メイクアップ!




廻るの続き




自宅兼職場でもあるベーカリーナナミンに、前世でも因縁のある男からの器物破損と不法侵入があったあの日から半月ほどが経過した。ベーカリーナナミンがテレビや雑誌でもよく取り上げられていたことから、一時期ちょっとしたニュースになりはしたものの、今ではすっかり以前の忙しさを取り戻している。それもこれも前世からの仲間たちや常連さんが、私達一家を心配して店に顔を出してくれたからだろう。雄人やひなこもこれといってトラウマのような傷を負った様子はなく、我が家には以前と同様に平和な日常が戻っていた。そんなある日のこと、またしても私達一家に…いや、呪術師時代の私と前世の仲間たちに因縁のある男が…私の目の前に現れてしまった…。やはり良いも悪いも、現世で繋がった縁はそう簡単には断ち切ることができないらしい。

「へぇ〜、結構儲かってるみたいだね。」
「いらっしゃいませー!…って、あれ、」

焼き上がって粗熱の取れたパンを小春と2人で包装していた時のこと。入店を知らせるベルの音が聞こえて厨房から店内へ視線を向けた私は、灰原の目の前でにやにやと笑う見覚えのある男を視界に捉えた。顔色を変えた私に気付いた小春が「建人さん?」と声を掛け、店内に視線を向ける。小春はあの男の存在を知らない…ハズだ。しかし灰原は見ていた・・・・。灰原もあの男に気付いたらしい。私にちらりと視線を向けた灰原と目が合う。そしてあの男も厨房を覗き込み、なにが楽しいのかヘラヘラと笑いながら私に向けて手を振った。

「やっほー!久し振りだねぇ、七三術師。」
「建人さん、お知り合いですか?」
「…小春はここにいてください。なにがあっても店頭には出ないように。」
「え?」
「ニュース見てビックリしたよ〜。石投げこまれて家に入られたんだって?大変だったでしょ〜。」

呑気にもまるで親しい仲とでも言うように話を続けるあの男に、私は静かに店頭に出て、灰原にはいざという時に小春を守ってもらうべく厨房に引っ込んでもらった。

「……お久し振りですね。」
「そうだね。」
「呪霊だった貴方がまさか人間として生まれ変わっているとは、微塵にも思っていませんでした。」
「俺もビックリしたよ。人から生まれた呪いが生まれ変わって完全な人間になるなんて、どんなおとぎ話だよってね。」
「…それで、一体なんの御用ですか。」
「特に用っていう用はないんだけど、テレビとか雑誌でちらほら見てたからさ、気になってたんだよね。そしたらビックリ!ニュースでも取り上げられてるからさぁ、これは顔を見に行くべきだと思ってね。オススメは?」
「帰ってください。」
「…つれないなぁ、今は俺も人間だし、客として店に来たってのに。もしかして、今話題のベーカリーナナミンはパンを買いに来た客を追い返すことで有名だった?ハハハッ!今はSNSでなんでも拡散される時代なんだから、店が客を選ぶなんてことやめた方がいいんじゃない?」
「他のお客様ならともかく、貴方は例外です。関わると碌なことがないのは目に見えています。」
「へ〜?Jnstagramでフォロワー100万人いる俺に向かって、そんなこと言っていいんだ?」
「…なに?」
「…ほら、」

男はスマホを少し弄って私に画面を見せた。画面にはJnstagramのプロフィール画面らしい。フォロー数やフォロワー数の記載があり、フォロワーの欄には100万人と書かれている。『真人』と書かれたプロフィール画面には『10歳の頃に事故で大怪我をし、手術を繰り返して残ったツギハギの手術痕を消したくて美容に目覚め、今では立派な美容系インフルエンサー!似たような境遇で悩んでる人に少しでも自信を与えたい☆』と書かれていた。

「……貴方がSNSに長けていることは分かりました。現世ではあのツギハギは事故の手術痕として残っているのですね。」
「そういうこと。今はメイクで隠してるけど、メイクを落とせば昔のまんまだよ。で、そんなインフルエンサーである俺を無碍に扱っていいの?俺がちょっとSNSに悪評を書き込めば、この店もただでは済まないと思うよ?」
「脅しですか。」
「ただパンを買いに来ただけだから脅しじゃないでしょ。」
「フー……では、お好きなパンをどうぞ。ですが今後は私の店や家族、友人達に近付くのはやめてください。」
「冷たいなぁ…。あ、あれが奥さんでしょ?前世と同じ人?」
「早くパンを選んでください。」
「はいはい分かったよ。」

