愛するということ




あの事件から数日後、二回目の結婚記念日が来た。仕事は調整して記念日当日は休暇を貰った。朝から雄人を私の両親に預け、小春と二人でデートをした。小春が見たがっていた映画を見に行き、お昼には久し振りにあのイタリアンの店に行った。私が彼女にプロポーズした日に行った、あの店に。映画の感想を語りながら食事を済ませると、去年と同様にカスクートを焼くために材料を買って帰る。二人でパン生地を捏ねながら同時にパンプキンパイを二枚焼いた。パイとパンが焼きあがる頃に両親が雄人を家に送り届けてくれたので、焼きあがったパイを一枚手土産に渡した。雄人は少しずつ言葉を覚えてきた。ママ、パパ、と舌足らずだが話すようになった。焼きあがったパンに具材をサンドしてカスクートが出来上がると、少し早い夕食を三人で囲んだ。魔女の仮装をした小春がランタンの風船を膨らませている姿を動画に収めた。私もマントを羽織る。雄人もカボチャの服を着せた。毎年変わらずこうしよう、去年小春と約束した。雄人にはカスクートは無理なので温野菜や果物、スープを食べさせながら、楽しい記念日を過ごした。雄人をお風呂に入れて寝かしつけると、私達も共に入浴を済ませる。小春と一緒にソファで寛ぎながらワインを飲んだ。赤らむ頬で私を見つめる小春の姿を目に焼き付ける。その身体を腕の中に閉じ込めれば、自然と合わさる唇。

「毎年、こうやって記念日を過ごせるといいですね。」
「そうですね。…今日は楽しめましたか。」
「ふふ、勿論です。建人さんが一緒なんですから!」
「それは良かった。」
「そう言えば、明日はお仕事ですよね?日帰りですか?」
「ええ。」
「夕飯何にします?リクエストはありますか?」
「…そうですね、では…、小春の作るハート型のハンバーグが食べたいです。」
「分かりました!とびきり愛情込めたハンバーグを作って待ってますね!」



...



それから月日はあっという間に過ぎていく。雄人が二歳になって、活発に動き回り、よく喋るようになった。任務の移動中に小春から送られてくる雄人の動画を見ながら、頬を緩める日も増えた。小春が雄人と撮った自撮り写真が、今の私の待ち受け画面になっている。今年の冬には雄人の七五三の写真を撮る計画も立てた。数え年と満年齢どちらにするかは小春と話し合って決めた。近頃は危険な任務も増えているため、私が数え年を提案した。万が一、二人を残して死んでしまった時の事を、私は考えなければいけないからだ。テレビ台の上には私達三人が映る写真を入れた写真立てが増えた。三回目の結婚記念日は、三人で動物園に行った。ふれあいコーナーで初めて動物に触れる雄人の動画を録りながら、子供の成長と、小春と三人で過ごす幸せな時間を噛み締めた。毎年恒例のカスクートと、パンプキンパイ。雄人もパイを食べて喜んでいた。小春もパイが上達した、と喜んでいた。私も、そんな二人の様子を見て笑顔を浮かべた。七五三の写真を撮ると、写真はまたテレビ台の上に飾った。年が明けて二月程、小春の祖母、つねさんが亡くなったと連絡が入った。階段を踏み外して足を骨折し、 頭を強打。打ち所が悪くそのまま搬送先の病院で死亡が確認された。小春は酷く悲しんでいた。小春の祖父、辰之さんも気落ちしてしまい、体調を崩して入院。余程堪えたのだろう。雄人の誕生日を待たずして、つねさんの後を追うように亡くなった。二人ともご高齢だったこともあり、あっという間の事だった。小春は雄人を連れて実家で過ごす事が増えた。遺品整理や家の相続をどうするかなど、いろいろとやる事が多く大変そうだった。私も極力手伝いに行った。

「小春、大丈夫ですか。」
「…へへ、大丈夫ですよ、私には建人さんも雄人もいますから。」

明るく気丈に振る舞う小春を、抱き締める事しかできなかった。小春は私の前では泣かなかった。彼女が一人、シャワーの音で誤魔化しながら泣いていたのを、私は知っている。一人で悲しみを背負い、周りに心配を掛けまいと振る舞う小春を…私は見てはいられなかった。遺品整理が済み、思い出の品や必要な品は家に持ち帰った。家はもう古く、住む者もいないため取り壊して、土地を売るそうだ。遺産相続なども、小春の祖父母は私たちの結婚と同時に色々と決めて手続きをしていたらしい。すべて私と小春、そして生まれた子供に平等に引き渡すと書いてあったらしい。私は自分に入った遺産を、一つの口座に移した。…万が一、私が死んでしまった時に、私の全財産を小春に引き渡す為作った口座だ。……小春には言ってはいないが、遺書も書いてある。いつ死ぬか分からない以上、彼女に迷惑をかけないために。そして小春と雄人がこの先困らないように。

「小春、今日もお弁当をありがとう。いってきます。」
「いってらっしゃい、建人さん。ちゃんと、帰ってきてくださいね?」
「はい、勿論。雄人、ママを頼みますよ。」
「ん!ぱぱ、いってらっしゃあー!」
「いってきます。愛しています、小春、雄人。」

今日も私は呪術師として命を懸けて戦う。生き甲斐の為だけではない。愛する家族に、巡り巡って災厄が訪れないように。そして小春との約束を守るために。彼女の綺麗な笑顔を護るために。




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MIKEY_TOKYO「それでも 花は きっとずっと咲いてく」



 


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