誓いのキスをもう一度




狐につままれるの続き




結婚式は前世と同じ、ハロウィンの日に、仮装をして。招待状にそう添えて、私と建人さんは式の準備を着々と進めた。招待したのは前世の記憶を持つ皆と、互いの両親。私の場合は祖父母である。そして私は、あのパン屋の店員さんだった山崎さんにも招待状を渡した。山崎さんは建人さんのことも覚えていたらしい。写真を見せればすごく驚かれた。そして結婚式にも是非参加したい、と。建人さんは夜蛾学長を通じて、前世の知り合いの殆どに招待状を送ったらしい。そして私は、

「…俺に、招待状?」
「はい、是非脹相さんにも来て欲しくて。前世の記憶云々の前に、こちらでもとてもお世話になったので。」
「…小春…!」
「あっ、脹相さん泣かないでください…!」
「お兄ちゃん席があるのか…、」
「いえ、そんな席はないですけど、悠仁君と同じテーブルにしましょうか?」
「ああ、頼む。」

涙ぐむ脹相さんに招待状を渡し、喫茶店を後にした。あと渡していない人は誰かいたっけ…?悠仁君、野薔薇ちゃん、恵君には私から渡したし…。建人さんは夜蛾さんと五条さん、夏油さん、伊地知さん、硝子さん、灰原さん、あとは私がまだ会った事なかった人達に渡したって言ってたなぁ。



...



「なにそれ、招待状?」
「ああ、七海さんっていたろ。1級術師の。」
「そう言えば聞いたことある名前ね。」
「前世と同じ奥さんと結婚するらしいぜ。真依の分の招待状も貰った。行くだろ?」
「…そうね、行ってみようかしら。」



...



「すじこ。」
「お、棘も参加か。」
「しゃけ。」
「正道から聞いた。悟や伊地知も来るらしい。勿論あの1年達もな。」
「こんぶ、いくら。」
「ああ、参加に決まってるだろ。」
「しゃけしゃけ!」
「…ところでパンダって式場入れるのか?」
「…おかか?」
「…仮装で通せばいけるか?」



...



「何?!マイブラザーの幼馴染と結婚するだと!?Mr.七海が!?」
「俺もそない詳しい事は知りませんけど、姉貴がそう言うてるんで間違いないと思います。俺にも招待状来たんですけど、東堂さんは行かはります?」
「勿論参加だぁ!マイブラザーにも会わねばな!」
「(そういや結局ほんまに兄弟やったんかな…?確認してへんわ。)」



...



「傑何着て行くわけ?」
「んー、何にしようかなぁ。悟は前世で何を着たんだい?」
「僕は狼男だよ。」
「…じゃあ私は、袈裟でも着ようかな。頭に縫い目を書いて。」
「…マジ?」
「フフッ、冗談だよ。」
「タチ悪すぎだよ、殺伐とした結婚式になるって。」
「そう言えば、余興を頼まれていたよね。私達。」
「あー、そうだった。ネタ書いた?」
「書いたよ。あとでネタ合わせしよう。悟は、コンビ名考えた?」
「当たり前でしょー?その名も『祓ったれ本舗』!」
「いいね、楽しそうだ。」



...




「伏黒ー、いる?」
「伏黒ー、招待状の返事の書き方ってどうすんの?」
「…分かんねぇなら調べろよ。つか、返事の前に開けんな。」
「わりっ、伏黒に聞いた方が早いかと思って。」
「間違えてたら恥ずかしいでしょ!?」
「はぁ…、まず、黒ペンと定規持って来い。」
「お、流石伏黒!」
「いいから早くしろよ。」
「虎杖、私の分も!」
「応!」



...