ツギハギの人型呪霊…もとい、真人は店内をぐるりと見て回ると、トングとトレイを手に取ってパンを8個ほどトレイに載せてレジに戻って来た。…こんなに「こんなに食べるのかって思った?」

「…いえ、」
「俺以外にも漏瑚と花御と陀艮も生まれ変わっててさ、一緒に住んでるんだよねぇ。俺は美容系だけど、3人共環境問題とかに力を入れてる活動家って言うの?なんかそういうのやってる。」
「一緒に住んでいるのに具体的な活動内容は把握していないんですね。」
「まあ、俺はそこまで興味ないし。それで、いくら?」
「8点で2640円です。」
「jay jayで。」

呪霊が人間に生まれ変わっていることにも驚きだが、電子マネーやSNSを使いこなすようにまでなるとは…。と、何故か感心してしまった。パンを袋に詰めて会計を終えると、真人は最後に厨房を覗き込んで手を振った。それを横にズレて遮ると、退店を促すように「ありがとうございました。」と告げる。

「全く…。今は俺も人間なんだし、もう少し愛想良くしてくれても良くない?」
「私だけならともかく、家族や関係のない友人たちには関わって欲しくないので。」
「ほんと、つれないねぇ。また来るよ。」
「来なくて結構。」

漸く店を出て行った真人に小さく息を吐き出す。まさか呪霊たちが人間に生まれ変わっていたとは…これは五条さん達に報告しておいた方がいいのかどうか…。…警戒するに越したことはない。厨房に戻ると、小春と灰原は心配そうに私に声を掛けた。

「お知り合いだったんですね?」
「ええ、まあ…。灰原。」
「五条さん達に連絡するんだよね?僕が店番をしながら続きをやっておくよ!」
「ああ、頼んだ。小春、すみませんが少し席を外します。」
「あ、はい…。」

小春は詳しく話を聞きたそうな顔をしてはいたが、それ以上深くは聞いて来なかった。小春のこういうところに前世から救われていたところもある。エプロンを外し厨房を出て2階のリビングに上がると、スマホを掴んで前世の術師仲間たちが集められたグループトークを開いた。

『お疲れ様です。その節はご心配をおかけしました。皆さんのおかげで店の方は以前の調子を取り戻し、小春も子供達も元気に過ごしています。突然ですが皆さんに知らせておかなければならないと判断した出来事がありましたので、ご報告を。前世で渋谷事変を起こした偽物の夏油さんと仲間だった呪霊たちが、どうやら人間として生まれ変わって存在しているようです。今しがた例の真人というツギハギの人型呪霊が店に来ました。今はSNSでインフルエンサーとして活動しているそうです。フォロワー数が100万人を超えているらしく、かなり影響力がある存在になっています。他の呪霊たちは環境問題に取り組む活動家になっているそうです。彼のJnstagramのリンクを貼っておきます。もしかすると皆さんの前にも現れる可能性がありますので注意を払っておいた方がいいかもしれません。心配し過ぎかも知れませんが、万が一ということもありますので。』

トーク内容を読み返して送信すると、数秒ほどで既読が付き始めた。平日だからか皆仕事中ということもあり、既読数はすぐには増えることはない。しかし誰かが見たのは確かだ。

