知りあう




気付けば時刻は18時を回っていた。今日は建人さんが夕飯を作ってくれるそうで、二人で近所のスーパーに向かった。建人さんが野菜を両手に持って見比べている姿はなんだか様になっていて、私はこっそり写真に収めた。建人さんがカートを押しながら自分で食品を選んでいくので、私は彼の広い背中を眺めながら、微笑ましく後を追った。

「苦手なもの、アレルギーはありますか。」
「いいえ、何でも食べれます!」
「それはよかった。会社は三連休で明日も休みですから、ニンニクを使ってもいいですか。」
「はい!」

会計が終わると二人で袋詰めをする。私も持とうと思ったのに、荷物は全部建人さんが持ってくれた。袖を捲って露になった彼の太い腕が逞しく活躍してくれている。そして浮き出た血管がエロくて素敵。

「ひとつくらい持たせてくださいよー。」
「いえ、袋ではなく私の腕を掴んでおいてください。離れるのが惜しい。」
「ふふ…建人さん、愛してますよ。」
「知っています。ですが私の方があなたを愛していることをお忘れなく。」
「あ、その言い方ズルい!」

そんな会話をしながら彼の部屋に戻った。二人で食材の下処理をしながら、冷蔵庫に仕舞っていく。建人さんは食への拘りが強いみたいで、包丁もたくさん持っていた。私は流石に恐れ多くて使えない。食材を仕舞い終わると彼は早速調理に取り掛かった。私はその姿をこっそり動画に収める。…多分バレてる。

「建人さんの好きな食べ物は何ですか?」
「それを今から作ります。」
「あ、じゃあ当てます!まずは…パン!」
「そうですね。」
「…後は、この材料的にアヒージョ?」
「よく出来ました。今日はそれに加えあと二品作ります。」
「やったー!私、何か手伝えることありますか?」
「…では、私の質問に答えてください。小春の好きな食べ物は何ですか。」

建人さんが手際よく調理しながら私に質問をしていく。私はその質問に答えながら、時には建人さんに聞き返して、お互いの事を知り合った。

「出来ました。」
「わぁ…美味しそう!」
「一緒にワインでも飲みますか。」
「はい!」

テーブルに並んだ料理はとても色鮮やかだった。鯛のカルパッチョ、マッシュルームとブロッコリーとエビのアヒージョ、生ハムサラダ、そしてバゲット。まるでレストランに来たようなお洒落なメニューだ。建人さんと向かい合って座ると、建人さんがワインのコルクを抜いた。ポン、と弾けた音が部屋に響く。ワイングラスに注がれたのは白ワインだ。

「昨日と今日、お疲れさまでした。」
「建人さんも、お疲れさまでした。」

二人で乾杯して白ワインの香りを楽しみながら口に含む。

「あ、飲みやすくておいしい!」
「それはよかった。」

建人さんの手料理との相性もいい白ワイン。この前の反省もあって飲み過ぎないように注意しながら彼の美味しい手料理に舌鼓を打った。食事が済むと二人で一緒に片付けをした。私の部屋のよりも当たり前に広いキッチン。

「建人さん、ごちそうさまでした。とっても美味しかったです!」
「今日は飲み過ぎていないようで安心しました。」
「ふふ、ちゃんと反省しました。」

ソファに座り、彼の肩に凭れる。ああ、幸せ。

「来週にでも顔合わせをしましょう。予定を聞いておいてください。」
「はい。…楽しみですね?」
「ええ。」

それから一週間後。私の祖父母と建人さんのご両親との顔合わせが行われた。どちらも印象は良好だった。食事の前に、建人さんが皆に伝えたいという事で、私達の話をした。建人さんが高専で呪術師をしていたこと、友人の死を切っ掛けに一度辞めてしまった事、そして私と出逢って再び人を救う為に呪術師に戻ったという事、私はそれを肯定している事、必ず帰ると誓った事。建人さんは迷いなくそれをすべて伝えた。私も隣で頷いた。皆は、二人の望むように、と頷いてくれた。その後、解散した私達。建人さんは高専に呼ばれてお仕事に行ってしまった。することもなくなった私は、不動産に行って今借りてる部屋を近い内に出て行く事になった事を伝え、手続きをした。違約金は仕方がない。けど、折角建人さんと想い合う夫婦となれた今、離れている距離と時間はとても惜しい。そこまで多くもない貯金を使って、違約金を支払う決意をした。手続きが終わり、自分の部屋に帰宅する。今月中にこの部屋を出ることが決まったので、時間のある内に荷物をまとめなくては。…と言っても、つい数週間前に引っ越してきたばかりなので、また荷造りをする手間はあるものの、物の数はそれほど多くはない。建人さんからは、好きなタイミングで荷物を持って行ってもいいと言われている。勿論、業者に任せる必要がある物もあるけど、彼の家に泊まる時に使う服や下着、その他の生活用品など、軽い物は自分で持っていける内に移そうと思っていた。と決まれば、まずは彼の家に泊まる時用の寝巻や下着、今の時期に使わない冬服をまとめに取り掛かる。圧縮袋に入るだけの冬服を詰め込み、キャリーケースやボストンバッグに入れて家を出る。全部は入らなかったけど、明日から仕事終わりにコツコツと運べば問題ないだろう。会社とは反対方向へ向かう電車に乗るため、駅へ向かった。重たい荷物を引きながら歩いていると、前から袈裟を着た背の高い男の人が歩いてくるのが見えた。お坊さんだろうか?お坊さんにしてはガタイが良くて、尚且つ坊主頭のイメージとはかけ離れた長髪に見える。お坊さんにもいろいろあるのかな、そう思っていると目が合った。何となく気まずくて会釈をする。お坊さんは小さく笑みを浮かべて会釈を返してくれた。



 


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