幸せの音色




行為の後に入浴を済ませた私たちはソファで寛いでいた。ワインを飲みながら小春にキスをして、ふと思い出す。玄関に荷物を置いたままだ。荷物を部屋に運び軽く荷解きをしながら、2つの紙袋を持ってリビングに戻った。

「一日遅れましたが、いえ…もう日付が変わってしまったので二日遅れですね、クリスマスプレゼントです。」

そう言って紙袋を小春に渡す。小春が紙袋を受け取って、中から箱を取り出した。九州出張で訪れた長崎で買ったビードロ。水色の球体の中に金魚が描かれている。それともう一つ、その紙袋に入っていた小さい箱を開けて小春に向けた。

「可愛い…!」
「ビー玉リングです。宝石ではないですが、綺麗だったので。」
「建人さんから貰った物は何でも宝石以上の価値があります!」
「そう言って貰えてうれしいです。」

ピンク色の小さなビー玉がはめ込まれたリングを小春の右の薬指に嵌めた。

「思えば、突然の結婚でしたから、婚約指輪すら渡せていませんでした。」
「ふふ、気にしないでいいのに…。でもすごく嬉しいです…。建人さん、ありがとうございます。」
「愛していますよ、小春。」
「はい、私も愛しています。」

ちゅ、と触れるだけのキスをして、互いに笑い合う。小春が立ち上がってビードロをテレビ台に並べた。小春がそのままテレビ台の引き出しを開けて2つの箱を取り出した。

「私も、クリスマスプレゼントを用意したんですけど、あまり高いものじゃなくてごめんなさい。」
「いいえ、値段ではなく気持ちですから。」
「どうぞ、開けてください。」

差し出された手のひらサイズの2つの箱。開けると中にはサイズ違いのブレスレットが入っていた。

「インフィニティチェーンブレスレットって言うそうです!可愛かったので、お揃いで作ってもらいました。クロスしてる所に、小さいですけどお互いの誕生石を入れてみました。…このインフィニティマーク、永遠の愛とか、二度と離れる事のない絆って意味があるそうです。…お仕事の邪魔にならなければ…。」
「…素敵なプレゼントをありがとう。勿論、毎日着けますよ。」
「あの…お仕事に支障が出るといけないので、無理しないでくださいね?」
「無理ではありません。本当に嬉しいです。ありがとう小春。」

小春の体を腕の中に閉じ込めて、額に、頬に、唇に、キスをした。ブレスレットを私の右手首と小春の左手首につけ合った。チャリ、と音を立てたそのマークを見て、言葉の意味をもう一度頭の中で反芻する。永遠の愛…。私は小春を永遠に愛している。小春もそうであるという事だろう。小春にどうしようもない程の愛おしさを感じながら、その日は離れないようにと小春を手を握って眠った。



...




次の日の朝、繋いでいた手はいつの間にか小春の体を抱き締めていたらしい。小春も私のパジャマを掴んで眠っていた。愛おしく思いながら眺めていると、目覚まし時計の音が鳴る。小春が小さく唸りながら目覚まし時計に手を伸ばすが、その手は時計を掠めていく。代わりに音を止めると、小春はまた小さく唸って、ゆっくり目を開いた。

「…おはよう、小春。」
「んぁれ…?建人さん…おはよう、ふぁ〜…。」

欠伸をしてふにゃりと笑った小春にキスをして、抱き締める腕に少し力を込めた。小春が私の背中に腕を回す。

「…起きたら…建人さんの腕の中…幸せ…、」
「…私もです。」
「…ふふ、もう少しこのままで…いたいな…。」
「…そうですね、ではあと5分だけ。」
「やったぁ。」

擦り寄る小春の額にキスをして、もう一度抱き締める。小春が満足そうに笑う声を聞きながら、心地よい微睡みに再び目を瞑った。

「ままぁ…?」

と思えば隣のベッドで寝ていた雄人が目を覚まし、私たちはくすりと笑いながら布団から抜け出した。

「おはよう、雄人。」
「…ぱぱ…?」

眠たそうに目を擦る雄人を抱き上げる。小春に似たぱっちりとした目が私の姿を捉え、嬉しそうに細められた。

「パパだぁ!おかえりなさい!」
「ただいま、雄人。」
「雄人おはよう、パパからプレゼントあるって!やったねー!」
「ホント!?やったあ!」

3人で洗面所に向かう。順番に顔を洗って、3人で並んで歯を磨く。順番に口を漱いで、また3人でリビングに向かう。何気ない日常の一コマ。その一つ一つが私にはとても大切だ。

「雄人、プレゼントです。遅れましたが、メリークリスマス。」
「うわあああ!やったあああ!」

雄人の好きな仮面ライダーのフィギュアが入った箱を渡すと、雄人は箱を抱えて飛び跳ねた。小春が朝食と私のお弁当を作ってくれている間に、フィギュアに夢中な雄人の服を着替えさせた。朝食が出来上がる頃に小春の手伝いをして、3人で朝食を囲む。

「あ、雄人、落としてるよ、」
「あ、」
「建人さん、ティッシュを貰っていいですか?」
「どうぞ。」

テレビに視線が釘付けの雄人を手伝いながらの食事は忙しく、小春も私も目が離せない。食事が済むとまた3人で歯を磨いた。小春が雄人の歯磨きを仕上げる間に、私は髭を剃る。

「では、行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい、建人さん。今日もお気を付けて。」
「ええ。必ず帰ります。愛してますよ、小春。雄人も。」
「私も愛してます。待ってますね!」
「パパ行ってらっしゃい!」
「行ってきます。」

エレベーター前までの2人の見送りも、乗り込む前に小春にキスをするのも忘れない。雄人には額にキスをした。エレベーターから私の姿が見えなくなるまで手を振る2人の姿を目に焼き付けた。高専に着くといつもと変わらない任務続きの日常。そして落ち着いた頃に食べる小春の手作りのお弁当。チャリ、と揺れるブレスレットを眺めながら、お弁当箱を開けた。栄養バランス、彩り、見栄え、どれをとっても完璧な程に手の込んだお弁当を、しっかりと手を合わせ感謝しながら口に運ぶ。

「おつかれー七海。」
「…お疲れ様です。」

五条さんがお弁当の中を覗き込むのを横目に、卵焼きを口に含んだ。

「小春さんの愛妻弁当?いいねぇ、ラブラブで!」
「…おかげさまで。」
「僕も結婚しよっかな〜。」
「あなたには向いていないかと。」
「はは、だよね、僕もそう思う。」
「………あげませんよ。」

弁当の中身を覗き込むのを止めない彼にピシャリと釘を刺す。

「えー!七海のケチ〜!唐揚げ頂戴!」
「あげません。」
「1個だけ!」
「あげません。」
「じゃ卵「嫌です。」…ケチ〜。ってのは冗談で、小春さんとラブラブそうでよかった。」
「…。」
「七海が僕を頼って電話してきた時は何事かと思ったけど、七海がちゃんと幸せそうで良かったよ。」
「…ありがとうございます。」
「いいって事よ。カワイイ後輩の頼みだからね。」
「…五条さん、あなたにも…必ず幸せを掴む日が来ると願っていますよ。」
「お、ホント?じゃあ女の子紹介して欲しいって小春さんに「前言撤回します。」七海ったらつれないねえ!」



 


back

 

top