誓いのキス




それから結婚式まではあっという間だった。二人で休みを合わせて式場を探し、日取りを決めて、ドレスとタキシードも決めて、完成した指輪も受け取った。招待客は私たちの近親者と、高専関係者の夜蛾さん、五条さん、家入さん、伊地知さんの四人を招待した。驚いたのが、五条さんがご祝儀に、と分厚い封筒を渡してきたこと。あとから中を確認したら帯のついた札束で、私は思わず飛び上がった。五条さん、何者…。

「小春、緊張していますか?」
「ふふ、少し。」

控室に建人さんが入って来て、真っ白なタキシード姿に思わず何枚も写真を撮った。建人さんが少し照れくさそうな顔をしていた。建人さんも私のウェディングドレス姿をこっそり写真に収めていたのを知っているから、おあいこ。時間になって、私はお祖父ちゃんとバージンロードを歩く。一歩ずつ、一歩ずつ、建人さん元へ。建人さんが私を優しい顔で見つめていて、私も彼を見つめ返した。神父さんの前に二人で並ぶと、ありがたいお言葉を聞きながら、二人で愛を誓い合った。指輪を交換して、誓いのキスをする。彼の大きな手が、私の顔を覆ったベールをゆっくりと捲る。唇が触れる時、うっすらと開けた目で建人さんをを見つめれば、彼も私を薄目で見ていて、離れるとお互い笑い合った。五条さんがヒューヒュー言って騒いでいた気がする。その後、披露宴会場に移り、私と建人さんも着替える為に控室へ戻った。ここからがお楽しみだ。

「変じゃないですかね?」
「全然、お綺麗ですよ!」

私は魔女の様な真っ黒のドレスを着ていた。何と言っても、今日はハロウィンだから。皆には事前に仮装して貰っている。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにはカチューシャで角と羽を。建人さんのご両親は天使と悪魔の仮装。夜蛾さんはフランケンシュタイン。五条さんは狼男。家入さんは赤ずきん。伊地知さんは…五条さんに包帯でぐるぐる巻きにされたらしい、ミイラ男。そして、建人さんは…、

「わあ…吸血鬼…!建人さん素敵です!」
「小春の魔女も綺麗ですね。今すぐ噛みつきたい程に。」
「うふふ、帽子も被っちゃいました!可愛いでしょ?」

二人で披露宴会場に入ると、テーブルの上はランタンでライトアップされ、コウモリの飾りや風船がたくさん。皆も楽しんでくれているみたいで、本当にこの日を選んでよかったと思った。勿論、ケーキ入刀はパンプキンケーキ。

「ン七海ィ〜っ!おめっとーっ!」
「悟、飲み過ぎだ。」
「え…、五条酒飲めないのに飲んだの?」
「今日はぶれーこーだよーん!」
「ご、五条さん、明日も任務ですから、」
「伊地知ぃ、僕に指図すんのぉ?マジビンタ!」
「マジビンタ…、」

皆ハメを外して楽しんだ結婚式になった。特に五条さんは下戸なのに飲んだらしい。高専関係者の席は一際盛り上がっていた。主に五条さんが一人で。

「建人さん、皆楽しんでくれてるみたいですね!今日にしてよかった…!」
「ええ。小春、ありがとうございます。愛していますよ。」
「うふふ、私も建人さんを愛してます!…そろそろ、皆さんに報告しますか?」
「…そうですね。」

式も終わりが近付いて来た。私たちのサプライズの為、マイクを借りて立ち上がる。建人さんがマイクのスイッチを入れて、失礼、と言った。建人さんらしい始め方に、私は隣で笑ってしまう。

「皆さんにご報告があります。」

皆の視線が私たちに集まる。私がどきどきと緊張していると、そっと握られた手。建人さんを見ると、彼の瞳が優しく私を見つめていた。

「私達の間に新しい命を授かった事を、ここでご報告させて頂きます。現在、小春は妊娠3か月。新しい家族が増えることを皆さんにお伝えしたく、お時間を頂きました。どうぞ、家族三人温かく見守ってください。以上です、本日はどうもありがとうございました。」

建人さんがマイクを切ると、皆、温かい拍手で包んでくれた。私たちはこれから新しい命を育てていく。大好きな建人さんと、私との間に出来る子供を、大事に、愛して、生きよう。

「早く生まれて来てね、愛してるよ。」




―――七海建人の結婚記録―――
第三部 完




 


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