『ナナミンお疲れ!真人がまさかインフルエンサーに…。悪いことしてないならいいけど、なんか複雑だな…(´・ω・`)』
『お疲れ様です、虎杖君。貴方の前にも現れるかもしれません。プロのサッカー選手として活躍している虎杖君のことも把握していることでしょう。うちの店はテレビで見て、例の一件でニュースになっていたから顔を見に来たと言われました。』
『七海さんお疲れ様です。小春さん達は大丈夫でしたか?』
『お疲れ様です、伏黒君。小春は厨房にいたので直接やりとりはしていません。ですが今後、私の知らぬ間に小春や子供達に接触される可能性もないとは言い切れません。』
『インフルエンサーなら悪いことしたらすぐ炎上するし、大人しくしてると信じたいな…。』
『店について悪評を書けばただでは済まないと言われました。影響力があるのは間違いないです。』
『お疲れサマンサー!大変だったね、七海。』
『お疲れ様です。』
『呪霊が人間に生まれ変わってるのはビックリだけど、それって全ての呪霊がそうなってたらヤバそうだね。』
『お疲れ七海。昔呪霊だった存在が人間に生まれ変わって、今は更生している…なんてことはありえるのか?』
『人間の負の感情から生まれた存在なんだし、生まれ変わったとしても悪事を繰り返してる可能性はある。それか、ある一定階級以上の呪霊だけが人間に生まれ変わってる、とかもありえそうだよね。』
『その条件でいくとすれば、意思疎通が可能な特級呪霊は確実でしょうね。』
『傑の体を乗っ取ってた羂索とかいう術師も生まれ変わってたりするのかな。』
『やめろ悟、考えたくもない。』
『喋るメロンパンじゃなくなってる…ってコト!?』
『喋るメロンパン…。』
『その条件で言えば、宿儺も可能性があるってことですよね。』
『あり得ますね。』
『なにはともあれ、脹相みたいに受肉したやつらも今は人間に生まれ変わってるわけだから、特級呪霊が人間に生まれ変わっててもおかしくないって認識しておいた方がいいだろうね。』
『そうだね。私達も気を付けておくよ。』
『ジュンスタやってるとは思ってなかったけど、今後は少し気にした方が良さそうだよな。』
『影響力がある以上下手なことはしてこないとは思うが、警戒しないに越したことはないだろうな。』
『環境問題の活動家ってもしかしてこれ?[http://www.earth-jurei.jp/]』
『代表者の欄に漏瑚、花御、陀艮って書いてあるね。』
『見た感じ、活動内容的にはよくある慈善団体と変わりなさそうですね。』
『狗巻先輩とパンダ先輩ならなにか知ってるんじゃないですか?』
『あー確かに!2人共Yon Tuberだし、なんかの拍子で知り合う可能性もありそう!』




グループLIMEを終えて厨房に戻ると、「おかえりなさい」と小春が心配そうな顔で私を見上げた。

「長いこと任せてしまいすみません。」
「いいえ、売り切れそうなパンは私が焼いておきましたから大丈夫です。」
「ありがとう小春。」
「…建人さん、さっきのお客さんは…、」
「…小春には刺激の強い話になるかもしれません。話すのは後にした方が、」
「子供達が帰ってくる前に聞いておきたいです。刺激の強い話になるなら尚更、あの子達には聞かれない内に…。」
「…分かりました。ではパンを包装しながらでいいので聞いてもらえますか、」
「はい。」

私は小春に前世での最期の話をした。結婚記念日だったあの日、私が仕事で呼び出されてしまったことを小春もよく覚えていた。小春にはかなり酷な内容であるため、言葉はなるべく慎重に選んだ。先程の男は私が最期に会った男であり、元々は呪霊…敵であったと。小春は驚いた顔で私を見上げ、その大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべる。小春の体をそっと抱きしめて背中を擦ってやれば、営業中であることを気にしてか声を押し殺して泣く小春に胸が痛んだ。

「ですが、今は彼も生まれ変わって人間としての生を全うしているようです。今後は接触しないようにと伝えましたが、正直どうなるかは分からない。見かけても近付かないようにしてください。」
「はい…ッ、」
「今はインフルエンサーとしてかなり知名度があるようです。炎上を怖れるインフルエンサーですから、下手なことはしないと信じましょう…。」
「…建人さん…ッ、痛かったですよね…、」
「…小春、」
「うぅ…ッ、ぐすッ、ふ、ぐすっ、」
「大丈夫ですよ、もう大丈夫です。今の私はベーカリーナナミンの店主で、呪術師ではありません。もう痛くもないですし、小春や雄人、ひなこをおいて逝くこともありません。絶対に。」

泣きながら頷く小春を力強く抱きしめて額にキスを落とす。小春は涙が落ち着くまでリビングで休むように伝えた。灰原が厨房に顔を出す。

「小春さん大丈夫?」
「…ああ、すまない灰原。」
「僕は全然大丈夫!それよりもさっきの男…七海のあれだよね…?」
「…今はSNSで人気のインフルエンサーになったらしい。」
「小春さんもそうだけど、雄人とひなこになにもされないといいけど…。」
「…そうだな、」




...




