すべてを愛おしむ




昼食を食べて片付けも終えた後、小春が冷蔵庫から私が買ってきたお土産を取り出した。

「建人さん、これなんですか?」
「お土産です。北海道に行ったので。」
「北海道!いいですね!涼しかったですか?」
「ええ、こちらよりは。お土産は生チョコです。それと、レーズンサンドを。」
「わあ、美味しそう!」
「チョコ食べたい!」
「じゃあ3時のおやつはチョコ食べようねー。」
「やったー!」

不本意ながら五条さんと二人で歩いた北海道の街、じゃがバターとソフトクリームを食べた事、話せる範囲で小春に話せば、彼女は楽しそうに笑う。

「そういえば、そろそろメンテナンスに行く日ですね!」
「そうでした。明日、一緒に高専へ行きましょう。私も明日は五条さんに頼まれた仕事があります。」
「五条さんも忙しそうですね…?」
「あの人が忙しくないと困ります。」
「ふふ、そうでした。」

3時になると、3人で生チョコを食べ、夕飯の買い物に出かけた。3人で近所のスーパーまで歩いて向かう。雄人を真ん中にして、手を繋いで、雄人がジャンプするのに合わせて二人でその手を引き上げた。楽しそうにはしゃぐ雄人の姿と、それを見て微笑ましそうに笑う小春の姿。

「夕飯は何が食べたいですか?」
「たまには私が作ります。何かリクエストは?」
「建人さんのお料理は何でもおいしいので、迷いますね…。雄人は?パパに何作ってほしい?」
「ウルトラメン!」
「それはさすがに無理です。雄人、食べたいものは?」
「んー…、エビフライ!」
「ではそれで。」
「やったー!」

私がカートを引き、小春は雄人の手を引いて3人で鮮魚コーナーへ。海老を選んでいる間に、小春は雄人に引っ張られてお菓子コーナーに行ってしまった。満足そうにお菓子を抱えて戻ってきた雄人と、困ったように笑う小春。必要なものを買い終えてまた3人で手を繋いで歩いて帰る。幸せそうに笑う二人を見ながら、私も笑みを浮かべた。

「できました。」
「わーい!!」
「おいしそう!建人さん、ありがとうございます!」
「いえ、小春こそいつもありがとうございます。さ、食べる前に手を洗ってください。」
「「はーい!」」

洗面所に走る雄人と、それを見て笑う小春の横顔。二人が洗面所から戻るまでにテーブルの上に料理を並べ終えると、私も手を洗いに洗面所へ向かった。二人でうがいをしている姿を見守る。

「失礼、私も手を洗います。」

手洗いうがいを済ませて3人でテーブルに着く。手を合わせていただきますをして、雄人は一番にエビフライに嚙り付いた。小春はサラダを取り分ける。私は二人を見ながらグラスに注がれたミネラルウォーターで喉を潤した。

「おいしいい!!」
「雄人、飲み込んでから喋りるように。それと、お口に合ってよかった。」
「雄人、サラダもおいしいよ?」
「食べる!」

夕飯を食べ終えて、小春と二人で洗い物をする。雄人はアニメに夢中で、一人ではしゃいでいた。その背中を眺めながら微笑ましく思っていると、小春が私の洗った食器の泡を流しながら、私の腕に頭を凭れた。小春を見ると、私を見上げる瞳と、その唇に引き寄せられるようにキスをする。

「あー!パパとママがチューしてるー!」
「「!」」

洗い物が終わると三人でお風呂に入った。一人でシャンプーができるようにと練習をする雄人に、私がシャンプーを仕上げた。三人で湯船に浸かると溢れ出たお湯。狭くなった浴槽にぎゅうぎゅうと詰め寄って、お湯をかけ合う。はしゃいで一際大きくお湯を飛ばした雄人と、お湯を顔に浴びて困ったように笑う小春。お風呂を出て小春が雄人の髪をドライヤーで乾かした。小春の髪は私が乾かした。私の髪は小春と雄人が交代しながら乾かした。三人で洗面所に並んで歯を磨き、雄人の磨き残しを私がチェックした。交代で口を漱いで三人で寝室に向かう。

「今日は久し振りに三人で寝ましょうか!」
「やったー!!」
「雄人、真ん中へ。」

雄人を挟んで布団に入る。私と小春の間で嬉しそうに笑う雄人を、小春と両側から抱きしめた。雄人の額にはおやすみのキスを、小春の唇には愛しているのキスをした。

「おやすみなさい!」
「おやすみ、雄人、小春。」
「はい、おやすみなさい。」

翌日、小春が朝食とお弁当を作る音と匂いで目を覚まし、いまだ夢の中の雄人を優しく揺り起こす。雄人を抱えてリビングに行くと、小春が優しい笑顔で駆け寄った。

「おはようございます、建人さん、雄人。」
「おはようございます小春。」
「ママぁ…、」
「雄人はまだおねむ?」
「ん…。」

雄人を抱えたまま洗面所に向かい、顔を洗う。朝食が出来上がるまでに身支度を整え、雄人の着替えを手伝った。三人で朝食を食べて、私が洗い物をしている間に小春は出かける準備を整える。荷物を確認して、雄人が夜蛾学長に貰ったぬいぐるみを抱え、三人で家を出た。

「今日は五条さんと任務の件で話があります。一旦ここで。」
「はい、帰る前に連絡しますね?」
「ええ、見送ります。」
「パパ頑張って!」
「ありがとう、雄人。」

二人と別れ、五条さんに呼び出された待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ場所の地下へ続く階段を降りると、時間の10分前に到着した。五条さんのことだ、待ち合わせ時間に遅れてくるだろう。もう少し小春と雄人と一緒にいればよかったと思いながらも、そこで五条さんを待った。腕時計を確認する。チャリ、と時計と一緒につけていた小春に貰ったブレスレットが揺れた。案の定、五条さんは待ち合わせ時間の7分後に到着した。そしてその後ろに見えた人影。北海道のバーで話していた人物だろう。

「七海、おまたー。」
「7分遅刻です。」
「細かいことは気にしない!悠仁、紹介するね。脱サラ呪術師の七海君でーす。」
「その言い方やめてください。」
「呪術師って変な奴多いけど、こいつは会社務めてただけあってしっかりしてんだよね。」
「他の方もアナタには言われたくないでしょうね。」
「脱サラ…。なんで初めから呪術師になんなかったんスか?」
「まずは挨拶でしょう。はじめまして、虎杖君。」
「あ、ハイ、ハジメマシテ。」
「私が高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということです。そして一般企業で働き気づいたことは、労働はクソということです。」
「そうなの?」
「同じクソならより適性のある方を。出戻った理由なんてそんなもんです。」
「またまた〜。悠仁、七海は小春さんっていう美人な奥さんと、これまたかんわいい雄人っていう息子がいるんだけど、僕がキューピットなの。」
「マジ!?先生が!?」
「…まぁ、不本意ながら、そういうことになりますね。」
「七海が呪術師に戻ったのも小春さんと雄人を守るためなのね。」
「人の家庭事情をぺらぺらと話すのはやめてください。」
「ちなみに七海は小春さんの事になるとおんもしろーいくらい取り乱すよ。今度悠仁にも見せてあげるね。」
「ひっぱたきますよ。」



 


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