修学旅行




※来世の2人、小春が高校時代の話※



「それでは17時まで自由時間です。くれぐれも事故や事件に巻き込まれることのないように。何かあれば事前にお教えした番号に電話をください。」

私達は今、2泊3日の修学旅行で京都に来ている。建人さんの注意を聞きながら、私は同じ班の悠仁君と他数人と固まって集まった。

「それではお気を付けて。」
「「はーい!」」

それぞれの班が事前に決めていた目的地に向けて歩き出す中、私と悠仁君は同じ班の人達に声を掛けた。

「悪い、俺と小春、2人で回るから皆は予定通り回ってよ。」
「虎杖ぃ〜、橘さんとデートかよずりぃな!」
「ははっ、ごめん。最近デートできてなかったから、今日しかチャンスねえんだ。頼むよ。」
「ったく、しょうがねぇなぁ!」
「ジュース奢りな!」
「応!」
「ごめんなさい、皆。」
「橘さん虎杖君とデート楽しんで!」
「うん、ありがとう。」

同じ班の人達が離れると、私は悠仁君にお礼を言った。私と建人さんが一緒に行動できるようにと悠仁君が提案してくれたのだ。

「とりあえず、ナナミンと合流するとこまで一緒に行く!」
「うん、よろしく!」
「伏黒たちにも連絡しとかなきゃなぁ。アイツ等何処回るんだろ。」
「野薔薇ちゃんは清水寺って言ってた気がするよ?」
「あ、そういえば俺飛び降りてみろって言われてた…。」
「えぇ!?怪我しちゃうよ!?」
「平気!俺現世でも体丈夫だし!」
「怪我しないように気を付けてね?」
「応!」

建人さんとは嵐山デートをしようという話になっている。うちのクラスの生徒も他のクラスの生徒も誰も行かない場所を建人さんがちゃんと調べてくれていた。地下鉄に乗って嵐山まで向かうと、着物をレンタルできるお店の前で悠仁君と別れた。お店に入って着物をレンタルして着付けてもらうと、髪の毛もまとめて簪を挿してくれた。軽くお化粧もして貰えて、建人さんとのデートの準備はバッチリ。スマホを見て建人さんからの連絡を待ちながら、近くを少し探索した。

『すみません、タクシーで向かっていますが、渋滞に巻き込まれて到着が遅れます。』
『分かりました!お着物レンタルして着付けてもらいましたよー!(*^^*)』

自撮り写真を撮って建人さんに送ると、すぐにスタンプと返信が返って来た。

『とても似合っています。実際に見るのを楽しみにしています。』
『やったー!(*^^*)少し周りをお散歩してますね!』
『くれぐれも気を付けてください。絡まれないように。』
『はーい!(*^^*)』

またスタンプが返ってきて、私は緩む頬のままお店の近くを探索した。食べ歩きにおすすめのお店などもリサーチ済みだし、楽しみだなぁ…!ひとりご機嫌に歩いていると前から着物を着た金髪の男の人が歩いて来た。着物…だけど中に襟のあるシャツのようなものを着ているらしい。オシャレだなぁ、とその人を見ていると、ふと目が合ってしまった。

「…なんや?」
「あ、すみません、」
「…京の人間ちゃうな、」
「あ、はい、東京から、」
「東京もんか。…小さいな、学生か?」
「あ、はい、高校生です。」
「ほな修学旅行か。」
「はい、」
「ほーん、」

その人は私を上から下までジッと視線を這わせた。…失礼な人…。私もさっき見てしまったから人の事は言えないけど…。

「案内しよか、この辺。」
「あ、いえ、待ち合わせが、」
「ええやん、待ち人来るまで俺の相手しろや。」
「え、ちょ、」

手を掴まれて引っ張られる。慣れない着物で前のめりになりながら私はどうしようかと頭を悩ませた。建人さんが後どのくらいで着くのかもわからない。建人さんにこの人が出会ってしまったら…下手したら…、

「あ、あの、困ります!」
「どこ行く予定なん?この辺やとやっぱし食べ歩きか竹林か?」
「え、あ、えっと、」
「あそこで人力車乗れるんやで。」
「え?!」
「乗せたるわ、特別に。」
「あの、お兄さん、」
「…お兄さん、ええなあ、もういっぺん呼んでくれへん?」
「えぇ?!」



...




「七海どこ行くの?やっぱ小春ちゃんと回んの?」
「言いませんよ、それを言ったら邪魔しに来るでしょう。」
「え〜けちぃ!」
「悟、せっかくの新婚旅行を邪魔しちゃ悪いよ。」
「修学旅行です。」
「これが新婚旅行ってことはつまり、僕と小春ちゃんの新婚旅行って事にもなるよね?」
「なりません。ひっぱたきますよ。」

五条さんと夏油さんに絡まれた私は、いつまで経っても来ないバスにイラついていた。生徒達を見送った後、教員は少し打ち合わせをし、それぞれのクラスの生徒達が回る地点に散ることになっている。私は五条さんと夏油さん伊地知君の計らいで小春と観光する時間を設けてもらった。その事には感謝している。が、小春と五条さんの新婚旅行発言には納得できない。なぜそうなる。

