新宿・京都百鬼夜行




五条さんからの連絡で私が京都に向かったのはその年の12月24日。丁度九州へ出張していた私はそのまま京都へ向かう。移動中に、詳細の書かれたメールに目を通す。数日前、呪詛師夏油傑が高専に宣戦布告をしに訪れたこと。今日の日没と同時に新宿と京都に千の呪いを放つ、百鬼夜行を行うということ。私は京都側の面々と共に呪霊討伐を命じられた。荷物を片手に新幹線に備え付けられた公衆電話から小春に電話を掛ける。日没まではあと半日程あるとは言え、自分の両親や妻子が巻き込まれるようなことは避けなければならない。電話は4コール程で通じた。公衆電話からの電話に疑問を感じ、出るのに渋っていたのかもしれない。事前にLIMEでもすればよかったが、私が五条さんから連絡を受けたのも今朝だ。高専側もOB、OG、呪術連、アイヌなど、連絡を取るところが多かったからだろう。今は皆、少しでも時間が惜しい。それに、小春の声を聞きたかった。

「もしもし、小春ですか。私です。」
『…建人さん?どうしたんですか、公衆電話からなんて。』
「すみません、今新幹線で移動中なので。それよりも、今どこにいますか。」
『今ですか?今日、私の友達が東京に遊びに来るそうなので、雄人も連れて新宿でランチでもって話してたんですけど、』

小春の言葉に息を吞む。…いや、まずは私が落ち着かなければ、彼女を不安にさせてはいけない。

「小春、いいですか。今から落ち付いて、私の話を聞いてください。」
『え?は、はい。何かあったんですか?』
「…夏油傑を覚えていますか。」

私の言葉に、小春が電話口で息を呑んだのが分かった。

「高専から連絡が入りました。夏油さんが今日の日没とともに、京都、新宿、この二ヶ所に千もの呪いを放つと。…私の言いたい事、分かりますね。」
『…友達には今日はやめるように言っておきます。私も雄人と大人しく家にいますから、建人さんも気を付けてくださいね…。』
「ええ。小春も雄人も気を付けてください。ここ数年は小春に接触がなかったとは言え、あの男は何を考えているか分かりません。」
『…建人さん、私も雄人も、待ってますから…。だから、』
「…勿論、必ず帰ります。約束ですから。…雄人も傍にいますか。」
『はい、代わりますね。…雄人ほら、パパだよ。もしもしして。』
『もしもしー、パパー?』
「はい、パパです。雄人、今日はママの言う事をよく聞いてください。…できますね。」
『できる!ねえ、パパおしごと?』
「ええ。必ず帰りますから、ママを頼みますよ。」
『わかった!パパ、おしごとがんばってね。』
「ありがとう。雄人、愛していますよ。…ママに代わってください。」
『うん!ママー、パパがかわってって。』
『…もしもし、建人さん?』
「小春、終わったら必ず連絡します。必ず帰ります。愛していますよ。」
『…はい、私も建人さんを愛しています。待ってますから、…お気を付けて。いってらっしゃい。』
「ええ。ではいってきます。」
『はい…。』

受話器を電話機に戻して息を吐く。…私は必ず帰る。小春の元へ…愛する家族の元へ。

「二人に…クリスマスプレゼントも渡さなければ。」

大小二つの紙袋を見ながら、私は両親へ連絡を入れた、

「もしもし、建人です。」

新幹線が京都に着くと、すぐに高専京都校に向かう。紙袋は駅のコインロッカーに預けた。念の為にロッカーの場所と鍵の番号を書き留めておく。私に何かあった時、誰かがこれを見つけてくれれば小春の元に届くだろう。京都校では実力のある生徒も百鬼夜行に向けて派遣されているらしい。

「…おい、そこの七三のアンタ。」

私と同じ区画を担当したのは、京都校の生徒達らしい。

「…なんでしょう。」
「どんな女がタイプだ。」
「…妻ですが、それが何か。」
「なんだ、既婚者か。」
「…質問の意図が分かりませんね。好みは人それぞれでしょう。それよりもまずは挨拶を。初めまして、七海建人です。」
「京都校二年、東堂葵。ちなみに俺は、身長と尻がデカい女がタイプだ。」
「…それは聞いてません。」
「嫁さんの写真は。見せろ。」
「…何故あなたに見せる必要があるのか、分かりませんね。」
「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴は、ソイツ自身もつまらん。俺はつまらん男が大嫌いだ。」
「…フー…。それは、私と妻、両者への侮辱と受け取ってもいいという事でしょうか。」
「それは写真を見た俺が決めることだ。」
「…。」

スマホの待ち受け画面を見せる。笑顔の小春と雄人の写真だ。

「…ほう。どうやら女の趣味は悪くないようだな、オッサン。…いや、敬意を表してMr.七海と呼ぼう。」
「オ、」

…オッサン…。

「…やはり呪術師はクソですね。」



――――――
百鬼夜行は七海は京都にいましたが、東堂と会っているかは特に書かれていないので知りません。捏造です。



 


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