「いよいよですね、小春。」
「はい、建人さん…。」

結婚式の日はあっという間に来た。前世同様、私も小春も初めは白いタキシードと、白いウェディングドレスだ。あの時と違うのは、彼女のお腹にはまだ子供がいないことくらいか。前世と似たようなデザインのウェディングドレスに身を包んだ小春は、今も昔も変わらず美しい。式が始まると私はヴァージンロードの先で小春を待つ。招待状を渡した人たちは全員参加してくれている。振り返れば見知った面々が座り、私と同様ヴァージンロードを歩く小春に視線を向けていた。漸く、また、彼女と。一歩、一歩と踏みしめるように私の元へ来た愛しい妻に笑みを浮かべる。互いに泣きそうな笑みだった。誓いの言葉を告げ、指輪も交換し、キスをする。触れた唇に愛おしさが込み上げ、互いにそこで堪えきれなかった涙を流した。式場を出る時、たくさんのフラワーシャワーを浴びながら、私は小春を姫抱きにして階段を下りた。小春は嬉しそうに私の首に腕を回し、頬にキスをする。

「ヒューヒュー!」

前世の時同様、五条さんが騒ぐ声。そして前世では見せることができなかった面々も、私達を見て微笑ましそうに笑みを浮かべる。幸せな結婚式だ。

「建人さん、」
「小春、」
「またこうやって建人さんと結婚できて幸せです、私…っ、」
「私もですよ、小春…。今度こそ年老いて死ぬまであなたと一緒に生きます。」
「嬉しい…っ、」

ブーケトスになり、小春が背を向けてブーケを投げる。ブーケは弧を描き、ぽすりと釘崎さんの手に。

「私!?やばっ!!」
「よかったな、野薔薇。で、相手は誰だ?」
「相手がいるかが問題よね。」
「あ゛ぁん!?」
「内輪揉めしないの。まったくアンタ達は生まれ変わっても仲が悪いのね。」
「あら、歌姫先生も欲しかったんじゃないの?」
「私が!婚期!逃したって言いたいの!?」
「歌姫実際逃してるでしょ?」
「五条!アンタねぇ!?」
「まあまあ、折角の祝いの場なんだから喧嘩はやめようね。相手がいないんじゃ仕方がないさ。」
「夏油煽るなー。」
「アンタらねぇ!!」

前世と変わらない皆のやり取りに笑みが浮かぶ。隣を見れば、小春も楽しそうに笑っていた。その後披露宴会場へ場所を移し、私と小春もドレスから仮装コスチュームへ着替え、会場へ。披露宴会場の中に入る直前、前世と同様に魔女の姿をした小春にキスをした。

「似合っていますよ、今も昔も。」
「建人さんも、吸血鬼似合ってますね…!今も昔も素敵です!」
「ありがとう。」

前世同様にテーブルの上はランタンでライトアップされ、コウモリの飾りや風船で会場が装飾されていた。ケーキ入刀ではパンプキンケーキを2人でカットし、互いに食べさせ合った。会場内は殆ど五条さんの騒ぐ声。そして前世では聞けなかった灰原や夏油さんの声。友人のスピーチには灰原と虎杖君が立った。

「七海、小春さん、結婚おめでとう!僕は前世で早くに死んじゃって、七海がどうなったかは皆に聞くまで知らなかったけど、…でも、七海のことはちゃんと見てたよ。僕が死んじゃったせいで辛い思いさせてごめん。夏油さんも呪詛師になったって聞いた時は本当に申し訳ないって思いました。」
「灰原のせいじゃないよー。」
「あははっ、夏油さん!…でも、七海が小春さんと出会って、凄く幸せそうだってのはちゃんと分かってた。お墓参りに来てくれた時も、報告嬉しかったよ。あー…前世の話をしちゃうと暗くなっちゃうので、次は現世での話!七海は小春さんとこれからもたくさん幸せになってね!あと雄人君が生まれたら絶対僕にも会わせてね!あと、小春さん、七海のことを宜しくお願いします。七海はムッツリだからエッチなやつ隠す時はベッドの下じゃなくて押し入れの上の方とかに隠します!是非探してみてください!」
「「「ハハハハ…!」」」
「灰原…、」
「ふふふっ、」
「七海はこう見えて優しくて情に熱くて、…寂しがり屋です。だから小春さん、七海のこと、ずっと傍で支えてあげてください。絶対に七海を信じてあげてください。七海のことを宜しくお願いします。七海も、小春さんをたくさん幸せにして、今度はおじいちゃんおばあちゃんになるまで、…っ、2人で…仲良く…っ、ぐすっ、ごめん、泣かないようにって、思ってたのに…っ、」
「灰原頑張れー!」
「頑張ります…!…っ、2人で仲良く、末永く幸せに暮らしてください…!あと七海、僕も寂しがりやだから月に1回はかまってね!七海の一番の友人として、この場に立てた事、本当に嬉しいです。ありがとう…。そして2人共、結婚おめでとう…これでもかってくらい幸せになってね!」

