永遠を願う




無事に呪霊を祓った事を伝えると、女将と亭主は深々と頭を下げた。

「七海様、是非うちに宿泊なさってください。おもてなしさせて頂きます。」
「いえ、今日は急いで帰らなければ。いずれ妻とお邪魔します。」
「まあ、奥様と!でしたら、こちらうちの旅館のパンフレットです。いつでもご連絡ください。」
「ありがとうございます。近々必ず。」
「ありがとうございました。」

受け取ったパンフレットを手に旅館を去ろうとし、振り返る。

「失礼、この辺りに土産屋はありますか。」
「それでしたら、今地図を。」
「奥様にお土産ですか?」
「ええ、まあ。」
「でしたら、うちの座敷童キーホルダーを差し上げますね。」
「食べ物でしたら有名なごま摺り団子の店が、ンマイんですよ!」
「化粧品なんていかがかしら、」
「いや、食べ物のほうが、」
「女性は美容に、」
「…地図を頂けますか。」

旅館の周辺マップを受け取ると今度こそその場を後にした。亭主の言っていたごま摺り団子を買い、ついでに目に留まったご当地サイダーも買って駅に向かう。新幹線に乗る時間を伊地知君に連絡すると、東京駅に着く時間に間に合うように向かうと返事が来た。新幹線の中で貰った旅館のパンフレットを見ながら、小春からの連絡を待った。東京駅に着くと伊地知君の車に乗り込み、報告の為に高専に戻る。時刻は19時を過ぎていた。小春からの連絡は報告が済んだ頃に来た。

『先輩との飲みがなくなりました!帰ります!』
『迎えに行きます。』
『お仕事終わったんですか?夕飯を作って待とうかと思っています。』
『今報告書を提出したので、帰るところです。』
『先に自分の家に寄ってもいいですか?化粧品が無くなったので、買っておいたものを取りたくて!』
『ではそちらに迎えに行きます。くれぐれも気を付けて。』
『はーい、建人さん待ってますね♡』

タクシーに乗り小春の部屋の最寄り駅に向かう。部屋に着くと、小春は本を段ボールに纏めていた。

「あ、建人さんお帰りなさい!」
「ただいま。荷物の整理ですか。」
「はい。今週末には業者さんが来るので、それまでに少しでも纏めないとと思って。」
「…では、今日はこちらに泊まりましょう。荷造りを手伝います。」
「…いいんですか?」
「ええ。二人でやった方が早いでしょう。」

サングラスを外して背広のポケットに入れる。小春がハンガーを持って来たので背広とネクタイを渡した。

「お土産があります。」
「わ、サイダー!こっちはお団子?ありがとうございます!」

サイダーを冷蔵庫に仕舞いに行く後姿を微笑ましく眺めながら、夜蛾学長からもらった呪骸を取り出す。戻って来た小春に渡すと首を傾げていた。

「これは…言わば呪力探知機とでも思ってください。呪力を持ったものが近付くと音で知らせてくれます。私や高専関係者以外の呪力に反応するので、万が一音が鳴れば近付かないように。近ければ近いほど大きい音が鳴ります。」
「わあ、変な顔で可愛いですね!ありがとうございます!」
「月に一度、一緒に高専に行きましょう。これを作った方がメンテナンスをしてくれます。」
「はい!」

小春は呪骸のキーホルダーをスマホカバーに取り付けた。ついでに旅館で貰った座敷童キーホルダーも渡す。

「今日座敷童が出る旅館に行きました。それは旅館の女将から貰った物です。」
「座敷童…!すごい!建人さんは姿を見ましたか?」
「…ええ、実は、座敷童に気になる事を言われました。」
「見たんですね!?」
「ええ、呪霊を祓った後に礼を言いに現れたようです。楽しみにしていてと言われました。」

そう言えば小春が目を瞬かせる。私がそれを聞いた時に思った事を、彼女も思ったのだろう。小春は口元を押さえていた。

「もしかして…?」
「…恐らく…。」
「…ふふ、うふふ、」
「…小春、必ず幸せにします。」
「はい、私も建人さんを幸せにします!」

小春を優しく抱き締める。彼女の細い腕が私の背中に回り、愛おしさが込み上げ顔が綻んだ。

「夕飯は私が。小春は荷造りを続けてください。重たいものは私がやるので声を掛けて。」
「ふふ、まだそうと決まっていないのに建人さんたら。」
「そうであろうとなかろうと、私を頼ってください。」
「充分頼って甘えてるつもりです。」

キスをして、小春の頬を撫でる。照れ笑いをする顔も愛らしく、見ていて飽きない。

「キッチンをお借りします。」
「はい、大した物は入ってないですけど、お買い物行きます?」
「中を見て決めましょう。」

冷蔵庫の中を見て献立を考える。小春は再び荷造りに取り掛かっていた。茄子と挽肉を見つけ、今日は中華にしようと決めると早速調理に取り掛かった。麻婆茄子だ。卵もあるので卵スープも作ろう。腕時計を外してテーブルに置き、袖を捲る。洗米をし炊飯器にセットすると、材料のカットに取り掛かった。 小春が鼻歌を歌っているのを遠目に聴きながら、テンポよく材料をカットし、調味料を混ぜ合わせる。同時にスープの材料も準備して、鍋に水を張った。

「小春、辛いものは。」
「食べれますよー!」
「では、少し辛めにしましょう。」
「やったー!何作るんですか?」
「麻婆茄子を。」
「わあ!中華!楽しみです!」

再び聞こえる鼻歌に笑みが零れる。料理が完成する頃には段ボールが埋まったらしい。ガムテープを貼る音が聞こえた。

「出来ました。」
「あ、丁度箱も埋まったところです!手を洗ってきますね!」

洗面所にスキップで消えた背中。テーブルを拭き上げると料理を運ぶ。レンゲと取り皿も出すと、私も洗面所で手を洗ってうがいもした。小春が渡してくれたタオルを受け取ると、二人でリビングに戻る。

「美味しそう!建人さんって何でもできるんじゃないですか?料理も、家事も、仕事も!」
「人並みに。」
「いいえ、結構こだわりが強そう!建人さんがこだわってること、何でも言ってくださいね?建人さんに合わせるのは苦じゃないし、寧ろ楽しそうですから!」
「…では、その内。どうぞ、お口に合えばいいですが。」
「絶対美味しいでしょう!いただきます!」
「いただきます。」

私の料理を感激しながら食べる小春の顔を見て、このまま彼女と幸せに暮らしていければと強く願った。食事が済むと二人で洗い物をし、一緒にお風呂に入った。小春の部屋の浴室は私の部屋のそれよりも小さい為、二人で身を寄せ合って互いに体を洗い合った。彼女に触れて昂ってしまう自身を止める術を知らない私は、結局彼女に誘われるがまま浴室で事に及んでしまった。昨日に引き続き避妊具はない。小春が浴室の壁に手を付き、私に突き出された腰を掴んで何度も欲をぶつける。私を受け入れて悦ぶそこも、声が漏れるのを我慢する小春の顔も、突かれる度に揺れる乳房も、漂うシャンプーの香りも、全てが狂おしいほど愛おしい。彼女を失わなくてよかったと思う反面、万が一彼女を失ってしまったら、きっと私は気が狂ってしまうだろうと思った。昨日あれだけ事に及んだというのに、彼女の中にずっと挿入っていたいと思ってしまう程、気持ちがいい。

「小春…、」
「んぅ…ん、はっ…建人さん、愛してる…あっ、んんっ!」
「小春、愛しています。」

二人して果てるとキスをし、顔を見合わせて笑い合った。どうか、この幸せよ永遠に。



 


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