虎杖悠仁と七海家




「要するに、私もアナタを術師として認めていない。」

七海…先生?は俺にそう言った。

「宿儺という爆弾を抱えていても、己は有用であると、そう示すことに尽力してください。」

俺だって、自分が弱くて使えないことはわかってるつもりだ。ここ最近は特にそう思い知らされてる。

「でも俺は強くなるよ。強くなきゃ死に方さえ選べねぇからな。」

『オマエは強いから人を助けろ。』

じいちゃんは、

『大勢に囲まれて死ね。』

俺にそう言ったから。

「言われなくても認めさせてやっからさ、もうちょい待っててよ。」
「いえ、私ではなく上に言ってください。私はぶっちゃけどうでもいい。」
「あ、ハイ。」
「じゃ、今回の任務については七海と一緒に確認してね。僕はこれから行くところあるから。」

五条先生とはそこで別れた。七海先生が今回の任務について、タブレットを使って説明を始めた。俺はよくわからんなりに真剣に話を聞いた。認めてもらうにはできることから、ってやつ。

「…失礼、電話です。」
「あ、どうぞ。」

七海先生がスマホを取り出して電話に出た。俺に背を向けて何かを話している。…なんだろ、五条先生?…はさっき別れたばっかだし…。

「ええ、今こちらも落ち着いたところです。見送ります。…はい、ええ、ではそこで待っていてください。では後程。」
「誰から?」
「虎杖君には関係ないでしょう。」
「…まあそうだけど、もう行くの?」
「ええ。その前に少し寄るところがあります。虎杖君の存在は公にできません。私は用を済ませて来ます。虎杖君は伊地知君と車で待っていてください。」
「わかった。」

七海先生と一緒に地上に上がった。五条先生と女の人の声がして、七海先生が足を止める。五条先生、誰と話してんだろ。と思ったら七海先生は早足で五条先生の元に歩いていくから、俺も後を追った。

「それで七海ったら、僕がこの前祓ったに呪霊にそっくりな塩辛トッピングしてんの。」
「ふふふ、」
「ちなみに小春さんはじゃがバターにトッピングするとしたら何?」

五条先生の陰になってよく見えないけど、…小春さんって…確か、

「そうですねぇ…明太子とか?」
「ママぁ、パパはまだぁ?」
「雄人、僕がパパだよー。」
「誰が、誰のパパですか。」
「パパー!」
「あ、建人さん。」
「五条さん、人の家族に絡まないでください。ひっぱたきますよ。」
「お、悠仁も来たね。悠仁、こちら七海の奥さんの小春さんと、僕の子供の雄人。」
「虎杖君、雄人は私の子供です。」
「ふふふ、」

五条先生の冗談にも、小春さんと呼ばれた女性は楽しそうに綺麗に笑った。

「初めまして、虎杖悠仁です!好きなタイプはジェニファーローレンスです!よろしくおなしゃっす!」
「初めまして、七海建人の妻の小春です。雄人、お名前は?」

小春さんに背中を押されて小っちゃい男の子が俺を見上げる。…金髪だ!七海先生に似てる!でも目元は小春さんに似てる気がする。

「七海雄人です!3歳!」
「お、自己紹介できてえらいな!俺のこと、悠仁って呼んでよ。よろしくな、雄人!」
「ゆーじ!」
「応!」

俺に伸びてきた小さな手に、俺も自分の手を重ねた。

「建人さん、お弁当です。今日も怪我しませんように。」
「ありがとうございます、小春。今日も大事に食べます。」
「ふふ、」
「小春さん、今度僕にもお弁当作ってよー。」
「え?五条さんにですか?」
「絶対にダメです。」
「七海がこの前食べてたお弁当すっごくおいしそうだったんだよねー。」
「小春、作らなくて結構。」
「七海のケチー!悠仁も小春さんのお弁当食べたいよね?」
「え、俺?…ま、まあ…、手作りのお弁当とかあんま食ったことねぇからな…。」

思い起こせば料理は自分の担当で、たまにじいちゃんと一緒に台所に立ってたことはあるけど、弁当なんて作ってもらった記憶はない。顎に手を添えて思い出す俺に、小春さんは綺麗に笑った。

「じゃあ、今度うちにご飯を食べに来てくれる?雄人も悠仁君が来てくれたら絶対喜ぶから。」
「小春、」
「建人さんも、怖い顔しないでください。せっかく雄人にお友達ができたんですから。ね、雄人も悠仁君とご飯食べたいよね?」
「うん!ゆーじウルトラメンごっこしよー?」
「お、いいぜ!今度遊びに行く!」
「やったー!」

七海先生が溜息を吐いて、五条先生はそんな七海先生を見ておかしそうに笑っている。小春さんも嬉しそうに笑ってるし、雄人も小春さんの足にしがみついて笑った。幸せそうな家族を前に、俺はなんだか泣きそうになった。

「悠仁君も、怪我しないようにね?」
「うっす!ありがとう小春さん!」
「私にはそう願うことしかできないから。それじゃあ、私たちはそろそろ帰りますね?」
「じゃあね、雄人、次こそ僕のことパパって呼んでね。」
「雄人、呼んではだめですよ。」
「雄人、パパにいってらっしゃいは?」
「パパいってらっしゃい、お仕事頑張ってね!」
「ええ、いってきます、雄人。」

七海先生が雄人を抱きしめて、その額にキスをした。雄人が嬉しそうに笑って、小春さんに抱き着く。

「建人さんの帰りを待ってますね。いってらっしゃい。」
「ええ、必ず帰ります。いってきます、小春。愛していますよ。」
「…もう、五条さんも悠仁君もいるのに…、私も建人さんを愛してます。」

七海先生が小春さんにキスをした。映画三昧でキスシーンを少し見慣れてたとはいえ、目の前でキスされると俺までドキドキしてしまう。

「ほらそこー、生徒の前でイチャイチャしない!」
「うふふ、すみません。」

五条先生のからかいに小春さんは恥ずかしそうに頬を染めていた。小春さんと雄人を見送って、俺と七海さんは伊地知さんの待つ車に向かった。五条先生ともそこで別れた。車の中で小春さんの事を聞いた。昔から呪われてた小春さんを、七海先生が救ったこと。小春さんを守るためにも、呪術師に戻る決断をしたこと。七海先生は掻い摘んでだけど、俺に話してくれた。

「…俺、正直自分がこんな事になるとは思ってなかったけど、七海先生みたいに幸せそうな家族が呪いのせいで不幸になるのはやっぱヤだな。」
「…そうですか。」
「七海さん、小春さんの事大事にね!」
「言われずとも大事にしています。虎杖君は自分の心配をしてください。」
「あ、ハイ。」



 


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