触れあう




翌日、小春の実家で朝食をご馳走になった。昼前には彼女の実家を発ち、次は私の実家へ。小春の祖父母に私の両親に会うことを伝えると、近い内に顔合わせをしたいとの言伝を受けた。助手席に座る小春の顔が緊張で強張るのを横目に見ながら車を走らせる。私の実家に着くと、小春は何度も深呼吸を繰り返していた。その姿を愛らしく思いながら、玄関を開ける。私の両親にも今日訪れることは事前に知らせてあった。出迎えてくれた両親に彼女を紹介すれば、小春は緊張で自分の名前を噛んだ。私の両親は一瞬惚けた顔をしていたが、次第に笑いが込み上げて、その場が笑いに包まれた。当の本人は相当恥ずかしかったのだろう。顔を真っ赤にしながら、一緒に笑っていた。

「小春と先日結婚しました。」
「あら、おめでとう。」
「二人とも幸せにな。」
「…あの…そんなにアッサリでいいんですか…?」
「うちはいつもこうです。」

報告を済ませて共に昼食を食べ、結婚指輪を買う為に実家を後にする。緊張しながらも気の利く彼女を私の両親は気に入ったようだった。銀座に向かい、小春の手を引いて目的の店へ。オーダーメイドのその店は職人が一つずつ丁寧に手掛けた婚約・結婚指輪を製造・販売している。個室に通されると、指のサイズを測り、早速デザインの相談に入った。

「リングのデザインや、石の大きさはどうされますか?」
「…うーん…、建人さんはなにかありますか?私、正直良く分からなくて…。」
「では、彼女の指に相応しいものを。予算は問いません。」
「えっ!」
「お任せくださいっ!燃えてきましたっ!」
「ええっ!?」
「デザインの参考に、お二人のお写真を撮らせて頂いてもよろしいですか?」
「どうぞ。」
「はい、撮りまーす!」
「い、いきなり過ぎてついていけな…ああ!目瞑っちゃった!」

昨日、私の事を置いてけぼりにしたお返しだ。あたふたとする小春を見ながら、再び向けられたカメラに私は笑顔を向けた。

「では、試作品が出来ましたらご連絡差し上げます。ありがとうございました。」

店を出ると、小春が大きく伸びをした。

「てっきり、お店に並んでるものを見に行くのかと思ってました。」
「…先日五条さんに、小春は遠慮して安いものを選びそうだと言われました。ならば遠慮せずに好きに選べるオーダーメイドをと思い。…そもそも、安物を置いている店に行くつもりはありませんでしたし、元より小春が私との結婚に遠慮する事など、私は許しません。分かりましたね、小春。」
「は、はい…。」

目を瞬かせながら私を見ていた小春。私が手を握ると、その表情は一変しすぐに笑顔になる。彼女が私の隣で笑ってくれるなら、金も命も惜しくはない。…いや、違う。命は惜しい。彼女の隣でその笑顔を見続けたい。

「建人さんって、可愛い。」
「……私ではなくあなたが可愛いの間違いでは。」
「ふふ、私にとっては建人さんが可愛いです。」
「…そうですか。」

その後は結婚式場を選ぶカタログを手に入れ、二人で私の部屋に帰った。ソファに座って一息つくと、小春はカタログをパラパラと捲りながら目を輝かせた。

「建人さん、本当に近親者のみでいいんですか?高専の人とか…、」
「皆忙しい人達ばかりです。高専関係者は私と親しい者だけでいいでしょう。」
「…んー、じゃあここで、私の遠慮しない意見を一つ!」
「どうぞ。」
「結婚式の日、この日にしませんか?指輪が完成する時期ですし、皆仕事を忘れて楽しめると思うんです!」

そう言って小春が見せたカタログの一ページに、私は笑みを浮かべた。

「面白そうですね。その日にしましょう。」

小春がカタログのページに付箋を貼ると、私はそのカタログをテーブルに置いた。彼女の手を引き、その身体を腕の中に閉じ込める。

「いつ、私の部屋に引っ越しますか。」
「すぐにでも移りたいんですけど、まだ住み始めたばかりですし…違約金掛かっちゃいますよ?」
「違約金で済むなら結構。望みとしては今月中にでも引っ越しを済ませたい。」
「わ、また急ですね?」
「嫌ですか。」
「いいえ、全く!むしろ楽しみです。建人さんと一緒に居れる時間が増えるんですから!あ、引っ越しが済んだらペアのマグカップとかパジャマとか買いに行きませんか?」
「…やはり、小春は可愛い。」
「…もう、そういうの反則ですよ?」
「反則で結構。元よりあなたに惚れている時点で私の負けですから。」

頬にキスをすればすぐに唇に返ってきた。触れるだけのキスを数回繰り返すと、啄むようにキスをする。何度も口付けを繰り返すと、小春が私の頬に手を添えた。



 


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