建人さんがどんな最期を迎えたのかを話してくれた。それでも彼は優しいから、かなり言葉を選んで濁して話してくれたと思う。建人さんを失った時のことを思い出した私は涙を流すと同時に、あの長髪の綺麗な男性が建人さんを殺した相手だったということを理解した。元々は呪霊で敵で、でも今は人間に生まれ変わっていると聞いた時は驚いたけど、またいつ店に来るかも分からないらしい。そして今の彼はSNSでも影響力があるインフルエンサーという存在になっていると。

「…はぁ…、」

リビングで休むように言われて2階に上がった私は、少しでも気持ちを落ち着かせようと紅茶を淹れて一息ついていた。でも溜息ばかりが漏れていて、気持ちはうんと沈んでしまっている。いくら前世の出来事とはいえ、愛する夫を殺した存在が私達の前に現れるなんて…。建人さんは彼が私や子供達の前に現れるかもしれないと心配していたから、暫くは車で送迎した方がいいんじゃないかと考えてしまう。前世が呪霊で悪いことをしていたというだけで、今は人間として…そしてインフルエンサーとして人目を気にする存在となっている以上、下手なことはしてこないだろうと建人さんは言っていたけど、正直どんな人なのかも分からない私からすれば怖い以外のものはない。またしても漏れた溜息を飲み込むように湯気の上がる紅茶を飲んだ。

「……この人…だよね…。」

憂鬱な気持ちのままで店に戻るのはと思った私は、オープンしてから作ったお店のJnstagramのアカウントからあの人のアカウントを検索してみた。フォロワー数100万人…凄い…。プロフィール画面に書かれた内容は幼い頃に事故で大怪我を負って、手術を繰り返して残ったツギハギの手術痕を隠すためにメイクに…、大変だったんだ…。投稿を見てみればメイク動画や使っている化粧品の紹介などの投稿が多くて、彼と似たように怪我の痕や火傷の痕に悩む人たちから、彼のメイク技術を真似てカバーできたというコメントが複数あった。

「……うーん、」

今は…悪い人ではなさそう…?自分と似たような境遇の人に向けてメイク動画をSNSで発信してるって…結構いいことをしてるような…?この人が今は更生してるって信じていいのかな…。ここまで人気のインフルエンサーなら、流石に悪いことはできないよね…。

「…また会ったらその時はその時で…、うーん…でも…、」

他にもYon Tubeに長めのメイク動画を投稿しているらしい。動画を検索して一番上に出てきた投稿を見てみた。スッピンの彼の顔や両腕には、確かに目立つツギハギの手術痕が残っている。概要欄には事故の影響で目の色が変わってしまったとも書いてあった。両目にカラーコンタクトを入れて、使う化粧品を紹介しながらメイクをしていく彼を眺めていると、どんどん手術痕が消えていく様子が分かる。凄い…。普通に私よりメイクが上手だ…。気付けば感心しながら彼のメイク動画を見ていた。ハッとして時計を見れば30分程夢中になって動画を見ていたらしい。スマホを置いてティーカップを片付けて厨房に戻ると、建人さんは心配そうに私の名前を呼んだ。

「建人さん、今彼のメイク動画を見てきたんですけど、メイク技術が凄くて思わず感心しちゃいました…!」
「動画を見ていたんですか?」
「はい、Jnstagramの投稿を見ていたらYon Tubeに動画も上げていると書かれていたので…。彼が今はどんな人なのか少しは知れるかと思って…。」
「…そうでしたか。」
「今はインフルエンサーとして頑張っているようですし、そこまで警戒し過ぎなくても大丈夫だと信じたいですね…。」
「ええ、そうですね。なにか向こうから接触があればすぐに私に教えてください。」
「分かりました。子供達は…車で送り迎えしますか?」
「……、」

建人さんはかなり悩んでいるようだった。でも結局は向こうからなにかあれば子供達の送迎をしようということで落ち着いた。それから数日が経ったけど、あの真人というインフルエンサーからの接触はなかった。寧ろ、Jnstagramにベーカリーナナミンのパンを買ったという投稿をしてくれていて、私はお店のアカウントからいいねボタンを押しておいた。建人さんには一応報告しておいたけど、なにか向こうからコンタクトがあれば教えてくれと言われただけだった。流石はインフルエンサーというべきか、彼がベーカリーナナミンのパンの写真を投稿して以降、お店のアカウントのフォロワー数は劇的に増えて、客足もかなり増えた気がする。インフルエンサーの宣伝力ってここまであるんだ…?

