七海建人の誕生日(結婚1年目)




「そう言えば、建人さんのお誕生日っていつですか?」

一緒に住み始めてひと月程経った何気ない休日、建人さんと一緒にベランダで洗濯物を干しながら、思い立った質問。建人さんはハンカチの皴を伸ばしながら私を見た。

「7月3日です。」
「…七海だけに…?」
「それは関係ないでしょう。偶然生まれたのが7月3日だっただけです。」
「ちょっと待ってください…あと半月もないじゃないですか!」
「そうですね。」
「もっと早く聞いておくべきでした…。何か欲しいものありますか?食べたいものとか!」
「欲しいものならもう手に入りましたから。」
「え、なんですか?」
「小春です。」

今度は靴下を洗濯ばさみで留め始めた建人さんがそう言ったので、私は嬉しくなって頬が緩んだ。…って、そうじゃなくてプレゼントを考えなければいけないのに、浮かれてどうするの私!

「何かしたい事とか、他に欲しいものとか、食べたいものあったら何でも言ってください!」
「ええ…考えておきます。」

そう言って微笑んだ建人さんに、私はきゅんとしてその頬にキスをした。目を見開いて持っていた靴下を落とした建人さんに、慌ててそれを拾い上げる。

「ご、ごめんなさい、落とすとは思わなくて…!」
「いえ、洗い直します。」

残った洗濯物を干し終えると、落とした靴下のほこりを払って再び洗濯物入れに入れた。

「建人さん、お昼何食べますか?久し振りに二人とも一日お休みですし、外食でもいいですけど、」
「…そうですね、駅前に出来たパスタ屋が気になります。どうですか。」
「行きたいです!」



...



建人さんの誕生日があと一週間を切った。私はまだプレゼントを決められずにいる。仕事終わりに色々と気になるお店を見て回っているけど、中々いい物が見つからない。建人さんの好みやイメージを思い浮かべながらお店を回った。ふと、目に入ったのは…、

「すみません、これください。」

ラッピングされた箱が入った紙袋。大事に持ち帰ったそれを自分の部屋のクローゼットにそっと隠した。建人さんに渡すのが楽しみで、私は一人で笑みを浮かべた。

「建人さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます、小春。」

誕生日当日の夕飯は張り切った。仕事が終わり次第急いで帰って、前日に買っておいた材料で夕飯を作った。シーフードパエリアとミックスサラダ、スープはガスパチョ、ケーキは流石に時間がなくて買って帰った。建人さんが帰って来ると同時にクラッカーでお出迎えをする。クラッカーの音と共に飛び出た紙テープが建人さんの髪にふわりと乗った。

「夕飯、出来てます!」
「ええ、いい匂いがします。」

紙テープを巻き取って、建人さんにキスをする。応えるように触れた唇に愛おしさで思わず笑ってしまうと、建人さんも優しい笑みを浮かべた。彼が脱いだ上着とネクタイを受け取ってハンガーに掛ける。二人で手を洗ってうがいをして、夕飯を並べたテーブルへ。

「パエリアですか。」
「はい!お口に合えばいいんですけど…、」
「小春の料理はとても美味しいですから。今日の夕飯も楽しみでした。…いただきます。」
「はい!」

二人で食事をしながら今日の出来事を語り合った。私はあのパン屋で食べたパンの感想を。建人さんは今日任務で赴いた場所の事。食事が済むと後片付けをした。折角の誕生日なのに、建人さんが一緒にやります、と洗い物を手伝ってくれた。それが終わると冷蔵庫からケーキを取り出す。数字の書かれたロウソクを小さなホールケーキに刺して火をつけた。

「建人さん、お誕生日おめでとうございます!」
「フー…、ありがとうございます。」
「今プレゼント持ってきますね!」

消えたロウソクをケーキから外して、自分の部屋から彼へのプレゼントを持って戻る。ケーキを切り分けていた建人さんに、紙袋を渡した。

「わざわざプレゼントまで、ありがとうございます。」
「ふふ、気に入ってくれるといいなあ…。」
「開けますね。」

建人さんが紙袋から取り出したラッピングされた箱を丁寧に開けていく。

「…ネクタイピン…。」
「はい。あのネクタイも特殊な物だって言ってたので、どうしようか迷ったんですけど、建人さんに似合いそうだなって思ったら買っちゃってました!」

建人さんの目の色に近い色の宝石がついた、ナイフとフォークをモチーフにしたネクタイピン。本当はストーンの色を誕生石にするか迷ったけど、何となく目に入ったのが彼の瞳を思い出す色だったから、それにした。建人さんがネクタイピンを見ている姿をドキドキとしながら見つめる。…気に入らなかったのかな…?

「小春、ありがとうございます。」
「気に入ってもらえましたか…?」
「ええ、とても。明日から着けます。」

ふわりと笑った彼の顔に、私も嬉しくなって笑みを返した。ケーキを食べながら、建人さんの瞳を見つめる。私の好きな深みのある碧色が私を見つめていた。

「小春、あなたの誕生日はいつですか。」
「ふふ、お祝いしてくれるんですか?」
「ええ、勿論。」

私が誕生日を告げると、建人さんが顎に手を添えた。私へのプレゼントをもう考えているのかな?そう思いながら、最後に残ったイチゴを頬張った。



 


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