いつかの幸せを願って




ご飯を食べ終えた建人さんと悠仁君。雄人が悠仁君に遊んでくれとはしゃぐので、雄人は悠仁君に任せて、建人さんと一緒に洗い物をした。泡の付いたスポンジでお皿を擦りながら、悠仁君に肩車をされる雄人を眺める。2人が楽しそうにはしゃぐ声を聞いて小さく笑うと、隣で建人さんも笑ったらしい。くすりと笑った声が聞こえて彼を見上げた。

「小春のおかげで、私も虎杖君も元気が出ました。ありがとう。」
「私は何もしてませんよ?」
「…私にとっては、小春も雄人も、いてくれるだけで救われる。」
「もう、」
「虎杖君は母親について何も知らないと聞きました。虎杖君には、小春のような母親が必要だと思い、連れて来たんです。」
「それじゃあうちに来て正解でしたね。雄人も悠仁君に凄く懐いてるし、私も食べ盛りの男の子にたくさん料理を振舞えて楽しかったですから。」
「そう言って貰えてよかった。」

建人さんが優しく笑う。そっと近付いた距離に、触れるだけのキスをする。

「あー!またちゅーしてむぐっ!」
「雄人、しーっ!」
「…あ、見つかっちゃった。」
「虎杖君…、」
「ごめんナナミン。」
「悠仁君、今日は泊って行く?」
「え、いいの?」
「夜も遅いですし、いいですよね建人さん。」
「…明日、私と一緒に高専に戻りましょう。」
「よっしゃあ!また小春さんのご飯食べれる!」

ガッツポーズをした悠仁君に、私と建人さんはまた小さく笑った。建人さんが悠仁君の下着をコンビニに買いに行ってくれた。悠仁君はソファで寝ると言い張るので、タオルケットと枕代わりにクッションを用意する。

「小春さん、さっきはすんませんっした。」
「ん?」
「いや…一応、人妻なのに、抱き着いちゃって…、」
「ふふ、気にしないで?」
「…俺、ナナミンと小春さんと雄人と出会えて本当に良かったと思う。」
「ナナミンって、建人さん?」
「そ、七海だからナナミン!」
「私も後で呼んでみようかな。どんな顔するかな?」
「多分めっちゃ顔顰めると思う。」
「あはは、」

悠仁君が遊び疲れてうとうとする雄人をそっと抱きしめた。雄人が悠仁君にすり寄っていて、思わず写真を撮る。

「俺、物心ついた時からじいちゃんと一緒に住んでたから、何か…ちょっとお母さんみたいに思っちゃって、」
「うん、」
「ほんとすんませんっした!」
「謝らないで。悠仁君は誰にも甘えずに自分の力でいろんなことを乗り越えて来たんだね。それってすごく辛かったと思う。」
「…俺、両面宿儺って特級呪物、食べちゃったんだよね。」
「呪物?」
「あー…なんて言うか、ヤバいやつ。」
「食べちゃダメなやつ?」
「そ。そんで、宿儺の指って20本あって、俺がそれを食べたせいで死刑って言われてさ。」
「…うん、」
「なんで俺が死刑なんだって思うよ。でも、俺の知らないところで宿儺みたいな呪いがいっぱい人殺して、それでも俺は関係ないって言いきれないって思って、だったら全部食べて死刑になった方がって思ったから、五条先生が色々やって俺の死刑に猶予を付けてくれたんだ。」
「うん、」
「でもやっぱ、ナナミンと小春さんと雄人見てたら、俺もいつか好きな人と結婚して、幸せに暮らしたいって思っちゃうよね。…俺、やっぱり死にたくねぇよ。」
「…うん。」
「…小春さん、ナナミンのことこれでもかってくらい幸せにしてよ。そしたら俺、ナナミンの幸せを守るために戦う。小春さんと雄人のために、ナナミンを守るから。」
「…ありがとう、悠仁君。でも、悠仁君も幸せになる未来をあきらめないで。私は悠仁君の幸せを願ってるよ。」

そう言うと、悠仁君は太陽みたいな笑顔で笑った。

「応!!」



...




次の日、ソファで眠る悠仁君を起こさないようになるべく静かに朝食の準備をした。ほうれん草のお浸しを冷やしてお味噌汁を作って、塩鮭をグリルで焼く。出汁巻き卵を巻き終えたところで悠仁君がもぞもぞと動いたのが見えた。建人さんも起きて来たらしい。雄人を抱えてリビングにやってきた。

「おはようございます、建人さん。」
「おはよう、小春。」
「雄人、おはよう?」
「…んぅ、」
「まだお眠ですね、顔を洗ってきます。」
「はーい。」

ソファで眠る悠仁君を覗き込む。建人さんのスウェットを着ているからダボダボだ。

「悠仁君、朝ご飯できるよー、」
「ん〜…、」
「早く起きないと、ご飯なくなっちゃうよー?」
「…ん、食べる…、」

もぞもぞと起き上がった悠仁君が、私を見てびっくりしたように飛び起きた。

「おはよう、悠仁君。」
「…お、おはざまっす…、びっくりした…。そっか、俺ナナミンの家に泊まってたんだ。」
「顔洗っておいで?」
「うっす!あ、これありがとうございました!」
「適当に置いてて大丈夫だよ。」

タオルケットを畳み始めた悠仁君にそう声を掛けたけど、悠仁君は綺麗にタオルケットとクッションを纏めてくれた。洗面所に向かった背中を見ながら、ぐっと伸びをする。キッチンに戻ってグリルを開けると、程よい焼き色の鮭の切り身をひっくり返した。

「いただきまっす!」
「いただきます。」
「はい、いただきます。」
「いただきます!」

四人で朝食を囲んだ。出汁巻き卵を食べて目を輝かせた悠仁君に笑うと、建人さんが小さく咳払いをした。

「建人さん、ヤキモチですか?」
「え!?ナナミンやきもち!?あ、ごめん、俺に!?」
「…私がそんな大人げない男に見えますか、虎杖君。」
「…ミエマセン。」
「よろしい。」
「ふふふ、建人さんも悠仁君も、お弁当作ってあるから忘れずに持って行ってくださいね。」
「ありがとうございます、小春。」
「俺もいいの!?」
「虎杖君、くれぐれも五条さんには見つからないように。」
「あ、ハイ。」

朝食を食べ終えて二人にお弁当を持たせると、玄関先まで見送った。悠仁君が深くお辞儀をしてお礼を言った。

「また来てね、悠仁君。次は好きな食べ物教えてくれたら、作ってあげるから!」
「あざっす!お弁当も!大事に食べるね、小春さん!」
「うん、ありがとう。建人さん、いってらっしゃい。今日も帰りを待ってますね。」
「小春、雄人、今日も必ず帰ります。愛してますよ、いってきます。」

いつも通りキスをして、2人を見送った。悠仁君がエレベーターが見えなくなるまで手を振ってくれたので、私もそれに手を振り返した。雄人は悠仁君が帰ってしまうことに少しいじけてしまったので、どうやって機嫌を取ろうかとその小さな頭を優しく撫でた。



 


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