「ありがとうございましたー!七海、カスクートが残り3、クロワッサンが5、パンプキンパイが3だよ!」
「すぐに出せる。小春、これをお願いします。」
「はーい。」

包装したカスクートを詰めたパン籠を手に店頭に出たところで、お店のドアベルが入店を告げた。いらっしゃいませ、と告げようと視線を持ち上げるとそこには、あの真人という男の人が立っていて、目が合った私ににっこりと笑みを浮かべる。

「や、初めまして、七三術師の奥さん?」
「え、あ…いらっしゃいませ…。」
「あ、それ!この前買ったけどめちゃくちゃ美味しかったからまた食べたいって思って来たんだよね〜。」
「ありがとうございます、えっと…建人さんをお呼び「ああ、別にいいよ。今日は七三術師の奥さんと話してみたくて来たんだよねぇ。俺のJnstagramの投稿にいいねつけてくれたの、君だよね?」
「は、はい…、うちのパンを買ってくださった方の投稿にはいいねをするようにしているので…、」
「あー、そういうこと?てっきり俺のJnstagramを監視されてるのかと思ったよ。」
「いえ、そんなことは「小春!」
「やっほー!またパン買いに来たよ、七三術師。」
「…今は術師ではありません。その呼び方はやめてください。」
「えー、じゃあ虎杖悠仁が呼んでた…ああ、そうそう、ナナミン?店の名前にもなってるよね!」
「小春、ここは私が。……本日は一体どういったご用件で。」

厨房から出てきた建人さんが真人さんを睨みつけながら、私を背中に庇うように立った。丁度お客さんもいなくなったところだったから、お店にいるのは私と建人さんと灰原さん、そして真人さんの4人だけ。建人さんはカスクートのカゴを私からそっと取り上げて、厨房に引っ込むようにと背中を押した。

「ちょっと〜、今日はナナミンの奥さんと話したくて来たんだけど。」
「彼女は仕事中ですので話があるなら私が伺います。」
「ナナミンも仕事中でしょ?」
「ナナミンではなく七海です。」
「細かいなぁ。折角売り上げに貢献しようと宣伝してあげたのに。」
「それはどうも。ですが私はまだ貴方を信用しきれていません。」
「…ふぅん、まあそうなるかー。俺は前世で色々悪さしてたし、仕方ないよね。でも今は普通の人間として、俺にもちゃんと善意があるんだけど…。」
「善意があるのであれば、関わらないのもまた善意では?」
「罪滅ぼししたいだけじゃん。」
「こちらがそれを拒否しているのですから、これ以上はただの押し付けと変わりません。お気遣いいただきありがとうございます、ですがもう罪滅ぼしも結構です。」
「嫌われてるな〜。でも俺、この前食べたパンどれも美味しかったから純粋にまた食べたくて来たんだよね。漏瑚たちも美味しいって言ってたし、また食べたいって言ってたよ。それだけは伝えておく。…もう来ない方が良さそうだね。」
「…建人さん、」
「……フー…、ただパンを買いに来るだけなら許可しますが…私の家族や友人に接触するようであれば出禁にします。いいですね。」
「ああ、それでいいよ。でも挨拶くらいはいいよね?美味しかったって感想伝えるのもいいでしょ?」
「…それ以上の接触は認めません。」
「分かった。じゃ、とりあえずカスクート頂戴。」

建人さんは真人さんがうちのパンを食べたいという気持ちに応えることにしたらしい。顔を見合わせる私と灰原さん。真人さんは嬉しそうにトレイとトングを掴んでカチカチとトングを鳴らした。

「パンを威嚇しないでください。」
「これのこと?威嚇って言うの?おもしろ〜。」
「……、」

それから真人さんは週1でお店に通うようになり、毎回カスクートを買ってくれる。私も店頭で会えば軽く挨拶や世間話をするくらいにはなったけど、建人さんはまだ警戒しているのか厨房からの視線が鋭くて、真人さんはそれをヘラヘラと笑いながら見ている。Jnstagramで毎週うちのパンを買った報告の投稿をしてくれて、私がそれをお店のアカウントからいいねをするだけで、建人さんとの約束通りそれ以上の過度な接触はしていないし、向こうからも特にSNS上の接触はない。でも今では、真人さんも常連みたいなものになりつつある。建人さんは良くも悪くも前世との繋がりは続いていると言っていたけど、前世では悪かった繋がりが現世では良い繋がりに変わることもあるなら、それはそれでいいことだと思う。これは建人さんには内緒だけど、真人さんのメイクと美容関係の動画はたまにこっそり見ていて、気になりだしたシミ対策とかむくみ対策なんかを参考にさせてもらっている。…結構効果があったのも、建人さんには内緒だ。







――――――
ハッピーハロウィン!(大遅刻!)
引っ越しやらなにやらで大遅刻ハロウィン話でした!!
ハロウィン要素と言えば渋谷事変の内容にほんのちょっと触れる程度なのでハロウィン要素?という感じですが…!!😂
楽しみにしてくださった皆様、ありがとうございました!
ちゃんと平和なお話でした!!!😂

赫(2023/10/31)



 


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