灰原は涙を流しながら笑った。私も堪えきれなかった涙に目頭を押さえる。そっと腕に乗った手。小春が涙を流しながら、私にハンカチを差し出していた。それを受け取り、小春の涙をそっと拭う。小春が笑う。私も涙を拭い、笑った。

「俺灰原さんみたいな立派なスピーチできるか分かんねぇ…。」
「虎杖君なら大丈夫!」
「おっす!…えー…、ナナミン、小春さん、結婚おめでとうございます!…ナナミンとは、前世で俺が1回死んだ時からの付き合いで、初めてナナミンに会った時は暗いなぁって思ってたけど、」
「あっひゃっひゃっひゃ!」
「悟、うるさいよ。」
「でも小春さんがいるときは、すっげぇ顔が穏やかで、すっげぇ笑うのな。ナナミンってこんな顔できるんだって思ったくらい。」
「失礼すぎだろアイツ。」
「それが見ててすげぇ幸せそうで、俺もいつか、ナナミンと小春さんみたいな幸せな暮らしとかできたらなって思ってた。雄人も可愛かったし、家族っていいなって。俺は物心ついた時からじいちゃんしかいなかったし、父ちゃんの記憶は薄っすらで、母ちゃんはあれで…まぁ、ちゃんと家族と過ごした記憶ってなくて、だからナナミンと小春さんと雄人の幸せそうな顔見てたら、俺もいつか結婚したいって思ったりした。でも俺は宿儺の器だったから、死ぬってわかってたから、だから俺の代わりに七海家にはすっげぇ幸せになって欲しいって。…でも、渋谷で、ナナミンがパァンってした時、」
「パァンって…。」
「言い方…、」
「正直俺、あの時はなんで俺じゃなくてナナミンがって思った。俺がナナミン達の幸せを守るって、そう思ってたのに、なにが守るだよって。でも小春さんは、それでも俺の幸せを願ってくれた。…正直、ビンタの1、2発くらう覚悟でナナミンの指輪を届けたんだけどさ、そしたら小春さん、俺が泣き止むまでずっと抱きしめてくれて、母ちゃんって、こんな感じなんかなって…っ、やべっ、鼻水出てきた。」
「鼻噛め虎杖ー!」
「ちょ、すんません。ズビーッ!…はぁ、それで、」
「(アイツよくあの場で鼻噛めるな。)」
「それで小春さん、めちゃくちゃうまいご飯作ってくれて、俺と脹相と小春さんと雄人で飯食って、弁当まで持たせてくれて…、俺、」
「悠仁ーー!!!」「ブラザーー!!!」
「脹相も東堂もうるっさい!…それで俺、今度はナナミンの代わりに絶対小春さんと雄人守らなきゃって。今度こそ、って。…そしたら、現世では小春さんと家が隣で幼稚園も小学校も中学校も、ずっと一緒で、その間小春さんはナナミンの事全然覚えてなくて、でも小春さんとナナミンがまた出会うまで、俺が絶対守んなきゃって、ずっと一緒にいて、そしたら高校にナナミンがいて、俺すげぇ嬉しかった!小春さんが前世のこと思い出すのに少し時間かかったけど、俺、今度は小春さんのこと守れたって思った。またナナミンと小春さんが出会えてほんとによかったし、小春さんが前世のこと思い出して、2人がまた幸せそうでほんとに俺も嬉しい!…ナナミン、小春さんの事頼んだ!」
「言われなくてもそのつもりです。」
「はははっ!それと小春さん、ナナミンのこと…現世でもよろしくお願いしゃっす!」
「…っ、はい…。悠仁君も今までありがとう。悠仁君も現世ではたくさん幸せになってね…!」
「応!…っ、あーえっと長くなったけど、ナナミン、小春さん、結婚おめでとう!また雄人に会えるといいな!それから、今度は前世よりもっと幸せな家庭を築いて下さい!おわり!」

