高専に戻ってきた私は真っ先に自分の部屋に向かった。術式について書いていたノートを探し出すと、ページを1枚破り取った。宿儺の指が入った木箱を切り取ったページで包み、2018年6月とだけ書いて鍵付きの引き出しに閉まった。鍵は財布に入れて、ふぅ、とため息。
「理玖ー、帰ってんのー?」
「悟?」
「入るー。」
悟が部屋に入ってきてドギマギする。いくら私の術式で隠したとはいえ、悟には六眼がある。見つかるかもしれない…。心臓がバクバク脈打っていた。
「理玖?」
「え、あ、ごめん。どうしたの?」
「理玖が帰って来たから来た。」
「はは。傑は?」
「泊りの任務。」
「そっか。」
悟が首を傾げて私を見下ろす。うぅ…その顔可愛いかよ…。
「理玖、なんかあった?」
「え?」
「いや、なんかいつもより顔暗いし。」
「…そ、そう?何もないよ。ちょっと疲れちゃっただけ。それよりお土産買ってきたよ!」
「マジ!?」
紙袋を開けてそれぞれに買ったお土産の中から、悟宛てに買った喜久福を渡した。
「なにこれ?」
「喜久福!ずんだ生クリーム味!」
「ふーん?食べていい?」
「いいよ。」
悟が私のベッドに座った。その隣に座って悟が喜久福の包み紙を開ける様子を見つめる。
「ん?」
「ふふ、顔がいい。」
「は?顔だけ?」
「いや、顔もいい。」
「全部いいの間違いだろ。」
「うん、そうだね。ふふ、」
昔から綺麗なものを眺めるのは好きだった。悟の六眼がサングラス越しに私を捉える。私を見つめて細まった目に吸い込まれる。触れた唇が柔らかくて温かい。
「理玖?」
「…悟、ぎゅってして…。」
「ん、おいで。」
「…今のもっかい言って。」
「おいで?」
「…好き。」
「俺も理玖のこと好き。愛してる。」
悟にぎゅっとしがみ付いた。背中に回った手が私の体をこれでもかと抱きしめてくれる。とくんとくんと聞こえた心音に目を閉じて耳を澄ませた。大丈夫、私ならやれる。
「なに、理玖。今日は甘えたじゃん。」
「…うん、ちょっと人肌恋しくて。」
「もっかいスる?」
「いや、ただぎゅってしてくれるだけでいい。」
「…可愛い。」
サングラスを外して、喜久福と一緒にテーブルに置いた悟が、私を抱きしめたままベッドに転がった。目の前にある悟の顔。ちゅっと触れるだけのキスをされると、悟が私の額に自分の額をくっつけた。悟が私の頭を撫でてくれる。あ、だめだ、泣きそう。
「…っ、」
「理玖、」
「…はぁ…、ぐすっ、大丈夫。」
「大丈夫じゃねぇだろ。」
「…大丈夫、」
「…なんかあった?」
「…ごめん、言えない、」
「…理玖…、何があっても、俺は理玖の味方だから。」
「…うん、ありがとう、ごめんね悟、」
「…今日理玖の部屋泊っていい?」
「いいけど、隣硝子だよ?」
「ぎゅってしててほしいんだろ?」
「…うん。」
悟が私の額に、瞼に、唇に、キスをした。そのままうとうとした私は、悟の腕の中で眠った。目を覚ましたのは夜中だった。いつの間にか布団に入っていた私は、目の前にあった悟の顔に目を見開いた。そっか、泊っていいよって言ったんだった。にしても…まつ毛長いなぁ…。顔の造形も綺麗だし、流石顔面特級クラス。ぼーっと目の前のご尊顔を眺めていると、長いまつ毛が震えた。ゆっくりと開いた悟の目が私を捉える。
「ごめん、起こした?」
「…いや。…どした?」
「目が覚めちゃって。悟、ずっといてくれたの?」
「うん。理玖寝てたから疲れてんのかと思って。あ、制服皴になると思って適当なのに着替えさせた。」
「あ、わざわざありがと。スパダリじゃん。」
「スパなに?」
「スーパーダーリン。」
「理玖にだけな。」
「最高。」
ちゅっとキスをして、悟が私を抱き寄せた。悟の匂い、落ち着く…。はぁ…すこ…激しくすこ…。
「俺さ、」
「ん?」
「理玖が考えてる事とかまでわかんねぇけど、」
「…うん、」
「俺に出来ることあったら、遠慮なく言えよ。」
