その身に巣食うモノ




また、いつもの発作だと思った。何かに締め付けられたような感覚に、息が苦しくて身体が思う様に動かない。最近は発作が出る頻度が増えた気がする。

「大丈夫ですか?」

朦朧とする意識の中、聞こえた声。声の主にその存在を伝えようと、必死に声を絞り出す。息をしようとすると、体中の骨がギシギシと軋むのを感じた。苦しい、助けて、誰か…!

「…と、に…、」
「どうしましたか?」
「…ぽ、け…と…に…、」
「…ポケット?…失礼、触ります。……成程、…これですか。」

発作が出る度に握り締めている御守り。声の主は私の手に御守りを握らせた。今まで息も出来ないほど苦しかった身体が、少しずつ楽になっていく。…ああ、やっぱり、私の身体は…、

「…呪霊が…、」

身体が楽になって安心したせいか、私の意識はそこで途切れた。




...




次に目を覚まして見えたのは、知らない天井だった。ゆっくりと体を起こして、白いカーテンに囲まれたそこを見渡す。会社の医務室…いや、病院のベッド…?背後に見つけたナースコールからそう悟ると、ナースコールを押してみた。

『どうされました?』
「あ、あの、私、」
『あ、目が覚めたんですね…!よかった、すぐに行きます。』
「あ、はい、」

数分程で、看護師さんとお医者さんが来てくれた。軽い診察を受けた私は、意識もハッキリしているし体にも特に異常はみられないからと、疲労による貧血と診断され直ぐに退院した。会社の方には先輩が対応してくれたらしく、2日程大事を見てお休みになった。…先輩には後日、お礼をしないと…。

「そういえば…あの人誰だったんだろう…。」

退院手続きをしながら、ふと思い出したのは…あの低く落ち着いた声。それに、気になる事を言っていた気がする…。

「…じゅれい…?ってなんだろう。」

病院から帰る途中、初めて見つけた神社に立ち寄ってみた。作法通りに参拝して御籤を引く。…『大凶』が出た。私が今まで引いた御籤に、大凶よりいい物が出たことはない。病気の欄はいつも『悪化する』という内容だし、待ち人も『現れない』だ。他にも仕事は『出世しない』など…悪い結果しか出た事がない。それは恐らくだけれど、私の家系に関係がある。私の家系は、平安時代から続く貴族の家系だったそうだ。貴族といえば、民の年貢で優雅に暮らしているイメージがあるけれど、私の家系も大体そんな感じだったらしい。その上、年貢が収められなければ、その者を無惨にも殺していたそうだ。首を撥ねて晒し首にしたり、生きたまま身体に火をつけたり、飢えた野犬に喰わせたり…本当に、とんでもない事をしていた。そしてそれを娯楽として楽しんでいた、という記録まで残っているらしい。そんな事をしていた人達の家系に、いい事なんてある訳がない。

「…はぁ…。帰ろ。」

私の家系は、呪われている。



 


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