会いに行く




呪骸のメンテナンスに、雄人を連れて高専に訪れた日。結婚式に来てくれた夜蛾さん、五条さん、家入さん、伊地知さんにも会いに来た。夜蛾さんのいる学長室に入ると、雄人は少しそわそわしているようだった。夜蛾さんがサングラスを外して雄人の顔を覗き込む。

「雄人、いい子に育てよ。」

雄人が笑って夜蛾さんの顔に手を伸ばすのを、私も建人さんも微笑ましく見守った。

「まさみち、」
「お、来たか、パンダ。見ろ、七海と小春さんの子供だ。」

声がした方を見ると、パンダがいた。…え、パンダ!?

「な、なんでパンダがここに…、」
「コイツも呪骸だ。」
「おれパンダ。よろしく。」

私よりも体長は低いものの、人間の言葉を話すパンダ…くん?雄人の顔を見たいらしく私は彼にも見えるように屈んだ。雄人がパンダくんに手を伸ばして、パンダくんも雄人の手にもこもこの手を伸ばしていて、凄く癒された。

「にんげんのあかちゃん、ちっちゃいな。」
「雄人っていうの。よろしくね、パンダくん。」
「よろしくな、ゆうと。」

呪骸のメンテナンスも済んで、夜蛾さんとパンダくんは今から特訓するらしい。私たちは学長室を後にして、家入さんのいる医務室へ向かった。

「小春、代わりますよ。」
「あ、ではお言葉に甘えて。」

建人さんが私の手から雄人を受け取って抱っこした。建人さんは子育てにも協力的で、家にいる間は私に代わって雄人の面倒を見てくれたり、家事を代わってくれたりする。建人さんは本当に優しい。雄人も建人さんの事をちゃんとわかっているみたいで、彼に抱っこされると笑顔を見せるようになった。建人さんも抱っこにだいぶ慣れているし、良いパパだ。

「こんにちは、家入さん。」
「…ああ、七海と小春さんか。良いよ、入って。」
「失礼しまーす。」

医務室に入ると、コーヒーを飲んでいたらしい硝子さんが、カップを手に持ったまま迎えてくれた。建人さんが抱っこしている雄人を見ると、家入さんが綺麗に笑う。

「七海が父親をしている姿を見るとはね。」
「ふふ、とっても協力的で、良いパパさんです。」
「それは出来たパパだな。雄人、だったか。元気に育てよ。」

家入さんが雄人の手に指を差し出すと、雄人は小さな手で彼女の指を握り締めた。家入さんはいつも医務室で大変な思いをしてるんだろう。怪我人を治療したり、亡くなった術師の後処理や…時には解剖までするらしい。人の生死に触れる機会の多い彼女に、少しでも心を休めて欲しい。少し悲しげに笑った彼女の顔を、私は忘れないだろう。呪いなんてない世界になって欲しいと願わずにはいられない。

「また来月、雄人も一緒に会いに来ますね!」
「ああ、楽しみにしてるよ。またね、小春さん、雄人。七海もまた。」
「ええ。失礼します。」

医務室を後にすると、建人さんが電話をしたいというので雄人を預かる。電話の相手は伊地知さんらしい。今どこにいるのかと聞いていた。

「伊地知君はあと一時間分程でこちらに着くそうです。五条さんも一緒らしいので、先に灰原の所に行きますか。」
「はい。」

建人さんに連れられて、高専関係者の墓地のある裏手に向かった。建人さんが迷いなく進む。きっと、灰原さんが亡くなってから高専を卒業するまで通っていたのかな。墓前に着いて線香をあげると、建人さんに雄人を預けた。建人さん自ら報告したいだろうと思ったから。

「…灰原、妻の小春です。こちらは、私達の息子です。あなたの名前と私の名前から、小春が雄人と名付けました。…とても元気ないい子です。あなたのように明るく…真っ直ぐな子に育って欲しいと思っています。見守ってください。」

建人さんの言葉を聞きながら、私は灰原さんのお墓に手を合わせた。建人さんの事も、どうか見守ってください、と。雄人が突然笑って、灰原さんのお墓に手を伸ばした。私には何も見えないけれど、もしかしたら灰原さんがいたのかな…。建人さんが少し悲しそうに、でも、優しく微笑んでいた。

「ありがとう、灰原。」

それから、高専の入り口付近で伊地知さんの車を待った。五条さんが長い足を優雅に伸ばして車から降りて来たので、まるでモデルさんみたいだと思った。伊地知さんも車から降りて来て、ぺこぺこと頭を下げている。

「お待たせしてすみません。」
「いえいえ、他の方にも挨拶してたので、気にしないでください。」
「は、はい…。(小春さん、なんてお優しい…。)」
「ウケるね、七海が子供抱っこしてる!写真撮って皆に送ろー。」
「止めてください。」
「ハハ、雄人っていうんだっけ?んー…、七海に似てるけど、目元は小春さん似だね。」
「良く言われます。」
「可愛らしいですね。とても癒されます。」
「雄人ー、僕がパパだよー!」
「ひっぱたきますよ。」

三人の会話を私は笑いながら聞いていた。

「雄人、僕みたいなナイスガイになるんだよ。」
「性格は似ないでくださいね。」
「伊地知、マジビンタ。」
「マジビンタ…。」

五条さんが雄人の頬をつつきながら笑った。伊地知さんも。建人さんも優しく笑って雄人を見ていた。私はその姿を写真に収める。

「雄人、長生きしろよ。」



 


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