迷路




建人さんが帰って来たのは、百鬼夜行と言われた日の二日後、12月26日の夜だった。25日には無事に呪いを祓った事を電話で聞き、後処理などでもう一日京都に滞在することを聞いた。東京に戻る連絡を貰ったのは今日の朝。高専に報告してから帰宅すると連絡を受け、夕飯は彼の好きな物をと、バゲットを焼いてアヒージョを作った。雄人には別のものを作って食べさせ、既に寝かしつけておいた。三人で食べようと昨日買っておいた小さなホールケーキは建人さんの分だけ残っている。建人さんからLIMEが来て、今から帰宅します、とメッセージを見た時は心底ほっとした。鍵を開ける音が聞こえると私は玄関に急いだ。扉が開いて見えた建人さんに飛びつくように抱き着く。

「建人さん、お帰りなさい!無事でよかった!」
「…ただいま、小春。熱烈な歓迎ありがとう。」

彼の手が私の背中に回って、ぎゅううっと苦しい程に力が入る。顔を上げると彼が私を見つめていて、そのままキスをした。背中の方でがさりと音がして、何かが私の背に当たる。

「寒かったでしょ?お部屋温めてありますけど、先にお風呂に入りますか?」
「…小春、もう一度聞いてください。あの時みたいに…。」
「…建人さん、ご飯にしますか?お風呂にしますか?…それとも、私…?」

建人さんが呪術師に復帰した日にした質問。あの時を思い出して少し恥ずかしくなりながら、最後まで聞いてみる。建人さんが柔らかく笑って、私の髪を撫でるように首裏に手が回る。彼に唇が私に触れ、割り込むように侵入してきた舌に自分のそれを絡めた。彼の首に腕を回す。暫く絡み合った舌が名残惜しく離れると、触れるだけのキスの雨が降った。

「勿論、小春から頂きます。」
「…そう言うと思って、雄人はもう寝かしつけました。」

そう言うと彼の行動は早かった。荷物を玄関に置き鍵を閉めると、私の体を横抱きにしてソファに運ばれる。ソファに横たわるようにそっと下ろされると、彼が上着を脱ぎ捨てて片手でしゅるしゅるとネクタイを外していく。それを見ながら彼のワイシャツのボタンを外していくと、建人さんが色っぽく笑みを浮かべた。

「積極的な小春も好きですよ。」
「…だって、建人さんが凄くセクシーだから、」
「私を見つめるあなたの顔もそうであることをお忘れなく。」

ネクタイが床に落ちると、ワイシャツの下に着ていたヒートテックの裾から覗いた彼のお臍と腹筋にドキドキと心臓が騒いだ。私が建人さんのお腹を見ていたことはバレていたらしい。着ていた物を乱暴に脱ぎ捨てると、私の頭の上に腕を片手で固定されてしまった。私を見つめる熱い瞳に釘付けになる。するりと侵入してきた彼の指は少し冷たくてピクリと反応すれば、額、瞼、頬、唇にキスが降ってきた。背中に回る手に少し体を浮かせる。すぐに胸の締め付けが緩くなった。たくし上げられたセーターと下着に、何度も体を重ねているにも拘らず恥ずかしくなる。

「建人さん、腕外してください…。建人さんの事抱き締められません。」
「…失礼、いい眺めなのでつい。」

拘束されていた腕が自由になると、彼の胸に手を当てた。そこはちゃんと温かくて、血が通っている。

「建人さん、怪我はしませんでしたか?」
「ええ。何が何でも帰ると約束したので、怪我もせず無事です。」
「良かった…。」
「小春、愛していますよ。」
「私もです、建人さん。愛してます。」

再び唇が合わさると、互いを貪るように何度も舌を絡め合った。彼の唇が首筋に降りてきてちゅう、と吸われる。ピリピリと痛んだので、きっとキスマークがついているだろう。先程よりも少し温かみを帯びた大きな手が私の胸をやわやわと揉みしだき、先を摘まむ。

「んっ…、」

小さく吐息が漏れると、建人さんはそこに吸い付いた。舌で転がすようにしながら時折歯を立てられて声が漏れる。

「しーっ、雄人が起きます。」
「…建人さんのいじわる…、」
「何のことですか。」

フ、と笑った建人さんに堪らなく胸が締め付けられる。もどかしくて、今すぐにでも繋がりたくて彼のベルトに手を掛けた。

「建人さん…、お願い…、早くきて…、」
「…小春、」
「酷くしていいから、建人さんが欲しいです…。」
「後悔しても知りませんからね。」
「今更でしょ?」

そう言うと、互いに舌を出して獣のようにはあはあと舌を絡めた。カチャカチャと外したベルトのバックルが揺れる音とファスナーを下ろす音。私のスカートが捲られて、タイツとショーツを脱がされる。足の甲にチュッと彼の唇が触れる。

「小春、愛しています。」

宛がわれた建人さんのものが私の中に挿入ってきて、私は堪らなく震えた。雄人を起こさないようにと我慢した声が吐息になって洩れると、建人さんの優しいキスが降ってくる。

「建人さん、愛してる。帰って来てくれてよかった…。」
「小春…。」

苦しい程に感じる彼のものが私の中を押し広げるように何度も出入りを繰り返し、どうしても漏れてしまう声。建人さんが切なげに細めた目で私を見つめる。

「小春…、」
「んっ、もっと…、建人さ、あっ、ああっ、」
「愛してる小春。」
「もっと、んぁっ…名前呼んで…っ、」
「小春、はぁ…小春、愛してます、小春っ、」

何度も互いを求め合った。彼が私の中に放つ熱を受け止めながら、私はこの人なしでは生きていけないのだと思った。

「小春、愛してる。」
「私も愛してます、建人さん。」

どこにも行かないで、心の中でそう願った。



 


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