大事なのは




「え、めっちゃ久し振りじゃん!!元気だった!?」
「うん、元気だったよ!亜紀ちゃんも元気そうで何より!」
「小春が参加するって聞いて嬉しかった!あんまりこういう集まり得意じゃなかったでしょ?」

そう言って、亜紀ちゃんは私の腕を肘でつついた。正直に言うとその通りだった。小さい頃から橘家の呪いに悩まされていた私は、学校で倒れることも多くて、授業中や行事の最中に倒れて皆に迷惑を掛けることが多かったから。亜紀ちゃんは私の幼馴染で、小さい頃からよく倒れていた私を気遣ってくれた。就職を機に離れ離れになってしまったけど、会えずとも良く連絡を取り合っていたくらいだ。そういえば、百鬼夜行というのがあった日も、本当は亜紀ちゃんと会う予定だった。

「で、どうなの、旦那さんとは?」
「どうもこうも、仲良しだよ!」
「いいなぁ〜イケメンの旦那に、可愛い子供。…そういえば雄人君3歳になったんだっけ?」
「うん、もうわんぱくで大変なんだけど、やっぱりかわいいの。」

亜紀ちゃんは私の話を聞いてくれた。昔から聞き上手で、私が悩んでる時なんかはすぐに気付いてくれたし、いつでも手を差し伸べてくれた。雄人の写真や動画を見ながら二人で盛り上がっていると、誰かが私達の隣に座った。

「あれ、田中さんと橘さん?」
「え、嘘、持木くん!?わ、久し振り!!」
「2人とも誰か分かんなかったわー。女の人って化粧で変わるってマジだな?」
「ちょっと、それどういう意味よ!?」
「ふふふ、」
「小春、笑い事じゃない!」
「…あれ、橘さん結婚したの?」
「あ、うん、今は七海だよ。」
「マジかー…、」
「ちょっと、小春狙いならどっか行って!私は今小春の惚気話聞くのに忙しいんだから!」
「相変わらず橘さんのガードかてぇな…。」
「当たり前でしょ!?小春は私の大事な親友なんだから!アンタ達に小春は無理無理!」
「俺橘さんの事前からいいなって思ってたのに、」
「ほらそういう事言い出すから!どっか行け!」
「ごめんね持木君、私旦那さんと子供のこと大事だから、」
「はい振られたー!ってことで私と小春の邪魔しないで、あっち行った!しっしっ!」
「うわ、ひでぇ!」

亜紀ちゃんは私が昔からクラスメイトが苦手なのも知っているから、こうやって遠ざけてくれる。亜紀ちゃんがいてくれてよかった。ふと、カバンの中でスマホが震えているのに気付いた。

「ごめん、私お手洗い行ってくるね?」
「小春大丈夫?一緒に行こうか?」
「そんなに飲んでないから多分大丈夫。」

立ち上がってお手洗いのある方へ向かう。そんなに飲んだわけじゃないのに、歩いたことで少しアルコールが回ったらしい。身体が少し火照って、ふぅ、と息を吐く。鞄からスマホを取り出すと、建人さんからのビデオ通話だった。すぐに通話ボタンを押せば、案の定雄人が泣き止まないらしい。建人さんは少し疲れたような顔をしていた。任務続きなのに私の為に休みを取って雄人の世話をしてくれているから、あまりゆっくりできてないんだろうな。早く帰らなきゃ。そう思っていると、私に話し掛けてきた永井君。画面の中の建人さんが眉を顰めたのが見えて、私は永井君に建人さんを見せた。旦那さんがいるからごめんなさい、の意味を込めて。

『小春、電話は切らないでください。』
「建人さん、ヤキモチですかぁ?うふふ、可愛い…、」
『…これ以上私を…いえ、雄人に代わります。』

フーといつもの溜め息が聞こえて、私はまた小さく笑う。雄人にスマホを渡したらしい。雄人がぐずりながら私を呼んでいたので、私も雄人の名前を呼んであやした。席に戻って亜紀ちゃんに帰ることを伝えると、亜紀ちゃんもそうしな、と言ってくれた。連絡先を聞こうとする人達はやんわりと断って、急いでお店を出る。建人さんの車を見つけて笑みが浮かべると、愛する人の元へ。

「建人さん、お待たせしましたー。雄人、ごめんねぇ、寂しかった?」
「ママぁ…!」
「小春、」

後部座席に座って私に手を伸ばした雄人の頭を撫でると、建人さんに向けて今日一番の笑顔を向けた。私には、愛する夫と、可愛い子供がいる。

「ただいま、建人さん、雄人。」
「おかえりなさい、小春。」

私には、愛する家族が何より一番なのだから。

「男に絡まれたりしませんでしたか。」
「亜紀ちゃんが、あ、亜紀ちゃんってのは前に話した幼馴染なんですけど、亜紀ちゃんがずっと隣にいてくれたので大丈夫です。絡まれても彼女がすぐに追い払ってくれて、頼りになる親友です。」
「…それは良かったです。折角の同窓会を邪魔してしまいすみません。」
「邪魔なんて思ってません!むしろどうやって抜けようかと思ってたところだったので、電話してくれて助かりました。あ、ご飯まだですよね?帰ったら作りますね。」
「いえ、今日は私が作ります。」
「でも、ゆっくりできなかったんじゃないですか?」
「…ですが、たまには家族サービスをしたいので、今日は私が作ります。」
「…建人さん、ありがとうございます。今日も愛してます。」
「私も小春を愛してます。勿論雄人も。」

家に着くと、雄人は私に引っ付いて離れなかった。服だけ着替えて、雄人と一緒に建人さんが夕飯を作る姿を眺めた。三人で夕飯を食べて、建人さんと一緒に洗い物を片付けて、三人でお風呂に入って一緒に眠る。些細な幸せを噛み締めながら、私は愛する人の腕の中で眠りについた。



 


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