天井




目が覚めると、知らない天井が目に入った。ここはどこだろう…。そういえばいつだったか、建人さんに会う夢を見た気がする。ゆっくりと体を起こす。カーテンに囲まれたベッド…病院…?とは少し違う雰囲気の部屋。

「起きた?」
「え、」

突然女の人の声がして、カーテンが開いた。入って来たのは綺麗な女の人。白衣を着てるしお医者さん…?

「あの、ここは…、」
「アンタの旦那の職場だよ。」
「…えっと、」
「高専って言った方がいい?」
「…あ、」
「七海は今、任務の報告で少し外してる。聞きたいことがあるんだけど、いいかな。」
「あ、はい、なんでしょう…。」

ベッドの脇に置いてあった椅子に座った女医さん。私は姿勢を整えて彼女を見た。

「私は家入硝子。高専で校医をしてる。ここは医務室ね。」
「…七海小春です。」
「小春さん、倒れる前に何があったか覚えてる?」

そう言われて思い出す。私は仕事終わりにパンを買って、建人さんの家に向かっていた。その途中で…、

「…お坊さんに会いました…。私に気になるものが見えたって言って、お祓いしましたか、って聞かれました。…それで、どこで、って聞かれたのでうちのお墓のあるお寺ですって。そしたらタイミングがどうのこうのって…。…あと、私の旧姓、橘っていうんですけど、私の名前を知ってて…。また逢いましょうって…。」

そしたら体が急に動かなくなった。建人さんの夢を見て、気付いたらここにいた。家入さんはふむ、と言うと立ち上がった。

「小春さんの話は七海と五条から少し聞いていたんだ。七海が血相変えて心配してたよ。愛されてるな。」
「ぇ…、」
「覚えてない?七海が小春さんをここに連れてきた。」
「建人さんが…?…じゃあ、夢じゃなかったんだ…。」
「夢?」
「あ、えっと…、建人さんが夢に出てきた気がして…。」
「ふぅん…、七海も愛されてるな。」

そう言って、家入さんがカーテンを開けた。そこには初めて見るサングラスをかけた建人さんの姿。

「え、」
「…家入さん、少し二人にしてください。」
「はいはい。ここで盛るなよ。」
「そういう心配はいりません。」

家入さんが部屋から出て行った。建人さんが私の近くに腰を下ろして、スッと伸びてきた手が私の頬を撫でる。

「…目を覚まさなかったらどうしようかと思いました。」
「建人さん…。」
「無事でよかった…。」

そう言って強く引き寄せられて、私の体は彼の腕の中に閉じ込められた。家入さんの言葉を思い出す。血相を変えて私を心配していた、と。

「建人さん…っ、」

彼の背中に手を回して、きつく抱き締めた。ぽろぽろと溢れた涙が彼のシャツを濡らした。

「心配かけて、ごめんなさい…。」
「…小春、」
「建人さん、会いたかった…、」
「…私もです。」

優しくキスをされて、もう一度抱き締められる。

「建人さんが助けてくれたんですか…?」
「…ええ。」
「ふふ、また、助けられました。建人さんは、私のヒーローですね。」
「…いえ、私は…、」
「ありがとう、建人さん。」

そう言うと、私を抱き締める力が強くなった。

「私は、大丈夫です。建人さんが助けてくれたし、家入さんのおかげでもう元気になりましたよ?」
「…はい、」

建人さんの顔を見上げる。サングラスの奥の瞳が揺れてる気がした。彼のサングラスに手を伸ばす。そっと外すと同時に、ポロリと零れた滴が一つ。

「建人さん、私は生きてますよ。…泣かないで、建人さん。」
「…小春。」
「愛してます。」

建人さんの頬に手を添えて、キスをし、

「お疲れサマンサ―!」
「!」
「…五条さん、なぜここに。」
「駄目だよ七海、ここ一応学校なんだから〜。」

五条さんが医務室に入ってきた。建人さんの顔が一気に険しくなる。五条さんがズカズカとベッドに近付いてきて、さっき家入さんが座っていた椅子に座った。私は恥ずかしくなって建人さんから手を離して座り直した。

「聞いたよー、小春さん倒れたんだって?」
「あ、はい…。」
「お坊さんがどうとかって聞いたんだけど、知ってる人?この前の寺にいた?」
「…いえ、初めて見た人だと思います…。背が高くて、髪の毛も長くて結んでました。」
「…名前は?」
「いえ、名乗られてないですし、私も名乗ってないです。」
「…あのお寺さ、呪詛師はあの住職だけだったんだよね。他に該当するような奴はいなかったはずなんだ。」
「目的が分かりません。」
「そ、それなんだよ。橘家の呪いはもう心配する事ないんだ。全部解決したからね。小春さんが呪われることに何かメリットでもあるのかな。」
「…心当たりは全くないです…。」
「だよねぇ。」

五条さんが私をじっと見つめる。…と言っても包帯で隠れていて目は見えない。

「対策、考えないとね。」

五条さんはそう言うと、建人さんを連れて医務室から出て行った。私は建人さんが帰れるまで、医務室で休んで待つことにした。



...



「五条さん。」
「分かってる。…全く、アイツは何考えてんのかね。」



 


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