新婚旅行




結婚式も無事に終わり年が明けて、お腹も以前より膨れた頃。建人さんは出張する頻度が減った。式の時に妊娠報告をした為、なるべく日帰りで帰れる任務を担当させて貰っているらしい。その代わり五条さんが出張が増えたらしく、建人さんは五条さんに会う度に高級菓子を強請るらしい。私は…建人さんがしつこいほど心配するので、仕事を辞めて専業主婦になった。彼が私を思っての事なので、私も大人しく従った。先輩にはお世話になったし、結局飲みにも行けなかったけど、妊娠の報告をしたらとても喜んでくれたので、お腹の子が生まれたら会いに行こうと思っている。

「建人さん、お弁当です。今日も気を付けてくださいね!」
「いつもありがとうございます。身体は平気ですか。」
「はい、今日も果物と、トマトなら食べれてますし。食べれる時に食べれる物をって、先生も言ってましたから。」
「無理をせず、辛ければ私の母に連絡を。小春の実家よりは近いですから、いつでも頼ってください。」
「分かってます!ほら、もう時間ですよ?いってらっしゃい!」
「…いってきます。今日も必ず、帰ってきます。」
「はい、待ってます!」

建人さんが私の額と、唇にキスをして、膨らんだお腹に手を添えた。そこには確かにもう一つの命がある。

「愛してますよ、小春。お腹の中のあなたも。」
「ふふ、私も愛してます。ね?パパの事だいすきって。」
「…では、名残惜しいですがいってきます。」
「はーい、いってらっしゃい!」

建人さんを部屋の外まで見送る。彼がエレベーターに乗ったのを確認すると、私も家事に取り掛かった。お腹は少し重たいけど、出来る限り動いておかないと。

「あ、建人さんのスーツ、クリーニング出さなきゃ。」

洗い物をしながら思い出し、家を出る準備をする。スーツの入ったクリーニングバックを持って近所のクリーニング店に行き、帰り際にスーパーで日用品の買い物をして帰った。時間に余裕のある日は、夕飯に凝ったものを作っている。時折匂いで気分が悪くなる時もあるけど、建人さんが少しでも美味しいと感じてくれるならと、頑張った。明日は建人さんもお休みを貰ったので、新婚旅行で座敷童子が出るという旅館に宿泊する。買い物から帰宅してひと休みした後、自分の昼食にトマトを食べた。

『今日の夕飯は何を食べたいですか?』

建人さんにメッセージを送り、返事が来るで少しソファーで休んだ。腰が痛いなあ。

『小春は休んでください。今日は私が作ります。食べれるものは何ですか。』
『お昼にトマトを食べました。アイスが食べたいです!』
『買って帰ります。お弁当頂きました。ありがとう、ご馳走様です。』
『建人さんも、いつもお仕事お疲れ様です!』

やり取りが終わると、旅行の準備に取り掛かる。2人分の下着と靴下、服を纏めて、キャリーケースに詰め込む。楽しみだなあ!




...





新幹線での移動中、小春の手を握りながら、反対の手で大きくなったお腹を撫でていた。以前よりも大きくなったそこはかなり重たくなった事だろう。以前任務で訪れた旅館には、子供が産まれる前に行きたいと言う小春の希望で、貰っていたパンフレットを見て予約した。あの部屋はかなり予約が埋まっていたらしく、宿泊日までにお腹がここまで大きくなってしまった。新幹線を降りると小春の腰を抱くようにして歩いた。雪はもう残っていないものの、彼女が転倒しては困るからだ。旅館に着くと以前と変わらず女将と亭主が丁寧に迎えてくれた。旅館の至る所に飾られたぬいぐるみ達を見ながら、部屋へ案内される。小春は余程座敷童子に会いたいらしく、その表情はまるでいたいけな少女のようだ。それを微笑ましく思いながら部屋に入る。小春の御守りである呪骸が短く鳴った。座敷童子は部屋の真ん中に立っていた。小春には見えていないらしい。

<待ってたよ!>
「小春、座敷童子ならそこにいますよ。」
「え、ど、どこですか?」
「今あなたの目の前に立っています。…小春のお腹を触りたいようです。」
「あ、はい、どうぞ。元気に産まれて来てねってお願いします!」

座敷童子が小春のお腹に触れると、小春は何か感じ取ったらしい。嬉しそうにはにかんだ。

<男の子だ!>

そう言うと、座敷童子は姿を消した。

「あれ、」
「…座敷童子が、お腹の子供は男の子だと…。」
「え!分かっちゃったんですか?!」
「そのようですね。」

小春は少し考える素振りを見せると、私を見て優しく微笑んだ。

「名前、考えました!」
「もうですか。」
「聞きたいですか?」
「…ええ、是非。」

彼女の言葉を聞いて、私は流れ落ちる涙をそのままに、その体を抱き寄せた。






「建人さんと、建人さんの大事なお友達からお借りして、…雄人、ってどうですか?」



 


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