「バス来ないねぇ。」
「そう言えば、京都のバスは時間通りに来ないらしいよ。大幅に遅れてくることが殆どだとか。」
「…クソ、」

腕時計を見て私はタクシーを拾うべく周りを見渡す。

「ウケる、七海キレてんじゃん。」
「そう揶揄うなよ悟、小春ちゃんとの新婚旅行なんだから。」
「お2人ともひっぱたきますよ。」
「僕達もタクシーにする?」
「そうだね。」

空車のタクシーが1台こちらに向かっているのが見えた。私は手を挙げる。タクシーは私の前に停まり、ドアが開いた。

「私はこれで。」
「あ、途中まで乗せてよー。」
「急いでいるので。」

タクシーに乗り込みドアが閉まると、私は目的地を運転手に告げた。しかし向かう途中渋滞に巻き込まれ、イライラが募る。小春に連絡を入れ、渋滞に巻き込まれている為遅れる事を伝えた。スマホが震える。小春から約束していた目的地で着物をレンタルした事が書かれている。そして送られてきた写真に頬が緩んだ。写真にスタンプと返信を打つと、私は窓の外を見る。…早く会いたい。



...




建人さんはなかなか来ない。私は隣に座って団子を食べるお兄さんをちらりと見た。ピアスがたくさん…。

「俺に見惚れたん?」
「いえ、ピアス凄いなあって、」
「ああ、これか。名前なんて言うん?」
「…橘小春です。」
「小春ちゃんも空けたらええやん、似合う思うし。」
「いえ…痛そうなので、」
「歳いくつ?」
「高2です。」
「若いなぁ。」
「お兄さんは何歳ですか?」
「何歳や思う?」
「……25?」
「惜しいな。10足してみ。」
「35?」
「ちゃうわ、自分の歳にや。」
「26?」
「おん。」

団子を食べ終えたお兄さんが立ち上がる。私もつられて立ち上がった。早く建人さんと落ち合う場所に戻らないと…。

「あの、私もう戻らないと、」
「そやかて小春ちゃんの待ち人来ずやん。俺と付き合うてみいひん?遠距離やけど。」
「いえ、お付き合いしてる人がいるので。」
「ちぇ。せやったらしゃあないな。これで我慢したる。」

お兄さんの顔が近付いてきて、私はとっさに唇を手で覆った。キュッと目を閉じると、額に触れた柔らかい感触。

「…え、」
「堪忍な。送ったるで。」
「…あ、はい、」

再び手を掴まれて引っ張るように歩きだしたお兄さん。私は困惑した。建人さん以外にキスをされてしまった…。唇じゃなかったけど、それでも、

「…あの、」
「ん?」
「相手がいる人に今のはよろしくないかと、」
「真面目やなぁ、小春ちゃん。」
「いえ、あの、」
「俺失恋してるのに容赦ないやん。」
「え、あの、」

お兄さんはフッと笑って私の頭をそっと撫でた。

「よう似合うてる。」
「…ありがとう、ございます。」

お兄さんにそう言われて、私はお礼を言って俯いた。お兄さんに出会った場所に戻って来ると、お兄さんはまた私の頭をそっと撫でた。

「禪院直哉。」
「え?」
「俺の名前や、覚えとき。」
「…あ、はい、」
「ほなまたいつか会おな、小春ちゃん。」
「…はい、また、会うことがあれば?」
「疑問形かいな。」

禪院直哉と名乗ったその人は後ろ手に手を振って去って行った。それから少しして建人さんが到着し、私は言うべきか言わないべきか迷った挙句、建人さんに隠し事をするのは嫌だと思って正直にあった事を話した。建人さんは眉間に皺を寄せて怒った顔をしていた。そして私を苦しい程に抱き締めた。私は建人さんに何度も謝って、その背中に腕を回した。

「小春に何もなくてよかった…。」
「心配かけてごめんなさい。ちょっと強引で、断り切れなくて…、怒らせてしまってごめんなさい。」
「いえ、小春ではなくその男に怒っています。必ずひっぱたく…。」
「建人さん、」
「小春、消毒を。」
「ぁ、」

建人さんの唇が私の額に触れる。小さく笑った建人さんに、私も小さく笑い返した。彼の頬に手を伸ばし、降りてきた唇にキスをした。

「私は何があっても建人さんだけですから。」
「ええ、私も小春だけです。愛してる。」
「私も、愛してます。」
「…渋滞でかなり時間をロスしてしまいました。行きましょうか、」
「はい。」

建人さんの大きな手に包まれる。温かくてごつごつしていて、大きくて、安心する。

「着物、似合っていますよ。」
「ふふっ、良かった!建人さんも着物着ましょう!」
「ですが時間が、」
「また来ればいいじゃないですか、今度は2人で!」
「…ええ、そうですね。」

建人さんも着物をレンタルして着付けてもらうと、私達は2人で手を繋いで嵐山をデートした。今度はちゃんとした新婚旅行で、2人でのんびり旅行しよう、と話をして。



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立花様リクエスト
【七海建人の結婚記録】来世の2人、小春高校生時代
・修学旅行、夏油と五条に揶揄われる七海。自由行動で直哉に出会う小春。別れ際に告白され断ると「これくらい堪忍してや。」切なそうに額にキス。爽やかな直哉。

リクエストありがとうございました!
こんな感じでいかがでしょうか!(>_<)
お気に召して頂ければ幸いです!
あと京都で急いでる時はバスより地下鉄使った方が確実らしいです!





 


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