「…うん、ありがとう。…その時が来たら、悟に色々甘えちゃおうかな。」
「…男関係だったらやだ。」
「はははっ、」
「笑い事じゃねぇし。」
「うん、でも、悟の隣って、なんだかんだ落ち着くから、沢山甘えちゃう気がする。我儘すぎて怒って捨てないでね?」
「んなことするわけねぇじゃん。何年一緒にいると思ってんの?つーか、俺の気持ち舐めんなし。好きな女くらい守るっつーの。」
「流石最強!頼りにしてまーす。」
ありがとう悟。悟のことも絶対、
「守るよ。」
次の日、起きてすぐにシャワーを浴びた。悟も起きると私のいる浴室に乱入してきたので、2人で仲良くシャワーを浴びた。朝勃ちしたサトルくんを押し付けられて1回だけすると、昔みたいに互いに背中を流し合った。シャワーを終えると悟が髪を乾かしてくれた。なんかめっちゃ世話焼いてくれるじゃん…!!!きゅんきゅんするじゃん…!!私の髪を乾かし終わった悟が、私の顔を覗き込んだ。上目遣いで私を見つめる悟に私は思わず、
「ん゛っ、」
「…は?」
「…あ、」
ポタリ、口から伝って床に落ちた赤い液体。悟が目を見開いて私の手を掴んだ。
「ま、待って、大丈夫だから、」
「大丈夫じゃねぇだろ!?血ぃ吐いてんだぞ!?」
「えぇっと、生まれつき!そう、生まれつきちょっとあれであれなの!!とにかく大丈夫だから!」
「硝子に診せる!」
「わ、ちょ、悟、」
悟に手を引かれて隣の硝子の部屋に。悟が硝子の部屋のドアを荒々しく叩いた。私は口元を拭って、悟に何度も大丈夫だと言っているのに、悟は、
「何で平気なんだよ!平気なわけねぇだろ!」
「こ、これはその、」
「もしかして、術式使うたびにどっか悪くなってんの?」
「え…、」
「硝子!!おい、開けろ!!」
「なに朝から、うるさいんだけど。」
「あ、硝子おは「理玖が吐血した!!」
「は?」
「反転術式で治せるか分かんねぇけど、理玖のこと診て!!」
硝子が目を見開いて私を見た。私は苦笑いをする。
「…理玖、ちょっと来て。五条は入るな。」
「え、あ、ちょ、」
硝子に手を引かれて部屋に入ると、硝子はドアを閉めて鍵を掛けた。硝子のベッドに座らされると、硝子は私の両頬を包むように手を添えた。…視線が痛い、
「…どういう事、」
「…いや、その…、なんと言うか…、」
「とりあえず、治療するから。」
ぽおおっと硝子の呪力に包まれる。なんか、大事になっちゃったけど、ホントに何ともないんだよなぁ…。ただの尊死なんだけど…、
「いつから、」
「え、」
「いつから吐血してるの?」
「え…っと、小1の頃からだった気がするけど、ホントに何ともなくて、ただ、その、」
「…何か持病でもあるの?」
「…持病…、うん、まあ、そんな感じ。別に死ぬようなものじゃなくて、」
いや、ある意味死んでるけど、尊さで吐血してるだけだし、ほら、オタクにはよくあるやつだし、
「大丈夫だよ?」
「…理玖…、なんでもっと早く言ってくれないの?」
「え…、」
硝子が目に涙を浮かべて私を見た。え、ええっ、しょこたん泣かないで…!?
「そんなに私頼りない?」
「え、ちがくて、」
「じゃあなんで、」
「大丈夫だってば、」
「大丈夫じゃないでしょ。…はぁ…、」
硝子が私を抱きしめた。え、なんか、勘違いさせてごめんけど、ありがとう。硝子いい匂いする。くんかくんか。
「体調悪くなったらすぐ私のとこに来て。」
「え、あ、」
「返事。」
「はい、すみません。」
「…治療はしたけど、ちゃんと病院に行って。」
「え、あ、はい。」
硝子のもの言わせぬ圧力に、私は大人しく頷いたのだった。うーん…どうしよう、ますます本当のこと言いにくくなっちゃった…。
「てか、五条泊めたの?」
「あ、うん。」
「理玖に無理させんなっての…。」
「あはは…、ごめんね、心配かけて。ありがとう硝子。」
「…うん。私は理玖の嫁でしょ?もっと相談してよ。」
「うん…。ありがとう、硝子結婚して。」
「法律変えてからね。」