2人のスピーチが終わり、会場は涙と拍手に包まれた。私と小春も泣きながら2人に拍手を送った。

「えー、この後に僕たち?大丈夫?皆おセンチじゃない?」
「おセンチすら吹き飛ばす面白さってことだろ。いいから始めるよ。」
「んじゃまぁ、次は僕と傑の漫才なんてやっちゃうよ!」

軽快なBGMが流れ、五条さんと夏油さんが2人でマイクの前に立つ。

「はいどうもー、悟でーっす!」
「傑です!2人合わせて、」
「「祓ったれ本舗でーす、よろしくお願いしまーす!」」
「いやぁ今日は僕たちおめでたぁい場に来てるわけですが、」
「はい、」
「結婚式ですよ、結婚式!結婚式と言えば皆ドレスコードに身を包むわけだけど、傑、ちょっと会場見てよ。」
「うんうん、皆着飾ってるね。馬子にも衣裳ってこのことかな?」
「歌姫とかね。」
「ちょっとなんで私っ!?」
「「「「ハハハハハ!」」」」
「今笑った奴覚えてなさいよ!!!」
「見てごらん悟、あそこに別嬪さん、」
「お、ホントだ、冥さんドレス似合うねぇ!」
「別嬪さん、」
「野薔薇もなかなか似合ってるじゃない。」
「フッ、当然よ!」
「別嬪さん、」
「うーん、硝子もギリかな?」
「あ゛?」
「一つ飛ばして、」
「ちょっと!!だからなんで私を飛ばすのよ!!」
「あそこにも別嬪さん。」
「流石僕らのマドンナ小春ちゃん!ここにいる誰よりもかわいくて綺麗だね!ついでに僕と結婚しない?」
「ダメだよ悟、隣に岩壁ゴリラがいるから。」
「あちゃ〜!残念!すぐえもーん、なんとかしてよー!」
「てれれれってれ〜、カスクートォ!悟君、これでナナミコングの気を引いている内に、花嫁を攫ってしまおう。」
「流石すぐえもん!やることがクズだねぇ!」
「悟君に言われたくないよ。」
「見て見てすぐえもん、ナナミコングが小春ちゃん抱えて高層ビルのてっぺんまで登っちゃうよ〜!」
「てれれれってれ〜、七海のマル秘ノートォ!」
「なにこれすぐえもん!?」
「これは高専時代に七海がやらかした恥ずかしい事件、事故、あんな失敗からこんな失敗まですべてまるっと書き記したマル秘ノートだよ。」
「最高じゃん!早速読み上げようか。えーなになに…、高専1年生の時、パンを食べようとして袋が破裂、地面に落ちたパン、固まる七海。その後、鳩にパンを取られて崩れ落ちる七海。ウケる!」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「…っ、(ピキッ)」
「ふふふっ、」
「まだまだあるよ、高専2年生の時、灰原と任務先で呪霊の攻撃を食らい、2日ほど七海建子ちゃんになる。」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「そんな事があったんですか?」
「…思い出したくない事です…。」
「見てみたかったです、建子ちゃん。」
「小春…、」
「ふふふっ、」
「それからそれから、高専3年生の時、僕にエロ本が見つかって公開処刑される。」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「…やめてください。」
「ふふふっ!」
「五条さんそれ何処にありました!?」
「押し入れの一番上!」
「やっぱり!」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「それから高専4年生の時、寝ぼけてナイトキャップ被ったまま任務に向かう。」
「「「「「ハハハハハ!」」」」」
「可愛いミスだね。」
「高専を卒業後、呪術師を辞める。」
「でも七海は社会人として頑張ってただろう?」
「そうだよ、頑張ってた。でも社会人も大変そうだったみたいだね。酷い顔してたもん!」
「それで、他には何が書いてあるんだい?」
「社会人を辞めた年、小春さんに出会う。いやぁ、初めて七海から頼られた気がしたね、あの時は!小春さんが呪われてる、助けたいって。」
「ほう、七海も言うようになったね。」
「ねー。それで最強の呪術師だった僕、五条悟大先輩が可愛い後輩の為に一肌も二肌も三肌も脱いだんだけど、」
「そんなに脱いで大丈夫かい?」
「大丈夫、僕最強だから。」
「「「「「(シーン…)」」」」」
「ちょっと、皆ここ笑う所でしょ!?」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「それで?」
「それで、僕が見事にキューピットになったわけ!」
「…呪術師じゃなかったのかい?」
「いや呪術師だよ?ま、それはいいっしょ!てなわけでぇ!前世でも現世でも七海と小春さんは出会えたわけだけど、七海は僕に感謝しなよ?合格者名簿で小春ちゃんの名前見つけた時、僕が夜蛾学長に頼んで七海のクラスにしてくれって頭まで下げたんだから!ね、学長!」
「いや、頭は下げられなかった。」
「「「「「ハハハハハ!」」」」」
「じゃあ悟のおかげで七海は小春ちゃんと一緒にいれたわけだね。」
「そういう事!」
「七海、何か言う事は?」
「………それはどうも。」
「ちょ、それだけ!?」
「「「「「ハハハハハ!」」」」」
「…ま、いっか!改めて七海、小春ちゃん、結婚おめでとう!」
「小春ちゃんは私にあまりいい記憶がないから、初めは少し避けられないかと思っていたけど、聞いていた通り優しくていい子だったね。小春ちゃん、私からも七海を頼んだよ。2人とも幸せに。」
「七海、小春ちゃんを泣かせるようなことがあったら、僕が小春ちゃんを貰っちゃうからね?あと僕も小春ちゃんの手料理食べたいから今度ホームパーティーでも開いてよ!僕がお金出すし!」
「それは是非私も参加したいね。金は悟が出すし!」
「…考えておきます。」
「ふふふっ、」
「ちなみに七海がパァンした後、小春ちゃんずっと独身貫いてたよ。小春ちゃん僕がいくら口説いても笑って受け流された。ホントイイ女だよ小春ちゃんは。大事にしろよ!」
「悟、君ってやつは…人妻になんてことを。」
「小春ちゃんが人妻ってところがまた興奮するんじゃん。」
「分かる。」
「ひっぱたきますよ。」
「「「「ハハハハハハ!」」」」
「てことで、七海っ!」
「小春ちゃん!」
「「結婚おめでとう!幸せになれよー!」」



