ひだまり




早いもので雄人は3歳になった。一年が過ぎるのをあっという間に感じながら、三人での時間を大事にする。今年は雄人の希望でライダーショーを見に遊園地へ行った。ステージ上で繰り広げられるヒーローショーに目を光らせる雄人と、雄人を肩車している建人さんの写真や動画をひたすら撮った。お昼は朝から作って持って来たサンドイッチを食べて、メリーゴーランドに乗ったり、観覧車に乗ったり、売店でソフトクリームを買って食べたり、三人でとても楽しんだ。今日の為に仕事を調整した建人さんは、明日からまた仕事詰めになるんだろうな…。呪術師という、限られた人が命を懸けて戦う仕事に、私は敬意を表すると同時に、もっと皆で呪いのない世界を作れたらといつも思う。

「雄人、楽しかったね?パパにありがとうは?」
「うん!パパありがと!」
「どういたしまして。雄人、お誕生日おめでとう。」

予約しておいたケーキを買って帰り、雄人の好きなメニューで夕飯を飾り、三人で食卓を囲む。はしゃいで疲れたのか、ケーキを食べながらこっくりこっくりと舟をこぐ雄人の写真と動画を建人さんとそれぞれ撮って、起こさないようにテーブルの上を片付けた。

「建人さん、お仕事調整してくれてありがとうございます。」
「雄人の誕生日ですから。」
「雄人も喜んでたし、私も楽しかったです!」
「私もですよ。」

今日撮った写真や動画は建人さんと共有した。眠る雄人と起こすのはかわいそうだけど、虫歯になるのも困るので優しく揺り起こす。どうせなら、と三人で一緒にお風呂に入って、一緒に歯を磨いて、今日は私たちの間に雄人を挟んで三人で寝た。雄人は満足そうだった。翌日、月に一度の呪骸メンテナンスの為に建人さんと共に高専に向かう私と雄人。雄人は建人さんの仕事についてあまり分かっていないので、この月一の高専訪問が楽しいらしい。建人さんが運転する車に乗って向かう。毎回建人さんが案内してくれるので、私も安心してこの広い敷地内を歩くことができるのだ。多分一人じゃ無理かも…迷いそう。

「あれ…、七海さん。」
「おはようございます、もうそんな時期でしたか。」
「伊地知君、伏黒君、おはようございます。」
「っス。…っと、七海さんの奥さんの…小春さん、ですよね。」
「はい。初めまして、七海小春です。こっちは息子の雄人です。」
「伏黒恵です。」

伊地知さんと一緒に歩いていた生徒、伏黒君がぺこりと頭を下げる。私も会釈を返して、雄人の体を伏黒君に向けた。伏黒君が雄人の前にしゃがんで目線を合わせてくれたので、とっても優しい子なんだな、と思った。雄人が笑顔で手を振っているのを見て、皆が笑みを浮かべている。

「雄人、よろしくーって。」
「よぉしくー。」
「ああ、よろしく。」

伏黒君が雄人の手に自分の手を合わせてくれた。伊地知さんも雄人に挨拶をしていて、雄人も伊地知さんの顔を覚えているからちゃんと挨拶を返していた。偉いな、って伏黒君が雄人の頭を撫でてくれている。

「七海さんの子供だから、しっかりした子に育ちそうですね。」
「当たり前でしょう。」
「誰かさんの子供だったら絶対あり得ないでしょうし…。」
「言えてます。」
「そもそもあの人は結婚すらできるかどうかでしょう。」
「それも言えてます。」
「想像できませんよね…。」

なんとなく、三人が五条さんの事を言ってるのかな、って思ってクスリと笑う。伏黒君と目が合って、小さく照れたように目を逸らす顔が年頃の男の子って感じで可愛らしく感じた。

「お二人ともこれから任務ですか。」
「はい。」
「お気を付けて。」
「ありがとうございます。失礼します。小春さんも、雄人くんも。」
「雄人って呼んであげてください。雄人、伏黒君と伊地知さんにまたね、って。」
「またねぇ。」
「ああ、またな。」
「はい、また。では、私達はこれで失礼します。行きましょう伏黒君。」
「はい。」
「伏黒君も伊地知さんも、怪我しませんように。」
「…ありがとうございます、小春さん。」
「私には…そう願う事しかできませんから。」
「小春さん…。(今日もお優しい…。)」

雄人に手を振ってくれた二人の背中を見送って、私達も歩き出した。雄人が建人さんに抱っこをせがむので、建人さんもそれに応えて雄人を抱える。

「伏黒君って、何年生なんですか?」
「彼は一年生です。色々と複雑な出身のようで、五条さんが連れてきました。」
「五条さんが。」
「彼は出来た子です。実力もあります。良い術師になるでしょうね。」
「…それでも、まだ子供なのに…。」
「…ええ、それがこの世界の現実です。」

学長室に着くと、夜蛾さんが迎えてくれた。雄人は毎度、夜蛾さんのサングラス姿を少し怖がっているようで、私達が部屋に入るとすぐにサングラスを外してくれる。雄人の頭を優しく撫でてくれる夜蛾さん。毎回思ってるけど呪骸のメンテナンスって、一体何やってるんだろう…。

「雄人、この前より少し大きくなったか?」
「ほんの少しですが、身長が伸びました。」
「そうか。子供の成長はあっという間と言うからな。」
「ええ。」
「雄人、これをやろう。」

そう言って夜蛾さんがお手製の犬のぬいぐるみを雄人に渡した。これも呪骸なのかな?と首を傾げた私に、夜蛾さんが笑う。

「すまん、これは呪骸ではないんだ。」
「普通のぬいぐるみも作られるんですね?」
「呪力を込めずに作れば、それはただのぬいぐるみだ。」
「なるほど…?」
「雄人、貰ったら何を言うんですか。」
「ありがとう。」
「ああ、どういたしまして。」

夜蛾さんに貰ったぬいぐるみをしっかりと抱き締めた雄人が嬉しそうに笑ったので、私達もつられて笑顔になる。学長室を出ると、決まって向かうのは医務室。家入さんとは連絡先も交換するほど仲良くなったので、今ではもう硝子さんと呼ぶようになった。硝子さんは以前より少し隈が濃くなったように見えた。雄人の顔を見てフ、と笑う顔も少し疲れてるように見える。

「来たのか。」
「おはようございます、家入さん。」
「硝子さん、おはようございます。」
「ああ、おはよう。雄人も元気そうだな。」
「ええ。」

硝子さんとは時折連絡を取り合っているので、あまり長居はしなかった。硝子さんも忙しそうだったので、雄人の顔を見せると少し話して医務室を出る。今日は五条さんもいないらしい。灰原さんのお墓にも挨拶をすると、建人さんも任務があるので高専の出口までで別れた。建人さんが呼んでくれたタクシーに乗って駅に向かう。雄人がぬいぐるみを抱えて窓の外を眺めている。その小さな頭を優しく撫でた。



 


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