写真




オーダーメイドした指輪の試作品ができたと連絡があったのは、注文して二ヶ月が経った頃だった。次の休日に建人さんも休みを取るとの事で、予定を合わせてお店に向かった。お店に入って試作品を見せてもらう。建人さんのは太めの金の指輪。

「旦那様は指が長めなので、太めの指輪にしました。内側にはお二人のイニシャルと、誕生石を埋めてます。奥様の方は内側に誕生石と、同じくイニシャル。メインのダイアモンドの周りにピンクダイアでお花をイメージしました。いかがでしょうか?」
「す、凄い…!可愛いですね!」
「奥様の指に相応しいものをとの事でしたので。奥様の笑顔はお花を連想させますから。見てるとこちらも笑顔になりますでしょう?」
「ええ、確かに。良いですね。これでお願いします。」
「はい、ではこのデザインで作らせて頂きます。完成は七月の後半か八月の頭頃になります。なるべく早く出来上がるように心掛けますが、よろしいでしょうか?」
「あ、その事なんですけど、結婚式の日を、」

日付を伝えると、店員さんは笑顔で頷いた。

「分かりました。それなら確実に間に合います。また完成したらご連絡差し上げますね!それと、前回撮ったお写真なんですが、とっても素敵なお写真だったので是非お渡ししたいと思って用意したんですけど…。」
「あ、見たいです!」
「お持ちしますね!」

写真を持って戻って来た店員さんが、可愛い額縁に入った写真を見せてくれた。そこには笑顔で写る私と、

「建人さん、カメラじゃなくて私を見てる…。」
「いえ、これは、」
「旦那様が奥様の事を心から愛してらっしゃるのが分かるお写真で、私達も見ると笑顔になるんです。ぜひ、お持ち帰りになってください。」
「ありがとうございます!」

隣の建人さんを見ると、少し恥ずかしそうにそっぽを向いていた。その耳が赤くなっているのに気付いて、私も嬉しくなった。

「建人さん照れてます?」
「照れてません。」
「こっち向いてくださいよー?」
「今は嫌です。」
「ふふ、可愛い〜。」

ちらりと私に視線を向けて、目が合うと観念したように笑う建人さんが愛おしい。店員さんもそんな私達を見て優しく笑っていた。お店を後にすると、少し買い物をして二人で高専に向かった。私の御守り呪骸のメンテナンスをしてもらうためだ。夏油と言う人はあれから見かけなくなったけど、時折この呪骸が音を出す時もある。通勤中だったり、建人さんと一緒に歩いている時だったり。建人さんと一緒の時は安心できるけど、一人の時は少し怖くて、言われた通り音が鳴らない道に遠回りすることも多々あった。高専の最寄り駅まで電車で向かい、あとはタクシーで向かう。二回目の高専訪問に、少し緊張を覚える。と言っても、一回目は意識のない時に運び込まれただけだけど。

「初めまして、呪術高専学長の夜蛾正道だ。」
「初めまして、七海小春です。このキーホルダー、ありがとうございます。」

広い敷地内を歩いてようやく辿り着いた学長室で、初めて会った学長さんがこのキーホルダーを作ったらしい。厳つい見た目とは裏腹に可愛いを作っている…。ギャップ…!

「七海や悟から話は聞いていた。無事で何よりだ。呪骸を預かろう。」
「あ、はい。お願いします。」

スマホカバーから外した呪骸と言う物を夜蛾さんに渡す。彼は黙って呪骸に異常がないか確認しながら、時折持っていたかぎ針で突いていた。

「で、結婚式はいつなんだ?」
「式場はまだ決まっていませんが、―月―日を希望しています。」
「是非とも招待してくれ。」
「ええ、そのつもりです。」
「…うむ、異常なしだ。小春さん、」
「ありがとうございます。」

呪骸を受け取って再びスマホカバーに取り付けると、建人さんと共に部屋を後にした。夜蛾さんの周りにはたくさんのぬいぐるみが置いてあって、見た目と違って可愛いもの好きなんだなあと思った。…いや、人を見た目で判断しちゃだめだね。夜蛾さんごめんなさい。その後、家入さんに約束していた高級ワインを渡し、まだ仮だけど日付も伝えて結婚式にもお誘いした。

「いいよ、高いもの食わせてくれるならね。」
「ふふ、ありがとうございます!」
「ワインありがとう。仕事が終わったらありがたく頂くよ。」

医務室を後にして五条さんを探す。建人さんは渋っていたけど、私の呪いを祓ってくれた上に、あのレストランの料理もお金も彼が世話してくれたのだ。

「五条さんはお忙しい方です。今日は任務と聞いていますし、明日私が渡しておきます。」
「でも、私もちゃんとお礼を…、」
「いいえ、私が。」
「いえ、自分で、」
「じゃあ僕が渡すよ。」
「わ!」
「…五条さん、」
「それ、僕へのお礼だったりする?」

突如背後から現れた五条さんに、私は驚いてしまう。建人さんが溜め息を吐いた。

「五条さん、あの前々からお礼も出来ずにすみませんでした。これ、助けていただいたお礼です。」
「お、コレ銀座の高級チョコじゃん!ありがたく貰うよ!」
「私からも、一応礼を。どうもありがとうございました。」
「はは、良いってことよ。で、結婚式いつ?勿論呼んでくれるんだよね?」
「ふふ、はい!是非!」
「私は誘う気はないのですが、小春がどうしてもと言うので。」
「七海〜、冷たいこと言うなよ〜。僕と七海の仲じゃん。」

五条さんと別れると、建人さんがまた溜め息を吐いた。

「そんなに嫌だったんですか?」
「いえ、嫌なのは彼ではなく、…彼も嫌ではありますが、小春が私以外の男に会うのが嫌なだけです。」
「…最近建人さんの独占欲が凄いですね。」
「それは今更でしょう。」
「ふふ、愛されてるなあって思えて私は嬉しいですよ?」
「喜んで他の男と会うのは許しませんからね。」
「そんなことしないです。私が愛してるのは建人さんだけですよ!」
「私も、小春だけを愛してます。」

家に帰ると、テレビ台の上に置かれた建人さんとその友人、灰原さんの写った写真の隣に、私達の写真を飾った。



 


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