...




結婚式が終わって私と建人さんはようやく帰宅した。2人で並んでソファに座って漸く一息つくと、自然と視線が互いに惹かれ合った。目が合ってフッと笑う建人さんに私も笑みを返す。

「幸せな結婚式をありがとう、小春。」
「こちらこそ、また私と結婚してくれてありがとうございます、建人さん。私も幸せです。」
「私も幸せです。」

引き寄せられるようにキスをして、額を合わせて笑い合う。また建人さんとこうやって正式な夫婦になれたと実感できて、本当に嬉しい。夢みたい。

「今日は焼けませんでしたが、明日は是非カスクートとパンプキンパイを一緒に焼きましょう。」
「はい!私、どっちも作るの上手になったんですよ?」
「それは楽しみだ。…小春が大学を卒業してパン屋を建てた後、経営が落ち着けば子供を作りましょう。その頃には私もある程度要領を得ているでしょうし。」
「そうですね、皆も雄人にも会いたがってくれてましたし、」
「ええ。…小春、」
「はい?」
「…もし、嫌でなければ、」
「建人さんと一緒にいて嫌な事なんてひとつもないですよ?」
「…フッ、…雄人が生まれたら、その次は女の子がいいです。小春に似た。」
「…え…?」
「2人目も、考えましょう。勿論、お店のこともありますから無理にとは言いません。」
「いいんですか?」
「はい。」
「…実は私も、2人目が欲しいって思ってたんです。雄人には寂しい思いをさせてしまったので、今度は寂しくないように、」
「では私達も長生きしないといけませんね。」
「ふふふっ、そうですね!頼りにしてますよ、パパ?」
「気が早いですよ、ママ。」

私達はくすくすと笑い合い、キスをしながら2人でソファに雪崩れ込んだ。




2021/10/31🎃
moumoon「I_found_love.」



 


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