小春の顔を思い出して頬が緩む。小春に貰った合鍵を手に、忘れ物がないか確認して部屋を出た。高専には最寄り駅まで電車で向かい、あとはタクシーで向かう。四年振りの道程を懐かしく思いながらタクシーを降りると、その門を潜った。潜った先には五条さんが立っていた。何時頃に着くなど連絡もしていないのにここにいるということは、きっと任務はサボって私を待っていたのだろう。

「来て早々その質問ですか。」
「えー、だって気になるでしょ。」
「気になるも何も、普通です。」
「普通ってどんなん?僕結婚してないからわかんなーい。」
「…先日はありがとうございました。あなたに頼んで正解でした。」

改まって感謝の言葉を伝えると、五条さんはフッと笑ってどういたしまして、と言った。彼に続いて夜蛾学長の元へ挨拶へ向かうべく足を進める。

「で、結婚式はいつ挙げんの?」
「まだ未定です。まずは彼女のご両親に正式な挨拶を。私の両親にもまだ結婚の話はしていません。式はそれからです。」
「ふーん。やっぱり指輪は給料三か月分買う感じ?」
「彼女が望むものを買います。」
「遠慮して安いの選びそうだけどね、小春さん。」
「その時はその時で。元々安物を置いている店に連れて行く気はありませんから。」
「ヒュー!七海おっとこまえ〜!」
「いえ、当然の事です。」
「で、あれから小春さんは大丈夫そう?」
「ええ、元気です。あの呪詛師はどうなりましたか。」
「ああ、アイツは死刑。結構裏でヤバい事やってたみたいでさー。調べてみたら出るわ出るわ、悪行の数々。」
「やはりそうでしたか。」
「それと、■■神社の宮司の件も認めたよ。呪詛師のオッサンが言うには、早いとこ小春さんを殺して、あの呪いを終わらせたかったみたいだね。その為に邪魔だった宮司を殺したんだと。宮司の方もかなり歳いってたから、対抗する力も衰えてたんでしょ。」
「…そうですか。」
「で、ぶっちゃけどうなの?」
「なにがです。」
「結婚して、小春さんと一緒に幸せになりたいとかないわけ?呪術師やってたらいつ死ぬか分かんないじゃん。」
「…その事についてはもう話し合いました。私の選択は間違ってないと言われました。」
「…いいじゃん。」
「ええ、私には勿体ない程に。」

暫く歩いて漸く学長室に着いた。ノックをすればすぐに返事が聞こえ、失礼します、と言って中に入る。学長室には相変わらず夜蛾学長のお手製の呪骸が並んでいる。

「お久し振りです。」
「久し振りだな、七海。悟から色々と聞いた。まずは結婚おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「…それで、本題だ。何故ここに戻って来た。」
「…呪術師はクソです。そして、労働もまたクソ。同じクソならより適性があるものを、それだけです。」
「…嫁さん残して死ぬことになってもか。」
「人を救うことに生き甲斐を感じる、そう彼女に話しました。彼女は私の選択は間違ってないと。…私は何があっても必ず帰ると、彼女と約束しました。彼女を残して簡単に死ぬ気はありません。」
「そうか…。良い嫁さんを持ったな。大事にしろよ。」
「言われるまでもありません。充分大事にしています。」
「フッ。…良いだろう、合格だ。七海、嫁さんの事泣かせるなよ。」
「彼女を泣かせるときは嬉し泣きでと決めています。心配には及びません。」
「言うようになったな。悟、七海を頼んだぞ。」
「はいはいっと。行くよ、七海。」
「失礼します。」
「ああそれと、」
「…何か。」
「おかえり、七海。」
「…ええ。ただいま。」

五条さんの後を歩きながらふと、在学時代を思い出す。…灰原、私は戻って来た…。あの日、救えなかった君の分まで、人を救うために。だからどうか、私の事を見守っていてくれ。



 


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